ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介する永続企画「ニュートリションな人々」。6人目は、料理家でありながら、世界クラスのトライアスリートでもある高橋善郎さんが主人公。

トライアスリート、料理家の視点から「食×スポーツで元気に!」を合言葉に、スポーツ、料理両分野での活躍が目覚ましい。

自分は「料理家」

高橋さんが料理に興味を持ったきっかけは、父親が和食料理店を経営していたことだった。「小さいころから料理をしている父を見て育ちましたから、ほかの家庭より料理が身近でした。父の頼もしい調理姿にあこがれた半面、毎日帰宅が遅くて料理人は大変だなという思いもありましたね」と、当時を思い出す。

学生時代は、飲食店でアルバイトをするなどした程度で料理とは程遠い生活で、就職してキャリアを積んでいく将来を思い描き、まして家業を継ぐことも全く考えていなかったという。その考えが改まり、料理家になる決意をしたのは東日本大震災。食品メーカーへの就職が決まり、入社を控えていた時期に未曽有の大災害が日本を襲った。困っている人のために何かをしたくて、高橋さんはボランティア活動に積極的に参加した。ボランティアには高橋さんと同年代も多く参加し、将来への希望や不安を一緒に語り合ううちに、「自分の本当にやりたいことは何だ?」と考えるようになった。

「育ってきた環境などを振り返って、父親が人生をかけて作り出した味を後世へ残す使命みたいなものが芽生え、結局それが自分らしく生きることになるのかなと。この思いを実現できるのが料理家だと直感して退社後、必要な資格・知識を得るために勉強を始めました」

父の経営する料理店の手伝い、テレビ出演などのメディア露出、レシピ監修と、腕を磨き、経験を積んだ高橋さんは現在、父から受け継いだ味を守るべく、経堂(東京都世田谷区)で和食料理店「凧 HANARE (はた はなれ)」を切り盛りしている。

高橋さんはあくまで、「自分は料理家」という。料理研究家や料理人は技を追求したり、道を極めたりするイメージが先行する。そうではなく、料理の楽しさ、すばらしさをもっと身近に、もっと気軽に伝えていきたいと思っている。

世界を知るトライアスリートは元バスケ少年

高橋さんは幼いころから活発で、運動神経も悪くなかったことから、小学校になるとサッカー、野球、バドミントン、バレーボールとさまざまなスポーツを経験。「バッシュをあげるから」と誘われたバスケットボールが最も性に合っていたらしく、みるみる夢中になった。中・高と部長を務め、選抜チーム(川崎市)にも選出された。

大学に入ってからはサークルに所属し、体育会系並みの練習頻度でバスケの腕を磨いた。アルバイトにも力を注ぎ、学業、バイト、バスケと大学生活を楽しんだ。「このころ、男子学生には珍しく、週2~3回は弁当を持参して友人と食べていましたね。若かったですし、知識もないですから、栄養よりも量といった感じのタッパー弁当がほとんどでしたけど(笑)」。社会人になってからは定期的に楽しんだり、中学生に教えたりと、バスケとは切っても切れない生活が続いていた。そんな高橋さんが、なぜトライアスロンをすることになるのか。始まりは、「先輩の一言」だった。

「今でも覚えているんですけど、先輩に『一緒に大会へ出よう』って言われてその気になって練習を始めたんですが、言い出しっぺの先輩は結局大会に出ず。わけもわからないまま、試合に出て惨敗しました(笑)」

トライアスリートとしてのスタートはほろ苦いものになったが、スイム、バイク、ランと3種目を行う競技自体には魅力を感じていた。その後、ビジネスマンが本気でスポーツに取り組むアスリートチーム「ダブルサバイバー」に加入。魅力的なパーソナルトレーナーとの出会いもあって、トライアスロンに本気で取り組むようになり、スタンダードディスタンス1)、アイアンマン2)に参加するようになった。

2017年からは強豪エイジとして積極的に大会へ出場し、18年にはITU(世界トライアスロン連合)世界トライアスロンシリーズグランドファイナルのエイジグループ3)日本代表として初めて出場権を獲得。19、20年(未開催)も出場権を得て、競技開始から約4年で世界レベルのトライアスリートに成長した。

1) 合計:51.5km(スイム1.5km・バイク40km・ラン10km)
2) 合計:約226km(スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195km)
3) アマチュア・一般の意味。エイジグループの出場選手は、24歳以下、25~29歳、35~39歳など5歳ごとにグループ分けされ、同年代で順位を競うことになる。ちなみに、プロやオリンピックを目指す選手は「エリートクラス」と呼ばれる。

「食×スポーツ」で幸せになる人を増やしていきたい!

トライアスロンはニュートリションコントロールがカギともいえる競技。レース前後、当日の食事・栄養摂取には特に気を使う。高橋さんは、自分の体調と相談しながら食事・栄養摂取を考え、自ら調理することができる。料理家とトライアスリートの視点をもつ強みといっていい。

「トレーニングに気を取られて食を意識しなければパフォーマンスは落ちるし、食への意識が高くてもトレーニングしなければ、競技に耐えうる体は作れない。ですから、『食べてやせる』というのはあり得ないと思っています。基本は『食べて、動いて』ですね。どちらかに偏るのも良くない。つまりはバランスです」

高橋さんはトライアスリート仕様の体を保つために、たんぱく質の使い分けをする。体にキレがないと感じた時は魚系、筋肉をしっかりつけたい時などは肉系と、いろいろな食品からたんぱく質を摂取することで、栄養の偏りを防いでいる。ただ、栄養量や成分に気を取られ過ぎるのは良くないとも語る。

「基本的には好きな物を食べています。体が欲する物というべきか。栄養学の数字的なものも大事なんですが、選手としての感覚的な部分も大事。料理家とトライアスリート、両方の目線から感覚的な部分を伝えられるのではないかと思っています」。高橋さんが持つ独特の目線は、スポーツ現場でも評価されている。来たる東京パラリンピックのパラ卓球日本代表公認アスリートフードコーチに就任し、食の面から選手を応援している。

競技スポーツ、健康づくりのための運動、余暇としてのアクティビティ。スポーツの考え方が多様化する中、食も一緒に楽しむことで健康寿命が延びたり、リラックスできたり、パフォーマンスが上がったり、それぞれの目的が達成できるのではないかと、高橋さんは考えている。「食とスポーツ・運動が身近になって、生き生きする人が増えればいいと思いますね。そんな世の中になるために、僕自身もできることはやっていきたい」。

また、日本料理、和食を特に強みとしているため、外国人に認知されている「和食=ヘルシー」を絡めて、食(和食・日本料理)×スポーツをいずれは広めていけるようにしていきたい考えをもっている。

2020年はコロナ禍によって、高橋さんの店舗は少なからず打撃を受けた。トライアスリートとしての活躍も限定的になり、食×スポーツ・運動を結びつける活動ができなかったが、日本中が復活を目指している今こそ、高橋さんの持っている視点、考え方は大切になってくる。

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