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2020.02.14
ニュートリションな人々
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トレーニング・栄養の統合を目指した最高のコーチングを【ニュートリションな人々 #01 ~清野隼さん 後編~】
すぽとり編集部

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画「特集:ニュートリションな人々」。記念すべき第1回目は、ストレングス&コンディショニングの資格を保有しており、日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士でもある筑波大学・清野隼さんの半生を振り返る(全2回)。

指導は人対人、ニーズをくみ取り、その人の観点を理解することが大事

すぽとり編集部(以下、編集部) 清野さんは、世代・競技レベル問わず、一般の方も含めてコーチング経験が豊富です。指導を受ける方とどのように接していますか。

清野 競技特性についてはある程度把握しているので、「これが必要だな」というのは何となく頭の中にあります。以前までは、指導に入る前にいろいろなことを下調べして臨んでいました。自分自身も不安な点があったので。でも、最近ではあまり情報を詰め込みすぎないようにしています。

まずは人と人、一対一でフラットに接するように心がけています。競技レベルや年齢など先入観を持たずに。そうすると、それぞれの抱えている問題点やニーズの本質がよく見えてくるような気がします。僕がSNSをやらない理由もその一つというか・・・惑わされたくないんですね(笑)

編集部 やっぱりそこは人として付き合い、よく観察することが大事なんですね。

清野 僕はスポーツニュートリションの観点に捉われず、総合的に高い視座で競技力やパフォーマンスの向上を捉えたいので、最初に選手から出てくる言葉が何なのか。そこから栄養にどう起因しているのかを探るようにしています。いわゆる「ファーストクエスチョン」と「ファーストボイス(リアクション)」をとても重要視しています。

編集部 個人とチームの指導で違いはあるんでしょうか。

清野 両方を経験していますが、どちらかというと、個人的にはパーソナル対応が難しいと感じています。性格や考え方を踏まえてより細かく観察する必要があるので。

チームの場合は、設定した目標に向かって全員で取り組んだ結果、大きな変化や成果として表れてくるので、やっていて面白みはあります。さまざまな統合要素が存在する分、それがイノベーションとして現れた時のインパクトの大きさが、チームサポートの醍醐味でもありますね。

編集部 指導をする時に心がけていることはありますか?

清野 個人もチームも、僕はその都度タイムリーで的確な指導ができるように心がけています。ずっと同じ時間を共有して、観察できる時間が長ければ状況把握も思うようにできますが、実際はそうではありません。

ですから、普段身近にいるトレーナーや監督と密にコミュニケーションをとって状況変化を把握しつつ、何か問題が顕在化してくる、もしくはする前にその対策として現場で直接指導をするといった形になります。

最初は、選手の意識や考え方を変えるために、ある程度の強制的指導は必要だと思いますが、その先にあるのは個人個人で主体性をもって向き合っていくことだと思っています。

コーチングの観点で言えば、「自己決定連続性モデル」という考えが当てはまります。細かな栄養の話をする前に、人間力の強化というか、関わり方教育のようなものも必要になってきますね。

基礎研究をどう実践に結び付けるか

編集部 トレーナー、スポーツニュートリションの専門家としていろいろな経験をされてきましたが、現在どのような活動をしていますか?

清野 大きく分けて4つの視点で仕事に取り組んでいます。1つ目が選手・チームの強化、2つ目が大学院生やスポーツ分野の管理栄養士を目指す学生、指導者の方への教育・指導。

専門職はサステナビリティが一つの課題だと思っていますので、どうやったら次代の成長を促せるのか。また、栄養のことを知っていただき、連携につなげていくためにも、チームの監督・コーチ、トレーナーへ情報提供もしています。

3つ目がマネジメント。現所属の筑波大学社会人大学院、競技団体(医科学スタッフ)やプロ球団の寮を運営する企業のアドバイザーなどの仕事をしています。トレーニングラボでも、現在はアドバイザーという立場でニュートリションチームの人や物事をどう好循環機能させることができるかを考えています。

そして、最後は研究。実践知を形式知にすることです。。

編集部 世界では、スポーツニュートリション分野での研究に基づいたエビデンスが日々アップデートされています。

清野 スポーツ現場での実践研究や実践報告、コーチングは形式知にすることで、一つのエビデンスになると思っています。栄養サポートをした後、どのような成果があったのかをきちんと整理して論文化し、誰が見てもわかるように後世に残していくべきだと思っています。。

例えば、プロテインやアミノ酸などの食品素材をスポーツ現場で使用してどのように体が変わったか。そういった基礎研究をどうやったら強化の現場に応用できるのかということは、非常に難しいという声をよく聞きます。

われわれ専門家には、基礎研究で得られたデータをいかに実践に落とし込み、議論を深めて、どのように正しくアウトプットするかが求められているはずです。

基礎研究、実践研究を分けて考えるのではなく、両方を統合した考え方をもってスポーツ現場で生かせるエビデンスを蓄積していきたいですね。

編集部  私たちが知りたいのはまさにその部分。運動をする時にどんな物を食べてどうトレーニングすれば体が変わるのか。競技レベルが高まるのか。専門家からきちんとエビデンスが出れば、競技・年齢問わず活用できると思うんですよね。

清野 もっと頑張りたいと思います。

編集部 ところで、清野さんは2018年から筑波大学に所属を移して、新しい研究をしているそうですね。

清野 「コーチング学」を切り口に、競技力向上のための栄養サポートの在り方や「スポーツニュートリションの専門家の卓越性」をテーマにして研究を進めていこうと思っています。

編集部  それはどのようなものでしょうか。

清野 現在執筆している博士論文がまさにそのテーマなのですが、2013年に文部科学省が取りまとめた、「スポーツ指導者の資質能力向上のためのタスクフォース報告書」によると、コーチングは、「競技者やチームを育成し、目標達成のために最大限のサポートをする活動全体」と定義されています。

さらにコーチとは、このコーチングを行う人材であるとも定められています。そうすると、栄養サポートを行う専門家も、私はコーチだと捉えています。そのような立場で行う栄養サポートは、競技力向上のためにどうあるべきかを明らかにしたいと思っています。

編集部  「栄養サポートもコーチングである」と。

清野 そうです。その中で、スポーツニュートリションの専門家の卓越性として、トップスポーツ選手や日本代表選手を指導している専門家の発話を録音して、会話の中からどのようなアドバイスや教育が行われているのかを探求していきたいと思っています。

まだまだこれからですが、この前段階で、北極冒険家・荻田泰永さんが毎年夏に小学生を対象に行っている「100マイルアドベンチャー」に同行して、荻田さんと子供たちの会話を録音し、行動をすべて撮影してきました。

2週にわたって帯同したので膨大なデータ量になりましたが、発話をテキスト化した後、AI(IBM社 Watson)で荻田さんの行動を分析し、論文化することを現在進めています。

荻田さんは冒険家でありながら、コーチであると僕は思っています。昨年で2回目の参加でしたが、荻田さんの何気ない会話や行動をきっかけにして、子供たちが変わっていくのを何度も目の当たりにしてきました。

編集部 荻田さんにお会いしたことがありますが、先生とは違った雰囲気で子供たちと接しながらも子供たちに考えさせることを大事にしている。荻田さんは謙遜しますが、立派な教育だと思います。

清野 そうなんです。ですから、荻田さんの行動を分析することで、どの場面で教育の機会が生み出されたのか、自然の中でどのようなリスクマネジメントをしているかなどをうかがい知ることができると思っています。

それで、これを専門家育成の指導局面にも応用して落とし込んでいき、「指導の見える化」、専門家が何に取り組んでいるかを形にして発信していきたいと思っています。

そうすれば、最終的に競技力の向上につながると思いますし、他分野の専門家が見ることで「スポーツニュートリシションの専門家にはこんな優れた能力があるんだ」とわかってもらえるのではないでしょうか。道のりは長いですが、これからも努力していきたいですね。

編集部 今回は清野さんの生い立ちから考えまでを丸裸にしたわけですが(笑)。スポーツニュートリションが広まって行く中で、新しいことにチャレンジしながら、今後のことを幅広く考えていらっしゃることがよくわかりました。

清野さんとお会いしてからいろいろな議論をしていますが、どんどん先進的になっていると感じます。これからのご活躍に期待しています。どうもありがとうございました。 <<完>> <<前編を読む>>

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