神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第5回は「中学生年代の食の問題点とその対策 ~スポーツと五大栄養素~」をテーマにお送りする。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

成長が本格的に始まる中学生年代

中学生になると、身長・体重の発育・発達が起こり始めると同時に、内臓が大きくなっていくのに伴って消化・吸収能力も高まってきます。

そして、最も特徴的なのが、免疫力が成人の約2倍高まるということです。ですから、中学生年代では、体を大きくするための栄養のとり方はもちろん、免疫力を高めるための栄養のとり方も重要になってきます。

また、中学生、その後の高校生というのは、一生のうちで最もエネルギーをとらなければならない時期になります。エネルギーを獲得するために、どのような栄養のとり方をするかを考えていく必要があります。

スポーツと五大栄養素の関係

みなさんもご存知かと思いますが、毎日の生活の中で、食事から「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」「ビタミン」「ミネラル」の5大栄養素をとらなければいけないといわれています。では、これらがスポーツをする時にどのように体内で働くのかを説明していきます。

炭水化物と脂質はエネルギー源になります。日常生活での必要エネルギーは一般的に、炭水化物と脂質を半分ずつ使用しているといわれていますが、スポーツをする場合、運動強度や量が増えていくので、より多くの炭水化物が必要になってきます(持久系スポーツは脂質の必要量も増加)。

体に貯蔵されている体脂肪をエネルギーとして利用する脂質に対し、炭水化物は食事からその都度体内に入れてあげないとすぐに不足してしまいます。炭水化物は脳のエネルギー源としても使われます。とる量が十分でないと、スポーツをするうえでの「判断力」「集中力」が失われかねません。スポーツをする前には、「炭水化物をしっかりとる(体に入れておく)こと」を心がけておくと良いですね。

筋肉、骨、血液、爪など体の材料となるのが、たんぱく質です。たんぱく質が不足すると、スポーツ選手としての体作りができなくなってしまいます。もう一つ、たんぱく質には免疫力を上げるという大きな役割があります。ウイルスや病原菌が体に入ってくると、体内では防衛機能を果たす抗体が作られます。この材料になるのがたんぱく質です。

炭水化物、脂質、たんぱく質が体の材料になるものなら、材料を使ってエネルギーや身体に作り変える役割を果たすのが、ビタミンとミネラルになります。いくら炭水化物、脂質、たんぱく質をしっかりとっていても、ビタミン、ミネラルがなければエネルギーや身体への作り変えができなくなるので、忘れず一緒にとる必要があります。ミネラルの中には骨の材料となるカルシウム、マグネシウム、血液の材料になる鉄と、スポーツ選手の体作りには不可欠なものも含まれています。

このように、5つの栄養素を必ず摂取しなければ、スポーツ選手の体作りができませんし、中学生で起こるべきさまざまな発育・発達に支障をきたす可能性があります。

5つの栄養素の関係はチームスポーツと似ています。一人だけ上手な人がいても、周囲が協調しなければ結果を出すことができません。栄養素も同様に、一つ一つがそれぞれ役割をもっていて、うまく機能することで、体を健康に保ったり、強くしたりすることができるのです。

中学生、高校生は、5つの栄養素をバランス良くとらなければなりません。そのためには前回ご提案したように、「毎食、虹色の食材をそろえる」ことをしていただければと思います。

小学生のうちから虹色の食事を心がけていれば、最もエネルギーが必要なこの時期にバランス良く、たくさん食べることができるようになっているはずです。

サプリメントなどに頼らず、消化・吸収能力を高めたい

中学生年代の食事で注意したいのは、サプリメントや加工食品の摂取です。今、スポーツをしている人に向けて多くのサプリメントや加工食品が発売されており、いずれも消化・吸収の良い状態で栄養素が摂取できるように作られています。

成長期が過ぎた成人が使用するのは良いと思いますが、成長が著しい中学生の時から慣れてしまうと、内臓の消化・吸収能力を高めるせっかくの機会を失うことになりかねません。食べ物を咀嚼し、胃で消化することこそが能力を高めることにつながりますので、サプリなどの摂取はなるべく控えた方が良いですね。

また、サプリなどの摂取で食事量が減ってしまう可能性も出てきます。これらはタブレットや粉末など、小さくても栄養素が凝縮された形状になっています。これに慣れてしまうと、摂取量が少なくても栄養は十分と脳が勘違いする(食べた気になる)ため、食欲を止めてしまいます。「サプリなどでお腹一杯になり、食事が食べられない」ということも起こりえます。

これでは、たくさんエネルギーが必要な時期に食事量が減ってしまい、身体、内臓の成長が小さくなりますし、先ほどの消化・吸収能力にもかかわってきます。

サプリなどは手軽で便利なので使いたいと思っている人も多いことでしょう。しかし、身体の成長も内臓の成長もこの時期しかありません。せっかくの機会を失わないためにも、使いたい気持ちをグッとこらえて、食事から栄養をとる生活を心がけていきましょう。 

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。