神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。気温が上がってくる5月以降、発汗量は上がり、熱中症のリスクも高まってくる。健康的に過ごすには「水分補給」が何よりも大切になってくる。

第14回は3回に分けて、水分補給を怠った際のリスクと効果的な摂取方法を解説。後編は「効率の良い水分補給法」をお送りする。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

「運動前」には500ml以上の水分摂取を

前回のおさらいですが、体重の2~3%脱水(60kgの人の場合、発汗量1.2kg~1.8kg)すると、初めてのどが渇いたと感じ始めます。

こうなると「競技力の低下」が始まっていますので、どんなに強度の高いトレーニングを行っても効果は見込めません。無理すると、ケガにもつながってしまいます。運動パフォーマンスを維持するためには、「のどが乾いたと感じる前に水分補給」することが大切です。

では、どのように水分補給をすればいいのか。「少量ずつ頻繁に」が水分補給の基本です。そして、もっと大事なのは「運動前に水分を十分に摂っておく」ということです。目安量は250~500mlですが、可能なら「500ml以上」摂っておいてください。

500ml以上の水分が体に吸収するには30分以上かかりますので、摂取タイミングは「運動の30分前まで」になります。

水分補給をする時に絶対やってはいけないことがあります。それは「急激に大量の水分補給をすること」です。過剰な水分摂取は体液を薄め、低ナトリウム血症をひき起こしてしまいます。症状は頭痛、吐き気・嘔吐、倦怠感、けいれんなどです。

一見すると、熱中症と同じような症状なので、さらに水分摂取を勧めてしまいがちですが、かえって増悪するので十分に注意してください。

「運動中」の水分補給で心がけること

運動中はどんどん体から水分が出ていきますので、出ていった分を補充していくのですが、ただ摂取すればいいというわけではありません。効率良く水分補給する条件、方法がいくつかあるので解説します。

まず、運動前後に体重を測っておくと良いと思います。運動によって減少した体重から最適な給水量を算出できるからです。目安としては、発汗によって減少した体重の80%までが給水量として適しているということになります。

例えば、体重60kgの人が運動後に体重を測ったら59kgになっていたとします。体重の減少量は1kgで、1kg(1000g=1000ml)の80%に当たる800mlまでが給水量となります。水温は5~15℃を維持しましょう。

給水のタイミングとしては1時間に2~4回が望ましく、気温が高い時や熱中症の心配がある時は15~20分ごとに飲水休憩をとり、1回につき約200~250mlの水分を摂取すると脱水の可能性はかなり低くなります。

練習時は飲水休憩のタイミングも取りやすいのですが、試合になると意識が集中して忘れてしまうこともあるかもしれません。普段からしっかり水分補給のタイミングを押さえておけば、脱水や熱中症を気にすることなく実力をいかんなく発揮できるのではないでしょうか。

練習時間が90分を超える場合、熱中症のリスクが高い環境下の場合、糖分4~8%、塩分濃度が0.1~0.2%の物(アイソトニック系飲料:後述)を摂取した方が疲労も残りにくく、熱中症のリスクも下がるのでベストです。

前回お話しした通り、冬場でも熱中症は起こります。運動やトレーニングをしている間、脱水し続けていますが、夏場と違って口渇感がそれほどなく汗もかきにくい状況なので、脱水に気づかないといったケースがあります。熱中症を予防するために、冬場でも同様に、水温問わず、水分補給を習慣づけてほしいと思います。

熱中症予防にはアイソトニック系

スポーツ飲料は、暑熱環境下や運動時に失われた水分、塩分などを体内へ効率良く補給することを目的に、必要な栄養成分などを化学的に添加した物をいいます。

いくつか種類があり、糖分6%の「アイソトニック系」、運動時の水分補給に適した「ハイポトニック系(糖分2.5%)」、運動後や試合の合間などの摂取に適した「エネルギー補給系(主にゼリー飲料)」に分けられます。運動シーン・環境や摂取タイミングごとに使い分けると良いでしょう。

アイソトニック系は、他の2つよりも糖分が多いため体内への吸収に時間がかかります。素早く体内に吸収させたい運動時よりも非運動時での摂取に適していますが、熱中症の心配がある環境下では水分と同時に塩分も摂れる物が多いアイソトニック系を選びましょう。

なぜ熱中症の時にアイソトニック系が適しているのか。暑熱環境下で大量の汗をかくと、水分と同時にナトリウムなどの塩分も失われます。この時に、水のみで補給すると、体内の水分は満たされるものの、その分体液の濃度が薄まってしまいます。脳が「体液が薄まった」と感知すると、適度な体液の割合に戻そうと水分を排出してしまい、結果的に効果的な水分補給ができていないことになります。この状態を「自発脱水」といいます。

このサイクルに陥らないために、大量の汗をかくシーンでは、水分と同時に塩分も一緒に摂れる物が多いアイソトニック系なら水分量も体液も適正に保たれて、熱中症を防ぐことにもつながります。

熱中症予防のために摂りたい栄養素

熱中症予防のために普段の食事から摂りたいのが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル類で、これらは塩分になります。ビタミンB1、クエン酸も忘れずに摂っておきたい栄養素です。

ナトリウムは料理に使われる食塩から十分といえる量を自然に摂取できるので意識する必要はないと思います。その分、他のミネラル類を摂るようにしましょう。特に、カリウム、マグネシウムが不足すると、筋肉がけいれんしやすくなります。

ビタミンB1の不足は「手足がむくむ」「しびれる」「体がだるくなる」などの恐れがあるのでしっかり摂っておきたいですね。クエン酸は乳酸の発生を抑制し、バテにくくするために摂っておくと良いと思います。

予防効果が見込める栄養素が含まれる食品は、ジャガイモ(カリウム+ビタミンC)、ナッツなどの種実類(カリウム+マグネシウム)、梅干し(クエン酸)、豚肉(ビタミンB1+たんぱく質)、スイカ(抗酸化成分+水分)、きゅうりやゴーヤなどの夏野菜(ビタミンB群+ビタミンC)をお勧めします。

ただ、これらだけを摂っておけばいいというわけではなく、この講座で何度も説明しているように、「五大栄養素」を「バランス良く摂る」が基本になってきます。

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。