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2021.06.23
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舌下吸収の方が吸収良し!? エルゴジェニックエイド「カフェイン」を考える【Dr.Aoyagiのスポーツニュートリションをぶった斬る! #03】
青柳清治(栄養学博士)
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エルゴジェニックエイドとドーピングの扱い

エルゴジェニックエイドとは、「運動パフォーマンスを向上させる食品成分やサプリメントなど」をいいますが、日本ではあまり使われず、耳なじみの薄い言葉です。前回も話しましたが、日本の“スポーツ栄養”と呼ばれる世界では食事>サプリメントの考えが根強く、エルゴジェニックエイドを有効活用する土壌、文化が育ちにくい環境だからです。今後、日本の“スポーツニュートリション”がグローバルスタンダードを目指すならば、この言葉の理解を深めることが必要だと考えています。

米国、ヨーロッパ、オーストラリアなど、スポーツニュートリション研究が盛んな地域で、エルゴジェニックエイドとして挙げられるのが「HMB」「クレアチン(特に、吸収率が高いモノハイドレード)」「EAA(必須アミノ酸混合物)」「β-アラニン」などで、みなさんがよく口にする紅茶やコーヒーに含まれる「カフェイン」もその一つです。

エルゴジェニックエイドは、運動パフォーマンスを上げる目的があるため、配合原料(商品の素になる材料)についてエビデンスに基づいた物を採用することが多い一方、化学的な配合で開発された原料もあることから商品構造が複雑化し、予期せずしてドーピング違反物質が検出されてしまう例もあります。ちなみに、サプリなどからドーピング物質が検出されるケースで「コンタミネーション(異物混入)」というものがあります。これは、製造過程で意図せずに禁止物質が紛れ込んでしまうことで、これまで明らかになっている“うっかりドーピング”の多くがコンタミによるものといわれています。この点ももっとみなさんに知ってもらいたいのですが、後日改めて。

カフェインに話を戻して。カフェインは2004年まで禁止物質扱いとされ、スポーツ分野では使用できませんでした。摂取上限を尿中12mg/ml(エスプレッソ8杯程度)が出てくる量としていましたが、現在はニコチンと同様に監視プログラム(効果や違法性、エビデンスなど継続観察)に掲載され、スポーツシーンでも活用できることになっています。もともと通常の食生活において摂取する機会も多いことから、今後もドーピングの対象になる可能性は低いと考えられます。

カフェインの最も効率的な摂取方法が未承認の日本、海外選手は使えるアドバンテージ

スポーツニュートリションの権威団体である国際スポーツ栄養学会(ISSN)は、カフェインを「パフォーマンス強化に寄与する」と評価しています。スポーツシーンでうまく活用すれば、パフォーマンス向上にも役立つ可能性が高いエビデンスが数多く出ています。カフェイン摂取によって期待される効果については次回以降に持ち越すことにして、今回はカフェインの摂取方法に焦点を当てて話を進めます。

前回、食薬区分を話題に取り上げました。食品向け原料で販売するよりも医療品向け原料で販売した方が何かと都合がいいという不都合な真実を明かしたわけですが、今回はもう少し掘り下げていきます。

健康食品と医薬品を区別する判断材料として「原料」のほかに、錠剤や液体などの「形状」も当てはまります。簡単に説明すると、アンプル・舌下錠、スプレー管に充填した液体を口腔内に噴霧し、粘膜からの吸収を目的とする物などが「医薬品と判断される形状」です。一方、日本らしい表現ですが、「(パッケージに)『食品』と書かれていれば、『医薬品』と判断されない形状」に含まれる物として、カプセル(ソフト、ハード)・錠剤・丸薬・分包された物を含む粉末や顆粒・液状などがあります。

スポーツシーンにおけるカフェイン摂取で期待できる(したい)ことは、気分を高揚させて試合や競技に臨むことでしょうか。そうなると、「試合前にいかに速く体内へ吸収され、体感を得るか」がポイントであり、いち早く臨戦態勢に入って相手よりも精神的優位に立つということが求められます。少しドーピングのような話になりましたが、あくまで食品の話です(笑)。では、カフェインの即効吸収を考えた時にどの形状が望ましいのか。海外ではヒト試験によって検証された結果が論文発表され、かなり前に一つの可能性が示されています。

     カフェインの吸収率(血中濃度):ガムとカプセルの比較※)

カフェインをガム状(舌下吸収=口腔内粘膜からの吸収)で摂取した時と、一般的なカプセル状(腸からの吸収)で摂取した時にどちらが早く吸収されるか(図)などを検証した実験では、ガム状の方が早く吸収される結果が出ました。日本では、カフェインを原材料として採用した商品がいくつも開発されていますが、舌下吸収によるサプリや食品は存在していません。前述したように、口腔内で溶かして使用する舌下錠は医薬品でしか利用が認められていないからです。欧米では、「食品扱い」で「舌下錠」の商品は数えきれないほど開発され、スポーツ選手も有効に活用しています。ところが、日本ではそうなっていないのです。カフェインの一例を挙げましたが、こうしたケースはほかにもたくさんあるのです。

※) Gary H Kamimori, etal.: The rate of absorption and relative bioavailability of caffeine administered in chewing gum versus capsules to normal healthy volunteers., Int J Pharm., 234 (1-2) 159-67 (2002)

実際に2019年に行われたラグビーワールドカップで上位に勝ち進んだ海外のチームの選手は、カフェインの舌下吸収剤を試合直前に使用してパフォーマンスをより向上させる手段を取りました。これは日本の選手にはないオプションです。栄養成分を最も効率良く摂取する方法があるのに、日本ではよくわからないルールに縛られて多くの人に安価(市販サプリなど)で提供できない――これは消費者、スポーツ文化の発展を考えた時にどう捉えればいいのでしょうか? 特にカフェインはスポーツ分野でも有効活用することでパフォーマンスが上がり、選手の成績面でも底上げできる可能性があるのに。

そもそも日本でカフェインはネガティブに捉える向きがあったり、こうした最も効率の良い摂取方法自体が知られていなかったりすることから、エルゴジェニックエイドとして認識されていない背景があります。その他のエルゴジェニックエイドも同様で、真実がきちんと伝わっていないということを感じます。

カフェインの舌下錠型商品を日本で販売するためには、法律そのものを変える必要があるので、有識者の先生方に正しい評価をしていただいて是正してもらいたいと思いますが、本来ならこうした評価にもスポーツニュートリションの専門家が介入したり、研究テーマにしたりしてもいいはずです。ただ、前回も話した通り、倫理的な問題などが大きな壁となっているので、現実的にはかなり厳しいものになっています。

商品を開発する立場としては、今の法律の中でカフェインに期待できる効果を最大限生かせるようにフォーミュレーション(商品設計)するしかありません。これまでの常識にはないカフェインの使い方、消費者のみなさんが納得する体感が得られる物を発表できるように、日々知恵を絞っているところです。

次回は、カフェインがスポーツ分野でどのように活用できるか。エビデンスを踏まえて解説していきます。

<次回へ続く>


青柳清治 / Seiji Aoyagi, PhD 栄養学博士、(株)DNS 執行役員

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年に日本へ帰国後、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

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