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2020.06.20
連載
もし、あのときスポーツニュートリショニストが身近にいてくれたら…【連載:スポーツ栄養の果たす役割 #01】 
松本 恵(日本大学文理学部教授、公認スポーツ栄養士)
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「スポーツ栄養」とは、アスリートの競技パフォーマンスを最大限に引き上げるために、「何を、いつ、どれだけ、どのように摂取するか」について指導、教育するスポーツ・体育の分野における食事術です。

「術」というと、テクニカルな部分に注目が集まり、厨房を主戦場として、「あっ、選手たちのごはんをつくる人ね」というイメージが先行してしまうかもしれません。確かに、そういう面もありますが、それはあくまでも‟一部分”でありすべてではありません。ここが勘違いされやすいところでもあります。

スポーツ栄養の道を志す方々の多くは、子供の頃からスポーツが大好きで、自身もスポーツに親しんでいることがそもそもの出発点になっているのではないかと思います。

一方で、アスリートとして競技歴を積み重ね、セカンドキャリアとしてスポーツニュートリショニストの道を選択したという人もいるでしょう(ただ、そういうケースはまだまだ多くはないようですが…)。実は、私自身がそうでした。

私は競泳選手だった学生の頃、合宿や海外遠征に行ったとき、いざ試合に臨もうとするときに、すぐにお腹をこわしたり、吐いてしまったり、あるいはナーバスになって食欲をなくしてしまうという選手でした。

いわゆる、重要な局面においては必ずといっていいほど、食にまつわるさまざまなトラブルを抱えてしまう選手だったのです。したがって、残念ながら本当の意味で‟強い選手”になることは叶いませんでした。

やっかいなのは、毎回トラブルのパターンが異なっていたことです。症状が同じであれば、まだ対策は立てられると思いますが、そうではない。あるときは急にお腹をこわしてしまうケースだけれど、このときは便秘したり、吐いてしまったり…ということが突発的かつランダムに訪れるのです。

一体、何を食べたり飲んだりすればいいのか。それとも、何も食べないほうがいいのか。果たして、この悩みを誰に打ち明ければ的確なアドバイスをしてもらえるのか。

当時であれば、スポーツドクターやトレーナーの方々に求めることになるのでしょうが、そういった方々も食に関する専門家ではありません。しかも、症状は慢性的ではなく、重篤でもないので病院で診てもらうほどでもない。結局、悩みは自分で抱え込み解決する道を模索するしかありませんでした。

ましてや、食事に対する悩みというのは、どちらかといえば、それほど大きな問題としてとらえられず、どちらかいえば「二の次」に据え置かれ、選手の自己管理に委ねられるところが大きいものです。

しかしながら、みずからのパフォーマンスを最大限に発揮しようと思ったら、やはり何を食べ、何を飲むのかということは、選手にとって死活問題といっても過言ではありません。

アスリートは、「違和感」という言葉をよく使います。たとえば、「ちょっと肩に違和感があって、いつも通りに投げられない…」など、究極を追い求めようとするトップアスリートほど、生理的あるいは心理的にしっくり来ないという感覚に敏感なのものです。お腹の調子などは特にそう。ちょっとした異変でも違和感を覚えてしまいがちなのです。

前述の通り、私の場合の違和感はいつもお腹を発信源としていました。だから、何を食べればいいのだろう、何を飲めばいいのだろう、と常に試行錯誤していたものです。しかし、あれをやってもダメ…、これをやってもダメ…。まさか、競技以外のことで、こういった悩みがつきまとうとは夢にも思っていませんでした。

だからこそ、あの頃はいつも、身近に私が抱えているこの悩みを相談し解決してくれる人がいてくれたら、どんなにいいだろうと考えていたものです。それは、とりもなおさず競技に集中できる「安心」を得たかったから。

もし、当時、食環境を整えてくれる人が傍にいてくれたら、みずからの記録をより更新できたはずだ、と。それが私自身のスポーツニュートリショニストになりたい、いや、絶対になるんだと思った大きな動機づけになっています。

<次回へ続く>


まつもと・めぐみ

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

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