スポーツ・運動と食を結ぶ
ウェブマガジン
お問い合わせ
2020.07.04
連載
スポーツニュートリショニストも選手とともに 現場で戦う存在でありたい①【連載:スポーツ栄養の果たす役割 #02】
松本 恵(日本大学文理学部教授、公認スポーツ栄養士)
1+
Twitter Facebook

実際にスポーツ栄養の世界に身を置いてみると——。前回述べた通り、私のようにアスリートのセカンドキャリアとしてこの道を志したという人は、当時としてはまだわずかでしかなかったであろうと想像します(おそらく現在もまだ少数派ではないかと思いますが…)。そういう意味では希少価値だった(笑)。

だからでしょうか、当初、私が選手時代に思い描いていたスポーツ栄養の仕事内容とは大きなギャップを感じたものです。果たして、選手が求める要望と一致しているのだろうか、栄養士側の一方通行になってはいないだろうか、と。

当時の栄養サポートといえば、現場とは一線を画したレクチャーを中心とした座学が主流。いわゆる、教室の中で「バランスよく食べることが大事…」等、選手に対してスポーツ栄養の重要性を説く、定期的に実施される啓発活動が主な役割として捉えられていました。おそらく、当時はまだ現場において選手に寄り添いながら活動するということがあまり考えられていなかったのではないかと思います 。

一方、私が考えていたスポーツニュートリショニストの役割とは、選手個々の食事内容から体調面までを一元的に管理すること。したがって、選手時代の理想が具現化するまでには、それからしばらくの時間を要することになります。

そうした私自身の‟心の消化不良”に大きな一石を投じてくれたのが2008年に開催された北京オリンピックにおいて、女子ソフトボール日本代表の栄養サポートを担当された鈴木志保子先生(神奈川県立保健福祉大学教授、一般社団法人 日本スポーツ栄養協会 代表理事)の存在です。

鈴木先生は、それ以前から現場の指導陣や選手たちとの意思疎通を図り、チームもしくは個人の目標を明らかにした上で、その目標に向かって計画的に取り組むマネジメントの必要性をずっと唱えられかつ実践されていました。

そうした地道な活動が、これ以上の説得力はない‟金メダル”という実績を勝ち取ることによって、その必要性を実証されたのです。すなわち、スポーツニュートリショニストも現場の最先端において、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるように、ともに戦う存在なのだ、と。それは、まさに私が理想としていたスポーツ栄養士の姿に合致するものでした。

ところで、私の経歴はちょっと変わっていて、大学では食物栄養学科を専攻しましたが、大学院は農学研究科に学び、学位も「農学博士」です。 もちろん、大学院においてもスポーツ栄養学についてもっと深く追究したいと思い、大学3年のときには関東のさまざまな研究室を訪問してみたのですが、残念ながら、当時はまだ私が理想としていた‟現場”における実践活動について専門的に学べる場所を見つけることはできませんでした。

どうしようかと悩んでいたところ、私の地元である北海道を拠点に研究活動をされている先生方から「では、こっちに残って基礎研究をしっかり叩き込み、その後、あなたの目指すスポーツ栄養の道に進んでみてはどうか」とアドバイスを受けた。

よくよく考えてみると、地元北海道には食品や栄養学の研究をするには日本でもトップクラスの教授陣がそろっている北海道大学があるではないか、と。今、振り返れば、うまく言い含められたかなと思いますが(笑)。

研究テーマをジワリジワリとスポーツ栄養の方向に舵を切っていく中で、当時、筑波大学教授だった鈴木正成先生(故人)や日本スポーツ栄養学会の前身である日本スポーツ栄養研究会の初代会長である田口素子先生(現・早稲田大学教授)との出会いがありました。

そういう意味では、決して遠回りしたとは思っていません。むしろ農学研究科で学んだからこそ、従来の概念にとらわれないさまざまな視点を養うことができたのではないか、と。それは現場で活動する際に、今でも私自身の大きな強みになっていると感じています。

<次回へ続く>


まつもと・めぐみ

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

関連記事