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2020.08.01
連載
スポーツニュートリショニストも選手とともに 現場で戦う存在でありたい③【スポーツ栄養の果たす役割 #04】 
松本 恵(日本大学文理学部教授、公認スポーツ栄養士)
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前回の締めくくりにおいて、「食事・栄養というのは、選手にとって最後の切り札であり、いわゆる‟伝家の宝刀”といえるものなのかもしれませんね」と述べました。今回は、私がそう思う理由について、もう少し具体的にお話ししてみたいと思います。

アスリートにはとかくスランプといった不調がつきものです。スランプとは、一時的もしくは長期的に調子を崩してしまい、普段通りの実力が発揮できない状態を指し、残念ながら周期的に訪れるというケースも少なくありません。「スランプ=悩み」と置き換えてもいいかもしれません。記録が伸びない、なにをやってもうまくいかない、ケガが絶えない、何度も疲労骨折をしてしまう…など、まさに人それぞれに悩みを抱えているものです。

悩みの数だけ、スランプにもさまざまな要因が考えられますが、私はそのバロメーターの一つとして、食事・栄養の成否にこそ大きな比重が委ねられているのではないか、と考えています。一方で、だからこそスランプを克服するための打開策も食事・栄養の成否にかかっているのではないか、と思うのです。

実際、前述のような悩みを抱えている選手の場合、自問自答を繰り返し悩み抜いた末に、食事を見直すべきではないのではないか、と私のところに相談にやってくる選手が少なくありません。

あるいは、「なんとなくしっくりこないのだけれど…」と言って相談にやってくる選手もいます。「なんとなく」という違和感は、トップアスリートほど、生理的にも心理的にも敏感にその変化をキャッチするものです。そして、そういう選手に対しては、私たちはまず貧血(鉄栄養状態の不良)を疑うことが多いことも述べておきたいと思います。ちなみに、軽度の貧血は一般的な健康診断ではなかなか見つけることができないのですが、選手にとっては軽度であってもパフォーマンスを低下させるやっかいな症状です。食生活の偏りや疲労感などから、それを疑うことが多いのが特徴といえるでしょう。

そういう意味でいうと、私たちは貧血のほかにも、代謝系疾患や大腸の病気などを疑い、専門の病院を紹介することも実は少なくありません。選手本人は、「なんとなく食欲がない」「下痢が続いている」「疲れがとれない」「食べても太らない」など、病院に行くほどではないけれども、食に関わる不調を相談にやってくるのです。そして、よくよく話を聞いてみると、これは専門の医師の診断と治療が必要だな、と。

食事・栄養を見直すことが選手にとって不調の原因を見つけ、スランプから抜け出すきっかけに成り得ることがあり、いわゆる‟伝家の宝刀”といえるものかもしれないと言ったわけには、そういう理由があったからなのです。

<次回へ続く>


まつもと・めぐみ

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

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