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2020.06.03
海外情報
ムキムキマッチョよりもお父さんのお腹【米国のスポーツニュートリション事情 #02 ~後編~】 
Kiyohiro Shimano
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後列右から2番目がイェーガー博士

米国の食品・サプリメントのトレンドは、5~10年の期間を経て日本に上陸するといわれている。米国のトレンドや動きをいち早くキャッチすることは、日常的にスポーツをする人にとって生活面やパフォーマンスアップ、コンディショニングにも大いに役立ってくる。

今回は国際スポーツ栄養学会(ISSN)特別会員でIncrenovo社代表のラルフ・イェーガー博士に最新の米国のトレンドを聞いた。後編では、スポーツへの向き合い方やスポーツニュートリションの考え方の変化、若い世代で人気が爆発しているeスポーツとニュートリションの関連性などを解説する。

「6パック」はもういらない!? 

スポーツ分野では、人々の求める物が変わってきています。一言で「スポーツ」といっても、競技スポーツの高いレベルで活躍する人、健康意識が高く自発的に運動をする人、ライトに体を動かす人など層がいくつかに分かれており、範囲が非常に広くなっています。それぞれの生活スタイルや食の志向なども踏まえて考えていく時代に変わってきました。

その中で、「ボディポジティビティ」という考えが生まれ始めています。「自分の体にもっとポジティブになろう」といった意味で、できることを自分のペースでやるといったものです。

以前は、特に男性にみられた傾向ですが、ジムに行ってマッチョな体に鍛え上げる人が多く、その考えが好まれていました。しかし現在では、一般の人がそこまで体を鍛え上げるにはやはりハードルが高く、敬遠されるようになってきました。Googleのワード検索数を調査したところ、マッチョな体の代表的なワード「6パック」を検索する人は年々減少傾向にあることがわかっています。

その代わりに「Dad Bod(ダッドボッド=お父さんの体)」という言葉が注目されています。「お腹が出ていてもいいじゃない、無理せず健康的に体を動かしていれば」という意味で、消費者のニーズが完全に変わっています。

「ボディポジティビィ」「Dad Bod」の考え方から、商品パッケージの見せ方も変わってきています。以前であれば、6パックを全面に押し出したパッケージ、広告などが販売数につながっていましたが、現在ではネガティブに捉える消費者が増えてきているため、受けなくなっているのです。加えて、6パックを助長するような流れは、SNSなどでも批判の対象になることもあります。

一方で、女性の志向にも変化が出てきています。5、6年前までは、ダイエット目的でライトに体を動かす人が多かったのですが、最近では体の強さを求めてハードなトレーニングを積む人が増えてきました。

そのため、女性もより効果の高い食品・サプリメントを摂取するようになってきました。男女のスポーツ・運動への意識、強度が逆転し、女性の方がよりストイックに体を鍛え上げるようになっています。

欧州の調査会社によると、スポーツニュートリション系女性商品の割合は市場の6%で、その大半がダイエット目的の物でした。しかし、現在では、男女が同じ物を摂取する傾向になっており、女性向けのスポーツニュートリション商品は減少していっています。男女で商品を差別化した戦略が、米国ではそれほどうまくいかなかったという背景もあります。

ジェネレーションZに圧倒的な支持を受けるeスポーツ

マーケティングの面でもここ5年間で大幅に変わってきました。今米国の多くの企業の注目を浴びているのが、ジェネレーションZといわれる10~20歳代。生まれた時からデジタルが身近な彼らはSNS(YouTube、Instagram、Tiktokなど)を活用して情報発信し、それらを使って情報を得ています。自ら発信できるメディアが出現したことで、戦略の転換を強いられています。

この世代に圧倒的な人気を誇るのがeスポーツ。競技スポーツも依然人気が高いですが、それを上回る支持を獲得しつつあります。毎年2月には全米で最も人気のあるNFL(アメリカンフットボール)の王者決定戦「スーパーボウル」が開催されていますが、同時期に行われたeスポーツの大会のビューがそれを上回ったようです。

eスポーツは、競技スポーツに求められるフィジカル面の強化よりも、メンタル面の強化が重要になってくるため、「注意力や集中力を高める」、「脳を覚醒させる」、「興奮させる」などといった“効果”が求められます。

スポーツニュートリションの市場でも、eスポーツは競技スポーツと同列に扱われつつあります。店舗でもネット販売でも、運動前、中、後と摂取タイミングのサプリメント陳列棚が分かれていますが、eスポーツの人気が爆発したことで、「メンタルのプレワークアウト」というジャンルが生まれました。

eスポーツの人気拡大により、スポーツニュートリションの概念がより広くなり、ターゲットの若年齢化ととともに、マーケティング戦略を合わせていくといった流れがここ数年で確立されていくでしょう。

実に45%の商品がNO添加物!

米国では今、食品やサプリメントの製造・開発に関する変革が進んでいます。その代表的な例が「クリーンラベル」。これは、食品原料など商品ラベルに記載する表示をいかに少なくするかといった取り組みです。

食品やサプリメントのメーカーはこうした世間の流れに乗って、大きく舵を切っているようです。それにより、甘味料や保存料などの食品添加物の使用を最低限、もしくはカットする傾向が進み、“添加物フリー”の商品は実に市場全体の45%に上っています。

また、「ナチュラル」もキーワードになります。例えば、甘みをつける場合、人工甘味料を使用するのではなく、ハチミツ、羅漢果といった自然な物を使うようになっています。ナチュラル志向を全面に押し出したマーケティングも目立ってきています。

食品添加物の使用は、今後購買層の中心になってくるジェネレーションZには全く受け入れられないので、今後もこの流れは強くなると予想しています。

スポーツニュートリションのパーソナライズ化

米国人のサプリメント摂取状況は約75%で、スポーツニュートリションの市場は年々約9%ずつ拡大しています。プラントベースがリベラルな若い世代に受け入れられていることもあり、今後市場が大きく変わるものと思われます。

スポーツ分野ではやはりプロテインが圧倒的な人気です。そのほかでいえば、脂肪燃焼系、テストステロンブースター(男性ホルモンの分泌促進)、電解質系の水分補給、クレアチン、ケトジェニック(良質な脂質の摂取)などが商品売り上げのトップ20を占めています。また、スポーツニュートリションの中でも、持久系、瞬発系、摂取タイミングなど、さらに細分化されていきます。

選手やスポーツ愛好家を取り巻く環境も科学分野との融合により進んでいきそうです。スポーツジムなどのトレーニング施設で血液検査や遺伝子検査が導入され、例えば、カフェインに応答しにくい人やビタミンDが欠乏している人、腸内細菌叢の測定など、各個人の体質と食情報の関連をわかりやすく把握できるようになっていきます。

昔と比べて個々の生活が複雑化している中で、こうした科学的に得られた知見を用いて、体重を増やしたい人、維持したい人、健康を保ちたい人といった、さまざまなニーズに応えられるようなニュートリションのパーソナライズ化が一層進んでいくでしょう。

日本は独自の市場が形成されるので、先に触れた流れがすべて当てはまるわけではありません。ただ、欧米の流行を発端に全世界へ波及している近年の傾向から考えると、日本にも少なからず同様の流れが生まれる可能性があります。

<完>

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