ここが変だぞ! 日本のスポーツニュートリション ~前編~【Dr.Aoyagiのスポーツニュートリションをぶった斬る! #01】

はじめに

僕は今まで海外生活が長く、臨床栄養や栄養剤ビジネス、商品開発に携わり、日本に帰国後、スポーツニュートリションの世界に身を投じました。それで、スポーツが盛んな欧米を見てきた中で、日本では「ん?」と思うことが数多くあり、欧米と同様のことができない、もしくは、制度や仕組み自体を変えなければ前進しないだろうなと思って日々を過ごしています。

この連載で訴えていきたいのは、グローバルスタンダード。つまり、日本のスポーツニュートリションも世界標準に立って物事を進めていかなければならないということ。現状をみると、海外とはだいぶ差があります。しかし、差があるからと嘆いているばかりでは何も始まりません。

僕のキャラクター的に(笑)、耳の痛い話、際どい話が多くなるかもしれませんが、栄養学博士、企業人として日本のスポーツニュートリションに関する問題提起、海外の最新情報、海外で注目されているサプリメント原料など、さまざまな角度からぶった斬っていきたいと思います。

「栄養」がプライオリティになっていない日本

外国と日本の決定的な差として、まず感じることは「栄養への理解度」ですね。これは、プロをはじめとするすべてのスポーツチーム、指導者、選手を含めていえることだと思います。知り合いのスポーツニュートリショニストによると、チームに所属して指導・サポートができたとしても、予算編成の都合で真っ先にお役御免になるのが栄養関係者だそうです。僕の目からすると、この流れはとてもおかしく見えます。

そもそも栄養は生きる上での基本。それをおろそかにすることでどれだけ損をするかは想像がつくと思います。スポーツをする上でもそこは変わらないどころか、パフォーマンスを上げられることができる一手が栄養であって重要度を高くすべきなのに、日本ではなぜか置き去りになってしまっている。一方、海外では栄養を戦略的に考えるのが当たり前で、優先順位はとても高いのです。

ですから、戦略的な栄養介入を考える上でニュートリショニストの介入は不可欠になってきますし、海外ではトレーナーやドクターと同等に捉えられているのです。指導者が持つ知識だけでチームをマネジメントするのにも限界がありますから、栄養の専門家の介入によるチーム強化はごくごく自然の流れになってきます。

日本がグローバルスタンダードに向かうためには、「指導者が栄養の重要性を理解する」。これが今、日本のスポーツ界で必要なのではないかと考えています。僕もことあるごとに指導者のみなさんへ訴えていますが、理解してくれる方もいれば、そうでない方もいる。それぞれですね。

傾向として、スポーツ栄養学に理解のない、知らない世代の監督・コーチに教育されて選手時代を過ごした指導者は、なかなか受け入れにくいのかなといった印象です。でも、それだとチームは強くならないし、日々進化を続けるスポーツニュートリションを取り入れていかなければ、ますます世界に後れをとることになります。

僕に近い人の話として、こんなことがありました。あるチームの監督が交代することになって、挨拶がてら「チームの強化策には栄養戦略が不可欠」と説いたそうです。その監督は栄養の知識が全くなかったものの、すぐに理解を示してくれた。即刻、ニュートリショニストによる栄養講習会を行って、チーム強化に栄養を組み込んだのです。そのチームは、時間がかかったものの、好結果を上げるに至っています。もちろん、監督の指導力の賜物かもしれませんが、好成績の裏に栄養が果たした役割は決して小さくなかったと考えていますし、指導者が栄養を受け入れたことで好転したモデルケースともいえます。

グローバルスタンダードを日本に根付かせるために、指導者の意識改革と栄養への理解。これは、スポーツ文化の成熟、発展に欠かせないものではないでしょうか。

「食事」と「栄養摂取」の違いを理解すべき

食事と栄養摂取。何となく言葉は似ていますが、意味合いが全く違います。特に日本では、「まず食事が大事」という考えがあって、大半の関係者はそのように考えていると思います。

食事は嗜好や環境も踏まえて考える一方で、栄養摂取はAという成分を必要量摂取するとこれだけ体が変化する、パフォーマンスが向上するといったシンプルにサイエンスベースで物事を考えます。大まかに分けましたが、日本では後者の意識が圧倒的に足りないと感じます。

栄養摂取の概念から考えていけば、食事だけではどうしても足りない物が出てきて、特にスポーツ選手は活動量・エネルギー消費が多く、摂取したい栄養素もたくさんあって、それらを食事だけで補おうとすると当然無理が出てきます。

ですから、足りないところをサプリメントで補って、無理なく効率的に栄養を摂取する考えが必要になってきます。僕がサプリのメーカーに所属していることとは別として(笑)、こうした考えがグローバルスタンダードといっていいでしょう。

「エルゴジェニックエイド(競技力を向上させるサプリメント)」という言葉がありますが、日本ではほとんど使われていません。やはり、食事>栄養摂取の考えが根強いことに起因します。栄養素でパフォーマンスを上げたり、コンディショニング、つまりマイナスから0以上に引き上げたりする考え方の理解が足りていないのではないかと考えています。この一線を超えるのがドーピングなんですが、その知識はスポーツファーマシストが詳しいですね。

米国でエルゴジェニックエイドの代表格ともいえるクレアチンは、ある調査によれば大学生スポーツ選手の3割が摂取しているようです。ところが、日本ではあまり知名度がありません。スポーツ分野でのベースサプリとして認識されている物を有効活用できていないということになります。

クレアチンは、「脳震とうのダメージ軽減」「脳機能の改善」など、スポーツ分野にとどまらず、各方面での研究が進んでエビデンスも続々と出てきています。健康にも寄与するクレアチンの情報が広く知れ渡っていないのはもったいないですね。カフェインも米国ではエルゴジェニックエイドとして使用されていますが、日本ではカフェインを積極的に摂取するという話があまり出てきません。

さらにいえば、サプリメントの成分や期待される効果を理解し、選手に正しく伝えるのがニュートリショニストに求められる技量の一つと考えています。そのためにも、ニュートリショニストもサイエンスベースの栄養摂取という考えを持たないと選手にアドバイスはできません。ですから、食事、栄養摂取を分けて考えたり、片方のみを考えるのではなく、ニュートリションの観点から双方を合わせて考えていくことが、今後専門家にも求められる素養になると思います。

僕が提言していることは理想ではありますが、日本が目指してもいいと思っています。それにしても、決してサプリメントを上手に使えていない中で、日本のスポーツ選手はすごく健闘していると思います。食事も含めた栄養戦略、サプリメントの有効活用をすれば、日本人はもっと強くなっていきますよ。

<次回へ続く>


青柳清治 / Seiji Aoyagi, PhD

栄養学博士、(株)DNS 執行役員

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年に日本へ帰国後、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

現場で役立つスポーツ栄養学の知識③【スポーツ栄養の果たす役割 #12】

日のトータルで栄養バランスを考える

例えば、フィットネスインストラクターの方々のような不規則な生活を強いられながら、かつ一定以上の運動量を求められる生活環境に対応するためにはどうすればいいのでしょうか?

私たち公認スポーツ栄養士がスポーツ選手のサポートを実施する場合、大会運営や日程、あるいは試合の進行状況、天候や開催時期などに応じたサポート活動を行っていきますが、その方法がそういった方々の食事対策に通じるヒントにもなると考えます。

例えば、1~2時間おきに試合があったりするケース。これをレッスンに置き換えてみましょう。仮に、次のレッスンまで約2時間空くのであれば、固形物であれば問題ないので、小さなおにぎりやバナナを食べたりする。あるいは、最近ではさまざまなスポーツフードやゼリー飲料などのラインナップも豊富で、なおかつその内容も糖質だけでなく、たんぱく質や脂質が含まれている商品など、バリエーションには事欠きません。

したがって、それぞれの状況に応じて、時間のないときには食事の代わりにするなどし、朝もしくは夜、時間のあるときにたんぱく質や野菜をしっかり食べるという方法でもよいでしょう。つまり、1回の食事で無理してバランスをとろうとは思わなくてもよいということ。1日トータルで考えてみるのです。すると、少し肩の荷が下りた気になりませんか?

昼食に時間がとれないとき、あるいはレッスンの合間などには糖質を中心に。糖質は、エネルギーとして必要である一方、消化・吸収には負担がかかりにくい。そこで、隙間時間におにぎりやカステラなど、油脂分の少ないものをちょっとずつ食べてエネルギーを補給しておくのです。

そして、レッスン終了後やトレーニング終了後には成長ホルモンの分泌が高くなるので、たんぱく質と糖質を速やかに摂る。同時に摂ることで、筋タンパクの合成を高めることが期待できます。その際には、プロテインに限らなくても、魚肉ソーセージや今流行りのサラダチキンでもいいし、牛乳・乳製品でもよいでしょう。そして、家に帰ったら、サラダと果物を食べて就寝するという具合です。

たんぱく質は消化・吸収に時間がかかるので、夜遅く食べると、翌日まで胃腸の疲れがとれないこともあります。また、レッスンの合間に摂ると胃腸に血が集まって身体が重く感じるようになり、その結果、レッスンが辛くなってしまうことがあるかもしれません。したがって、たんぱく質は全プログラム終了後に摂るよう心がけましょう。

以上をまとめてみると、糖質と水分はこまめに摂り続け、たんぱく質はレッスン終了後速やかに。そして、野菜と果物は朝、もしくは夜などゆっくり食べられるときにしっかりと食べて寝れば、胃腸に疲れを残さずに、1日バランスよく食べられたということになります。

日間で帳尻合わせ

1日で帳尻を合わせるのが難しい場合には、もう少し余裕をもたせてもいいかもしれません。特に油脂系の栄養素(脂溶性ビタミン:ビタミンA、D、E、Kなど)であれば、3日間で帳尻を合わせてもよいと思います。

例えば、脂質に溶けやすい緑の濃い緑黄色野菜であれば、身体に蓄積する時間も長い。したがって、「今日の食事には緑黄色野菜が入っていなかったので、明日は必ず食べよう」でもいいのです。

ただし、果物や色の薄いキャベツ、レタスなどの野菜に入っている食物繊維やビタミンC(水溶性ビタミン)は蓄積できないので、できるだけ毎日食べるよう心がけたいものです。

このように、3日間で帳尻を合わせるように心がけ、さらにトータル1週間で考えたとき、今週はうまく食べることができたという、少し長い目で見た捉え方であれば、たとえ思い通りにいかなかった日が1日、2日あっても、ストレスがかかることなく実践できるのではないでしょうか。ただし、それ以上で合わせようとするのはNG。なぜなら、ヒトの身体は約2週間バランスの悪い食事が続いてしまうと、代謝が変化して太ったり、痩せたりしてしまうからです。

言い換えれば、悪い習慣は1週間のうちに修正したほうがいいということであり、さらにいえば、身体を絞っていこうと思ったら、2週間以上続けなければ効果は期待できず、すぐにリバウンドしてしまうというわけです。

逆に、1週間程度で痩せたといっているのは、ぬか喜びに過ぎず、決して代謝が変わってきて痩せているわけではなく、実はほとんど脱水によるものだということ。要は、単にスポンジをキュッと絞ったら、水分が溢れ出たというだけの状態なのです。

また、バランスを考慮するという意味では、PFCバランスも重要です。一般的な比率としては、たんぱく質(P)約20%以下、脂質(F)20~30%、炭水化物(C)50~70%。ちなみに、現在一般の人たちが行っている糖質制限の場合、その多くがこのバランスを崩すことから入っています。

しかしながら、公認スポーツ栄養士がスポーツ選手と対峙しながら行う栄養指導では、この考え方は否。したがって、減量を主体とした体重コントロールを行う場合には、PFCバランスは保ったまま、カロリー全体をスケールダウンさせていくことがポイントとなることも付け加えておきます。

<次回に続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

現場で役立つスポーツ栄養学の知識②【スポーツ栄養の果たす役割 #11】

「野菜は必須!」 という基本

食事・栄養の基礎・基本は何かと、改めて問われれば――。またそれか、と思われるかもしれませんが、やはり『野菜を中心とした食事をバランスよく!』。これに尽きるといえるでしょう。

なぜ、野菜が中心かといえば、食物繊維やビタミン・ミネラルを豊富に含んでおり、かぜやケガの予防はもちろん、メタボリックシンドロームの予防、あるいは貧血や熱中症の予防にもなるからです。

また、ビタミンCを多く含む食品は、体内に蓄積できないので、日々の摂取を欠かすことはできないという理由もあります。つまり、ヒトの身体が健やかに機能するという意味では、「野菜を中心に!」というのはすべての人に共通した大前提になるというわけです。

ちなみに、USOC(United States Olympic Committee=アメリカオリンピック委員会)のアスリートレストラン(https://www.teamusa.org/nutrition)においても、通常のトレーニング時においては野菜をワンディッシュのうち半分とるようにと指導されています(トレーニングの多い日と試合の日においてもお皿の4分の1程度)。

つまり、外国人選手は肉ばかり食べているから強いなんていうのは、もはや時代遅れのナンセンス以外のなにものでもない。こういったことも正しい情報として認識しておきたいものです。

したがって、指導者や運動実践者の方々であればなおさらのこと、まずは『野菜は必須!』というルールを基本として、そのうえで目的や生活(仕事)環境に応じてさまざまなバリエーションを活用したり、あるいはアレンジを加えるという、まずは健康第一の本来の考え方に切り替えるべきではないかと思います。

飛び道具”を活用するタイミング

例えば、指導者の中でも一日に何本もレッスンを抱えるフィットネスインストラクターの方々の場合、その運動消費量はアスリートに勝るとも劣らないといえるでしょう。ましてや、どの時間帯であっても質の高いレッスンを提供するためには、欠食なく規則正しく食べることが絶対条件となります。ところが、言うは易く行うは難し。おそらく規則正しくとは真逆の不規則な仕事環境を強いられることによって、その条件は十分に満たされていないのが現状ではないでしょうか。

私が教えていた卒業生の中には、インストラクターとなって活躍している教え子も少なくないのですが、その教え子たちが社会人になってから一様に痩せていくのです。これは、明らかに運動による消費エネルギーに見合った摂取エネルギーがとれていない証しといえるでしょう。レッスン過多になると、疲労の影響で食欲もなくなり、次第に痩せていくという悪循環に陥ってしまっているのです。

アメリカスポーツ医学会では、こういった状況をアスリート特有の問題であるlow energy availability(利用可能エネルギー不足)と定義し、警鐘を鳴らしています。こうしたエネルギー不足は、女性の場合、月経周期異常や生涯にわたる骨粗しょう症のリスクを高める可能性を秘めており、女性アスリートの三主徴(Female Athlete Treard)として注意喚起されています。

こういうとき、「それでも基本通りに食べなさい」と正論を振りかざしても、問題はなかなか解決するものではありません。むしろ、それはさらなるストレスとなってしまうものです。したがって、こういったケースでは、いや、こういうケースだからこそ、前回述べた‟飛び道具”を緊急避難的に活用すべきではないかと考えます。

例えば、私は、そんな彼女たちに対して「1日1つ、バニラアイスを食べてから寝るように」といったアドバイスをすることがあります。なぜなら、それくらいしなければエネルギーが全く足りていないからです。心身ともに疲弊しているときには、胃腸も弱ってしまっています。いわゆる、これはたくさん食べるよりも高カロリーの食品を少量食べるという考え方です。というのも、食べたものを消化するには、それだけでもエネルギーが必要だから。つまり、疲弊しているときは、たくさん食べなさいといっても、それを消化するエネルギーさえないときもあるというわけで、その究極の状態が点滴といえるでしょう。

ただし、これはあくまでもケガをしたときの‟応急処置”と同じ。したがって、現在の自分に最も適した食べ方を模索し、食事・栄養面からもコンディションを整える術をいち早く身につけることが重要であることはいうまでもありません。

<次回へ続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

現場で役立つスポーツ栄養学の知識①【スポーツ栄養の果たす役割 #10】

栄養の飛び道具”には要注意!

昨今、TVや雑誌などのマスメディアで健康や美容、あるいはダイエットなどに関する情報が、いわゆる最新メソッドとしてキャッチーなコピーで紹介されると、一躍脚光を浴び、これこそが唯一無二といったほどにもてはやされる傾向があります。そういった場面に出会うたびに感じるのは、「おそらく間違ってはいないのだろうけれども、少々エキセントリックに過ぎるのではないか」ということです。

一方で、スポーツやフィットネスに携わる指導者の方々が、クライアントである運動実践者の方々から栄養アドバイスを求められるという話も時々見聞きします。たとえ、公認スポーツ栄養士等の資格はもっていなくても、身体づくりのスペシャリストであるという意味では、そうした要望にも応えるのが指導者の役割といえるでしょう。

そしておそらく、そういった場合には、それぞれの学びや経験、あるいは入手した情報などから回答を導き出しているのだと思いますが、時々「運動の指導を受けている先生からこういう栄養のアドバイスを受けたのですが、本当にこの方法でいいのでしょうか?」と、念のためにと、私たちスポーツ栄養学の専門家に確認されることがあります。そこで、よくよくその方法について尋ねてみると、実は今、流行りの〇〇メソッドだったということも少なくないのです。

特に最近では、例えば増量や筋肥大を求めるなかで、たんぱく質の摂取量においてちょっと過剰ではないかと思う方法だったり、あるいは糖質制限を間違った方向性で活用してみたりというケースが少なくないのではないかと感じています。そして、それらの発信元が運動指導者の方々からだったりすることが実際にあったりするのです。

確かに、それらは1つの‟飛び道具”や‟奇策”として活用する分においては間違っていない部分もあるでしょう。しかしながら、それは何よりもまず、栄養の基本がしっかり身についているうえで、さらにプラスαとしてというのであれば、通用することもあると思いますが、飛び道具はやはり飛び道具でしかないもの。したがって、もしそれがベースとなってしまうと、かえってコンディションを崩したり、あるいはケガに結びつく要因になったりするのではないかという心配があるのです。

食事はトレーニング不要 !?

一方、スポーツという世界においては、日本記録や世界記録がアスリートたちの努力によって今なお更新され続けています。それを可能にしているのは、むしろ最新メソッドを積極的に取り入れることによって、既存の理論を打ち破っていこうとするチャレンジがあるからこそでしょう。スポーツの世界では特にそういった姿勢が顕著であるといえるかもしれません。しかし、それを可能にさせるのは、彼ら・彼女たちの場合、やはり心技体において基礎・基本がしっかりと確立されているからこそ、なのです。

ところが、トレーニングにおいては、そういった基礎・基本の重要性については誰もが承知しているのですが、こと食事や栄養に関する取り組みには、前述のようにいきなり極端から極端に流れてしまう傾向が強く、本来の基本が抜け落ちてしまっているケースが少なくないのではないかという気がしています。そういう意味では、一般の人が突然、トップアスリートが実践しているトレーニングを始めているような印象を受けるのです。

例えば、体操のトップアスリートのウルトラHとかI難度の技などは、とても人間業ではないということは誰もが理解しています。それは一朝一夕にできるほど生易しいものではありません。不断の努力があったればこその高い技術である、と。

ところが、そういった選手が取り入れている食事法というのは情報を入手して真似しようと思えば、誰もがその日のうちに実践できてしまうもの。すなわち、食事というのはそれだけハードルが低いと思われがちということでしょう。

しかしながら、公認スポーツ栄養士の立場からいえば、トップアスリートというのは身体も鍛えているけれども、実は消化・吸収など食べ方も鍛えられており、トレーニングと同様、基礎・基本ができているからこそのプラスαであることを理解しておかねければなりません(そういう意味では、胃腸が強いこともトップアスリートたる条件の1つといえるでしょう)

例えば、身体を大きくする、いわゆる増量のために頻回食を実践しているというトップアスリートの事例が紹介されれば、なるほど1日に5~6回食べればいいのか、と納得し感心する。これなら自分も簡単にできそうだ、と。人によって、胃が小さい人の場合には頻回食を勧めるケースもありますが、本来は朝昼夕、それぞれ1回の食事で必要十分量しっかりと食べることができるのであれば、食後、胃腸も休まるのでむしろそのほうがいいのです。

<次回へ続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

高齢者に対して心がけておきたい栄養指導のポイント【スポーツ栄養の果たす役割 #09】

高齢者への栄養指導に対する需要の高まり

総務省統計局が「敬老の日(9月21日)」に合わせて発表した報告書によると、最新の統計値として日本の高齢者(65歳以上)数は3617万人(2020年9月15日現在)で、これは総人口比の28.7%にあたります。前年の3587万人、28.4%からさらに増加し、数・総人口比ともに過去最高の値を示しています。

こうした時代背景を物語るように、健康維持・介護予防の一環としてスポーツやフィットネスに取り組むもうとする高齢者は今後、ますます増加していくことが予測されます。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、第2次ベビーブーム(昭和46~49年)が65歳以上になる平成52(2040)年には総人口の35.3%が高齢者になる見通しになることから、運動指導に携わる健康運動指導士をはじめ、トレーニング指導者やアスレティックトレーナーの方々の役割は、さらに重要度が増していくのではないでしょうか。

ただし、高齢者指導においては特に筋力や身体機能の低下、あるいは免疫力の低下などのリスク、加えてさまざまな既往歴を抱えていることを忘れてはなりません。健康のために取り組んでいる運動が、かえってそれを害してしまうようなことがあっては、それこそ本末転倒です。もちろんそれは、運動と密接に関連する食事・栄養面からのアプローチに関しても同様といえるでしょう。

優先順位の一番目は水分補給

では、公認スポーツ栄養士として、運動を実践する高齢者の方々にアドバイスするとしたら、どういったことがあるかといえば、まずは一番心配なところから…というわけで、私は水分補給を第一に挙げたいと思います。それが適切にとれているかどうか、と確認すること。

例えば、午前中にフィットネスクラブで運動をする場合、運動中・運動後の水分補給はもちろんですが、実は朝ごはんの際にスープ、もしくは味噌汁など、汁気のあるものをしっかり飲んでおくことも大事であるということなどです。いわゆる、運動をする日は、脱水症状に対するリスクマネジメントとして、朝ごはんでは汁物を必ずとっておくこと。高齢者の指導においては、こうした栄養指導をしておくことが大きなポイントといえるでしょう。まさに念には念を! です。

また、朝ごはんに関していえば、「今朝はコーヒーしか飲んでない」という方も少なくありません。特に男性の場合には、前日にお酒を飲んだりしたときなど、「あまりお腹が空かないから」と欠食状態のまま、運動に出かける方もいらっしゃるのではないでしょうか。運動中に低血糖で倒れてしまっては元も子もありません。したがって、「朝ごはんは必ず食べてきてください」とアドバイスすることも大切です。もちろん、その際にはバランスよく食べればより“ベター”であることはいうまでもありません。納豆や卵などのタンパク質食品に加え、果物や乳製品などもとれたら申し分ないでしょう。

ここまで述べたことは、何も高齢者の方々に限ったことではありません。すべての運動実践者に共通する課題であることもぜひ心得ておいて、クライアントの方々に対するアドバイスとして生かしていただければと思います。

朝食と昼食を思い出してみよう

そこで、活用していただきたいのが、の『朝食と昼食を思い出してみましょう』です。今朝の食事もしくはお昼の食事内容を細かく書き込んでいくのですが、これなら管理栄養士でなくても、基本的なアドバイスはできるはずです。

もし仮に、「あれっ、今日はコーヒーだけですか?」「今日はおにぎりだけですね」という結果だったら、何が足りないかが一目瞭然となるわけですからね。空欄が多ければ、自己反省の材料にもなり、「次回は必ず」というモチベーションにもつながっていくのではないかと考えています。

もちろん、このチェック表は運動指導者の方々ご自身の現状把握として活用していただいても結構です。指導的立場にあるご自身に、もし欠食があったりしてはクライアントへの説得力を欠くことになってしまいますからね。‟体が資本”はすべての人たちにいえること。だからこそ、その原動力となる食事はできるだけバランスよく、さらに運動量に応じて必要量をとっておきたいものです。

<次回へ続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。