歯が白くなれば、ホワイトニング?

歯の美白について関心のある人は少なくないと思います。スポーツで日焼けした肌に輝くような白い歯はとてもよく似合いますし、白い歯は健康的なイメージの象徴で顔の見た目にも好印象を与えてくれます。

その一方で、必ずしも「歯を白くすること=ホワイトニング」とは限らないことをご存じでしょうか?

広義では「歯の色を白くする処置全般」を指し、例えば、カレーやコーヒーなどの飲食物やタバコなどの嗜好品で歯に付着した茶色い着色(ステイン)を除去して歯面を白くする方法(図1)や、前歯の虫歯治療で歯を削った後に白い樹脂(コンポジットレジン)を充填する方法があります(図2)。

さらに、歯の全体を覆う冠(クラウン)をかぶせる方法(図3)もありますが、いずれも狭義のホワイトニングには該当しません。

すなわち、ホワイトニングとは「歯を削らずに、薬剤の力によって色を白く(漂白=ブリーチ)すること」なのです。

図1 歯の着色(ステイン)
写真:筆者提供
図2 レジン充填法
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図3 冠による補綴(ほてつ)治療
写真:筆者提供

ホワイトニングに関する統計調査

ホワイトニングに対する関心度や、実際に経験した人の割合はどの程度なのでしょうか?

2022年に報告された1万名(18~69歳)を対象にしたアンケート調査では、約70%の方がホワイトニングに関心を示していますが、実際に実行したのは1割程度にしか過ぎませんでした(図4)

図4 ホワイトニングに関する統計

つまり、関心はあるけれども実際に処置を受けるのを迷う人が多いことを表しています。

20~40歳代の若い人を中心に関心が高いですが、ためらう理由として考えられる項目を挙げてみましょう。

手間がかかりそう

ホワイトニングは主に、歯科医院で行う「オフィスホワイトニング」と、自宅で行う「ホームホワイトニング」の2つがあります。

オフィスホワイトニングは歯科医院で専用機器を用いて行うため、効率的かつ短時間で済みますが、価格が高めの傾向があります。

一方、ホームホワイトニングは自分のペースで自由な時間で行え、価格も比較的安価ですが、効果に時間がかかるデメリットもあります。歯を漂白する薬液をためるためのマウスピースを作製し、就寝時などに装着して自分自身で漂白を行います(図5)

いずれもシェードガイドという色見本を用いて歯の色調の現状と目標を歯科スタッフと確認し、同意の上で処置を進めます(図5)

図5 ホワイトニングセットの例
写真:筆者提供

どちらを選ぶかは、目標とする白さに到達するまで長く続けて実施するためにも、ライフスタイルなどに合わせて無理のない方法にすることが大切です。

値段が高そう

ホワイトニングは基本的に、健康保険が適用されない自費診療になりますので、価格は歯科医院によって異なります。1本の歯だけに限定するような場合は約2000円から可能ですが、目立つ前歯全体や奥歯まで含むような範囲が広いケースでは、約2万~数万円かかるのが一般的です。

ホワイトニングを選ぶか、歯を削って白くするかは悩む点だと思いますが、ホワイトニングは歯を削らない、セラミックの冠(クラウン)をかぶせるより一般的に安価で済む、といった利点がある半面、色の逆戻りや目標とする色にならないこともあるなどの欠点もあります。施術前のカウンセリング時に、歯科医師に十分確認するようにしましょう。

痛そうなイメージがある

ホワイトニングは歯を削らず、麻酔も使用しないため、痛みなどの不快感が少ないといわれています。

しかし、ホワイトニングは、いわば化学薬品の漂白剤で歯を白くしますので、化学的な強い刺激が歯の神経に伝わることがあります。

歯を白くする主要な成分としては、過酸化水素や過酸化尿素などが使われます。

これをクリーニングした歯面に塗布・浸透させて特殊な光を照射したり、薬剤を一定時間放置したりすると、化学反応が起きます。その結果、エナメル質内部に含まれている着色の有機成分が分解され、漂白効果を発揮するというメカニズムです。

分解された部分は組織に空隙ができるため温度刺激などが伝わりやすくなるため、水がしみる等の不快症状が出ることもあります。

効果に個人差が大きそう

ホワイトニングの美白効果に影響する因子として、年齢や歯の色調があります。

若年者で色調が暗めの場合は美白効果が高まりますが、年齢が進むとともにその効果は弱まります。

その理由として、加齢に伴って歯質の有機質量が減少することや、ハイドロキシアパタイトの結晶が成長・緊密化して薬剤の浸透が妨げられることなどがあります。

そのため、より美白効果を期待するのであれば、年齢の若い時に開始する方がよいでしょう。

ただし、ホワイトニング剤に含まれる過酸化水素を分解する酵素を持たない、あるいは著しく不足している「無カタラーゼ症」という遺伝性疾患があれば施術により悪影響が出る可能性が高いため、ホワイトニングは不適応です。

歯磨剤でホワイトニングはできるの?

市販されている歯磨剤の多くは、歯の着色を除去しやすくするための研磨剤(無水ケイ酸、炭酸カルシウムなど)を含みます。

また、美白効果が期待できる歯磨剤の主な成分として、ステインを除去して再付着を防ぐポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールや歯の再石灰化を促進して歯の表面の小さな傷を修復したり、歯質を硬くして歯垢や着色が付着するのを防いだりするハイドロキシアパタイトなどがあり、ある程度の効果は期待できるでしょう。

しかし、日本では薬機法という法律で、過酸化水素などの漂白成分を歯磨剤に入れることが禁止されているため、歯磨剤の効果としては、あくまでも「歯の表面の着色を取り除く、着色を付きにくくすること」に限られます。

ホワイトニングで白くなった歯が、白い状態を維持するためには、食生活や歯磨き習慣などにも気を配るようにしましょう。

【参考文献・資料】
株式会社GC:歯のホワイトニングに関する意識調査 (2022)
辻本暁正ほか:ホワイトニングの最新トレンドとエビデンス, 歯界展望(別刷), 135(5),1031-1037 (2020)

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
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