チェルシーFCがサプリ事業に参画、スポーツニュートリション分野で革新的挑戦

イングランド・プレミアリーグ(サッカー)に所属するチェルシーFCが、「Blue Fuel(ブルーフューエル)」ブランドでサプリメント事業に参画することになった。

同ブランドは、チェルシーFCから事業独立したChelsea Digital Ventures (CDV)社で展開されており、プロテインパウダーやプロテインバー、エナジーグミなどアンチ・ドーピング対応の製品ラインアップとなっている。これらの製品は、同クラブ専属ニュートリショニストやコーチ、プレーヤー自身から提供された専門知識や情報などを反映して設計された。

CDV社は「Blue Fuel」の事業展開について、毎月60ユーロ(約7200円)でアプリを活用してのパーソナライズサプリメントサービスの提供を進めており、「Blue Fuelブランドを皮切りに、今後より幅広く健康・スポーツ・ニュートリションをカバーした革新的な事業に挑戦していく」としている。

<チェルシーFC> 本拠地はロンドン。1905年創設。2003年、実業家のロマン・アブラモヴィッチ氏がチームを買収すると、豊富な資金力を背景にチームを強化。欧州チャンピオン1回、リーグ優勝5回とプレミアリーグを代表する強豪に生まれ変わった。2019年度の資産価値は約2730億円を計上。プロスポーツチーム全体で32位、サッカー部門では6位となっている(①レアル・マドリード:スペイン、②バルセロナ:スペイン、③マンチェスター・ユナイテッド:イングランド、④バイエルン・ミュンヘン:ドイツ、⑤マンチェスター・シティ:イングランド)。 ソース:フォーブス

<ニュース分析>

もともと、スポーツとサプリメントは相性のいい関係にあり、プロスポーツチームがサプリ事業に参入する話があっても驚かない。

プロスポーツチームは多くのファンで成り立っており、ビジネスに置き換えれば、ファン→消費者につながる土壌をすでに持っているからだ。加えて、選手の体感、ニュートリショニストの知識、トレーナーの経験など、現場レベルで商品開発に必要な生の情報が手に入る強みもある。アンチ・ドーピング対策への意識も高い。結果、クォリティ、ニーズともに高い商品が生まれる。

これまでは、サプリ・食品メーカーとスポーツチームがコラボして商品開発のようなことが多数行われてきたが、チェルシーのサプリ事業参入は全く新しい試みになる。「自ら利益を生み出す」という攻めの発想は非常に面白い。

翻って、これが日本で可能かといえばかなり難しい。世界に名だたるビッグクラブで資金的に余裕があるからできるといわれればそれまでだが、企業スポンサーの“援助”で成り立っている日本の事業体ではこの発想は生まれにくいだろう。

とはいえ、日本にも先進的な考えをもっているプロチーム(DeNA、楽天など)もある。スポーツ事業の多角化の中で、ぜひともニュートリション分野への参入を果たしてほしい。そうすれば、スポーツニュートリション市場の活性化が図られ、ニュートリショニストの価値が上がり、職域も広がってくるはずだ。

今回はサプリが切り口ではあるが、結局はスポーツビジネスにつながってくる話でもある。スポーツには、選手たちがキラキラ輝いて見える表側と、ビジネスをめぐる裏側の部分がある。双方の視点からスポーツ界を捉えると、いろいろなことがわかってくる。

プラントベースプロテインが急拡大【米国のスポーツニュートリション事情 #02 ~前編~】 

米国の食・サプリメントのトレンドは、5~10年の期間を経て日本に上陸するといわれている。米国のトレンドや動きをいち早くキャッチすることは、日常的にスポーツをする人にとって生活面やパフォーマンスアップ、コンディショニングにも大いに役立ってくる。

今回は国際スポーツ栄養学会(ISSN)特別会員でIncrenovo社代表のラルフ・イェーガー博士に、最新の米国のトレンドを聞いた。前編では、世界中で人気が高いプロテイン市場の変化について解説する。

プラントベース(植物性)プロテインの勢いがすさまじい!

近5年における米国の食品・サプリメント市場で最も大きな変化は、プラントベース(植物性:ピー=エンドウマメ、ライス=米など)プロテインの販売数、知名度が急激に上がってきている点です。

プロテイン市場の割合でみると、依然動物性(ホエイ、カゼインなど)プロテインが60%のシェアを占めているものの、残りの40%がプラントベースになっています。そのうち、プラントベース単体のプロテインが20%、動物性とのミックスが20%と、すさまじい勢いで伸長しており、大きな成長カーブを描いています。

プラントベースプロテインが米国で流行している大きな理由は2つあります。一つは科学的な研究が進み、エビデンスが非常に多く出てきていることが挙げられます。

以前まではエビデンスの少なさから、プラントベースは動物性よりも劣るといった印象がありました。近年、注目度が増すとともに研究が進んでいったことで、健康やスポーツ分野で効果が見込める、または実証されたデータが示されてきました。

もう一つは、社会的な背景です。プラントベースの食品を摂取する世代というのが比較的若い層で、非常にリベラルな思考を持っています。現在行われている大統領選を見てもわかるように、消費者の中心である若い層が政治や環境問題などに高い関心を寄せ、活動にも積極的に参加しています。その流れから、環境に良い食品、食材を好んで選ぶ傾向があります。

プラントベースプロテインは動物性と比較すると、消化・吸収で劣る部分があります。その点を補うため、消化酵素(プロテアーゼ、パパイヤ、キウイなど)を配合して消化・吸収能を高める商品設計がされていました。

しかし、最近ではそのトレンドが変化し、消化・吸収の向上に加えて、腸内環境を整える乳酸菌を配合する商品が多くなってきました。日本だけでなく世界中で乳酸菌の利点や効能は一般に普及しているため、プロテインと乳酸菌を組み合わせた商品の登場はトレンドになっていくと思われます。

また、ヨーロッパの調査会社が米国や日本をはじめとする20か国のプロテイン市場をリサーチした情報によると、日本では19%の商品にプラントベースプロテインが配合、または含まれていて、日本人になじみが深く食経験の長いソイが大半を占めています。

一方、米国では、ピー、ライスを中心に、ヘンプ(麻の実)など多くのプラントベース素材がさまざまな商品に配合されており、消費者のニーズに応えるべくラインアップが多様化し、市場の拡大に拍車をかけていくのではないかと予想しています。

健康的な「プロテイン」のイメージ

米国人の間では、プロテインがスポーツシーンでのリカバリーや筋肉の合成などに役立つといった以上に、「健康に良い食品」といったイメージが浸透しています。サプリメントというより食品として捉えるようになってきました。

商品パッケージに「プロテイン+」「プロテイン配合」などの表記があるだけで、消費者が商品に手を伸ばす傾向がみられます。googleで「プロテイン」という言葉がどのくらい検索されたかを調べたところ、2015年以降、季節差はあるものの、検索数は右肩上がりの状況が続いています。

味の面でも工夫や変化がみられるようになってきました。プロテインの定番といえば、バニラ、ココア、ストロベリーなどがありますが、技術の改良やフレーバー、味の新素材が出現したことによって、バリエーションが増えてきています。

中には、小さいころランチボックスによく入っていた「チョコチップクッキー」味のように、子供のころの記録を呼び起こさせる、情に訴えかける物(味)もラインアップされるようになってきています。

もっとユニークなのが「レインボーキャンディー」味、「ユニコーン」味など、一見どんな味かわからない物も出てくるようになりました。これは、消費者の想像をかき立てて、興味を引くという米国ならではのマーケティング戦略といえます。

<後編に続く>

ニュートリションで日本と世界に橋を架ける 【ニュートリションな人々 #02 ~青柳清治さん④~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画。第2回目は、栄養学博士で株式会社ドーム執行役員(サイエンティフィックオフィサー)の青柳清治さんの半生をお送りする。

長い間欧米の企業で要職を務め、現在は日本のスポーツニュートリション分野の発展に力を尽くし、幅広い活動を行っている。

スポーツニュートリションを身近な存在に

アンチ・ドーピングに関する食品業界への周知活動は一息つき、青柳さんは使ってもらう側への理解を求めることにシフトチェンジしている。アスリートはもちろん、スポーツ業界の専門家や指導者などにアンチ・ドーピングの重要性を訴えるため、日常業務の合間を縫って活動を続ける。

アンチ・ドーピングの周知活動以上に、青柳さんが今最も力を入れているのが、スポーツニュートリショニスト、管理栄養士、スポーツファーマシスト、学生、企業人が月1回集まるすぽべん(スポーツ栄養勉強会)での活動である。

「すぽべん」では、ニュートリションはもちろんのこと、運動生理学、生化学などスポーツを取り巻く学術に関する議論や発表が定期的に行われ、幅広くさまざまな視点からスポーツや運動を掘り下げているのが特長である。

2017年には「すぽべん」のメンバーが中心となり、海外の最新知見を日本語訳したスポーツ栄養ガイドライン「Nutrition and Athletic Performance」を刊行した。海外の最新情報を日本にも導入し、スポーツニュートリションの発展のために日夜研究が進められている。さらに、翌年には国際スポーツ栄養学会のポジションペーパー「ISSN Position Stand: Protein and Exercise」を和訳して世の中に提供している。また、海外のスポーツニュートリション関係者・研究者が一堂に会する、国際スポーツ栄養学会(issn)東京大会「issn Tokyo」の大会長として、準備に奔走している。

「海外の最新情報を届けることはとても大事なこと。そもそもどこから情報を取っていいのかもわからないし、難しいのではないかと思っています。『すぽべん』では、なかなか知り得ない海外のスポーツニュートリション、その周辺情報も積極的に活用しながら、国内の最新知見を組み立てて、情報を発信していきたいと思っています」

青柳さんのこれまでの活動を振り返り、共通しているのが海外の最先端を日本に導入すること。ある意味、海外と日本に橋を架ける役割を担っていたといえる。

これは、海外生活が単に長かったからではなく、研究者やビジネスマンの視点を持って日本を見つめていたからこそ、足りないもの、取り入れなければならないものがわかったのだろう。

現在、日本のスポーツニュートリション分野は、イノベーションが進んでいる。その中で、深い知識と広い視野を持つ青柳さんの存在は欠かせまい。これからの活動に注目したい。

<完>

ニュートリションで日本と世界に橋を架ける 【ニュートリションな人々 #02 ~青柳清治さん③~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画。第2回目は、栄養学博士で株式会社ドーム執行役員(サイエンティフィックオフィサー)の青柳清治さんの半生をお送りする。

長い間欧米の企業で要職を務め、現在は日本のスポーツニュートリション分野の発展に力を尽くし、幅広い活動を行っている。

スポーツニュートリションへの高い関心

臨床栄養分野で長く活躍していた青柳さんがなぜスポーツニュートリション分野に“転身”したのか。話はアボット社在籍時にさかのぼる。

当時アボット社が所有していたニュートリションブランド「EAS」は、「栄養とトレーニングで体の状態を変化させる」という肉体改造プログラム(Body for Life)を展開していた。

スポーツ栄養学と筋トレ、および有酸素運動を融合した3カ月のプログラムで、多くのアメリカ人が実績を出していた。青柳さんも肉体改造をするためにプログラムを実行したところ、劇的に変化したことを実感する。

もともと栄養が体に及ぼす影響を専門に研究していたこともあり、体作りとニュートリションの相関と重要性を即座に理解した。トレーニングの知識を独学で学び、パーソナルトレーナーの資格も取得した。

海外でトレーナーの資格を取得する過程で講座を受ける中、半分がニュートリションの話で、トレーニングとニュートリション、スポーツとニュートリションは切っても切り離せない関係であることがわかった。

「僕の専門分野である臨床栄養と、スポーツニュートリションはとても似ている。例えば、スポーツでいえば、アスリートがパフォーマンスアップのためにトレーニングを積み、プロテインやアミノ酸を摂取して筋力強化、筋肉増量を図る。

一方で、健康に気をつけている人や中高年の方は、フレイルやサルコペニアの予防という観点から毎日の運動に加えて、プロテインやアミノ酸を摂取する。

『筋肉をつけるためのニュートリション』とすれば、競技スポーツも健康も考え方は同じなんですよね。運動をする人が増えている日本でも、食べることが密接な関係を持っていることをもっと知ってほしいですし、その考えは浸透しつつあると思っています」

 アンチ・ドーピング認証システムの是正を目指し…

青柳さんを語る上で欠かせないのは、サプリメント製造にかかわるアンチ・ドーピング分析の必要性を食品業界に植えつけたことだ。

東京五輪の開催決定を機に国内でもアンチ・ドーピングの機運が高まり、ドーピングコントロール下にあるアスリートが口にする物の安全性が問われることになった。

アスリートに商品を提供しているサプリメント・食品メーカーは当然、ドーピング物質の有無に関する分析をして安全性を担保したいが、さまざまな理由があって日本では数年前まで、事実上メーカーがアンチ・ドーピング分析を行うことができなかった。

こうした状況が続いていた中、青柳さんは「高度なアンチ・ドーピング分析・認証を日本でも可能にする」「海外の分析力に長けた機関と連携する」「これまでアンチ・ドーピング分析ができなかったメーカーの受け皿を作る」-この3つのミッションを遂行すべく、水面下で動いた。

国際的なアンチ・ドーピング認証「インフォームドチョイス(IC)」を展開しているイギリスの大手分析機関「LGC」と日本での展開について粘り強く交渉し、2016年秋にICは日本に上陸した。

「最初はLGC社に全く相手にされなくて・・・。連絡しても返答がないという時期もありました。それでも、日本国内のアンチ・ドーピングに関する体制の問題や、東京五輪が迫る中で、LGC社が日本でマーケティングを展開する意義などを説いていくうちにこちらの思いをわかってくれて、ようやく前に進むことができました。

このプロジェクトは、メーカーに所属する僕が訴えるのはもちろんですが、健康食品の規格に熟知しているバイオヘルスリサーチリミテッド社・池田秀子さんの協力は欠かせませんでした。池田さんが持つ専門知識や実績がなければ、ICがこれほど日本に受け入れられなかったでしょう」

余談ではあるが、スポーツニュートリション分野で人気が高まっているHMB※1を日本に持ち込んだのは青柳さんと池田さんである。

当時、海外でHMB含有の臨床栄養製品を製造・販売していたアボット社は日本での展開を目指していた。その担当者が青柳さんだったのだが、食薬区分2の関係でHMB含有製品の日本での販売は認められていなかった。

そこで、青柳さんは食品規格の専門家である池田さんに相談し、HMBを日本国内で展開できるように働きかけ、品質や効果・効能に疑いのなかったことがわかり、僅か2年というスピードでHMBが食品・サプリメントで使用できるようになったのだ。

※1 正式名称「βヒドロキシβメチル酪酸」。期待される効果としては、筋肉の合成・筋疲労の軽減などがある。

※2 日本では食品と薬品で使用できる原料が分けられており、HMBは食品やサプリメントに配合できなかったが、2010年に認可された。

ICを展開するLGC社では、商品にドーピング物質が検出されていないことを証明する分析結果をHP上で開示しており、アスリートは一目で安全性を確認できる。また、もし分析の過程でドーピング物質が検出された場合、メーカー側に伝えて迅速に対応できるよう、極めてオープンな体制をとっている。

ドーピング問題には、コンタミネーション(製造過程での異物混入)や配合原料がそもそも禁止物質で気づかずに使用していたなど複雑なので、機会があるときに説明したい。

こうして出会った2人がタッグを組み、アンチ・ドーピング分析・認証を日本でも可能にしたのだ。近年では、LGC社のアンチ・ドーピング分析プログラムを利用するメーカーが急増しており、その数は2020年2月時点で40社を超える。

国内のスタンダードとなりつつある中で、スポーツサプリメントメーカーの大半は利用しているといっていい。また、グローバルな視点から見ても、名だたるブランドがプログラムを利用していることから信頼性・知名度は高い。

「メーカーが商品のアンチ・ドーピング分析を受けるのは当たり前のことだと思いますよ。もし、サプリメントからドーピング物質が検出されたら、アスリートの人生をめちゃくちゃにしてしまいますから。これまでは分析を受けられる機関がなかったので仕方ありませんでしたが、食品業界ではアンチ・ドーピングの意識が変わってきています。

一番大切なのは、使っていただくアスリートや消費者のみなさん。アンチ・ドーピングの考え方や、食品やサプリメントにICの認証マークがついている意味をよく知ってもらわなければなりません。だから、これからもいろいろな場所で多くの方に会って、地道に説明していきます」

<④に続く>

ニュートリションで日本と世界に橋を架ける 【ニュートリションな人々 #02 ~青柳清治さん②~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画。第2回目は、栄養学博士で株式会社ドーム執行役員(サイエンティフィックオフィサー)の青柳清治さんの半生をお送りする。今回はVol.2。

長い間欧米の企業で要職を務め、現在は日本のスポーツニュートリション分野の発展に力を尽くし、幅広い活動を行っている。

アメリカのノウハウを日本へ導入、世界中を飛び回る日々

青柳さんがアボット・ラボラトリーズで病態別栄養の研究・商品開発を進めていたころ、日本には栄養剤に配合する良質な原料が数多く開発されていた。

原料探索のため、頻繁に帰国するようになり、臨床栄養の専門家とも交流をもつようになった。専門家らと日米の臨床栄養に関する意見交換などをするうちに、NST(ニュートリションサポートチーム)が日本国内に存在していないことに気づく。

NSTは、患者に最良の栄養療法を提供するため、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師などのスペシャリストで構成され、欧米ではNSTが現場でチーム医療を施すことが当たり前だった。

そこで、青柳さんは日本国内の専門家や関係者に最先端の現場を見学してもらい、日本とアメリカの橋渡しをした。この活動を契機に、日本版NST誕生への流れに変わり、現在ではNSTは医療現場で定着している。

日本へ頻繁に行くことが多かったため、1998年に大日本製薬とアボット社の合弁会社「ダイナボット」(現:アボット・ジャパン)の栄養剤関連の総責任者として赴任。10数年ぶりに日本を中心に活動することになった。ここでも日米の違いを発見することになる。自らの専門分野である病態別栄養の研究が日本では行われていなかったのだ。そこで、アメリカで行っていた仕事をそのまま日本にも流用することにした。

また、医師の栄養への理解を深めることを目的に、日本静脈経腸栄養学会と合同で、アボット社が開発した臨床栄養教育プログラム「トータルニュートリションセラピー(TNT)」の国内普及プロジェクトにも携わった。TNTは今でも多くの医師が受講しており、NSTにはTNTを受講した医師が1名常勤する必要になっている。

さらに、「日本人の新身体計測基準値(JARD2001)」の確立にも一役買った。身体計測は患者の栄養状態を知るため(栄養アセスメント)に重要な項目だが、当時は欧米人の指標を使って日本人に当てはめていたため、意味をなさないことが多かった。

日本栄養アセスメント研究会と一緒になって、栄養アセスメントキット(皮脂厚や腕の周囲長を測定する道具)を普及させ、さらに年齢、男女別など日本人の体格の基準を事細かく決めていった。

「アメリカと日本ではやはりいろいろな違いがあって、特に優れたプログラムだったTNTとJARD2001の普及活動は当時力を入れていて、日本の臨床栄養分野の発展に少なからず貢献できたのではないかと思っています。自分でも誇らしい仕事をしたと胸を張れます」

海外の最先端ノウハウを日本へ“輸出”する役目をいったん終え、アメリカに戻った青柳さんは世界を舞台に栄養剤ビジネスを展開する要職に就いた。もちろん、力を注いできたTNTの普及活動を、今度は南米、東南アジアで進めていった。2009年までの7年間世界中を飛び回り、1年間のうち8割は海外出張という多忙な日々が続いた。

2009年からは、アボット・ラボラトリーズがシンガポールに栄養研究所を設立することになり、現地に赴任。研究者を集めたり、分析機器を取りそろえたり、試作品開発の施設づくりまで、まさしくゼロからのスタートで研究所を立ち上げた。

一定の成果を挙げた後、アメリカ製薬大手「GSKグラクソ・スミスクライン」へ移籍。ヘルス事業部で薬事、品質管理、開発すべての部門を統括する責任者を務めた。歯磨き粉「シュミテクト」、「アクアフレッシュ」、入れ歯洗浄剤「ポリデント」、入れ歯安定剤「ポリグリップ」、総合感冒薬「コンタック」など、日本でもなじみ深い商品の開発に携わった。

ビジネスは順調だったが、ここで自らがライフワークとしていたニュートリションから離れた仕事をする毎日に疑問が生じる。

「ニュートリション分野に戻りたい」-そう思っていた矢先に乳業大手「ダノン」からの誘いを受けて移籍。日本国内でもヨーグルト需要が爆発的に高まっていた2012年のころだ。

研究開発部長を務め、OIKOS(オイコス)、Bio(ビオ)に携わった。そして、2015年1月、現所属先である「ドーム」のスポーツニュートリションブランド「DNS」の責任者として辣腕を振るっている。

<③に続く>