Z世代からプロまで、サッカーニュートリションならお任せあれ!【ニュートリションな人々 #05 ~鈴木いづみさん 後編~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介する永続企画「ニュートリションな人々」。久々となる第5回目の主人公は、博士(スポーツ健康科学)で日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士の鈴木いづみさんです(全2回)。

サッカーは血で戦う競技、体脂肪と鉄がカギになる

明治在籍時代に培った経験からサッカー栄養のベースを作った鈴木さんは、2000年からJリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉の選手寮の栄養アドバイザーとなる。2010年よりクラブと正式契約を交わし、計18年にわたって、トップから育成年代まで多くの選手へ指導・サポートし、コンディショニング面からチームを支えた。

「長くサッカーに携わってきた中でわかったことは『サッカーは血で戦う』です。体重と体脂肪率の管理に加え、血の中身をいかに管理するかが最も重要。つまり、持久力をサポートするヘモグロビンの量とフェリチン(貯蔵鉄)を長いシーズンにわたっていかに高値で維持するか。これがすべてといっていいと思います。体内で鉄が不足すると走れなくなりますからね。走ることが生業のサッカー選手が意識すべき点だと思います」

鈴木さんは現在、チーム契約のほかに、個人のプロサッカー選手と契約し、試合日程に合わせて1週間単位の栄養マネジメントを行っている。試合が日曜日の場合、前日(土曜日)、当日は高糖質食、試合後24時間(日、月曜日)は運動による筋損傷をケアするために、フェノール化合物(アントシアニンなど)、ω-3多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸、EPAなど)、ビタミンDなど抗炎症が期待されるエレメンツを含む食品の摂取を促す。その翌日(火曜日)はオフのためリフレッシュデーとして好きな物を食べてよい。ただし、翌日(水曜日)からチーム練習なので試合でロスした体重を元に戻す作業も同時に行う。体重が戻っている状態で、試合に向けて鉄を貯蔵するための食生活を試合前日まで続ける。週2で試合がある場合はさらにタイトなマネジメントになるものの、基本的には年間を通じてこの工程を踏み、厳しくチェックしている。

選手個人へのマネジメントは、労力がかかるうえに管理能力も問われる。そして、何より求められるのは「成果」だ。例えば、鈴木さんのサポートを受けた選手が「1年間ケガをしなかった」「出場時間がチームトップ」「スプリントパフォーマンスが前年より向上した」など、具体的な成果が出なければ次の仕事につながらず、ビジネスにもならないシビアな世界。鈴木さんは、あくまで成果を強調する。

「指導・サポートしたからには、絶対に結果を残さなければならない。これがフリーランサーとしての私の信条です。2020年はコロナ禍ということもあり、とても難しい仕事を余儀なくされました。強行日程による選手への負担は大きく、気を抜くとあっという間に体重が落ちる。外部との接触が制限されたことで採血もままならず、血液指標の動態がわからない。そういった中でとにかく体重管理には例年以上に細心の注意を払いました。それでも、シーズンを通じてベスト体重を一定に保てたことや、ケガをしなかったこと、安定的にハイパフォーマンスを発揮してシーズンを無事に乗り切ったことで、結果は出せたかなと思っています」

教育と研究、人とのつながりを大事に

鈴木さんが現在、ライフワークにしていることが2つある。「育成年代への教育」と「学び」だ。スポーツ栄養関係者に問われる、相反する課題に対して真剣に向き合っている。

育成年代への教育は、ジェフ千葉時代の同志でアカデミーコーチをしていた武田雄哉さんと連携し、選手・保護者への栄養教育を施す。武田さんはジェフ千葉を退団後、東京都世田谷区に本拠を置く「駒沢サッカークラブ」で副理事長に就き、未来のトップ選手への指導を行う。同クラブは、育成年代の男女サッカー、男女フットサルチームがあり、都内でも上位の成績を誇る古豪。鈴木さんをはじめとする各分野の専門家もチームにかかわっている。

「昨年4月から月1回、選手に向けてオンラインの栄養講習会を実施しました。サッカー選手に必要な栄養摂取、食品の選び方、さらには特殊な状況が続いている中で、免疫力を上げる食事や自粛期間中の食事に関することと、アドバイスは多岐にわたりました」

本来なら選手たちの顔を見ながら講義をして、理解の深化を促すが、オンラインが主になっている昨今、なかなか難しい。画面を見ただけでは選手が本当に理解してくれているのかもわかりづらい。選手の理解度を図るためにどうすればいいか。武田さんと鈴木さんは一計を案じ、「おにぎり選手権」を企画した。

「練習後に食べるおにぎり」をテーマに、選手たちが講習で学んだサッカー選手に必要な栄養を含む具材を使って、おにぎりを自作するというもの。そして、鈴木さんが専門家の立場から「おいしさ」「うんちく(食材の栄養情報)」「見ため」など、さまざまな角度から審査してランキングをつけた。詳細は後報するが、選手、保護者を巻き込んだおにぎり選手権は、選手たちの理解度を確認するのに大いに役立った。

「武田さんとは馬が合うというか(笑)。長い雑談の中でいろいろと話しているうちに、この企画が浮上しました。ほとんど武田さんのアイディアです(笑)。今後は他チームとの対抗戦とか、プロ選手との対決とか、幅を広げていければと思っています。選手が楽しく、競いながら参加できるスポーツ食育として普及させたいですね。オンライン時代でも工夫次第で、きちんと教育できることも示せたと思います」

育成年代への教育をする一方、スポーツ栄養研究の向上も忘れない。トップスポーツ現場での経験が豊富で、スポーツ栄養の発展に情熱を注ぐ鈴木さんだが、行き詰まりを感じた時期があったという。「対エリートアスリートでは現場経験だけでは勝負できない、しっかりとしたサイエンスがなくては」と。

一念発起した鈴木さんは順天堂大学院でスポーツ健康科学を学び直し、博士号を取得。企業との共同研究に携わったり、海外のスポーツニュートリションに関する最新情報を有志とともに翻訳したり、研究分野での実績を着々と積んでいる。

また、スポーツ関係者が集まる私的勉強会「すぽべん(SPOBEN」の活動も熱心に行う。すぽべんは栄養分野だけでなく、スポーツ医科学に関するさまざまな分野の研究者と実践者が集まり、自身の研究や活動内容を発表してディスカッションする場だ。

「少人数から始まったすぽべんですが、今では数十人規模になりました。いろいろな研究内容を聞くことで刺激されますし、とても参考になります。また、スポーツ医科学分野のHUB機能を持たせ、人と人、仕事と仕事をコネクトすることにも注力しています。興味のある方はぜひご参加いただきたいですね。参加要件はすぽべんメンバーの紹介があること、加入1年以内に自身の研究に関するプレゼンの意思があることです。多様なパッションに触れるとともに求める情報がきっと見つかるでしょう」

スポーツの先行きが不透明な中でも「とにかく楽しく仕事をさせていただいています」と、笑顔で話す鈴木さん。自身が組み立てた栄養マネジメントが成果につながった時の達成感は他では味わえないという。

鈴木さんは、厳しさもやりがいも感じながら、スポーツ栄養の最前線で活躍を続けている。「10年後はスポーツ栄養分野がもっと発展しているはずなので、その時にいい仕事ができるように常に勉強を続けています」と、その目は未来を見据えている。

<完>


鈴木いづみ / Izumi Suzuki

博士(スポーツ健康科学)、日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士、順天堂大学スポーツ健康科学部 協力研究員、とちぎスポーツ医科学センター 協力栄養士

1990年 女子栄養大学栄養学部栄養学科 卒業。1990~1998年 明治製菓(株)ザバススポーツ&ニュートリション・ラボ。2004~2013年 宇都宮文星短期大学地域総合文化学科 准教授。2015年 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士前期課程修了。

アトランタ大会(1996年)女子バスケットボール日本代表、ロンドン大会(2012年)競泳日本代表・萩野公介選手など、五輪選手への指導・サポート歴多数。ジェフユナイテッド市原・千葉の全年代の栄養教育に携わった。現在は、Jリーグ 北海道コンサドーレ札幌、および個人のプロサッカー選手との契約のほか、、地域のタレント発掘育成事業など育成年代の教育に力を注いでいる。

ムキムキマッチョよりもお父さんのお腹【米国のスポーツニュートリション事情 #02 ~後編~】 

後列右から2番目がイェーガー博士

米国の食品・サプリメントのトレンドは、5~10年の期間を経て日本に上陸するといわれている。米国のトレンドや動きをいち早くキャッチすることは、日常的にスポーツをする人にとって生活面やパフォーマンスアップ、コンディショニングにも大いに役立ってくる。

今回は国際スポーツ栄養学会(ISSN)特別会員でIncrenovo社代表のラルフ・イェーガー博士に最新の米国のトレンドを聞いた。後編では、スポーツへの向き合い方やスポーツニュートリションの考え方の変化、若い世代で人気が爆発しているeスポーツとニュートリションの関連性などを解説する。

「6パック」はもういらない!? 

スポーツ分野では、人々の求める物が変わってきています。一言で「スポーツ」といっても、競技スポーツの高いレベルで活躍する人、健康意識が高く自発的に運動をする人、ライトに体を動かす人など層がいくつかに分かれており、範囲が非常に広くなっています。それぞれの生活スタイルや食の志向なども踏まえて考えていく時代に変わってきました。

その中で、「ボディポジティビティ」という考えが生まれ始めています。「自分の体にもっとポジティブになろう」といった意味で、できることを自分のペースでやるといったものです。

以前は、特に男性にみられた傾向ですが、ジムに行ってマッチョな体に鍛え上げる人が多く、その考えが好まれていました。しかし現在では、一般の人がそこまで体を鍛え上げるにはやはりハードルが高く、敬遠されるようになってきました。Googleのワード検索数を調査したところ、マッチョな体の代表的なワード「6パック」を検索する人は年々減少傾向にあることがわかっています。

その代わりに「Dad Bod(ダッドボッド=お父さんの体)」という言葉が注目されています。「お腹が出ていてもいいじゃない、無理せず健康的に体を動かしていれば」という意味で、消費者のニーズが完全に変わっています。

「ボディポジティビィ」「Dad Bod」の考え方から、商品パッケージの見せ方も変わってきています。以前であれば、6パックを全面に押し出したパッケージ、広告などが販売数につながっていましたが、現在ではネガティブに捉える消費者が増えてきているため、受けなくなっているのです。加えて、6パックを助長するような流れは、SNSなどでも批判の対象になることもあります。

一方で、女性の志向にも変化が出てきています。5、6年前までは、ダイエット目的でライトに体を動かす人が多かったのですが、最近では体の強さを求めてハードなトレーニングを積む人が増えてきました。

そのため、女性もより効果の高い食品・サプリメントを摂取するようになってきました。男女のスポーツ・運動への意識、強度が逆転し、女性の方がよりストイックに体を鍛え上げるようになっています。

欧州の調査会社によると、スポーツニュートリション系女性商品の割合は市場の6%で、その大半がダイエット目的の物でした。しかし、現在では、男女が同じ物を摂取する傾向になっており、女性向けのスポーツニュートリション商品は減少していっています。男女で商品を差別化した戦略が、米国ではそれほどうまくいかなかったという背景もあります。

ジェネレーションZに圧倒的な支持を受けるeスポーツ

マーケティングの面でもここ5年間で大幅に変わってきました。今米国の多くの企業の注目を浴びているのが、ジェネレーションZといわれる10~20歳代。生まれた時からデジタルが身近な彼らはSNS(YouTube、Instagram、Tiktokなど)を活用して情報発信し、それらを使って情報を得ています。自ら発信できるメディアが出現したことで、戦略の転換を強いられています。

この世代に圧倒的な人気を誇るのがeスポーツ。競技スポーツも依然人気が高いですが、それを上回る支持を獲得しつつあります。毎年2月には全米で最も人気のあるNFL(アメリカンフットボール)の王者決定戦「スーパーボウル」が開催されていますが、同時期に行われたeスポーツの大会のビューがそれを上回ったようです。

eスポーツは、競技スポーツに求められるフィジカル面の強化よりも、メンタル面の強化が重要になってくるため、「注意力や集中力を高める」、「脳を覚醒させる」、「興奮させる」などといった“効果”が求められます。

スポーツニュートリションの市場でも、eスポーツは競技スポーツと同列に扱われつつあります。店舗でもネット販売でも、運動前、中、後と摂取タイミングのサプリメント陳列棚が分かれていますが、eスポーツの人気が爆発したことで、「メンタルのプレワークアウト」というジャンルが生まれました。

eスポーツの人気拡大により、スポーツニュートリションの概念がより広くなり、ターゲットの若年齢化ととともに、マーケティング戦略を合わせていくといった流れがここ数年で確立されていくでしょう。

実に45%の商品がNO添加物!

米国では今、食品やサプリメントの製造・開発に関する変革が進んでいます。その代表的な例が「クリーンラベル」。これは、食品原料など商品ラベルに記載する表示をいかに少なくするかといった取り組みです。

食品やサプリメントのメーカーはこうした世間の流れに乗って、大きく舵を切っているようです。それにより、甘味料や保存料などの食品添加物の使用を最低限、もしくはカットする傾向が進み、“添加物フリー”の商品は実に市場全体の45%に上っています。

また、「ナチュラル」もキーワードになります。例えば、甘みをつける場合、人工甘味料を使用するのではなく、ハチミツ、羅漢果といった自然な物を使うようになっています。ナチュラル志向を全面に押し出したマーケティングも目立ってきています。

食品添加物の使用は、今後購買層の中心になってくるジェネレーションZには全く受け入れられないので、今後もこの流れは強くなると予想しています。

スポーツニュートリションのパーソナライズ化

米国人のサプリメント摂取状況は約75%で、スポーツニュートリションの市場は年々約9%ずつ拡大しています。プラントベースがリベラルな若い世代に受け入れられていることもあり、今後市場が大きく変わるものと思われます。

スポーツ分野ではやはりプロテインが圧倒的な人気です。そのほかでいえば、脂肪燃焼系、テストステロンブースター(男性ホルモンの分泌促進)、電解質系の水分補給、クレアチン、ケトジェニック(良質な脂質の摂取)などが商品売り上げのトップ20を占めています。また、スポーツニュートリションの中でも、持久系、瞬発系、摂取タイミングなど、さらに細分化されていきます。

選手やスポーツ愛好家を取り巻く環境も科学分野との融合により進んでいきそうです。スポーツジムなどのトレーニング施設で血液検査や遺伝子検査が導入され、例えば、カフェインに応答しにくい人やビタミンDが欠乏している人、腸内細菌叢の測定など、各個人の体質と食情報の関連をわかりやすく把握できるようになっていきます。

昔と比べて個々の生活が複雑化している中で、こうした科学的に得られた知見を用いて、体重を増やしたい人、維持したい人、健康を保ちたい人といった、さまざまなニーズに応えられるようなニュートリションのパーソナライズ化が一層進んでいくでしょう。

日本は独自の市場が形成されるので、先に触れた流れがすべて当てはまるわけではありません。ただ、欧米の流行を発端に全世界へ波及している近年の傾向から考えると、日本にも少なからず同様の流れが生まれる可能性があります。

<完>

プラントベースプロテインが急拡大【米国のスポーツニュートリション事情 #02 ~前編~】 

米国の食・サプリメントのトレンドは、5~10年の期間を経て日本に上陸するといわれている。米国のトレンドや動きをいち早くキャッチすることは、日常的にスポーツをする人にとって生活面やパフォーマンスアップ、コンディショニングにも大いに役立ってくる。

今回は国際スポーツ栄養学会(ISSN)特別会員でIncrenovo社代表のラルフ・イェーガー博士に、最新の米国のトレンドを聞いた。前編では、世界中で人気が高いプロテイン市場の変化について解説する。

プラントベース(植物性)プロテインの勢いがすさまじい!

近5年における米国の食品・サプリメント市場で最も大きな変化は、プラントベース(植物性:ピー=エンドウマメ、ライス=米など)プロテインの販売数、知名度が急激に上がってきている点です。

プロテイン市場の割合でみると、依然動物性(ホエイ、カゼインなど)プロテインが60%のシェアを占めているものの、残りの40%がプラントベースになっています。そのうち、プラントベース単体のプロテインが20%、動物性とのミックスが20%と、すさまじい勢いで伸長しており、大きな成長カーブを描いています。

プラントベースプロテインが米国で流行している大きな理由は2つあります。一つは科学的な研究が進み、エビデンスが非常に多く出てきていることが挙げられます。

以前まではエビデンスの少なさから、プラントベースは動物性よりも劣るといった印象がありました。近年、注目度が増すとともに研究が進んでいったことで、健康やスポーツ分野で効果が見込める、または実証されたデータが示されてきました。

もう一つは、社会的な背景です。プラントベースの食品を摂取する世代というのが比較的若い層で、非常にリベラルな思考を持っています。現在行われている大統領選を見てもわかるように、消費者の中心である若い層が政治や環境問題などに高い関心を寄せ、活動にも積極的に参加しています。その流れから、環境に良い食品、食材を好んで選ぶ傾向があります。

プラントベースプロテインは動物性と比較すると、消化・吸収で劣る部分があります。その点を補うため、消化酵素(プロテアーゼ、パパイヤ、キウイなど)を配合して消化・吸収能を高める商品設計がされていました。

しかし、最近ではそのトレンドが変化し、消化・吸収の向上に加えて、腸内環境を整える乳酸菌を配合する商品が多くなってきました。日本だけでなく世界中で乳酸菌の利点や効能は一般に普及しているため、プロテインと乳酸菌を組み合わせた商品の登場はトレンドになっていくと思われます。

また、ヨーロッパの調査会社が米国や日本をはじめとする20か国のプロテイン市場をリサーチした情報によると、日本では19%の商品にプラントベースプロテインが配合、または含まれていて、日本人になじみが深く食経験の長いソイが大半を占めています。

一方、米国では、ピー、ライスを中心に、ヘンプ(麻の実)など多くのプラントベース素材がさまざまな商品に配合されており、消費者のニーズに応えるべくラインアップが多様化し、市場の拡大に拍車をかけていくのではないかと予想しています。

健康的な「プロテイン」のイメージ

米国人の間では、プロテインがスポーツシーンでのリカバリーや筋肉の合成などに役立つといった以上に、「健康に良い食品」といったイメージが浸透しています。サプリメントというより食品として捉えるようになってきました。

商品パッケージに「プロテイン+」「プロテイン配合」などの表記があるだけで、消費者が商品に手を伸ばす傾向がみられます。googleで「プロテイン」という言葉がどのくらい検索されたかを調べたところ、2015年以降、季節差はあるものの、検索数は右肩上がりの状況が続いています。

味の面でも工夫や変化がみられるようになってきました。プロテインの定番といえば、バニラ、ココア、ストロベリーなどがありますが、技術の改良やフレーバー、味の新素材が出現したことによって、バリエーションが増えてきています。

中には、小さいころランチボックスによく入っていた「チョコチップクッキー」味のように、子供のころの記録を呼び起こさせる、情に訴えかける物(味)もラインアップされるようになってきています。

もっとユニークなのが「レインボーキャンディー」味、「ユニコーン」味など、一見どんな味かわからない物も出てくるようになりました。これは、消費者の想像をかき立てて、興味を引くという米国ならではのマーケティング戦略といえます。

<後編に続く>

ニュートリションで日本と世界に橋を架ける 【ニュートリションな人々 #02 ~青柳清治さん④~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画。第2回目は、栄養学博士で株式会社ドーム執行役員(サイエンティフィックオフィサー)の青柳清治さんの半生をお送りする。

長い間欧米の企業で要職を務め、現在は日本のスポーツニュートリション分野の発展に力を尽くし、幅広い活動を行っている。

スポーツニュートリションを身近な存在に

アンチ・ドーピングに関する食品業界への周知活動は一息つき、青柳さんは使ってもらう側への理解を求めることにシフトチェンジしている。アスリートはもちろん、スポーツ業界の専門家や指導者などにアンチ・ドーピングの重要性を訴えるため、日常業務の合間を縫って活動を続ける。

アンチ・ドーピングの周知活動以上に、青柳さんが今最も力を入れているのが、スポーツニュートリショニスト、管理栄養士、スポーツファーマシスト、学生、企業人が月1回集まるすぽべん(スポーツ栄養勉強会)での活動である。

「すぽべん」では、ニュートリションはもちろんのこと、運動生理学、生化学などスポーツを取り巻く学術に関する議論や発表が定期的に行われ、幅広くさまざまな視点からスポーツや運動を掘り下げているのが特長である。

2017年には「すぽべん」のメンバーが中心となり、海外の最新知見を日本語訳したスポーツ栄養ガイドライン「Nutrition and Athletic Performance」を刊行した。海外の最新情報を日本にも導入し、スポーツニュートリションの発展のために日夜研究が進められている。さらに、翌年には国際スポーツ栄養学会のポジションペーパー「ISSN Position Stand: Protein and Exercise」を和訳して世の中に提供している。また、海外のスポーツニュートリション関係者・研究者が一堂に会する、国際スポーツ栄養学会(issn)東京大会「issn Tokyo」の大会長として、準備に奔走している。

「海外の最新情報を届けることはとても大事なこと。そもそもどこから情報を取っていいのかもわからないし、難しいのではないかと思っています。『すぽべん』では、なかなか知り得ない海外のスポーツニュートリション、その周辺情報も積極的に活用しながら、国内の最新知見を組み立てて、情報を発信していきたいと思っています」

青柳さんのこれまでの活動を振り返り、共通しているのが海外の最先端を日本に導入すること。ある意味、海外と日本に橋を架ける役割を担っていたといえる。

これは、海外生活が単に長かったからではなく、研究者やビジネスマンの視点を持って日本を見つめていたからこそ、足りないもの、取り入れなければならないものがわかったのだろう。

現在、日本のスポーツニュートリション分野は、イノベーションが進んでいる。その中で、深い知識と広い視野を持つ青柳さんの存在は欠かせまい。これからの活動に注目したい。

<完>

ニュートリションで日本と世界に橋を架ける 【ニュートリションな人々 #02 ~青柳清治さん③~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画。第2回目は、栄養学博士で株式会社ドーム執行役員(サイエンティフィックオフィサー)の青柳清治さんの半生をお送りする。

長い間欧米の企業で要職を務め、現在は日本のスポーツニュートリション分野の発展に力を尽くし、幅広い活動を行っている。

スポーツニュートリションへの高い関心

臨床栄養分野で長く活躍していた青柳さんがなぜスポーツニュートリション分野に“転身”したのか。話はアボット社在籍時にさかのぼる。

当時アボット社が所有していたニュートリションブランド「EAS」は、「栄養とトレーニングで体の状態を変化させる」という肉体改造プログラム(Body for Life)を展開していた。

スポーツ栄養学と筋トレ、および有酸素運動を融合した3カ月のプログラムで、多くのアメリカ人が実績を出していた。青柳さんも肉体改造をするためにプログラムを実行したところ、劇的に変化したことを実感する。

もともと栄養が体に及ぼす影響を専門に研究していたこともあり、体作りとニュートリションの相関と重要性を即座に理解した。トレーニングの知識を独学で学び、パーソナルトレーナーの資格も取得した。

海外でトレーナーの資格を取得する過程で講座を受ける中、半分がニュートリションの話で、トレーニングとニュートリション、スポーツとニュートリションは切っても切り離せない関係であることがわかった。

「僕の専門分野である臨床栄養と、スポーツニュートリションはとても似ている。例えば、スポーツでいえば、アスリートがパフォーマンスアップのためにトレーニングを積み、プロテインやアミノ酸を摂取して筋力強化、筋肉増量を図る。

一方で、健康に気をつけている人や中高年の方は、フレイルやサルコペニアの予防という観点から毎日の運動に加えて、プロテインやアミノ酸を摂取する。

『筋肉をつけるためのニュートリション』とすれば、競技スポーツも健康も考え方は同じなんですよね。運動をする人が増えている日本でも、食べることが密接な関係を持っていることをもっと知ってほしいですし、その考えは浸透しつつあると思っています」

 アンチ・ドーピング認証システムの是正を目指し…

青柳さんを語る上で欠かせないのは、サプリメント製造にかかわるアンチ・ドーピング分析の必要性を食品業界に植えつけたことだ。

東京五輪の開催決定を機に国内でもアンチ・ドーピングの機運が高まり、ドーピングコントロール下にあるアスリートが口にする物の安全性が問われることになった。

アスリートに商品を提供しているサプリメント・食品メーカーは当然、ドーピング物質の有無に関する分析をして安全性を担保したいが、さまざまな理由があって日本では数年前まで、事実上メーカーがアンチ・ドーピング分析を行うことができなかった。

こうした状況が続いていた中、青柳さんは「高度なアンチ・ドーピング分析・認証を日本でも可能にする」「海外の分析力に長けた機関と連携する」「これまでアンチ・ドーピング分析ができなかったメーカーの受け皿を作る」-この3つのミッションを遂行すべく、水面下で動いた。

国際的なアンチ・ドーピング認証「インフォームドチョイス(IC)」を展開しているイギリスの大手分析機関「LGC」と日本での展開について粘り強く交渉し、2016年秋にICは日本に上陸した。

「最初はLGC社に全く相手にされなくて・・・。連絡しても返答がないという時期もありました。それでも、日本国内のアンチ・ドーピングに関する体制の問題や、東京五輪が迫る中で、LGC社が日本でマーケティングを展開する意義などを説いていくうちにこちらの思いをわかってくれて、ようやく前に進むことができました。

このプロジェクトは、メーカーに所属する僕が訴えるのはもちろんですが、健康食品の規格に熟知しているバイオヘルスリサーチリミテッド社・池田秀子さんの協力は欠かせませんでした。池田さんが持つ専門知識や実績がなければ、ICがこれほど日本に受け入れられなかったでしょう」

余談ではあるが、スポーツニュートリション分野で人気が高まっているHMB※1を日本に持ち込んだのは青柳さんと池田さんである。

当時、海外でHMB含有の臨床栄養製品を製造・販売していたアボット社は日本での展開を目指していた。その担当者が青柳さんだったのだが、食薬区分2の関係でHMB含有製品の日本での販売は認められていなかった。

そこで、青柳さんは食品規格の専門家である池田さんに相談し、HMBを日本国内で展開できるように働きかけ、品質や効果・効能に疑いのなかったことがわかり、僅か2年というスピードでHMBが食品・サプリメントで使用できるようになったのだ。

※1 正式名称「βヒドロキシβメチル酪酸」。期待される効果としては、筋肉の合成・筋疲労の軽減などがある。

※2 日本では食品と薬品で使用できる原料が分けられており、HMBは食品やサプリメントに配合できなかったが、2010年に認可された。

ICを展開するLGC社では、商品にドーピング物質が検出されていないことを証明する分析結果をHP上で開示しており、アスリートは一目で安全性を確認できる。また、もし分析の過程でドーピング物質が検出された場合、メーカー側に伝えて迅速に対応できるよう、極めてオープンな体制をとっている。

ドーピング問題には、コンタミネーション(製造過程での異物混入)や配合原料がそもそも禁止物質で気づかずに使用していたなど複雑なので、機会があるときに説明したい。

こうして出会った2人がタッグを組み、アンチ・ドーピング分析・認証を日本でも可能にしたのだ。近年では、LGC社のアンチ・ドーピング分析プログラムを利用するメーカーが急増しており、その数は2020年2月時点で40社を超える。

国内のスタンダードとなりつつある中で、スポーツサプリメントメーカーの大半は利用しているといっていい。また、グローバルな視点から見ても、名だたるブランドがプログラムを利用していることから信頼性・知名度は高い。

「メーカーが商品のアンチ・ドーピング分析を受けるのは当たり前のことだと思いますよ。もし、サプリメントからドーピング物質が検出されたら、アスリートの人生をめちゃくちゃにしてしまいますから。これまでは分析を受けられる機関がなかったので仕方ありませんでしたが、食品業界ではアンチ・ドーピングの意識が変わってきています。

一番大切なのは、使っていただくアスリートや消費者のみなさん。アンチ・ドーピングの考え方や、食品やサプリメントにICの認証マークがついている意味をよく知ってもらわなければなりません。だから、これからもいろいろな場所で多くの方に会って、地道に説明していきます」

<④に続く>