スポーツを頑張る高校生にとって大切なこと【Z世代におくるスポーツ栄養講座 #07-2】

神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第7回は「スポーツを頑張る高校生にとって大切なこと」がテーマ。

高校生になると、プロスポーツ選手並みの練習量、パフォーマンスが求められるようになる。もしかしたら、練習量はプロ以上かもしれない。

ただ、勉強、放課後の練習、土日の試合、遠距離の通学など息つく間もない多忙な毎日で、少しでも気を抜けばケガにつながってしまう。ケガは、ライバルに差をつけられたり、力を発揮できなかったり、目標とする大会に出られなかったりする「悔しさ」の元凶でもある。

光り輝く高校生たちが悔しい思いをしないように、食事はもちろん、他の大切な要素も頭に入れておく必要がある。

今回は記事2本立て(動画は1本)で、スポーツを頑張る高校生たちに伝えたいことをまとめた。2本目はコンディショニングを中心に。

※Z世代とは、欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。すぽとりでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画「すぽとりChannel」

量よりも質! 3時間勝負の「睡眠」

スポーツを頑張っている皆さんの理想的な睡眠時間は、「7時間」といわれています。長く眠ればいいかといわれるとそうでもありません。

一晩の睡眠で「浅い眠り」と「深い眠り」が繰り返されて、朝を迎えることになります。浅い眠りを「レム睡眠」、深い眠りを「ノンレム睡眠」と呼び、前者は主に身体、後者は脳をそれぞれ休ませる役割をもっています。みなさんの成長に必要なホルモンは、深いノンレム睡眠時に分泌が促進されます。

図のように、深いノンレム睡眠は入眠1時間後、2時間後、3時間後で訪れますが、4時間後以降は成長ホルモンの分泌促進が終わっています。ですから、入眠3時間後までに深い眠りにつくことが質の良い睡眠(=成長のためになる)をとるために重要となります。

 

成長ホルモンの分泌促進のために早く深く眠りにつきたいのですが、高校生(中学生)たちの天敵になる物があります。ズバリ、「スマートフォン」です。スマホで動画を見たり、ゲームをしたりと楽しくなってついつい遅くまで夢中になってしまうでしょう。ハードな練習の後ですから、なおさらです。

しかし、スマホから出る光は太陽とほぼ同様の明るさで、脳を刺激して覚醒させてしまいますし、眠る前にたくさんの情報を得てしまうとかえって脳が働き、眠りに入りづらくなってしまいます。成長のためにも、眠る前のスマホやゲームはできる限り避け、早く深くノンレム睡眠に入りましょう。

ストレス状態の継続には注意

高校生年代は顕著な成長をとげる半面、精神的に不安定な時期ともいえます。特に、スポーツを頑張る人たちは、小さいころから高いレベルで活躍することを目標にしてハードなトレーニングを続けています。

練習や試合で負う身体的なストレスはもちろん、「がんばらなきゃ」「勝たなきゃ」といった精神的なストレスを常に受け続けている状態といっていいでしょう。この状態が続くと、「慢性疲労(ステルネス)症候群」や「オーバートレーニング症候群」に陥ってしまいます。

これらは、気持ちがついていかずに体が動かなくなってしまい、最悪の場合、選手生命を絶ってしまう恐れもあります。選手自身が気をつけるのはもちろんですが、指導者のみなさんも選手のメンタルケア、休むべき時には休ませることを検討していただきたいと思います。

自分への栄養ケアは自己管理能力の向上に

最もエネルギーが必要な高校生年代にとって、3食きちんととることは成長を促すことにつながります。また、決まった時間に食事をとることで、消化酵素の分泌が活発になり、栄養を効率良く吸収できるようになります。

そして、何よりも大切なのが、自分自身で「いつ」「何を」「どれだけ」食べればいいかを理解する、考えることです。これが、自己管理能力の向上に結びついてきます。

高校を卒業して、さらに高いレベルで活躍する人もいるでしょう。海外で活躍する人もいるかもしれません。その時、いかに自分をコントロールして競技に集中するか、自分にとって身になる食べ物を選択できるか。これを当たり前のようにできるのがトップ選手たちなのです。高校生年代は、自己管理能力を高める最後のチャンスなので、意識して食べ物、栄養と向き合うと良いでしょう。

最後に、成長のために食べ物や栄養への意識をする以前に、食べることが苦にならないようにしてほしいと思います。

食べることは楽しいことですし、おいしい物を食べれば心も安らいできます。反対に、無理をして食べても体にうまく吸収されませんし、体重制限などで食べたいのに食べられない、食事も楽しむことができない。これでは、体が成長するはずがありません。

ですから、食事が楽しみになるように、指導現場、家庭でもどうするかを一緒に考えていただきたいですね。

<次回に続く>

次回は、「スポーツを頑張る女子の健康上のリスク ~女子選手の三主徴の概要~」についてお送りします。

スポーツを頑張る高校生にとって大切なこと【Z世代におくるスポーツ栄養講座 #07-1】

神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第7回は「スポーツを頑張る高校生にとって大切なこと」がテーマ。

高校生になると、プロスポーツ選手並みの練習量、パフォーマンスが求められるようになる。もしかしたら、練習量はプロ以上かもしれない。

ただ、勉強、放課後の練習、土日の試合、遠距離の通学など息つく間もない多忙な毎日で、少しでも気を抜けばケガにつながってしまう。ケガは、ライバルに差をつけられたり、力を発揮できなかったり、目標とする大会に出られなかったりする「悔しさ」の元凶でもある。

光り輝く高校生たちが悔しい思いをしないように、食事はもちろん、他の大切な要素も頭に入れておく必要がある。

今回は記事2本立て(動画は1本)で、スポーツを頑張る高校生たちに伝えたいことをまとめた。1本目は食関連について。

 

※Z世代とは、欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。すぽとりでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画「すぽとりChannel」

スポーツを頑張るために必要なエネルギー量を知っておこう

これまでの講座で示してきたエネルギー摂取量は、食事摂取基準(厚生労働省)に基づいたもので、あくまで一般的な数値になります。高校生年代に入り、練習やトレーニング量が増えて成長が進んで筋肉量も増えてくると、必然的にエネルギーの必要量も多くなってきます。

ですから、すでに成長期に入った、または成長が進んでいる高校生たちは、一般的な数値ではなく、よりスポーツに特化した数値を知る必要があります。スポーツ選手向けの推定エネルギー必要量を求める計算式がありますので、自分の競技特性や体格などを把握し、日々の練習、食事に役立てましょう。

以下、スポーツ選手の推定エネルギー必要量の計算式です。

28.5×除脂肪体重(LBM)×種目分類別身体活動レベル(PAL)

LBM = 体重-(体重-(体脂肪率÷100))

除脂肪体重(LBM)とはその名の通り、体の脂肪分を除いた筋肉・体水分(血液含む)・骨などを合わせた重量のことです。LBMを求めるためには体脂肪率の値が必要になりますが、すでに学校やチームで定期的に測定してわかっている人は数値を当てはめ、計算をしてみてください。

そうでない人は、以下の手順で計算すると、おおよその体脂肪率が求められ、LBMを算出することができます。

①自分の標準体重を求める
身長 (m) × 身長 (m) × 22

②体脂肪を求める
(実際の体重-①) ÷ ① × 100 👉LBMの計算式へ

種目分類別PALは、競技によって特性などが異なり、個人のエネルギー量も変わってくるため、持久系、筋力・瞬発力系、球技系とそれぞれの競技に分けて数値化したものです。表を見ると、マラソンや長距離などの持久系競技は他の競技よりも数値が高くなっていますが、これはより多くのエネルギーが必要(=著しいエネルギー消費)であることを示しています。

「たくさん食べる」の受け取り方

高校生は「一生のうちで一番食べなければいけない(エネルギーが最も必要な)時期」と繰り返しお伝えてきました。ただ、「たくさん食べる」といっても、食が偏ってしまうと体の中で栄養をうまく使うことができません。

体を大きくする目的で、タンパク質(プロテイン)ばかりとったとしても、タンパク質を体の材料に変換するビタミンB群が不足していては筋肉になりませんし、身長を伸ばすためにはカルシウム、マグネシウムといったミネラルも同時に必要です。

また、エネルギー源である炭水化物が不足した状態でタンパク質をとっても、体の材料になる前にタンパク質がエネルギーとして使われてしまうので、目的を果たすことができないのです。

ですから、「たくさん食べる」よりも「バランス良く食べる」の方を意識してほしいと思います。これは、以前提案した「毎食7つの色をそろえる」につながってきます。

小学生のうちから心がけたいところですが、高校生になってから始めても大丈夫です。まずは量よりもバランス、7つの色の食材を毎食とるように意識して、それができるようになったら量を増やしていくといいでしょう。

関連記事:バランス良く食べるには?

男子は男性に、女子は女性に

高校生は、男女ともにホルモン分泌が最も活発になる時期になります。男子は男性らしく、女子は女性らしく、体が変化していきます。

男子の場合、男性ホルモンが正常に分泌されていれば、それほどハードなトレーニングを積まなくても自然と筋肉の量は増えていきます。ですから、筋肉をつけるための栄養よりも、ホルモン分泌が促される栄養を考えていくと良いと思います。

女子の場合、女性ホルモンを正常に分泌させるためには、ある程度の体脂肪が必要になってきます。審美系競技(新体操、フィギュアスケートなど)や体重別競技で、過度なダイエットや減量によって適切な体脂肪が確保できないと、「女子選手の三主徴(FAT=Female Athlete Triad)」を代表とするさまざまなスポーツ障害をひき起こします。スポーツ障害は選手寿命を縮めたり、競技生活からの引退を余儀なくされるので、そうならないためにも「体脂肪を減らしすぎないこと」を認識しておきましょう。

<#07-2に続く>

成長世代への指導に力を注ぐスポーツニュートリショニストの先駆け【ニュートリションな人々 #04 ~坂元美子さん 後編~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するシリーズ企画。第4回目は、神戸女子大学・坂元美子さん。

坂元さんは、スポーツ栄養学がほとんど知られていなかったころからプロスポーツ現場での栄養指導に携わり、0からノウハウを確立してきた。特に、野球、サッカーの成長期世代の栄養指導・サポート経験が豊富で、チームの強化にも一役買っている。

長年の指導経験を後進に伝えながら、多くの人にスポーツ栄養学を知ってもらうべく、活動を行っている。

動画「すぽとりChannel」

選手一人ひとりを知ることが信頼関係に結びつく

1年間ボランティアとしてチームにかかわり、選手や関係者とも顔なじみになっていましたが、栄養指導をすることが必ずしも全員に受け入れらたわけではなかったんです。

チームに合流した当初ですかね。栄養講習をした時、「なんでこんな話聞かなきゃならないんだ」と言われたこともありました。

確かに、学生時代いろいろな我慢や努力をしてやっとプロ野球選手になって、また強制されたくないという気持ちもよくわかりました。だから、まずは選手一人ひとりを知って信頼関係を築き、頭ごなしに言わないようにしようと心がけました。

健康診断の時に簡単なアンケート調査をして、選手たちの食に関する嗜好やパターンをすべて頭に入れ、選手が食事をしているときに「野菜食べた方がいいよ」とか「お菓子は食べ過ぎていない?」とか、とにかく会話をするようにしていましたね。

寮のメニューも改善する必要があったんですが、選手の要望や調理師の考え、栄養バランスと、自分の考えがあるものの、急激に変えるとうまくいかないことはわかっていたので、徐々に変化させていくようにしました。とても気を使いましたけどね。

やはりチームに帯同してコミュニケーションを密に取っていくと、選手や関係者もだんだん私の言うことを理解してくれるようになりました。仰木監督、中西太※1ヘッドコーチ、山田久志※2コーチをはじめ、指導者の方々の全面的なバックアップも大きかったと思います。

特に、中西ヘッドコーチは選手に「ちゃんと言うことを聞かなきゃだめだぞ」と促してくれましたし、山田ピッチングコーチはチームが好調だったこともあって、「勝利の女神」と呼んでくれました(笑)。

とにかく、当時のオリックスはチームの目標がはっきりしていて、全員が同じ方向を目指し、一丸になっていました。こういうチームが強くなっていくんだと学びました。

※1 本塁打王(5回)、首位打者(2回)、打点王(3回)の打撃3冠タイトルをすべて獲得した「怪童」。選手時代は仰木氏とともに西鉄ライオンズ黄金期を支え、中心打者として活躍した。史上最年少のトリプルスリー達成者。

※2 史上最高のサブマリン(アンダースロー)の使い手。現役20年間を阪急ブレーブス(オリックスの前身)一筋で過ごした。通算284勝(歴代7位)、最多勝3回をはじめ、数多くの投手タイトルを獲得。

長く健やかに過ごすためには成長期の食事がカギ

スポーツ現場での指導にノウハウがなかった分、すべて一から考える必要がありました。いろいろな栄養の正しい情報や知識を自分で身につけ、選手たちに指導を行う一方で、選手たちから学ぶ機会が多かったのはとても貴重な経験でした。

選手もいろいろなタイプがいて、型通りにはめて同じ指導をすることはできないとわかりました。例えばイチロー選手は、世間的にストイックなイメージがありますが、食事に関しては全然そんなことありません。「食べたい物を食べたいときに」というスタイルでした。

だいたい、選手が「好きな物を食べる」というと、焼き肉ばっかりとか栄養バランスが偏ってケガが多くなってしまうんですが、彼の場合、体形がほとんど変わらず維持できているから、体に必要な物を摂れていると理解しているんですね。

だから、私が何を言うまでもなく実践できている。自分の体質をわかった上で必要なことを無意識にできるのがトップアスリート。彼は理想像でしたね。そういう意味でセンスがあるといってもいいかもしれません。

イチロー選手のように優等生ばかりだとありがたいんですが、必ずしもそうではありません(笑)。それをどう意識づけしていくことが私の仕事なので。正直、苦労した選手もいました。「栄養指導なんか必要ねぇ」って。

ただ、その選手は多少無理な食生活をしていてもケガをしないんですよね。よくよく話を聞くと、体を作る大事な時期(小、中学生)に、加工食品とか吸収の良い物ではなく、自然の物を食べていたそうです。おやつが煮干しだとか。

加工食品が悪いとは言いませんが、それらばかり食べていると食品の体への吸収力が上がっていかないんですね。成長期にきちんとした食生活を送ることで吸収力がつき、体の基礎ができていれば、大人になって多少無理をしても体がびくともしない。その選手と接することで、いかに成長期の食事が大切かを学びましたし、その後の私の考え方にもつながりました。

トップアスリートや長くスポーツを続けていきたい場合、成長期に適切な物を摂ることで、体が作られて成長のピークが終わり、代謝などが下降していく25歳以降、食事はもちろん、サプリメントもうまく使いつつ、アスリートの体を維持していくことができます。

アスリートの競技レベルは昔と比較するとかなり上がっていて、選手の負担も大きくなっています。効率良く栄養を摂っていかないといけないなと思っていますし、昔ながらの食事が良いというのも、現在の多様化する食生活に合わなくなってきている部分もあるので、時代に合わせた栄養指導を心がけています。

思いを共にする指導者との出会い

私がオリックスに在籍した間、1位、1位(日本一)、2位と、チームは結果を残しました。私の行ったことは微々たることだとは思いますが、「食が大事」という意識をチームに根づかせることができたのではないかと思っています。

アスリートへの栄養指導のノウハウを確立できた3年間でしたし、非常に勉強になりました。私が学んだことや実践してきたことは冊子になって球団に残しており、入団した選手がそれを読んで食の大切さを学んでくれています。冊子を参考にして、現役生活が少しでも長く続くと嬉しいです。

オリックスとの契約が満了した後は、トレーナー、鍼灸師などを育成する専門学校でスポーツ栄養学の講師として生徒に教えていました。当時はまだスポーツ栄養学への理解が乏しく、最初に教えた生徒は3人。それでも翌年には数十人になり、やがてすべてのカリキュラムでスポーツ栄養学を教えることになりました。

週4日の勤務の傍ら、派遣管理栄養士という形で女子サッカーのINAC神戸レオネッサの栄養指導も行い、神戸女子大学が健康スポーツ栄養学科を設立するということで母校に戻りました。大学では、オリックス時代に気づいた中学生、高校生といった成長世代への指導・サポートをしっかりやりたいと考えていました。

いろいろな出会いからサッカー選手・チームへの栄養指導が多くなってきました。私の中では、京都橘高校(京都市伏見区)※3での指導がとても大きなものになっています。共通の知人を通じて米澤一成監督と出会い、栄養指導をする傍ら、データ収集も積極的に協力していただきました。

京都橘は今でこそ、インターハイ(IH)、冬の選手権出場の常連校になりましたが、私がかかわったころはまだそこまでの強豪ではありませんでした。ここでもオリックスと同様、米澤監督、選手たちの勝ちたい気持ちがとても強くて、真剣に取り組んでくれました。

米澤監督のすごい所は、自分のチームが取り組んでいることを他のチームにも共有して栄養の大切さを広めてくれました。普通なら、そういう話は外に出さないんですが、いいことはライバルとか関係なく伝える。素晴らしい人格に引っ張られて、私も高めることができたと思います。

日ノ本学園※4(兵庫県姫路市)の監督をしていらっしゃった田邊友恵さん(現:ノジマステラ神奈川相模原アカデミーダイレクター兼U-18監督)との出会いも私にとって大きな経験でした。

定期的な栄養講習、身体組成検査、個別の栄養相談、食品とコンディションに関するデータ収集とさまざまなことを行いながら、女子選手特有の生理現象を踏まえた指導ができたと思います。

田邊さんも栄養に関しては私に一任していただき、お互い信頼しながら動くことができました。やはり、指導者の方が食事や栄養の重要性を理解していらっしゃると、選手やチームの成長は促されると感じます。

男女の高校サッカーもさることながら、Jリーグでの成長世代への指導も行っていますし、競技問わず多くの場所で、特に成長期の食事・栄養摂取の重要性を知っていただくために飛び回っています。

※3 IH出場5回、選手権出場8回(準優勝1回)。多くのJリーガーを輩出。

※4 IH優勝5回、選手権優勝3回を誇る高校女子サッカー界屈指の名門校。

蓄積したノウハウを多くの人に知ってほしい

オリックスの経験に始まり、成長期世代を中心にこれまで経験を積んできましたが、大学に所属している以上、研究や後に続く人材の育成もしていかなくてはなりません。でも、もう少しだけ現場での指導は続けたいですね。

また、これまで私が培った知識やノウハウ、スポーツと食の関連性をもっと多くの人に伝えていきたいと考えています。今、「スポーツ栄養アドバイザー」という資格認定を行っていて、資格はどなたでも受検することができます。

栄養士でなくても鍼灸師やトレーナー、指導者などプロフェッショナルからスポーツを頑張っているお子様を持つ一般の方まで、自分が携わっているスポーツをしている人に栄養の知識を持っていただき、正しく成長していくためのお手伝いをしていきたいと思っています。

神戸女子大学健康スポーツ栄養学科では、学科内の必要なカリキュラムを取得し、合格するとスポーツ栄養アドバイザーの資格を取得することができます。有資格者には、講師登録制度も設ける予定で、私が携わっているスポーツ現場へ代わりに行っていただき、現場経験を積んでスポーツ界に栄養の重要性を広げてもらいたいと考えています。

<完>

成長世代への指導に力を注ぐスポーツニュートリショニストの先駆け【ニュートリションな人々 #04 ~坂元美子さん 前編~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するシリーズ企画。第4回目は、神戸女子大学・坂元美子さん。

坂元さんは、スポーツ栄養学がほとんど知られていなかったころからプロスポーツ現場での栄養指導に携わり、0からノウハウを確立してきた。特に、野球、サッカーの成長期世代の栄養指導・サポート経験が豊富で、チームの強化にも一役買っている。

長年の指導経験を後進に伝えながら、多くの人にスポーツ栄養学を知ってもらうべく、活動を続けている。

動画「すぽとりChannel」

体が弱かった子供時代、食で体が変化することを知る

「スポーツ栄養」がほとんど知られていないころから、スポーツ現場で活躍している坂元さん

今でこそいろいろなスポーツ現場で選手への栄養指導を続けていますが、子供のころは病気がちで満足に運動できなかったんです。小児ぜんそくを患っていて、体育の授業を毎回見学するような子供でした。

そのころを知らない人にこの話をすると、「え、うそ!?」と言われるんですよね(笑)。今はピンピンしていますし、あちこち飛び回っていますから。小児ぜんそくは体力がついてくると改善する傾向にあるんですが、なかなか良くならなくって。親も心配したと思います。

ぜんそくの治療のため、週1回注射を打ちに病院へ通う日々が続く中で、いつしか病気で苦しんでいる人を助けている看護師の仕事に魅力を感じるようになり、高校卒業後の進路は「看護師」と心に決めていました。

でも、比較的体力を使う看護師の仕事に不安を感じていた私の父親が「これからは栄養(管理栄養士)の時代だ」と。この言葉が人生を変えました。管理栄養士がどんな仕事かわからず、「へぇ、そんな職業があるんだ」くらいにしか思っていませんでしたが、「食から患者さんの助けになろう」と管理栄養士を目指すことにしました。

当時、管理栄養士の養成課程があった神戸女子大学管理栄養士養成課程を受験しました。実は、卒業生なんです(笑)。それで、大学4年間で栄養学の勉強をしているうちに、「私は何て恐ろしい(体に良くない)食生活を送っていたんだ」とがく然としました。

私の子供時代はちょうどインスタント食品やファストフードが身近になったころ。両親が自営業で不在が多く、私が妹に食事を作っていたんですが、何も考えずに加工食品や添加物たっぷりの料理を食べていました。その当時はおいしいと思いながら・・・。

それで、大学で知識や情報を得ると自然と食生活が変わって、食べる物も意識するようになりました。大学卒業時には調味料すら使用しない、自然の物を自然のままが美味しいと。とにかく体にいい物を摂ることに徹底していました。今ではそこまでしませんが(笑)。

食生活の改善を図ると劇的に体調が良くなり、幼いころから長く続いていた通院生活からも卒業できたんです。だから、食で体が変わることを身をもって体験していますし、自らの経験を指導現場でも生かすことができていると思っています。

スポーツニュートリショニストへの道は突然に!?

もともと「病院患者のための栄養サポート」を目指していたので、スポーツニュートリショニストになろうとは思っていませんでした。体が弱かったし、スポーツとは無縁の生活でしたから。大学卒業後、兵庫医科大学で研究室の実験補助をしていたんですが、そこでたまたまというか、運命の出会いというか、大きな出来事がありました。

ある時、大学の病院にオリックス・ブルーウェーブ(当時)の選手が受診しに来て、選手の診療が終わるまでの間、同行していたトレーナーと世間話をしていました。話の流れで、私が「管理栄養士なんですよ」と言うと、トレーナーの方が「シーズンオフ中にダイエットさせたい選手がいるから、メニューを作ってくれませんか」と依頼され、引き受けることにしました。

引き受けたのはいいんですが、当時はスポーツ栄養学の概念がなく、方法論が確立されておらず、相談する相手もいない。さて、どうしたものかと。スポーツ選手だからタンパク質がしっかり摂れるメニューを作成して提出しました。

その後、トレーナーの方から「選手の体調管理や栄養の指導をしてほしいので、定期的に来てくれませんか」と言われ、ボランティアでチームに通うことになりました。当時のオリックスは仰木彬監督の下、「日本一になるために新しいことをどんどんやっていこう」といったムードがあり、栄養面もしっかり考えていこうと。当時としては最先端のことをしていたと思います。

そして、1年間のボランティアを経て、球団専属の管理栄養士として採用されました。「3年間で結果を残してください」という内容で、チームの優勝に貢献すること以上に、選手一人ひとりに食への意識をしっかり植え付けることが重要でした。

2月1日の春季キャンプから帯同する予定で準備している最中に阪神・淡路大震災が発生し、どうなることかと思いましたが、無事チームとも合流できて、スポーツニュートリショニストとしての第一歩を踏むことになりました。

※ 昭和30年代の西鉄ライオンズ(当時)黄金期の二塁手として活躍した。現役引退後はコーチを経て、近鉄バファローズ(当時)、オリックスの監督を歴任。日本一1回、リーグ優勝3回を経験し、名将の呼び声が高い。イチローや野茂英雄ら、日本が誇るメジャーリーガーを育てた。

<後編へ続く>