<ランナー&走る前>使いやすいツナ缶でたんぱく質と脂質を補給!【高橋善郎のアスリート体感料理 #01】

料理家で世界を知るトライアスリートでもある高橋善郎さんのレシピ開発企画「アスリート体感料理」。第1回目は「ランナー」「走る(運動)前」がテーマ。

日ごろのトレーニングや大会出場時など高橋さんの体感を基に、どんな物が食べたいか、何を食べたらいいかを踏まえて、トライアスロンを構成する3種目、スイム・バイク・ランを愛する人たちに向けて、摂取するタイミングにも言及したスポーツフードを提案します。


世界を知るトライアスリートが考える「ランナーが走る前に食べたい物」とは?

運動をする人であれば一度は「走る前に何を摂るか」というのを気にしたことがあるのではないでしょうか?

普段の食事はもちろんですが、運動前後の食事はパフォーマンスに影響したり、疲れた体をケアしたりする点でも特に大事だと思っています。

そして、何を摂るかだけでなく、セットで考えた方がいいのが「時間軸」。

その時間軸はその人がどんな種目でどれくらいの強度かも踏まえて考えるのがベターですね。

僕の場合、普段のランニングトレーニング時は大体2~3時間前に食べてから走るようにしているんです。

「2~3時間前ってけっこう間隔があき過ぎでは?」と思う方もいるかもしれませんが、僕が主戦場にしているトライアスロンにおいては、レース当日もごはんを食べてからバイク(自転車)をセットしたり、スイム前の待ちの時間があるので、それを考慮してスタートする時間にお腹が過きすぎず、ちょうど体が軽くなるくらいといったところを目安にしているんです。

ただ、食べ物は嗜好品なので、人によって当然好みがありますよね。極論ですけど、自分の好きな物を食べることが一番だと思っています。

それを言ってしまうと話が終わってしまうので(笑)、今回はランナーが走る前に食べる物としてお勧めしたい「ツナ缶」で考えてみます。

ツナ缶は多くのメーカーが商品化しているだけあって、いろいろな種類を選べる楽しさがあります。保存がきいて手軽に使えるので、重宝する食材といえます。

たんぱく源としても期待でき、肉と比べて体内で消化するスピードが早く、体への負担が少ないんです。もちろん、たんぱく質の量や他の栄養素など比較すると食材によって異なりますが、これはあくまで「運動前に摂りたい食事」という意味で。

スポーツ選手にとって欠かせないタンパク質が豊富ですが、今回はツナ缶の中でも「オイル漬け」をうまく活用するのが特にお勧めです。

ダイエットをしている方にとって、脂質は天敵のように思えわれがちですが、脂質は三大栄養素の中で一番カロリーが高く、スポーツ選手にとってはむしろ効率のいいエネルギーだと僕は思うんです。

当然摂りすぎは良くないですが、ツナ缶の油には旨みも染みているのでそのまま使うも良し、みそ汁やサラダのドレッシングに少し混ぜたりと、活用法がたくさんあります。

今回はツナ缶と、ツナ缶に加えてたんぱく質が豊富な卵をメインに使用した「ツナ入りスタミナタルタルサンド」をご紹介します。


◎ツナ入りスタミナタルタルサンド

【材料(2人分)】

・食パン(8枚切):4枚
・ゆで卵:3個分
・ツナ缶(オイル漬タイプ):1缶(70g)
・ピクルス(薄切り):10枚
・マヨネーズ:適量
A) マヨネーズ:大さじ3
A) 練りからし/酢:各小さじ1
A) 粗挽き黒こしょう:小さじ1/4
A) 塩:少々

【作り方】

① 殼をむいたゆで卵は粗みじん切りにする。ツナ缶は軽くオイルを切る(切ったオイルは他の料理に活用)。
② ボウルにA)を混ぜ合わせる。①を加えてさっくり混ぜ合わせる。
③ 食パンにマヨネーズを塗り、ピクルス、②をそれぞれ半量ずつのせ、もう1枚の食パンではさむ。ラップで包んで5分ほど置き、もう1セットも同様に作る。食べやすい大きさにカットし、イタリアンパセリ、ミニトマト、粒マスタード(いずれも分量外:適量)と一緒に盛り付ける。

僕自身、手軽にサクッと食べられるサンドウィッチはトレーニングシーンではお馴染み。運動、レースシーンでは家で食べられないこともあると思うので、持ち運びしやすいのもスポーツ選手にとってはものすごく重要ですよね。

今回はツナ入りタルタルをサンドウィッチにしましたが、このツナ入りタルタルはアレンジが無限大。食べるドレッシング代わりにサラダにかけたり、焼いた肉や魚のソースにしたり、グラタンのベシャメルソース代わりに使ってオーブン焼きなんかもおすすめです。

とまあ僕自身のことも踏まえて書いたが、スポーツと食との関係性において「絶対」はないと思うんです。だからこそ、まずはどれくらいの時間にどれくらいの量を食べるのがいいんだろうと試験的に日常でトライアルしてみるのが正解に近づくステップだと思います。

<次回に続く>

 


高橋善郎 / Yoshihiro Takahashi

1988年 神奈川県生まれ

得意料理:和食料理 / 魚料理全般 / 和菓子 / アスリート系ごはん

ジャンル:和食 / 魚料理全般 / おつまみ / 健康・スポーツ / おもてなし / 酒類(日本酒、ビール 、ワイン)

モットー:「もっと料理を楽しく、身近に」

趣味:書道 / スポーツ(トライアスロン・バスケットボール)

【公式HP】   【ブログ】 【YouTube】  【Facebook】 

【Twitter】 @yoshiro_food

【Instagram】 yoshiro_takahashi 


高橋さんが経営する和食料理店「凧 HANARE」

住所:東京都世田谷区経堂1-19-7 セントラル経堂 B1F

TEL:03-6413-0790

料理家でトライアスリート!? 食×スポーツ・運動で生き生きとする人を増やしたい!【ニュートリションな人々 #06 高橋善郎さん】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介する永続企画「ニュートリションな人々」。6人目は、料理家でありながら、世界クラスのトライアスリートでもある高橋善郎さんが主人公。トライアスリート、料理家の視点から「食×スポーツで元気に!」を合言葉に、スポーツ、料理両分野での活躍が目覚ましい。

料理人でも研究家でもなく「料理家」

高橋さんが料理に興味を持ったきっかけは、父親が和食料理店を経営していたことだった。「小さいころから料理をしている父を見て育ちましたから、ほかの家庭より料理が身近でした。父の頼もしい調理姿にあこがれた半面、毎日帰宅が遅くて料理人は大変だなという思いもありましたね」と、当時を思い出す。

学生時代は、飲食店でアルバイトをするなどした程度で料理とは程遠い生活で、就職してキャリアを積んでいく将来を思い描き、まして家業を継ぐことも全く考えていなかったという。その考えが改まり、料理家になる決意をしたのは東日本大震災。食品メーカーへの就職が決まり、入社を控えていた時期に未曽有の大災害が日本を襲った。困っている人のために何かをしたくて、高橋さんはボランティア活動に積極的に参加した。ボランティアには高橋さんと同年代も多く参加し、将来への希望や不安を一緒に語り合ううちに、「自分の本当にやりたいことは何だ?」と考えるようになった。

「育ってきた環境などを振り返って、父親が人生をかけて作り出した味を後世へ残す使命みたいなものが芽生え、結局それが自分らしく生きることになるのかなと。この思いを実現できるのが料理家だと直感して退社後、必要な資格・知識を得るために勉強を始めました」

父の経営する料理店の手伝い、テレビ出演などのメディア露出、レシピ監修と、腕を磨き、経験を積んだ高橋さんは現在、父から受け継いだ味を守るべく、経堂(東京都世田谷区)で和食料理店「凧 HANARE (はた はなれ)」を切り盛りしている。

高橋さんはあくまで、「自分は料理家」という。料理研究家や料理人は技を追求したり、道を極めたりするイメージが先行する。そうではなく、料理の楽しさ、すばらしさをもっと身近に、もっと気軽に伝えていきたいと思っている。

 

世界を知るトライアスリート、実はバスケ少年

高橋さんは幼いころから活発で、運動神経も悪くなかったことから、小学校になるとサッカー、野球、バドミントン、バレーボールとさまざまなスポーツを経験。「バッシュをあげるから」と誘われたバスケットボールが最も性に合っていたらしく、みるみる夢中になった。中・高と部長を務め、選抜チーム(川崎市)にも選出された。

大学に入ってからはサークルに所属し、体育会系並みの練習頻度でバスケの腕を磨いた。アルバイトにも力を注ぎ、学業、バイト、バスケと大学生活を楽しんだ。「このころ、男子学生には珍しく、週2~3回は弁当を持参して友人と食べていましたね。若かったですし、知識もないですから、栄養よりも量といった感じのタッパー弁当がほとんどでしたけど(笑)」。社会人になってからは定期的に楽しんだり、中学生に教えたりと、バスケとは切っても切れない生活が続いていた。そんな高橋さんが、なぜトライアスロンをすることになるのか。始まりは、「先輩の一言」だった。

「今でも覚えているんですけど、先輩に『一緒に大会へ出よう』って言われてその気になって練習を始めたんですが、言い出しっぺの先輩は結局大会に出ず。わけもわからないまま、試合に出て惨敗しました。あれはいったい何だったのか(笑)」

トライアスリートとしてのスタートはほろ苦いものになったが、スイム、バイク、ランと3種目を行う競技自体には魅力を感じていた。その後、ビジネスマンが本気でスポーツに取り組むアスリートチーム「ダブルサバイバー」に加入。魅力的なパーソナルトレーナーとの出会いもあって、トライアスロンに本気で取り組むようになり、スタンダードディスタンス1)、アイアンマン2)に参加するようになった。

2017年からは強豪エイジとして積極的に大会へ出場し、18年にはITU(世界トライアスロン連合)世界トライアスロンシリーズグランドファイナルのエイジグループ3)日本代表として初めて出場権を獲得。19、20年(未開催)も出場権を得て、競技開始から約4年で世界レベルのトライアスリートに成長した。

1) 合計:51.5km(スイム1.5km・バイク40km・ラン10km)

2) 合計:約226km(スイム3.8km・バイク180km・ラン42.195km)

3) アマチュア・一般の意味。エイジグループの出場選手は、24歳以下、25~29歳、35~39歳など5歳ごとにグループ分けされ、同年代で順位を競うことになる。ちなみに、プロやオリンピックを目指す選手は「エリートクラス」と呼ばれる。

 

「食×スポーツ」で幸せになる人を増やしていきたい!

トライアスロンはニュートリションコントロールがカギともいえる競技。レース前後、当日の食事・栄養摂取には特に気を使う。高橋さんは、自分の体調と相談しながら食事・栄養摂取を考え、自ら調理することができる。料理家とトライアスリートの視点をもつ強みといっていい。

「トレーニングに気を取られて食を意識しなければパフォーマンスは落ちるし、食への意識が高くてもトレーニングしなければ、競技に耐えうる体は作れない。ですから、『食べてやせる』というのはあり得ないと思っています。基本は『食べて、動いて』ですね。どちらかに偏るのも良くない。つまりはバランスです」

高橋さんはトライアスリート仕様の体を保つために、たんぱく質の使い分けをする。体にキレがないと感じた時は魚系、筋肉をしっかりつけたい時などは肉系と、いろいろな食品からたんぱく質を摂取することで、栄養の偏りを防いでいる。ただ、栄養量や成分に気を取られ過ぎるのは良くないとも語る。

「基本的には好きな物を食べています。体が欲する物というべきか。栄養学の数字的なものも大事なんですが、選手としての感覚的な部分も大事。料理家とトライアスリート、両方の目線から感覚的な部分を伝えられるのではないかと思っています」。高橋さんが持つ独特の目線は、スポーツ現場でも評価されている。来たる東京パラリンピックのパラ卓球日本代表公認アスリートフードコーチに就任し、食の面から選手を応援している。

競技スポーツ、健康づくりのための運動、余暇としてのアクティビティ。スポーツの考え方が多様化する中、食も一緒に楽しむことで健康寿命が延びたり、リラックスできたり、パフォーマンスが上がったり、それぞれの目的が達成できるのではないかと、高橋さんは考えている。「食とスポーツ・運動が身近になって、生き生きする人が増えればいいと思いますね。そんな世の中になるために、僕自身もできることはやっていきたい」。

また、日本料理、和食を特に強みとしているため、外国人に認知されている「和食=ヘルシー」を絡めて、食(和食・日本料理)×スポーツをいずれは広めていけるようにしていきたい考えをもっている。

2020年はコロナ禍によって、高橋さんの店舗は少なからず打撃を受けた。トライアスリートとしての活躍も限定的になり、食×スポーツ・運動を結びつける活動ができなかったが、日本中が復活を目指している今こそ、高橋さんの持っている視点、考え方は大切になってくる。

※3月3日から月1回、トライアスリート、料理家の2つの視点を持つ高橋さんの連載コラムがスタートします!

 


高橋善郎 / Yoshihiro Takahashi

1988年神奈川県生まれ

得意料理:和食料理 / 魚料理全般 / 和菓子 / アスリート系ごはん

ジャンル:和食 / 魚料理全般 / おつまみ / 健康・スポーツ / おもてなし / 酒類(日本酒、ビール 、ワイン)

モットー:「もっと料理を楽しく、身近に」

趣味:書道 / スポーツ(トライアスロン・バスケットボール)

【公式HP】   【ブログ】 【YouTube  【Facebook】 

【Twitter】 @yoshiro_food

【Instagram】 yoshiro_takahashi 


和食料理店「凧 HANARE」

住所:東京都世田谷区経堂1-19-7 セントラル経堂 B1F

TEL:03-6413-0790

食環境から考えるサステナビリティの意義➁【スポーツ栄養の果たす役割 #08】

サステナビリティ(Sustainability)とは、「持続可能性」という意味で、将来にわたって、私たちの社会と地球環境を保ち続けていこうとする取り組みである——。前回はその全体像について詳しく紹介しました。

では、スポーツ栄養を通じた食環境は、サステナビリティにどのように貢献しているのか、あるいは貢献できるのでしょうか。今回は、その現状と今後の可能性について考えてみたいと思います。

例えば、オリンピックや世界選手権で活躍するトップアスリートたちは、日々のトレーニングや筋量の維持のため、動物性たんぱく質を日常的にたくさん摂取しています。ところが、あえて指摘されなければまったく想像も及ばないことですが、その一方で肉や乳製品などは生産過程において温室効果ガスを大量に排出するという負の財産も生み出してしまっているのです。

温室効果ガスはご存じの通り、人間活動によって増加したもので、二酸化炭素、メタン、一酸化窒素、フロンガスがあります。この中で、二酸化炭素は地球温暖化に及ぼす影響がもっとも大きな化石燃料由来の温室効果ガスです(国土交通省 気象庁のHP「温室効果ガスの種類」より)。

水力や太陽エネルギーなどのいわゆる再生可能型エネルギーとは全く異なる化石燃料を消費して、世界中を飛び回るアスリートたちにとって、だからといって罪はありません。とはいえ、ある意味、間接的ではあるけれども、矛盾を強いられる立場に身を置いているのもまた事実。しかし、スポーツ栄養の観点からいえば、この矛盾を解決することこそが、アスリートにとって持続可能な社会の実現への貢献を求められる大きな一助となるのではないかと考えるのです。

なぜなら、アスリートはフェアプレー、スポーツマンシップ、あるいは清廉性といった精神性を培いながら日々過酷なトレーニングに取り組んでいるという意味で、人々の模範となり、信頼するに足る人材だといえるからです。そういったアスリートたちが、サステナビリティの啓発活動に努めてくれることの効果は計り知れません。日本から世界に向けた説得力のある発信源になると間違いなく期待できるからです。

例えば、大豆やソバなどを工夫した日本の料理を食べてもらえば、温室効果ガスの排出量の少ない植物性たんぱく質の活用法を知ってもらうことになります。それによって、たんぱく質の過剰摂取による肝機能障害、あるいは腎機能障害を防ぐことになるし、ドーピングコントロール違反が問題となっているプロテインパウダーやサプリメントに頼らない食生活の教育にもなるでしょう。

東京オリンピック・パラリンピックでは、選手や関係者、さらに多くのスポーツファンに対して「食のおもてなし」が期待されています。日本には世界に誇る食文化があり、その伝統やおいしさばかりが注目されがちですが、実はダイニングの多様性にもあふれていることを忘れてはなりません。すなわち、日本におけるさまざまな食材の料理法や食文化の発信は、持続可能性というキーワードからも、世界のアスリートに向けても貴重な教育の機会となるのではないでしょうか。

このように、スポーツ栄養の果たす役割は、サステナビリティという観点から考えても、今後益々、重要になってくることは間違いないと考えています。

<次回に続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

食環境から考えるサステナビリティの意義①【スポーツ栄養の果たす役割 #07】

昨今、サステナビリティ(Sustainability)という聞きなれない言葉をよく耳にすることはありませんか? サステナビリティとは、「持続可能性」という意味で、将来にわたって、私たちの社会と地球環境を保ち続けていこうとする取り組みです。

例えば、CO2の排出量削減や再生可能エネルギーの利用促進、水質保全など、環境に配慮したさまざまな持続可能な取り組みが行われていることは、皆さんもご存じの通りだと思います。

そして現在では、環境面だけではなく経済活動や衣食住、さらにはスポーツの分野においても持続可能であることが世界規模で求められるようになってきているのです。

2015年の国連サミットにおいて、すべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられた、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標であり、2030 年を達成年限とし、17のゴールと169のターゲットから構成されています。

17のゴールは、①貧困や飢餓、教育など未だに解決を見ない社会面の開発アジェンダ、②エネルギーや資源の有効活用、働き方の改善、不平等の解消などすべての国が持続可能な形で経済成長を目指す経済アジェンダ、そして、③地球環境や気候変動など地球規模で取り組むべき環境アジェンダといった世界が直面する課題を網羅的に示しています。SDGsは、これら社会、経済、環境の3側面から捉えることのできる17のゴールを、統合的に解決しながら持続可能なよりよい未来を築くことを目標としています。

とはいえ、これらの目標は、各国政府による取り組みだけでは達成が困難。企業や地方自治体、アカデミアや市民社会、そして一人ひとりに至るまで、すべてのひとの行動が求められている点がSDGsの大きな特徴でもあります。まさにSDGs達成のカギは、一人ひとりの行動に委ねられているというわけです(外務省:『持続可能な開発目標 (SDGs)と日本の取組』より)。

近年では、東京オリンピック・パラリンピック開催に当たり、環境保全や人権問題などに貢献することが望まれ、2012年のロンドン大会から、このサステナビリティがソフトレガシーとして提言されるようになりました。

来年に延期された東京2020大会ですが、そこでは一日4万食を超える食事が提供される予定です。その食材については「持続可能性に配慮した調達基準」として明文化され、気候変動への対応や資源管理、自然共生都市の実現、人権や労働といった多様性などに十分に配慮した食材や国産農水産物が優先されることになっています。

このような取り組みは、世界中から集まるトップアスリートたちの健康や教育のためにも大変重要であることはいうまでもありません。スポーツ栄養を通じた食環境におけるサステナビリティの意義や具体例については、次回に譲りたいと思います。

<次回に続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

サーフィン競技における取り組み②【連載:スポーツ栄養の果たす役割 #06】

今回は、2019年に行われた世界ジュニアサーフィン選手権(米国・カリフォルニア)に帯同したときのお話をしたいと思います。

サーフィン選手にとって、海外での大会期間中の食事といえば、タコスとかピザ、ハンバーガーなどのファーストフードばかりであったことは前回述べた通りです。少ないサポートスタッフの中で、食料を確保することは大変で、とにかく「手っ取り早く手に入るもの」で済ませてしまっているということでした。スポーツニュートリショニストが取り組むジュニア選手の食環境整備として、これほどやりがいのある競技はないと感じたものです(笑)。

とはいえ、私たちがやるべきことに変わりはありません。日本の食事スタイル(3食を規則正しく)を遠征先においても踏襲してもらい、戦いの場であるビーチにおいては、ファーストフードではなく、おにぎりやサンドイッチ、あるいはバナナなど栄養に配慮した安全な補食の提供や水分補給に徹しただけです。

ビーチでは潤沢に食べ物が手に入るわけではありません。それこそ、ファーストフードにしか頼らざるを得ない環境でもあります。だからといって、スポーツニュートリショニストとのかかわりがない環境下においては、選手やコーチ陣に補食を準備もするということは大変な苦労だったと思いますし、ジュニア世代の選手に対して、自身で準備することまで求めるのはハードルが高すぎるともいえるでしょう。

ましてや、たとえ準備していたとしても砂浜には強い陽射しが容赦なく照り続けるため、食べ物も傷みやすい。したがって、衛生管理にも十分に配慮する必要があります。であれば、とりあえずタコスやピザで急場をしのぐという発想は頷けないわけでもありません。

そこで、私が取り組んだことは、食べ物、飲み物をクーラーボックスに入れ、温度管理を徹底し、その場、その場で選手のヒートの時間や体調に合わせて必要なものを取り出し、「今、このタイミングで!」と言って提供していくということでした。おそらくサーフィン界においては、ある意味、画期的な試みではなかったかと思います。

一方で、こんな後日談もあります。あるAという選手のマネジメント会社の方が「今回、松本先生が帯同してくれて一番印象に残ったことは何か?」と、A選手に尋ねたそうです。すると、「ヒートから上がってきたら、バナナとかおにぎりとかドリンクをくれた」と(笑)。

一般的な大人のイメージとしては、ニュートリショニストが、「バランス良くこういうものを食べなさい」、「こういうときにはこういう食事を心がけるべき」などといった模範的な栄養教育や最新のスポーツ栄養学についての講義をするのだと思っている。すなわち、理論的なことを選手に教育するために私が帯同していて、選手には、知識を学んでくることを期待されていたのでしょう。だから、子どもたちの答えには拍子抜けされていたようでした(笑)。でも、選手の言葉は言葉足らずですが、事実です。

この連載を第1回から読んでいただいたいる方々にはすでにご理解いただけていると思いますが、実はそれこそが私が自身の仕事として誇りをもって、最も広めていきたいと思っていたことです。なぜなら、いくら言葉で理解を求めても、実践が伴わなければ意味がなく、体感しなければ次の行動には移しにくいものです。

A選手はこのとき、ヒートの後には次に備えて、リカバリーをしっかりするために、補食をすぐに摂ることでパフォーマンスに影響が出るということを体感しました。そして、このことが心に残り、次からの試合では私が帯同しなくても、補食を用意しようと思ってくれるでしょう。スポーツ栄養は、実践力こそがものをいう世界なのです。

そういう意味において、サーフィン競技に「スポーツ栄養サポートとはこういうものである」ということを知ってもらい、選手の実践力をゼロから育んでいくうえでは、非常にフラットで肯定的な環境だったと思っています。これまでの慣習に左右されない高い順応力もあった。コーチ陣もスタッフも、私たちの役割にはとても理解があり、まさに最適な環境で仕事ができたといえるでしょう。

もしかするとサーフィン界こそ、スポーツニュートリショニストを最も活用してくれている、先進的な競技と自信をもっていえる日も、そう遠くないのではないかと思っています。

<次回に続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。