「アンチ・ドーピング」ってなんぞや!? #01

デメリットはとてつもないドーピング

ドーピング――競技スポーツをしている人にとっては、避けては通れない。スポーツを楽しむ一般の人にとって何ら関係のない話ではあるが、トップスポーツ選手にとっては、一生をかけて頑張ってきたことが一瞬で崩れ落ちる、デメリットが原子爆弾並みにとてつもない。ロシアで起きた一連の騒動をみても、その大きさは理解できるだろう。

トップスポーツ選手は、好成績を挙げるためにパフォーマンスアップのみを考えて日々を送っているだけでなく、口にするものにも最新の注意を払っている。華やかな活躍の裏にこうした“戦い”があるのだ。

この問題は、トップスポーツ選手だけでなく、薬品、食品、特にサプリメント業界、関連団体、利権もかかわってくるため、思った以上に難解、複雑。一昔前、「首を突っ込むと命が危ない」みたいな噂もあったほどで、情報が一切遮断されていた時期もあった。

実際に、関連機関に取材を試みたところ、「一切お答えしないことにしている」と門前払いだった。なぜ隠す必要があるのか疑問に思ったが、周辺からいろいろな話(相談や訴えなど)が自然と入ってくる中で、合点がいった。

すぽとりは「スポーツ(ニュートリション)に関する正しい情報を知ってほしい」を意義付けしている。したがって、スポーツニュートリションとかかわりの深いドーピングについて、これから知っている限り書ける範囲でさまざまな角度から伝えたい。

東京五輪が開催されなかったとしても・・・

新型コロナウイルスの影響で、すでに終わっているはずの五輪が1年後に延期された。これまで巨額を投資した分、中止の選択はないだろう。戦後復興のシンボル、国威発揚を狙った前回の1964年東京五輪とはまるで状況が異なり、開催されたとしても、穴ぼこだらけの五輪になる可能性もある。非常に難しい。

一方、「五輪にかける追加の費用があるなら、コロナで甚大な害を被った業界、人へ還元すべき」といった世論も根強い。東京五輪開催が決まった当時、日本では根付いていなかったスポーツニュートリション分野が日の目をみると大きな期待をしていたが、取材を進める中で開催を歓迎している人たちばかりではないこともわかった。「国費(税金)が費やされて、自分たちに何か還元されるの?」と。

ただ、五輪の開催が、スポーツ文化の発展に大きな貢献をしてきたのは事実。スポーツ科学をはじめとする最新の情報がアップデートされて各国に伝わり、スポーツが進化する。こうした歴史を繰り返してきた。

五輪開催決定からこれまで、少なくともスポーツニュートリション分野は活況に入った。欧米に後れをとってはいるものの、スポーツ・運動と栄養の重要性・関連性はある程度日本でも周知され、多くのスポーツ向けサプリメント・食品が誕生、新規参入も増えてマーケットは拡大した。特に、商品を提供する企業側のドーピングに関する意識や姿勢は劇的に変化した。五輪の開催がなければ、こうした動きは見られなかったはずである。

たとえ、東京五輪が開催されなかったとしても、準備期間中にじっくりとスポーツニュートリション分野は一定の成長をとげた。1年後の開催で爆発的に成長するものでもない。むしろその後が大切で、研究の質向上、一般への周知をどのように進めていくかが重要になってくる。

ワクチンが間に合ったとしても別の問題が浮上

スポーツニュートリションの話が交じってしまったが、ここから少しずつ本題に入っていきたい。

今、五輪開催とワクチンの有無が取りざたされている。ワクチンが開催の必須条件になると仮定して、出場全選手のワクチン接種は義務付けられる。だが、もしワクチンに禁止薬物成分の含有が判明した場合、全選手がドーピング違反という事態になる。もう開催どころの騒ぎではない。

ワクチン開発企業は、世界中の人の命を救うために創薬するのであって、禁止薬物を使用するか否かなど意識していない。五輪開催までにヒト試験、安全性のエビデンスを急いでそろえる義理も当然ない。

そもそも短期間で作れる代物ではないが、ワクチンが開発されたとして、禁止薬物の有無を検査するための時間は限られており、開催可否がいまだ決定していない現時点の状況を考えればなおさらだ。

ワクチンのドーピングフリーが不明、もしくは検査が間に合わないまま開催される場合、事実上ドーピング不問の大会になるのではないか。そうなると、「ドーピングやり得」なんてこともあり得る。

ドーピング“ノー”コントロール下の大会で成績を残して、果たして報われるのか。公平性が保たれない大会に意義はあるのか。やり得する選手が報われ、必死に頑張った選手が泣きを見る。そんな事態は目も当てられない。それこそ、死語になりつつある「アスリート・ファースト」が根底から覆される。加えて、ドーピング根絶を真剣に捉えて動いてきた関係者の努力が水泡に帰す。

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、「ワクチンがなくても開催可能」と発言している。この発言の裏に、ワクチン必須を開催の条件にすると、ドーピングコントロールの問題が出てくるため、あえて言及したのかと邪推してしまう。おそらく、そこまで考えてはいないだろうが。

まだ開発もされていないワクチンとドーピングに関しては、現段階で確かな知見を持っている人はいない。開催可否判断の時期が不明のため、あくまで仮定の話になる。1年延期、規模縮小とすでに特異な五輪になることが確定しているが、最も重視されるべき「公平性」を度外視し、開催ありきで物事が進められているように感じる。