変人、頑固、ブレない哲学…名将ビエルサが古豪リーズを再建中【海外トップのコンディショニング術 #04】

エル・ロコに率いられた進撃のリーズ

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、開催が1年延期されたEURO 2020が現地時間11日、ついに開幕した。ヨーロッパの主要リーグは5月下旬に閉幕したばかりで、サッカーファンにとっては寝る時間を惜しんで試合観戦する日々が続く。

EURO2020にも出場している多くの選手がプレーしているイングランド・プレミアリーグで2020~2021シーズン、異彩を放っていたチームは「リーズ・ユナイテッド」だろう。かつてリーグ優勝を果たしたこともある強豪クラブながら、長年下部リーグに甘んじて低迷を続けていたが、昨年17シーズンぶりに檜舞台へ帰ってきた。「リーズ、プレミア昇格」のニュースに胸を躍らせたファンも多かったに違いない。今季のリーズは久々のプレミアリーグにもかかわらず、9位でシーズンを終えた。強豪チームがひしめく中で、いきなりのトップ10入りはサプライズといって良い。

スーパースターこそいないものの、各国の“手練れ”をそろえたリーズが再び注目されるようになった最大の要因は、マルセロ・ビエルサ監督の手腕によるところが大きい。アルゼンチン人のビエルサは、クラブチーム、代表で数々の実績を残しいる名将だが、「エル・ロコ(変人)」というニックネームで知られるように、指導法、スタイルともに独特な存在だ。

現代の監督の大半がスーツを着てピッチサイドから指示を送るのに対して、ビエルサの普段着はクラブのジャージ。クラブが高級ホテルを仮の住まいとして用意しても、彼はソープ・アーチにあるチームの練習施設にほど近いアパートを見つけ、そちらに移ってしまった。仕事熱心で、あまりにも多くの時間を監督室で過ごすため、クラブが寝具や簡易キッチンを設営したほどだ。こうした頑として自分の考えを曲げないビエルサの哲学は、指揮を執るチーム全体に浸透する。

選手のすべてに目を光らせつつ、選手への思いやりも忘れないビエルサ

チーム全員にハードワークを求めるビエルサのチームでプレーするには、90分間走り続けられる体力が必要だ。アメリカのスポーツメディア「The Athletic」は、サッカーに関する情報を集積し、分析している「Skill Corner」のデータを紹介している。データによれば、2020-21シーズンのリーズは、プレミアリーグのどのチームよりもスプリントの数で圧倒的に上回った。そのため、1秒あたりにカバーしているエリアの広さでも、彼らは他チームを大きく上回る数値を記録。これだけの運動量をこなす選手たちに対するコンディショニングにも、ビエルサのこだわりが反映されている。

The Athleticによれば、ビエルサは日常的に選手の体重、体脂肪率なども徹底的に管理しているという。練習後や試合後に摂取するサプリメントや食べ物こそ違えど、彼は基本的にチーム全員で食卓を囲むように指示。そして、選手たちが隠れて甘い物などを食べていないかを監視するため、食事の席にはチームスタッフが必ず目を光らすほどの徹底ぶりだ。また、ホームスタジアムのエランド・ロードで試合が行われる前日の定宿にしているホテルにも、小銭でお菓子が買える自販機を撤去するよう頼んだというエピソードもある

プロスポーツでは当然のことになったが、アスリートにとって、試合が終わってから次の試合までにどれだけ肉体を回復させられるかは重要な意味を持つ。そのためには高たんぱく質・低脂肪で、できるだけ消化が良いメニューを選び、自然な栄養素を摂取する必要がある。

ピッチ上を常に走れる脚力、心肺機能を作り上げる練習も、ビエルサ独特のやり方が反映されている。その名は「マーダー・ボール(殺人ボール)」と、ちと物騒だ。この練習は、11対11という実戦を想定したもので、対戦相手を想定した細かな戦術指導も厳しいようだが、何よりも選手たちの体力を奪うのは、実際の試合とは違い、プレーが止まらないことだという。

スタッフがピッチの全サイドに散らばり、ボールがラインを超えたら即ボールを戻して再開。セットプレーの数も極めて少なく、テンポを落とすことなく走り続ける超過酷な練習を課されるのだから、選手たちも普段からコンディションを維持しておかなければ試合に出られなくなってしまう。

もちろん、ビエルサは選手たちに何かを強いるだけの監督ではない。これまでに監督を務めたクラブチーム時代と同様、リーズにも練習場の改築を要求し、トレーニングの合間に選手たちが身体を休められる部屋を設け、いつでもフレッシュなフルーツ、スムージーを摂取できる環境を整えた。

そして彼は、組織の長たる人間に不可欠な「ミスを認める」度量の持ち主でもある。2019~20シーズンのチャンピオンシップ(イングランド2部リーグに相当)でウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン(WBA)と対戦した時のこと。ビエルサは攻撃に厚みを加えるため、フォワード(FW)タイラー・ロバーツを後半開始から投入した。ところが、WBAの猛攻によって守備に費やす時間が増える展開になり、仕方なく75分にロバーツを下げてディフェンダー(DF)をピッチに送った。ロバーツも試合状況を理解し、この交代をやむなしと頭ではわかっても、心情としては受け入れるのは難しかった。ビエルサも選手の気持ちを理解し、試合翌日の練習の際にミーティングの時間を設け、選手、コーチ全員の前でロバーツに謝罪したという。

他の監督とは一線を画す指導者ながら、指揮をとったどのチームも勝たせてきたビエルサの組織マネジメント術は、昔から一切ブレていない。

昨シーズン終了後、リーズと2021~22シーズン終了までの単年契約に合意したと報じられた。ビエルサ体制となって4年目の来シーズン。ビエルサイズムがさらに浸透したリーズは、異彩を放つチームとしてさらに脚光を浴びることになりそうだ。

<次回へ続く>


菅野貴之 / Takayuki Kanno

海外スポーツ関連の媒体に翻訳記事、コラムを寄稿。