Z世代からプロまで、サッカーニュートリションならお任せあれ!【ニュートリションな人々 #05 ~鈴木いづみさん 後編~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介する永続企画「ニュートリションな人々」。久々となる第5回目の主人公は、博士(スポーツ健康科学)で日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士の鈴木いづみさんです(全2回)。

サッカーは血で戦う競技、体脂肪と鉄がカギになる

明治在籍時代に培った経験からサッカー栄養のベースを作った鈴木さんは、2000年からJリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉の選手寮の栄養アドバイザーとなる。2010年よりクラブと正式契約を交わし、計18年にわたって、トップから育成年代まで多くの選手へ指導・サポートし、コンディショニング面からチームを支えた。

「長くサッカーに携わってきた中でわかったことは『サッカーは血で戦う』です。体重と体脂肪率の管理に加え、血の中身をいかに管理するかが最も重要。つまり、持久力をサポートするヘモグロビンの量とフェリチン(貯蔵鉄)を長いシーズンにわたっていかに高値で維持するか。これがすべてといっていいと思います。体内で鉄が不足すると走れなくなりますからね。走ることが生業のサッカー選手が意識すべき点だと思います」

鈴木さんは現在、チーム契約のほかに、個人のプロサッカー選手と契約し、試合日程に合わせて1週間単位の栄養マネジメントを行っている。試合が日曜日の場合、前日(土曜日)、当日は高糖質食、試合後24時間(日、月曜日)は運動による筋損傷をケアするために、フェノール化合物(アントシアニンなど)、ω-3多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸、EPAなど)、ビタミンDなど抗炎症が期待されるエレメンツを含む食品の摂取を促す。その翌日(火曜日)はオフのためリフレッシュデーとして好きな物を食べてよい。ただし、翌日(水曜日)からチーム練習なので試合でロスした体重を元に戻す作業も同時に行う。体重が戻っている状態で、試合に向けて鉄を貯蔵するための食生活を試合前日まで続ける。週2で試合がある場合はさらにタイトなマネジメントになるものの、基本的には年間を通じてこの工程を踏み、厳しくチェックしている。

選手個人へのマネジメントは、労力がかかるうえに管理能力も問われる。そして、何より求められるのは「成果」だ。例えば、鈴木さんのサポートを受けた選手が「1年間ケガをしなかった」「出場時間がチームトップ」「スプリントパフォーマンスが前年より向上した」など、具体的な成果が出なければ次の仕事につながらず、ビジネスにもならないシビアな世界。鈴木さんは、あくまで成果を強調する。

「指導・サポートしたからには、絶対に結果を残さなければならない。これがフリーランサーとしての私の信条です。2020年はコロナ禍ということもあり、とても難しい仕事を余儀なくされました。強行日程による選手への負担は大きく、気を抜くとあっという間に体重が落ちる。外部との接触が制限されたことで採血もままならず、血液指標の動態がわからない。そういった中でとにかく体重管理には例年以上に細心の注意を払いました。それでも、シーズンを通じてベスト体重を一定に保てたことや、ケガをしなかったこと、安定的にハイパフォーマンスを発揮してシーズンを無事に乗り切ったことで、結果は出せたかなと思っています」

教育と研究、人とのつながりを大事に

鈴木さんが現在、ライフワークにしていることが2つある。「育成年代への教育」と「学び」だ。スポーツ栄養関係者に問われる、相反する課題に対して真剣に向き合っている。

育成年代への教育は、ジェフ千葉時代の同志でアカデミーコーチをしていた武田雄哉さんと連携し、選手・保護者への栄養教育を施す。武田さんはジェフ千葉を退団後、東京都世田谷区に本拠を置く「駒沢サッカークラブ」で副理事長に就き、未来のトップ選手への指導を行う。同クラブは、育成年代の男女サッカー、男女フットサルチームがあり、都内でも上位の成績を誇る古豪。鈴木さんをはじめとする各分野の専門家もチームにかかわっている。

「昨年4月から月1回、選手に向けてオンラインの栄養講習会を実施しました。サッカー選手に必要な栄養摂取、食品の選び方、さらには特殊な状況が続いている中で、免疫力を上げる食事や自粛期間中の食事に関することと、アドバイスは多岐にわたりました」

本来なら選手たちの顔を見ながら講義をして、理解の深化を促すが、オンラインが主になっている昨今、なかなか難しい。画面を見ただけでは選手が本当に理解してくれているのかもわかりづらい。選手の理解度を図るためにどうすればいいか。武田さんと鈴木さんは一計を案じ、「おにぎり選手権」を企画した。

「練習後に食べるおにぎり」をテーマに、選手たちが講習で学んだサッカー選手に必要な栄養を含む具材を使って、おにぎりを自作するというもの。そして、鈴木さんが専門家の立場から「おいしさ」「うんちく(食材の栄養情報)」「見ため」など、さまざまな角度から審査してランキングをつけた。詳細は後報するが、選手、保護者を巻き込んだおにぎり選手権は、選手たちの理解度を確認するのに大いに役立った。

「武田さんとは馬が合うというか(笑)。長い雑談の中でいろいろと話しているうちに、この企画が浮上しました。ほとんど武田さんのアイディアです(笑)。今後は他チームとの対抗戦とか、プロ選手との対決とか、幅を広げていければと思っています。選手が楽しく、競いながら参加できるスポーツ食育として普及させたいですね。オンライン時代でも工夫次第で、きちんと教育できることも示せたと思います」

育成年代への教育をする一方、スポーツ栄養研究の向上も忘れない。トップスポーツ現場での経験が豊富で、スポーツ栄養の発展に情熱を注ぐ鈴木さんだが、行き詰まりを感じた時期があったという。「対エリートアスリートでは現場経験だけでは勝負できない、しっかりとしたサイエンスがなくては」と。

一念発起した鈴木さんは順天堂大学院でスポーツ健康科学を学び直し、博士号を取得。企業との共同研究に携わったり、海外のスポーツニュートリションに関する最新情報を有志とともに翻訳したり、研究分野での実績を着々と積んでいる。

また、スポーツ関係者が集まる私的勉強会「すぽべん(SPOBEN」の活動も熱心に行う。すぽべんは栄養分野だけでなく、スポーツ医科学に関するさまざまな分野の研究者と実践者が集まり、自身の研究や活動内容を発表してディスカッションする場だ。

「少人数から始まったすぽべんですが、今では数十人規模になりました。いろいろな研究内容を聞くことで刺激されますし、とても参考になります。また、スポーツ医科学分野のHUB機能を持たせ、人と人、仕事と仕事をコネクトすることにも注力しています。興味のある方はぜひご参加いただきたいですね。参加要件はすぽべんメンバーの紹介があること、加入1年以内に自身の研究に関するプレゼンの意思があることです。多様なパッションに触れるとともに求める情報がきっと見つかるでしょう」

スポーツの先行きが不透明な中でも「とにかく楽しく仕事をさせていただいています」と、笑顔で話す鈴木さん。自身が組み立てた栄養マネジメントが成果につながった時の達成感は他では味わえないという。

鈴木さんは、厳しさもやりがいも感じながら、スポーツ栄養の最前線で活躍を続けている。「10年後はスポーツ栄養分野がもっと発展しているはずなので、その時にいい仕事ができるように常に勉強を続けています」と、その目は未来を見据えている。

<完>


鈴木いづみ / Izumi Suzuki

博士(スポーツ健康科学)、日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士、順天堂大学スポーツ健康科学部 協力研究員、とちぎスポーツ医科学センター 協力栄養士

1990年 女子栄養大学栄養学部栄養学科 卒業。1990~1998年 明治製菓(株)ザバススポーツ&ニュートリション・ラボ。2004~2013年 宇都宮文星短期大学地域総合文化学科 准教授。2015年 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士前期課程修了。

アトランタ大会(1996年)女子バスケットボール日本代表、ロンドン大会(2012年)競泳日本代表・萩野公介選手など、五輪選手への指導・サポート歴多数。ジェフユナイテッド市原・千葉の全年代の栄養教育に携わった。現在は、Jリーグ 北海道コンサドーレ札幌、および個人のプロサッカー選手との契約のほか、、地域のタレント発掘育成事業など育成年代の教育に力を注いでいる。

Z世代からプロまで、サッカーニュートリションならお任せあれ!【ニュートリションな人々 #05 ~鈴木いづみさん 前編~】

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介する永続企画「ニュートリションな人々」。久々となる第5回目の主人公は、博士(スポーツ健康科学)で日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士の鈴木いづみさんです(全2回)。

「いい仕事をすれば必ず次につながる」

全世代のサッカー選手へ指導・教育に力を注ぐ鈴木いづみさん(クリックで画像拡大)

育成年代からトップのサッカー選手へのサポート・指導に強みをみせる鈴木いづみさん。研究、現場の両方で経験が豊富なスポーツニュートリショニストの一人だ。

プロ意識を常に持ち、チームやプロ選手から課されたミッションに対し、経験に裏打ちされた知識・ノウハウを駆使して成功に導くための任務を遂行する。プロとしての矜持を鈴木さんはこう言い切る。

「スポーツ栄養の仕事はブーメランなんですよね。いい仕事をしていれば、良い結果が自分に帰ってきて、それが必ず次につながる。逆もありますけどね(笑)。でも、独立してからも途切れることなく仕事をいただけているのは、この思いでずっとやってきたからです」

幼いころから活発だった鈴木さんは、スポーツ中心の学生時代を過ごしたという。高校生になるころには、体育教師になることを思い描いていた。ところが、担任の教諭に進路を相談したところ、「体育大学を出て、地元(長野県)に戻って教員採用試験に受からなかったら、つぶしがきかないよ」と、現実を突きつけられた。日ごろから気の置けない間柄の恩師の言葉に、鈴木さんは「確かに」と納得してしまった。そして、スポーツの次に興味のあった「栄養」の道を志すことにした。

進学した女子栄養大学で、栄養学の基礎を学ぶかたわらで、運動生理学も学んだことから、自分の経験・興味、スポーツと栄養学が合わさってスポーツ栄養の道へ。当時は、「スポーツ栄養」「スポーツニュートリション」という言葉がほとんど知られていなかったにもかかわらず、鈴木さんは突き進んでいく意思を固めるのだった。

スポーツ栄養がやりたんだけど…

鈴木さんは大学卒業後、「ザバス」ブランドを立ち上げて間もない明治製菓(現:明治)に入社。健康産業事業部に配属され、顧客に健康・栄養情報を提供するニュートリションセンターで仕事をすることになった。

「上司はどうも、私の外見や雰囲気からスポーツとは無縁だと思っていたようで(笑)。それで、同期がザバスに配属されて、私がセンターに。その後、私がスポーツ分野に強い関心があるとわかって、ザバスへ異動することになったんです。そこがすべてのスタートになりました」

思わぬところで道は開け、晴れてスポーツニュートリショニストの第一歩を踏み出した。入社2年目の夏に、日本陸連長距離マラソンブロック日本代表選手団の高地トレーニング合宿へ科学委員会からの派遣というかたちで帯同することになり、選手への栄養指導と食事管理を任された。ちなみに、当時の代表にはスポーツ医科学分野の研究者が帯同しており、日本でも医科学の観点から選手を強化する取り組みが始まっていた。まさに、スポーツ医科学の黎明期。研究者たちに交じり、入社2年目の鈴木さんは研究のためのデータ取得、方法論を0から確立していった。

選手のエネルギー摂取量、各栄養素の摂取量をすべて把握し、高地環境の下でヘモグロビン量がどう変化するのか。カロリーとの関係性はどうなっているのか。きちんとデータを取って分析し、世に出してスポーツの強化につなげる。それがミッションだと思い、懸命に取り組んだ。

「毎日の栄養データの管理もそうですし、三食数十人分の食事を用意するのも大変でした。それでも、とにかく楽しかったですね。今思えば、当時一緒に過ごした選手たちがのちのメダリストだったり、実業団や代表の指導者になったりしていて、今でもつながりがある。本当に貴重な経験をさせていただきました」

毎夏の高地トレ帯同を3年続けた後、プロサッカーチームの指導・サポートに携わる。折りしも、Jリーグが産声を上げた時。当時の明治はプロチームを積極的にサポートしており、栄養の知識・現場経験を持つ管理栄養士は重宝された。鈴木さんは、プロサッカーの誕生と歩を合わせて指導・サポートを通じた栄養の重要性をプロに浸透させ、スポーツ栄養学の価値を高めていったのだった。

<後編へ続く>


鈴木いづみ / Izumi Suzuki

博士(スポーツ健康科学)、日本スポーツ協会公認 スポーツ栄養士、順天堂大学スポーツ健康科学部 協力研究員、とちぎスポーツ医科学センター 協力栄養士

1990年 女子栄養大学栄養学部栄養学科 卒業。1990~1998年 明治製菓(株)ザバススポーツ&ニュートリション・ラボ。2004~2013年 宇都宮文星短期大学地域総合文化学科 准教授。2015年 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士前期課程修了。

アトランタ大会(1996年)女子バスケットボール日本代表、ロンドン大会(2012年)競泳日本代表・萩野公介選手など、五輪選手への指導・サポート歴多数。ジェフユナイテッド市原・千葉の全年代の栄養教育に携わった。現在は、Jリーグ 北海道コンサドーレ札幌、および個人のプロサッカー選手との契約のほか、、地域のタレント発掘育成事業など育成年代の教育に力を注いでいる。

<特集:スポーツ貧血 ~応用編②~>赤血球の役割とメカニズムを理解しよう【スポーツ栄養の果たす役割 #14】

今回は<特集:スポーツ貧血>と銘打って、選手のパフォーマンスを妨げるスポーツ障害について、基礎編は神戸女子大学・坂元美子先生、応用編は松本先生と、2人のスポーツ栄養学の専門家が解説する。

「スポーツ貧血」について、「聞いたことがない」「復習したい」という人は基礎編

赤血球は酸素運搬能力と関連

赤血球の寿命は通常120日程度で、2~3週間から1カ月の半減期に生成と破壊(老廃物として体外に排出)が繰り返されています。ところが、ジャンプなどの物理的衝撃によって赤血球の圧迫破壊が繰り返されると、必然的に生成と破壊のターンオーバーが早まり、それに伴って成長した赤血球よりも未成熟の小さな赤血球の数ばかりが増えてくるということになってきます。

このメカニズムを赤血球を「車」、ヘモグロビンを「イス」、そして酸素を「人」に例えて解説してみましょう。

赤血球は酸素を筋肉や各組織の細部、さらには脳により多く、また速く運搬するための車。したがって、車(赤血球)とイス(ヘモグロビン)がたくさんあると、たくさんの人(酸素)を運べます。ところが、車の数が減る、あるいは車の数は同じでもイスの数が減ってしまうと、たくさんの人を運ぶことができません。つまり、車の積載量が小さくなってしまうと、酸素運搬能力も、それに伴って低下してくるというわけです。

ただ、積載量が減っても(小さい赤血球であっても)台数がたくさんあれば、一つ一つの積載量は少なくてもなんとかなるもの。ところが、急いでつくらなければならない緊急事態においては、そのための材料も通常の倍以上求められるということでもあります。つまり、小さな赤血球であってもその材料が潤沢にあれば問題はないけれども、ない場合には生成が追い付かずに赤血球は減少し、結果として鉄欠乏性貧血に陥っていくというわけなのです。

赤血球数の減少と運動パフォーマンス

では、赤血球の絶対数が少なくなり酸素がスムーズに運べなくなってしまうとどうなるのでしょうか。筋肉や脳にそれが十分に運べないということは、いわゆる酸欠状態。すると、筋肉に対しては筋持久力の低下や疲労の回復がネガティブに作用し、傷害のリスクが高まるようになり、一方、脳に対しては思考力・判断力の低下、ひどい場合には慢性的な頭痛からトレーニングや競技に対する意欲の低下の原因にもなったりします。

ちなみに、貧血というと、‟朝礼で倒れる女子”というイメージが定着していますが、基本的には、「動機・息切れ」「めまい」「たちくらみ」「だるい」「眠い」「疲れた」となるのがスポーツ貧血の症状です。貧血の子がたまたま長時間立たされていると、もともとの赤血球が足りていないので脳に酸素が回らなくなってフラフラッと倒れてしまうことがありますが、倒れること自体は低血糖でも脱水でも起こり得るので、貧血がすべての要因ではないことも一つの知識としてインプットしておくとよいでしょう。

また、酸素こそが原動力そのものである持久系競技では、赤血球の減少はまさに危機的状況といっても過言ではなく、競技力の低下が顕著となります。なぜなら、赤血球によって酸素がスムーズに運べない状態で無理をすると、心臓が頑張って心拍数を上げるようになるからです。拍数を増やしてあげれば、それだけ酸素を運べるようになります。でも、それはパフォーマンスの発揮においては持久能力の著しい低下を意味します。だからこそ持久系競技では、前回述べたように過剰なまでの貧血対策に腐心するのです。もちろん、それ以外の競技であっても、貧血は絶対に起こさないほうがいいことはいうまでもありません。

長期的な貧血症状では胃腸の不良を来すことが知られ、食欲不振や嚥下困難などにより、大きく体調を崩す原因になります。また、慢性的な貧血は女性において、月経不順や無月経症候群の原因となることも報告されています。すなわち、スポーツ選手にとって貧血は、競技におけるパフォーマンスの低下の原因となるだけでなく、将来にわたって健康を害す原因となる危険性があることをしっかりと認識しておくことが大切です。

<次回に続く>


松本恵/まつもと・めぐみ

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

現場で役立つスポーツ栄養学の知識③【スポーツ栄養の果たす役割 #12】

日のトータルで栄養バランスを考える

例えば、フィットネスインストラクターの方々のような不規則な生活を強いられながら、かつ一定以上の運動量を求められる生活環境に対応するためにはどうすればいいのでしょうか?

私たち公認スポーツ栄養士がスポーツ選手のサポートを実施する場合、大会運営や日程、あるいは試合の進行状況、天候や開催時期などに応じたサポート活動を行っていきますが、その方法がそういった方々の食事対策に通じるヒントにもなると考えます。

例えば、1~2時間おきに試合があったりするケース。これをレッスンに置き換えてみましょう。仮に、次のレッスンまで約2時間空くのであれば、固形物であれば問題ないので、小さなおにぎりやバナナを食べたりする。あるいは、最近ではさまざまなスポーツフードやゼリー飲料などのラインナップも豊富で、なおかつその内容も糖質だけでなく、たんぱく質や脂質が含まれている商品など、バリエーションには事欠きません。

したがって、それぞれの状況に応じて、時間のないときには食事の代わりにするなどし、朝もしくは夜、時間のあるときにたんぱく質や野菜をしっかり食べるという方法でもよいでしょう。つまり、1回の食事で無理してバランスをとろうとは思わなくてもよいということ。1日トータルで考えてみるのです。すると、少し肩の荷が下りた気になりませんか?

昼食に時間がとれないとき、あるいはレッスンの合間などには糖質を中心に。糖質は、エネルギーとして必要である一方、消化・吸収には負担がかかりにくい。そこで、隙間時間におにぎりやカステラなど、油脂分の少ないものをちょっとずつ食べてエネルギーを補給しておくのです。

そして、レッスン終了後やトレーニング終了後には成長ホルモンの分泌が高くなるので、たんぱく質と糖質を速やかに摂る。同時に摂ることで、筋タンパクの合成を高めることが期待できます。その際には、プロテインに限らなくても、魚肉ソーセージや今流行りのサラダチキンでもいいし、牛乳・乳製品でもよいでしょう。そして、家に帰ったら、サラダと果物を食べて就寝するという具合です。

たんぱく質は消化・吸収に時間がかかるので、夜遅く食べると、翌日まで胃腸の疲れがとれないこともあります。また、レッスンの合間に摂ると胃腸に血が集まって身体が重く感じるようになり、その結果、レッスンが辛くなってしまうことがあるかもしれません。したがって、たんぱく質は全プログラム終了後に摂るよう心がけましょう。

以上をまとめてみると、糖質と水分はこまめに摂り続け、たんぱく質はレッスン終了後速やかに。そして、野菜と果物は朝、もしくは夜などゆっくり食べられるときにしっかりと食べて寝れば、胃腸に疲れを残さずに、1日バランスよく食べられたということになります。

日間で帳尻合わせ

1日で帳尻を合わせるのが難しい場合には、もう少し余裕をもたせてもいいかもしれません。特に油脂系の栄養素(脂溶性ビタミン:ビタミンA、D、E、Kなど)であれば、3日間で帳尻を合わせてもよいと思います。

例えば、脂質に溶けやすい緑の濃い緑黄色野菜であれば、身体に蓄積する時間も長い。したがって、「今日の食事には緑黄色野菜が入っていなかったので、明日は必ず食べよう」でもいいのです。

ただし、果物や色の薄いキャベツ、レタスなどの野菜に入っている食物繊維やビタミンC(水溶性ビタミン)は蓄積できないので、できるだけ毎日食べるよう心がけたいものです。

このように、3日間で帳尻を合わせるように心がけ、さらにトータル1週間で考えたとき、今週はうまく食べることができたという、少し長い目で見た捉え方であれば、たとえ思い通りにいかなかった日が1日、2日あっても、ストレスがかかることなく実践できるのではないでしょうか。ただし、それ以上で合わせようとするのはNG。なぜなら、ヒトの身体は約2週間バランスの悪い食事が続いてしまうと、代謝が変化して太ったり、痩せたりしてしまうからです。

言い換えれば、悪い習慣は1週間のうちに修正したほうがいいということであり、さらにいえば、身体を絞っていこうと思ったら、2週間以上続けなければ効果は期待できず、すぐにリバウンドしてしまうというわけです。

逆に、1週間程度で痩せたといっているのは、ぬか喜びに過ぎず、決して代謝が変わってきて痩せているわけではなく、実はほとんど脱水によるものだということ。要は、単にスポンジをキュッと絞ったら、水分が溢れ出たというだけの状態なのです。

また、バランスを考慮するという意味では、PFCバランスも重要です。一般的な比率としては、たんぱく質(P)約20%以下、脂質(F)20~30%、炭水化物(C)50~70%。ちなみに、現在一般の人たちが行っている糖質制限の場合、その多くがこのバランスを崩すことから入っています。

しかしながら、公認スポーツ栄養士がスポーツ選手と対峙しながら行う栄養指導では、この考え方は否。したがって、減量を主体とした体重コントロールを行う場合には、PFCバランスは保ったまま、カロリー全体をスケールダウンさせていくことがポイントとなることも付け加えておきます。

<次回に続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。

現場で役立つスポーツ栄養学の知識②【スポーツ栄養の果たす役割 #11】

「野菜は必須!」 という基本

食事・栄養の基礎・基本は何かと、改めて問われれば――。またそれか、と思われるかもしれませんが、やはり『野菜を中心とした食事をバランスよく!』。これに尽きるといえるでしょう。

なぜ、野菜が中心かといえば、食物繊維やビタミン・ミネラルを豊富に含んでおり、かぜやケガの予防はもちろん、メタボリックシンドロームの予防、あるいは貧血や熱中症の予防にもなるからです。

また、ビタミンCを多く含む食品は、体内に蓄積できないので、日々の摂取を欠かすことはできないという理由もあります。つまり、ヒトの身体が健やかに機能するという意味では、「野菜を中心に!」というのはすべての人に共通した大前提になるというわけです。

ちなみに、USOC(United States Olympic Committee=アメリカオリンピック委員会)のアスリートレストラン(https://www.teamusa.org/nutrition)においても、通常のトレーニング時においては野菜をワンディッシュのうち半分とるようにと指導されています(トレーニングの多い日と試合の日においてもお皿の4分の1程度)。

つまり、外国人選手は肉ばかり食べているから強いなんていうのは、もはや時代遅れのナンセンス以外のなにものでもない。こういったことも正しい情報として認識しておきたいものです。

したがって、指導者や運動実践者の方々であればなおさらのこと、まずは『野菜は必須!』というルールを基本として、そのうえで目的や生活(仕事)環境に応じてさまざまなバリエーションを活用したり、あるいはアレンジを加えるという、まずは健康第一の本来の考え方に切り替えるべきではないかと思います。

飛び道具”を活用するタイミング

例えば、指導者の中でも一日に何本もレッスンを抱えるフィットネスインストラクターの方々の場合、その運動消費量はアスリートに勝るとも劣らないといえるでしょう。ましてや、どの時間帯であっても質の高いレッスンを提供するためには、欠食なく規則正しく食べることが絶対条件となります。ところが、言うは易く行うは難し。おそらく規則正しくとは真逆の不規則な仕事環境を強いられることによって、その条件は十分に満たされていないのが現状ではないでしょうか。

私が教えていた卒業生の中には、インストラクターとなって活躍している教え子も少なくないのですが、その教え子たちが社会人になってから一様に痩せていくのです。これは、明らかに運動による消費エネルギーに見合った摂取エネルギーがとれていない証しといえるでしょう。レッスン過多になると、疲労の影響で食欲もなくなり、次第に痩せていくという悪循環に陥ってしまっているのです。

アメリカスポーツ医学会では、こういった状況をアスリート特有の問題であるlow energy availability(利用可能エネルギー不足)と定義し、警鐘を鳴らしています。こうしたエネルギー不足は、女性の場合、月経周期異常や生涯にわたる骨粗しょう症のリスクを高める可能性を秘めており、女性アスリートの三主徴(Female Athlete Treard)として注意喚起されています。

こういうとき、「それでも基本通りに食べなさい」と正論を振りかざしても、問題はなかなか解決するものではありません。むしろ、それはさらなるストレスとなってしまうものです。したがって、こういったケースでは、いや、こういうケースだからこそ、前回述べた‟飛び道具”を緊急避難的に活用すべきではないかと考えます。

例えば、私は、そんな彼女たちに対して「1日1つ、バニラアイスを食べてから寝るように」といったアドバイスをすることがあります。なぜなら、それくらいしなければエネルギーが全く足りていないからです。心身ともに疲弊しているときには、胃腸も弱ってしまっています。いわゆる、これはたくさん食べるよりも高カロリーの食品を少量食べるという考え方です。というのも、食べたものを消化するには、それだけでもエネルギーが必要だから。つまり、疲弊しているときは、たくさん食べなさいといっても、それを消化するエネルギーさえないときもあるというわけで、その究極の状態が点滴といえるでしょう。

ただし、これはあくまでもケガをしたときの‟応急処置”と同じ。したがって、現在の自分に最も適した食べ方を模索し、食事・栄養面からもコンディションを整える術をいち早く身につけることが重要であることはいうまでもありません。

<次回へ続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。