【対談】才賀紀左衛門(格闘家)×杉本健勇(サッカー) ~メンタル編~

アスリートはコンディショニングやパフォーマンスを上げるために、日ごろどのようなことを考えているか。プロ格闘家・才賀紀左衛門選手とプロサッカー・杉本健勇選手が対談する。

共に大阪府出身でプライベートでも仲がいい2人は、プロが持つ思いや苦労を共有し、互いの競技生活に生かしている。今回は、メンタルを中心に2人の考えを探る。

ゲン担ぎよりも食事のルーティーン

杉本健勇選手(以下、杉本) 食事とつながってくるんですが、試合前に何を食べるか、試合時までに何を食べるかとか、そういう物はだいたい同じですね。ただ、スタジアムに入ってから何かをやる、例えば右足からピッチに入るとか、そういうのはありません。細かくやっている選手はいるんですが、僕は一切なくて、それこそ食事の部分だけですね。

これ食べたら得点取れたとかありますけど、そういうのは本当にたまたまだと思っているので。以前は僕もゲンを担いでやっていた時期もあるんですが、トレーニングでも食事でも継続することが力になってくるので、今はそういうのはありません。

ラグビー日本代表の五郎丸歩選手の活躍でルーティーンが脚光を浴び、いろいろな人が取り入れました。もちろん僕もいい手法だと思っていますけど、それより自分の感覚を信じたいですね。

才賀紀左衛門選手(以下、才賀) 格闘技は1人で目の前の相手を倒さないといけないので、メンタルが物をいうスポーツだと思っています。試合に向けていくらみっちりトレーニングを積んでいても、気持ちが入っていなければパフォーマンスも発揮できません。

健勇と一緒で、気持ちを高めるための”食事のルーティーン”はありますね。計量が終わった後は、年齢を重ねて知識や情報が入ってきて多少変わってきますけど、基本的には食べる物は変わっていませんね。

個の結果とチームの結果

杉本 格闘技って、もちろんサッカーとは全然違うし、年間通して試合数も少ない。僕の場合は毎週試合があって、そのたびに良くなかったこととか、反省点をすぐに検証して、いろいろな方法を試しながら改善していくことができるんですけど、なかなか難しいですよね。どうやって対応しているんですか?

それに、減量って言葉でいうのは簡単だけど、本当にしんどいと思うんですよ。僕はやったことないんですけど、モン君を見ていると本当にすごいと思います。

才賀 パフォーマンスを発揮できる時は、「いつでも試合できるぞ」って気持ちも入っているし、体重もベストをキープできている。反対に、パフォーマンスが発揮できない時は、体重のブレもあるし、ストレスもかかってくる。経験を積むごとに自分なりにポイントっていうのはわかってきていて、自分でコントロールしているって感じかな。

格闘技は個人競技だから自分との闘いに集中すればいいけど、サッカーの場合、出場できる人数も限りがあって、ポジション争いから始めないといけない。大変だと思うわ。

杉本 確かにそうなんですけど、個人競技って自分のパフォーマンスがもろに結果に出るじゃないですか。サッカーは、パスを出してくれて自分が得点できるとか、共同作業があって成り立つ競技。勝っても負けてもチーム全体の評価になってくる。僕は個人競技をしたことがないので、その点はシビアだと思っていますけど。

才賀 団体競技って、1人がいいパフォーマンスを発揮できたとしても、例えばパサーの調子が悪くてタイミングが合わなくて得点できないとか、チーム全体で気持ちを合わせないと崩れてくると思うし、結果にも反映されない。そういった難しさはあるよね。

杉本 本当にそうです。自分が好調でも結果に必ずつながるわけではないですし。FW(フォワード)は点を取るのが仕事なので、「3点取られても、俺が4点取ってやる!」って意気込むんですけど、そんなにうまくいかない。

やっぱり、チームが試合に勝てなければうれしくないし、悔しい。ただ、試合に勝ったとしても自分が得点を決められなければ、気持ち的にも沈んでしまいますね。「自分が得点を取って勝ちたい」というのは常に持っています、やっぱり。

才賀 健勇が出ている試合を見てても、「今のは健勇に渡せよ! フリーだろ!」みたいなのがあるじゃない。いいポジションを取っていてもパスが来なかった場合、結構フラストレーションはたまるよね。

そこで、不満を表に出すと、チーム全体に悪影響を及ぼすし、自分をうまくコントロールしないといけないんかなと思う。俺なんかは、目の前の相手を倒すことで、ある程度解消されるんだけど。

杉本 いいポジショニングしていても、パスが出てこないなんてことは日常茶飯事なんで。練習でも絶対ありますし。

才賀 健勇が相性いいなと思っている選手とプレーすると、そういうのはないの?

杉本 相性っていうのはもちろんありますし、いつも相性のいい選手とプレーできればいいんですけど、それは自分では決められないじゃないですか。出場する選手を決めるのは監督なんで。

だから、出場する選手同士でコミュニケーションをとるんです。「俺がこう動いたときは、ここにパスを出してくれ」とか。求め合いっていうんですかね、そういうのはすごくやっていますね。それでも、合わないことの方が圧倒的に多いんです。

メンタルを強くするのではなく、考え方を変えてみる

杉本 僕はメンタルが弱いと思っていて。

才賀 え、そうなんだ。

杉本 今でこそいろいろな経験を積んできて、心の切り替えができるようになってきたんですけど、若い時はシュートを1本外しただけであとのプレーに影響して全くダメになるとか。そんなのばっかりでしたよ。だから、メンタルは、トレーニング、食事と同様、とても大事だと思っています。

才賀 俺の場合は、パフォーマンスを発揮できるメンタルの状態っていうのは、いかに日常のストレスを減らすかということかな。

杉本 僕はプロサッカー選手をやっていますけど、そのほかの競技を含めて「メンタルが弱い」という選手の方が断然多いと思っています。「メンタルを強くする」という思考を持つより、「考え方を変えてみる」という発想の方がいいんじゃないかと。

僕自身、いろいろな経験をした後にそこに気づいて、それからは自分の中で気持ちの整理がつくようになりましたし、パフォーマンスも良くなってきました。

才賀 何に対してメンタルが強い、弱いというのもあるよね。

杉本 確かに。

才賀 俺は個人競技だけど、子供にはチーム競技をやらせたいね。社会に出た時に1人で生きていくってなかなか大変。健勇はメンタルが弱いっていうけど、その点をチームメイトが補ってくれたり、健勇自身も補ったりする時もあるわけじゃない。

みんなでチームを理想の形に作っていく過程で、協調性とかサポート意識とか、うまくいかなかった時の対応の仕方、それこそメンタルが培われるわけで。そういう点を学ぶ経験をさせたいよね。俺もそういうのもっとやっとけば良かったんだけど(笑)。

杉本 メンタルって本当に難しいです。僕もめちゃくちゃ落ち込んだ時期もあるんで。それでも喜怒哀楽を表に出さず、いかに平常心を保つかってことも大事だと思います。

才賀 ま、そうだね。人それぞれ、周囲の環境とか生まれ育ってきた背景とか違うし、俺はとにかく何でもプラスに考えるようにしているわ。

<完>


杉本健勇(すぎもと・けんゆう)

1992年11月18日、大阪府生まれ / プロサッカー選手

所属クラブ:セレッソ大阪→川崎フロンターレ→セレッソ大阪→浦和レッズ

高校2年時にセレッソ大阪(下部組織)でクラブユース選手権優勝を経験し、大会MVPに選出。2017年シーズンには日本代表初選出を果たし、リーグ戦得点ランキング2位を記録。恵まれた体格と高い決定力を武器にする大型FW(フォワード)。

 

才賀紀左衛門(さいが・きざえもん)

1989年2月13日、大阪府生まれ / キックボクサー、総合格闘家

高校時代から格闘家として活躍し、数々のK-1ビッグマッチに出場。2013年にはプロレス、2014年には総合格闘家デビューを果たした。30歳代に入り、ジム経営と選手の2足のわらじで日々奮闘している。

【対談】才賀紀左衛門(格闘家)×杉本健勇(サッカー) ~食事・栄養編~

アスリートはコンディショニングやパフォーマンスを上げるために、日ごろどのようなことを考えているか。プロ格闘家・才賀紀左衛門選手とプロサッカー・杉本健勇選手が対談する。

共に大阪府出身でプライベートでも仲がいい2人は、プロが持つ思いや苦労を共有し、しばしば議論することもあるようだ。今回は、プロ生活を送る上での食事・栄養について、2人の考えを聞いた。

すぽとり編集部(以下、すぽとり) 小さい頃の食の思い出を教えてください。

杉本健勇選手(以下、杉本) 身長が187cmあるんですけど、僕以外の家族はそんなに大きくないんですよ。サッカーやり始めてからなんですけど、練習から帰ってきたら温かいご飯が用意してあるのが当たり前でした。

今考えてみると、そのおかげで体が大きくなれたと思いますし、毎日毎日(お母さんが)ご飯を作ってくれたことには感謝の気持ちでいっぱいですね。

才賀紀左衛門選手(以下、才賀) 才賀家も僕を含めて身長が大きくなくて、母が150cm以下で父も165cmなかったんです。だから、僕は大きくなりたくて、(成長期は)毎日牛乳を2ℓ飲んで空手の練習から帰ったら肉を食べて。

結構しっかり食べていましたね。身長は伸びませんでした(笑)が、食事をしっかり摂っていたおかげで、他の子と比べれば頑丈だったと思います。

すぽとり 牛乳の話が出ましたが、お二人はよく飲みました?

杉本 小学生のころたくさん飲んでいましたね。よく言いますよね、「成長期には牛乳がいいんだ」って。ただ、僕が聞いた話では、アジア系の人は欧米の人に比べて牛乳の吸収率がそんなに高くないようで。

才賀 そう思うわ。日本人と欧米の人って波長が違うというか。俺、2ℓ飲んだけど全然伸びひんかったもん(笑)。

杉本 体が大きくなったのはたくさん牛乳を飲んだ影響もあるかもしれませんが、食事に依るところが大きいのかな。

才賀 そうかもね。体質とか人それぞれなんやと思うわ。

すぽとり 小さい頃、食卓に出てきてうれしかった物はありますか?

杉本 食事の思い出はいっぱいありますけど、クリームシチューですね。大人になってから母の味を思い出してクリームシチューを食べに行くんですが、おいしいお店ってあんまりないんですよね、ホンマに。自分で専門店を開きたいなって(笑)。それくらい好きです。

才賀 クリームシチューとかカレーライスもですけど、僕はハンバーグですね。健勇と一緒でお店に行っても気に入る物がなくて。母のハンバーグはこだわって作っていたというか、オーブンを使った本格的なものだったので、すごくおいしかったです。

すぽとり お二人はいつから競技を始めたんですか?

杉本 僕はサッカーを始めるのが遅くて、小学3年生の終わりくらいからですね。それまでは空手とかいろいろなスポーツを経験して、野球かサッカーのどちらをやろうか迷った末に、結局サッカーにたどり着きました。

才賀 僕も健勇と一緒で、テニス、サッカー、野球、体操といろいろなスポーツを経験しました。小学3年生で空手を始めてからはそれ1本ですね。

今思うと、サッカーをやっていたころにずいぶん走らされたので、体力がついたという意味では空手に役立ったのかなと思っています。

すぽとり お二人とも小学生から競技を始め、長く活躍されていて、技術の向上も当然ですが、体作りも大切な要素になってきます。体作りやコンディショニングに対する食事や栄養摂取への意識はいつごろから芽生えたのでしょうか?

杉本 僕は高校2年生から寮生活で、朝・昼・夕の3食は寮で出される物を食べていました。食事に関しては寮長さんが管理してくださっていたので、自分で何か考えるという意識はあまりなかったかもしれません。

プロ入り後3年間も寮生活だったので、食事で困ったことはありませんでした。4年目に寮を出て独り暮らしをするようになってから考えるようになりましたね。

才賀 僕は18、19歳くらいで独り暮らしを始めたので、自然と意識するようになりました。当時、線が細く体を大きくしたかったので、プロテインとか肉を意識的に食べるようにしていました。

すぽとり 食を意識することは、運動パフォーマンスやコンディショニングに影響するのでしょうか?

杉本 間違いなく影響を及ぼします。運動パフォーマンスの向上はもちろんですし、筋肉系のケガは食事で防ぐことができると思っています。

僕は天ぷらとか揚げ物とかが好きなんですが、体に良くないイメージもあったので、独り暮らしを始めてから「自分が良くないと思う物は摂らない」と決めました。

食の決まり事を作ってから、たまたまかもしれませんが、パフォーマンスを含めて結果もついてきたんですね。だから、食が関係あるんだなと。

それから、いろいろな人に出会ってアドバイスを受けながら自分なりに勉強をしています。いい物は何でも試したいと思っているので、情報収集は欠かしていません。

才賀 これまでの経験上、何を食べればパフォーマンスが上がるかとかは何となくわかっています。体が資本のプロとして、炭水化物やタンパク質、良質な脂質とか、摂る物にこだわりをもって向き合うのは大切だと思っていますが、僕はその点、あまりこだわり過ぎないようにしています。

心と体はつながっていると思っていて、好きな物が食べられない、節制しすぎて必要な物が十分摂れていなかった影響で、一時体調やメンタルを崩したことがあったんです。

だから、自分の体に合った物をストレスなく摂ることが、結果的にパフォーマンスを上げることになるのではないでしょうか。

すぽとり 脂質について、「一切摂らない」「体のキレが違う」とよくうかがいますが、お二人は競技生活の中でどのように向き合っていますか。

杉本 それぞれで体質に合う、合わないがありますからね。僕は最初、体に良くないイメージから脂質、油物を控えていました。ただ、それは独学だったし、「本当にそうなのか」というのもあったので考えました。

いろいろと調べてみたら体に必要な物もあるので、脂質も含めて一つ一つ食べた物の記録を取ることにしました。それで、翌日の体調と照らし合わせながら取捨選択をするようにしました。これは今も続けています。

僕の好きな油物、揚げ物も栄養士さんに聞いたら、「週に1回だったら全然問題ない」と言われたので、たまに食べていますね。

才賀 格闘技は減量があるので、結構気を使います。僕は油物が苦手なので、翌日お腹の調子が悪くなったり、ムカムカすることがあったりします。体のキレとかパフォーマンスの面を考えると、良くないのかなと思っています。

ただ、その代わりにナッツ、アーモンド、フィッシュオイルと良質な脂質は摂るようにしています。魚はタンパク質も脂質も摂れるので、減量中とか試合の2週間前くらいから魚中心の食生活に切り替えています。

杉本 僕も魚はよく食べますね。独り暮らしをしていて外食をするんですが、どうしても肉食が多くなってしまい、油、塩分も多くなりがちになるので。

すぽとり 食に関してこだわっていることはありますか?

杉本 食が偏るのは良くないと思うので、全体的なバランス、3食のバランスですかね。好きな物やおいしい物を食べるとリラックスできるし、自分の決まり事を守りつつ、意識するようにしています。

才賀 僕は食べ過ぎてしまうんで(笑)。食べることでストレスを解消していたこともあって、その時はパフォーマンスが落ちたので、気をつけるようにしています。健勇が言ったバランスもそうですし、食べる時間も大事かなと思います。

杉本 そうですね。僕は朝、昼、夕と3食必ず食べるようにしていますね。

才賀 僕も基本はそうですが、減量中は補食も含めて6回くらいに分けています。

杉本 僕は3食しっかり摂るので、お腹が減ったりするとかはあまりないんですが、練習の途中で栄養価の高いプロテインバーとかで補うことはあります。

すぽとり 最後に食の重要性について、改めてお話しいただけますか。

才賀 食生活が乱れると、成績やパフォーマンスに響くことを身をもって経験しました。試合で勝つためには質の良いトレーニングを積むこと、そのためには食事のコントロールが大切だと思っています。

杉本 僕は食事を意識するまでは、本当に結果が出なくて。期待はされているけど、結果が出ない選手みたいな状況が続き、自分が一番もどかしくて。

「ここで何かを変えないとこのまま終わってしまう」と危機感を持ったときに、自分なりに考えてトレーニングや食事と真剣に向き合うことで、結果がついてきました。だから、食事は大切だと思っています。

現役生活もそれほど長くないし、引退したら好きな物が好きな物が食べられます。今は長く活躍するためにできる限り我慢しようと思っています(笑)。

<メンタル編に続く>


杉本健勇(すぎもと・けんゆう)

1992年11月18日、大阪府生まれ / プロサッカー選手

所属クラブ:セレッソ大阪→川崎フロンターレ→セレッソ大阪→浦和レッズ

高校2年時にセレッソ大阪(下部組織)でクラブユース選手権優勝を経験し、大会MVPに選出。2017年シーズンには日本代表初選出を果たし、リーグ戦得点ランキング2位を記録。恵まれた体格と高い決定力を武器にする大型FW(フォワード)。

 

才賀紀左衛門(さいが・きざえもん)

1989年2月13日、大阪府生まれ / キックボクサー、総合格闘家

高校時代から格闘家として活躍し、数々のK-1ビッグマッチに出場。2013年にはプロレス、2014年には総合格闘家デビューを果たした。30歳代に入り、ジム経営と選手の2足のわらじで日々奮闘している。