現場で役立つスポーツ栄養学の知識①【スポーツ栄養の果たす役割 #10】

栄養の飛び道具”には要注意!

昨今、TVや雑誌などのマスメディアで健康や美容、あるいはダイエットなどに関する情報が、いわゆる最新メソッドとしてキャッチーなコピーで紹介されると、一躍脚光を浴び、これこそが唯一無二といったほどにもてはやされる傾向があります。そういった場面に出会うたびに感じるのは、「おそらく間違ってはいないのだろうけれども、少々エキセントリックに過ぎるのではないか」ということです。

一方で、スポーツやフィットネスに携わる指導者の方々が、クライアントである運動実践者の方々から栄養アドバイスを求められるという話も時々見聞きします。たとえ、公認スポーツ栄養士等の資格はもっていなくても、身体づくりのスペシャリストであるという意味では、そうした要望にも応えるのが指導者の役割といえるでしょう。

そしておそらく、そういった場合には、それぞれの学びや経験、あるいは入手した情報などから回答を導き出しているのだと思いますが、時々「運動の指導を受けている先生からこういう栄養のアドバイスを受けたのですが、本当にこの方法でいいのでしょうか?」と、念のためにと、私たちスポーツ栄養学の専門家に確認されることがあります。そこで、よくよくその方法について尋ねてみると、実は今、流行りの〇〇メソッドだったということも少なくないのです。

特に最近では、例えば増量や筋肥大を求めるなかで、たんぱく質の摂取量においてちょっと過剰ではないかと思う方法だったり、あるいは糖質制限を間違った方向性で活用してみたりというケースが少なくないのではないかと感じています。そして、それらの発信元が運動指導者の方々からだったりすることが実際にあったりするのです。

確かに、それらは1つの‟飛び道具”や‟奇策”として活用する分においては間違っていない部分もあるでしょう。しかしながら、それは何よりもまず、栄養の基本がしっかり身についているうえで、さらにプラスαとしてというのであれば、通用することもあると思いますが、飛び道具はやはり飛び道具でしかないもの。したがって、もしそれがベースとなってしまうと、かえってコンディションを崩したり、あるいはケガに結びつく要因になったりするのではないかという心配があるのです。

食事はトレーニング不要 !?

一方、スポーツという世界においては、日本記録や世界記録がアスリートたちの努力によって今なお更新され続けています。それを可能にしているのは、むしろ最新メソッドを積極的に取り入れることによって、既存の理論を打ち破っていこうとするチャレンジがあるからこそでしょう。スポーツの世界では特にそういった姿勢が顕著であるといえるかもしれません。しかし、それを可能にさせるのは、彼ら・彼女たちの場合、やはり心技体において基礎・基本がしっかりと確立されているからこそ、なのです。

ところが、トレーニングにおいては、そういった基礎・基本の重要性については誰もが承知しているのですが、こと食事や栄養に関する取り組みには、前述のようにいきなり極端から極端に流れてしまう傾向が強く、本来の基本が抜け落ちてしまっているケースが少なくないのではないかという気がしています。そういう意味では、一般の人が突然、トップアスリートが実践しているトレーニングを始めているような印象を受けるのです。

例えば、体操のトップアスリートのウルトラHとかI難度の技などは、とても人間業ではないということは誰もが理解しています。それは一朝一夕にできるほど生易しいものではありません。不断の努力があったればこその高い技術である、と。

ところが、そういった選手が取り入れている食事法というのは情報を入手して真似しようと思えば、誰もがその日のうちに実践できてしまうもの。すなわち、食事というのはそれだけハードルが低いと思われがちということでしょう。

しかしながら、公認スポーツ栄養士の立場からいえば、トップアスリートというのは身体も鍛えているけれども、実は消化・吸収など食べ方も鍛えられており、トレーニングと同様、基礎・基本ができているからこそのプラスαであることを理解しておかねければなりません(そういう意味では、胃腸が強いこともトップアスリートたる条件の1つといえるでしょう)

例えば、身体を大きくする、いわゆる増量のために頻回食を実践しているというトップアスリートの事例が紹介されれば、なるほど1日に5~6回食べればいいのか、と納得し感心する。これなら自分も簡単にできそうだ、と。人によって、胃が小さい人の場合には頻回食を勧めるケースもありますが、本来は朝昼夕、それぞれ1回の食事で必要十分量しっかりと食べることができるのであれば、食後、胃腸も休まるのでむしろそのほうがいいのです。

<次回へ続く>