プラントベースプロテインが急拡大【米国のスポーツニュートリション事情 #02 ~前編~】 

米国の食・サプリメントのトレンドは、5~10年の期間を経て日本に上陸するといわれている。米国のトレンドや動きをいち早くキャッチすることは、日常的にスポーツをする人にとって生活面やパフォーマンスアップ、コンディショニングにも大いに役立ってくる。

今回は国際スポーツ栄養学会(ISSN)特別会員でIncrenovo社代表のラルフ・イェーガー博士に、最新の米国のトレンドを聞いた。前編では、世界中で人気が高いプロテイン市場の変化について解説する。

プラントベース(植物性)プロテインの勢いがすさまじい!

近5年における米国の食品・サプリメント市場で最も大きな変化は、プラントベース(植物性:ピー=エンドウマメ、ライス=米など)プロテインの販売数、知名度が急激に上がってきている点です。

プロテイン市場の割合でみると、依然動物性(ホエイ、カゼインなど)プロテインが60%のシェアを占めているものの、残りの40%がプラントベースになっています。そのうち、プラントベース単体のプロテインが20%、動物性とのミックスが20%と、すさまじい勢いで伸長しており、大きな成長カーブを描いています。

プラントベースプロテインが米国で流行している大きな理由は2つあります。一つは科学的な研究が進み、エビデンスが非常に多く出てきていることが挙げられます。

以前まではエビデンスの少なさから、プラントベースは動物性よりも劣るといった印象がありました。近年、注目度が増すとともに研究が進んでいったことで、健康やスポーツ分野で効果が見込める、または実証されたデータが示されてきました。

もう一つは、社会的な背景です。プラントベースの食品を摂取する世代というのが比較的若い層で、非常にリベラルな思考を持っています。現在行われている大統領選を見てもわかるように、消費者の中心である若い層が政治や環境問題などに高い関心を寄せ、活動にも積極的に参加しています。その流れから、環境に良い食品、食材を好んで選ぶ傾向があります。

プラントベースプロテインは動物性と比較すると、消化・吸収で劣る部分があります。その点を補うため、消化酵素(プロテアーゼ、パパイヤ、キウイなど)を配合して消化・吸収能を高める商品設計がされていました。

しかし、最近ではそのトレンドが変化し、消化・吸収の向上に加えて、腸内環境を整える乳酸菌を配合する商品が多くなってきました。日本だけでなく世界中で乳酸菌の利点や効能は一般に普及しているため、プロテインと乳酸菌を組み合わせた商品の登場はトレンドになっていくと思われます。

また、ヨーロッパの調査会社が米国や日本をはじめとする20か国のプロテイン市場をリサーチした情報によると、日本では19%の商品にプラントベースプロテインが配合、または含まれていて、日本人になじみが深く食経験の長いソイが大半を占めています。

一方、米国では、ピー、ライスを中心に、ヘンプ(麻の実)など多くのプラントベース素材がさまざまな商品に配合されており、消費者のニーズに応えるべくラインアップが多様化し、市場の拡大に拍車をかけていくのではないかと予想しています。

健康的な「プロテイン」のイメージ

米国人の間では、プロテインがスポーツシーンでのリカバリーや筋肉の合成などに役立つといった以上に、「健康に良い食品」といったイメージが浸透しています。サプリメントというより食品として捉えるようになってきました。

商品パッケージに「プロテイン+」「プロテイン配合」などの表記があるだけで、消費者が商品に手を伸ばす傾向がみられます。googleで「プロテイン」という言葉がどのくらい検索されたかを調べたところ、2015年以降、季節差はあるものの、検索数は右肩上がりの状況が続いています。

味の面でも工夫や変化がみられるようになってきました。プロテインの定番といえば、バニラ、ココア、ストロベリーなどがありますが、技術の改良やフレーバー、味の新素材が出現したことによって、バリエーションが増えてきています。

中には、小さいころランチボックスによく入っていた「チョコチップクッキー」味のように、子供のころの記録を呼び起こさせる、情に訴えかける物(味)もラインアップされるようになってきています。

もっとユニークなのが「レインボーキャンディー」味、「ユニコーン」味など、一見どんな味かわからない物も出てくるようになりました。これは、消費者の想像をかき立てて、興味を引くという米国ならではのマーケティング戦略といえます。

<後編に続く>

「摂取タイミング」は当たり前!?【米国のスポーツニュートリション事情 #01 ~後編~】

前編では、自身もアスリートとして活躍し、マーケティングの最前線に身を置く協和発酵バイオのジョン・テノリオさんに、米国のスポーツニュートリション事情について話をうかがった。後編は、ジョンさんの本職であるマーケティングの立場から、サプリメントの使い方、考え方、日本との違いなどを言及していただいた。

米国では運動前後の「摂取タイミング」が浸透

すぽとり 今回はジョンさんの本業であるマーケティングの目から米国のサプリ事情について教えてください。まずはトレンドから。

ジョン・テノリオさん(以下、JT) プロテインの人気がやはり圧倒的ですね。スポーツ、美容、ヘルスケア分野…あらゆる面で「プロテイン」という文字は出てきますし、「プロテイン入り○○」という商品も非常に多いです。

粉末、RTD(レディトゥドリンク:すぐに飲めるドリンクタイプ)、バーなど多様ですが、さらに一般の食品に配合するケースも増えていて、プロテイン入りポテトチップスといったスナックまで範囲が及んでいます。

米国サプリストアのプロテイン商品ライアンアップ

プロテインの種類もいろいろあります。米国では動物保護や環境問題の側面から、空前の「プラントベース(植物性)」ブームが続いていて、ライス(米)、ソイ(大豆)、ピー(エンドウ豆)、ヘンプ(麻)と、動物性(ホエイ、カゼインなど)以外のプラントベース素材が市民権を得てきています。

乳性に比べるとBCAAの含有量が少し劣るのですが、その分、乳性では得られない有用な栄養成分が含まれていたり、ノンアレルゲンだったり、それぞれで特長があるので、体質や生活スタイルによってライスを選ぶ人、ソイを選ぶ人と多様化されています。

すぽとり 日本でもプラントベースは徐々に入ってくるようになりました。

JT 乳性のプロテインが依然人気ですが、米国ではプラントベースプロテインがそれを上回る勢いでシェアを伸ばしつつあります。現状、8:2の割合ですが、将来的に7:3、6:4となる可能性を秘めています。米国の主流が数年後に日本へ到達するといった流れから、日本でもこれから多くのプラントベースプロテインが出てくると予想されます。

すぽとり プロテイン一つとってもいろいろな商品があるように、食品やサプリの文化がとても進んでいますね。理由は何なのでしょうか?

JT 一つはストアの充実。米国にはサプリ専門ストアが各地にあって、それこそセブンイレブンやマクドナルド、スターバックスなどと同じくらい目にします。サプリ専門店なので、店員の知識レベルが高く、一人一人の生活に役立つ情報をお客さんに提供することができます。

例えば、「10kg増量したいんだけど」と店員に要望を伝えると、お客さんの体質や目的に合わせて、配合成分や摂取タイミングを考え、最適な商品を勧めてくれます。だから、間違った商品選びをすることもないですし、合わなければまた店員に相談することもできるのです。店員は、成分の効果・効能を理解するために論文を読んでいますから、かなり詳しいですね。

すぽとり 日本ではお店でなかなかそこまではしてくれません。

JT 日米では医療制度が異なりますので、健康(=病気予防)のためのサプリという意識がとても高く、サプリの市場もとても大きいものになっています。多くの店舗では、しっかりと店員教育がなされていて、それがストアの充実につながってくるのです。

もう一つ、日本にはない文化として、摂取タイミングごとに商品棚が別れていることも挙げられます。

すぽとり スポーツシーンでは、かなり前から摂取タイミングが重要と思っていましたが、意外と知られていないというか。

摂取タイミングごとに商品棚が分かれている

JT 米国では、摂取タイミングがスタンダードになっています。運動前(プレワークアウト)、運動中(ワークアウト)、運動後(ポストワークアウト)と摂取すべき栄養成分や欲しい効果も当然異なるので、摂取タイミングによって商品をカテゴライズするのはお客さんにとってもわかりやすいシステムですね。

すぽとり 「本当は運動前に摂取してほしいのに、なぜか運動後に摂取する人が多いんだよね。摂取タイミングを間違わなければもっと体感や効果が上がるのに」という声を聞いたことがあります。

摂取タイミングを意識すれば、商品選びや体感も変わってきますし、もっと効果も上がるのではと思うんですが。「いつ摂る」を説明している商品はまだまだ少ないですね。

JT 五輪の開催を控える日本では、スポーツニュートリション分野で変化が起きています。意識の高いスポーツ愛好家も増えてきていますので、海外の流行が数年後に日本に到達するように、販売システムも変わってくるのではないでしょうか。

すぽとり 摂取タイミングの話題になったので、それぞれで人気の高いサプリを教えてください。運動前はエネルギー補給や酸素の運搬能力を向上させる物でしょうか。

摂取タイミングの区分けは飲料にまで

JT そうですね。クレアチン(筋肉増強)、アルギニン(血管拡張)、β-アラニン(持久力)、カフェイン(覚醒)がポピュラーです。

新しい物として、ヌートロピック(Nootropic)が注目されています。脳の機能を高めるといった意味で、バコパ、チロシン、タウリン、アシュワガンダなどがあります。ここ10年では運動前といえばカフェインでしたが、トレンドが変わりつつあります。試合やトレーニング前に神経を研ぎ澄ませて、限界まで力を発揮できるということで人気が急上昇しています。

ちなみに、僕が最初に摂取したのがクレアチンでした。アメフトを始めた高校時代、クレアチンを摂取してからトレーニングをすることで、みるみるうちに体が大きくなりました(笑)。

米国では例えば、運動前に適したAという素材とBという素材を組み合わせて、AとBの効果を持たせる商品が多いですね。つまり、素材単体ではなく、素材の組み合わせを非常に意識して、より効果の高い商品づくりを常に考えているといえます。

すぽとり 運動前に何を摂るか。競技特性やトレーニングの内容によってもさまざまだと思いますので、しっかりと意識したいですね。では、運動中はどうでしょうか。

JT BCAA、EAA、ロイシンなどアミノ酸系ですね。トレーニング中はどんどん疲労(筋分解)がたまっていくので、粉末を溶かして飲料形態にしておくことで、水分補給と栄養摂取を図ります。汗で流れてしまったナトリウム、マグネシウム、カルシウムを補給することも重要ですね。

すぽとり 運動後はいかがでしょうか。

JT プロテイン、オルニチン、グルタミンなどがあります。プロテインは、リカバリー効果を上げるためにアミノ酸を配合した物や乳とプラントベースのプロテイン同士を組み合わせたりする物もあります。

また、プロテインの消化・吸収を助けるために乳酸菌や酵素を配合する物もあり、プロテイン+αというのが主流になっています。

すぽとり 摂取タイミングによってもずいぶんラインアップが変わってきますし、素材同士の組み合わせがカギになっているんですね。多分、例に挙げたのは一部で、まだまだありそうですね。

JT 米国では常に研究や商品開発が進められているので、これから出てくる物、新しいトレンドが生まれてくるでしょう。僕はそれを観察しながら、日本で新しい市場を開拓していきたいと思います。

すぽとり ジョンさんの経験を踏まえた、米国の事情がとてもよくわかりました。お忙しいところ、どうもありがとうございました。

<完>

協和発酵バイオの商品ラインアップ

高校のスポーツ界とニュートリション【米国のスポーツニュートリション事情 #01 ~前編~ 】

東京五輪が間近に迫り、スポーツ関連のあらゆる分野が盛り上がりを見せている。ニュートリション分野も例外ではない。日本国内でもその重要性が徐々に浸透している一方、スポーツ大国・アメリカではどのようにニュートリションと向き合っているのか気になるところだ。

今回は、前後編の2回に分けて、自身もアスリートとして活躍し、マーケティングの最前線に身を置く協和発酵バイオのジョン・テノリオさんに、米国のスポーツニュートリション事情について話をうかがった。前編は、ジョンさんのアスリート時代を振り返りながら、米国と日本の相違点を探ってみる。

指導者はニュートリションをしっかり受け入れている

すぽとり ジョンさんはスポーツの本場・米ニューヨークで生まれ育ち、選手としても活躍された経験があります。

ジョン・テノリオさん(以下、JT) 小さい頃からスポーツが好きで、いろいろやりました。ニューヨークは、米国4大スポーツのプロチームが勢ぞろいする土地柄で、スポーツは生活の一部にもなっているんですよ。大学での最初の2年間は、アスレチック・トレーニングとスポーツ・メディシンについて学び、その後の2年間はビジネスを学び、インターナショナル・ビジネスの学士号を取得しました。

すぽとり 現在は、スポーツマーケティングに関する仕事をしていますね。

JT Kyowa Hakko USAでは、顧客サービスと売却・サプライチェーンサポートに従事していました。最近になって日本に赴任してきました。日本はとても暮らしやすいですね(笑)。

五輪が近づき、スポーツニュートリションの市場が拡大する日本で、アミノ酸やシトルリンの販売拡大に力に注いでいます。アミノ酸やシトルリンはスポーツと親和性が高いので、主に同分野での市場開拓を行っています。

すぽとり 実際にアスリートとして活躍された経験と、ビジネスマンとして活動している中で、米国のスポーツニュートリション事情や日本との違いを教えてください。

JT 僕が本格的にアメリカンフットボールを始めた高校生時代の話をするとわかりやすいと思います。米国ではアメフトが最も人気で競技人口も多いです。

ボディコンタクトが基本の競技ですから、「体を大きくする」「筋肉の鎧をつける」といったことが求められます。どの競技でも「まずは体を大きく」が米国的な考え方はありますが(笑)。

僕は14歳のころ、体重が55kgしかありませんでしたが、17歳になるころには80kgまで増えました。食事、食品・サプリメント、トレーニングを組み合わせた結果で、競技に耐えうる肉体ができ上がったといえます。特にサプリメントは摂取する機会が多かったと思います。

すぽとり 食事、トレーニングはやはり密接で、加えてサプリもうまく活用するんですね。米国では高校生レベルでもサプリを積極的に活用するようですが。

JT 米国は日本よりもサプリを活用しやすい環境といえるかもしれません。これは、サプリを含めたニュートリションの知識が豊富で理解のある指導者やレーナーが身近な存在であることが影響しています。彼らは本当に詳しいですし、よく勉強していますよ。ニュートリションの知識を持つことで仕事につながることになりますから。

選手自身もサプリや栄養に関する勉強をしたり、新しい知識や情報を先輩やトレーナーから得たりするので、ニュートリションは競技生活において身近といえます。

すぽとり 米国の高校生アスリートの中で、最も摂取されている物は何でしょうか。

JT 米国でもプロテイン、アミノ酸、BCAAが主流です。プロテインに関していえば、アメフトはもちろん、野球、サッカー、ラグビー、レスリングなど競技にかかわらず、みんな摂っています。

さらにいえば、スポーツニュートリションのみならず、全世代で人気ですね。世界で見てもプロテインの人気が高くて、体づくりに直結する食品やサプリは好んで摂取する傾向にあります。

日本でも米国でも人気は同じですが、少し違うのは考え方。米国では、高校生の早い段階からサプリや食品を上手に活用して、チームや個人のパフォーマンスアップやコンディショニングにどのようにつなげるかを指導者らが戦略的に捉えています。

すぽとり 体ができていない時期(中学生以下)にサプリを摂取すべきではないと言われていますが、米国ではどうなんでしょうか。

JT 同じですね。その点は指導者がきちんと意識しています。

すぽとり 高校のチームでは、指導者らはニュートリションとどのように向き合っているのでしょうか。

JT 大変重要視しています。指導者はニュートリションの知識をもっていることが当たり前です。反対に知識がないと指導者にはなれないといっても過言ではありません。

全米トップレベルのチームはスタッフが充実していて、コーチ、トレーナー、ニュートリショニスト(栄養士)の各専門家がそろっています。僕のチームには、ニュートリショニストがいなかったので、コーチやトレーナーから教育をしっかり受けました。食事に関しては正直アバウトなところがあって、好きな物を食べていました。米国にはピザやハンバーガーなどおいしい物がたくさんありますので(笑)。

ニュートリショニストがいるチームは、普段からの食事など細かく教育されていたと思いますが、多くの高校生アスリートは僕と同じだと思います。本格的に食事や栄養の勉強をするのは大学進学後になりますね。

というのも、米国は大学スポーツも盛んで、時にはプロスポーツをしのぐほどの人気といってもいいでしょう。ビジネス的に成功している背景から、大学側がさらにチーム力をアップさせるためにニュートリショニストを雇用しやすいといった、懐事情も関係しています。

結果、“常駐”するニュートリショニストの下、教育や最新の情報を得られる環境になるといった形です。高校と大学では選手を取り巻く環境は劇的に変わってきます。

すぽとり なるほど。大学スポーツがプロ並みにビジネス化されている点で、選手にとって好環境を整えることができるわけですね。

JT そこまで余裕がない大学はトレーナーを雇い、ニュートリショニストは二の次のようなこともあります。ただ、指導者はみな、ニュートリションの重要性を理解しているので、自分で勉強したり情報を得たり、アドバイスを受けたりといった土壌はできあがっていると思います。

<後編に続く>