練習後のおにぎりを選手たちが開発!! 考える力引き出すスポーツ食育「おにぎり選手権」

オンライン時代における新しいスポーツ食育の在り方

東京都世田谷区に本拠を置く「駒沢サッカークラブ(FC駒沢)」は、育成年代の男女サッカー、男女フットサルチームがあり、都内でも上位の成績を誇る古豪。技術的な指導もさることながら、食事・栄養摂取の重要性を育成年代から教育している。同クラブで副理事長を務める武田雄哉さんは、ジェフユナイテッド千葉・市原で長く指導し、プロを目指す上で育成年代における食育の大切さを身近に感じてきた。

そして、ジェフ時代に武田さんと一緒に選手への栄養教育を行っていたのが、博士(スポーツ健康科学)でスポーツニュートリショニストの鈴木いづみさんだ。鈴木さんは、大手企業で一貫してスポーツニュートリション関連の職務を担当し、その後独立。現在は、育成年代からプロまで、特にサッカーの栄養指導・サポートを中心にしながら、研究活動にも力を注ぐ。武田さんとの縁で現在、FC駒沢の栄養アドバイザーを務めている。

FC駒沢では年1回、選手に向けて栄養講習を行っているが、昨年はチーム全員で集まりにくい状況で対面での実施が困難になった。武田さんは「コロナ渦でも充実した学びを提供できるクラブでありたい」と考え、選手と保護者が参加できるオンライン講習を月1回実施することを鈴木さんに依頼した。コロナ対策にもつながる免疫関連の話題から始まり、自粛期間中の食生活、糖質・たんぱく質摂取の必要性、サッカーに特化した栄養学など、内容は多岐にわたった。

オンライン講習はおおむね好評ではあったが、「実践できているか」という点では少し物足りなかった。駒沢FCでは以前から、体の成長を踏まえた「練習後の食事」を重視しているが、食事に時間をかけると感染リスクが高まるため、実践しにくい状況になってしまった。武田さんは「選手たちの成長は待ってくれないので、感染対策をしたうえで練習後の食事を習慣にしてくれないかなと思っていました。それで、練習後すぐに食べられて栄養補給できる理想的な食べ物のおにぎりを題材に、楽しく学べる機会ができないかと鈴木先生と相談して考えついたのが『おにぎり選手権』だったんです」と、企画の経緯を話す。

選手たちは講習で得た知識をおにぎりで表現し、指導陣は講習の理解度が図れて、練習後の食事の大切さを再度インプットする。おにぎり選手権は、対面での栄養教育ができず、選手への理解度が図りにくいオンラインの弱みを、アイデアと工夫で補ったオンラインならではの新しいスポーツ食育。多くのチーム・団体でぜひ模倣してもらいたい。武田さん、鈴木さんとも、選手から送られてくる大量のおにぎり写真の整理と採点で疲労困ぱいになったことはさておいて…。

まじめに楽しく本格的なイベントを

大会のテーマである「練習後に食べるおにぎり」に求められることとして、①消費したエネルギーの回復、②筋肉の修復・新しい筋肉の合成、③全体的な疲労の回復が挙げられる。必要な栄養素は①から順に、糖質(ごはん)、たんぱく質(肉・魚・大豆・卵・乳)、ビタミン・ミネラル(野菜)である。

この点は、鈴木さんが講義で選手たちに解説しているため、選手たちは過去の講義を踏まえておにぎりを開発する必要がある。また、具材が大きすぎるとおにぎりの中に入り切らないため、少量でも栄養素がたっぷり詰まった食品を選ぶセンスも求められる。

選手たちが開発したおにぎりを審査するのは鈴木さん。ただ単に栄養素が入っているだけではおもしろくないため、細かい採点基準を設けた。基準は2つに分かれており、10点満点項目は1)具材(①~③がそろっているか)、2)コストパフォーマンス(栄養と値段のバランス)、3)再現性(マネしやすさ)の30点。5点満点項目は、4)自作、5)うんちく(具材に含まれている栄養素を説明できるか)、6)大きさ、7)ネーミング、8)形・ルックス、9)フォトジェニック(映え、工夫をこらしたおにぎり写真の撮影)の30点。計60点満点で採点し、トップ10の選出に加えて、1)~9)の各部門の優秀者賞を選出することにした。スポーツ選手の気質(順位づけ、採点、負けず嫌い)を踏まえて、参加しやすい環境を作った。

大会当日は開会式から始まり、おにぎりの歌を参加者で斉唱、選手宣誓、優秀者の言葉と、イベントと相違ないプログラムで進行した。オンラインとはいえ、70人を超える参加者が集まったのは、リアルさを求め、まじめに楽しく栄養を理解してもらいたいという指導陣の強い思いが伝わった証拠でもある。

選手たちが開発したおにぎりはレベルの高い物ばかり!

鈴木さんが審査した70人超のおにぎり。どれも開発者の思いやこだわりが詰まった物だ。鈴木さんも「みんなに満点を上げたいと思うほど、甲乙つけがたい作品が出そろいました。選手たちは企画の意図をきちんと理解していたし、私が伝えてきたことをおにぎりで表現してくれました!」と総評した。

ここでは、上位者、各部門受賞者が開発したおにぎりの一部を、写真と開発意図を交えて紹介していく。サッカーを頑張るお子さんを持つ親御さん、選手自身も参考にしてもらいたい。なお、コメントは、選手たちが書いた原文を基に編集した。

 

<第1位>

「元気モリモリおにぎり」

【具材と期待される効果】 枝豆(ビタミン)、梅(クエン酸)、しらす、かつおぶし(カルシウム)、塩昆布(鉄)、しそ(アクセント!!)

【開発者からのコメント】 具材一つ一つに効果があり、たくさんのエネルギーがとれます! 練習後に食べるということで、たくさんの栄養を取ることができ、疲労回復のできるおにぎりにしました!! 「簡単に食べられる」ということを第一優先にしてこの大きさにしました!!

 

<第2位>

「関西のおばちゃん直伝にぎり」

【具材】天かす、チーズ、おかか昆布、白ごま、雑穀米(米・もちきび・ 胚芽押麦・キヌア)

【開発者からのコメント】 たんぱく質、ミネラル、ビタミンB1、脂質、食物繊維、アミノ酸が簡単においしく摂れるので、リカバリーには最適! すぐに食べられ、全部食べきれる、コンビニの物よりひと回り小さいサイズ。俵型なので、不器用な人でも握れる。コスパ良し。

 

<第3位>

「選手オリジナルおにぎり①」

【具材】枝豆、梅干し、しらす

【開発者からのコメント】練習後に食べようと持参した三角に近いおにぎり。米の割合は白米と玄米で2:1。手が小さくて、大きなおにぎりだと食べるのに時間がかかるので、小さめ(158g)にした。

 

<第4位&グッド具材賞>

 「いかなごの釘煮×卵×枝豆おにぎらず ~握ってないけどおにぎりです~」

【具材】祖母自家製倉敷産いかなごの釘煮、卵、枝豆

【開発者からのコメント】①うまい:釘煮は10年食べても飽きません。②早い:加熱するのは卵だけ。握る手間がないのも特徴です。③安い:釘煮は祖母が送ってくれるため、我が家にとっては財布に優しい。④栄養抜群:ビタミンB12、Dの含有で神経や血液細胞の健康保持、DNAの生成の助成、疲労や体力低下をひき起こす貧血の一種である巨赤芽球性貧血の予防、カルシウムのバランス調整が可能(らしい)。少量でも十分なカロリー摂取が可能。ビタミンB1を含む枝豆で疲労回復効果。バランスが良く色彩豊か。

 

<第5位&グッドうんちく賞> 

「玄米鮭おにぎり」

【具材】玄米、鮭、枝豆、チーズ

【開発者からのコメント】玄米ごはんはビタミンや食物繊維が豊富で、いいうんちが出たり、お腹の中の善玉菌が増えたりして免疫力が上がります。鮭はDHAやEPAが含まれており、健康な体が作れます。枝豆はビタミンB1が豊富で疲労回復につながり、練習後に最適です。また、枝豆の緑は疲労回復に似ており、運動後の炎症を抑えて筋肉のダメージを回復させます。チーズはカルシウムが入っていて、疲労回復につながります。いざ自分で作ってみると、握り方が難しく苦労しました。親にとても感謝です。これからは、自分で作れる時は自分で作り、もっと栄養のことを詳しくなって、完ぺきに自分で作れるようにしたいです。

 

<フォトジェニック賞>

 「選手オリジナルおにぎり②」

【具材】鮭フレーク

【開発者からのコメント】このおにぎりは、練習後に軽い軽食を取り、夕飯をガッツリ食べるという習慣に適しているおにぎりです。お腹いっぱいにならずに、筋肉をつけるのに適した、両手で丸めたくらいの大きさになっていて、三角形のおにぎりにすることで、尖っているところから食べられるという長所があります。このおにぎりは、鮭フレークを使っていて、ビタミンとミネラルを多く摂取できるようになっています。しかも、作る時間はあんまりかけずに、コスパもいいので、習慣化しやすいおにぎりとなっています。味も美味しいのでこのおにぎりはオススメです!

 

<ほっこり賞> 

「さんまのかばやき玄米おにぎり」

【具材】さんまかば焼き、玄米ごはん

【開発者からのコメント】さんまの油は血液をサラサラにしてくれたり、筋肉を修復してくれたりします。たんぱく質、鉄分、ビタミンDが多く、疲労骨折を予防してくれます。玄米ごはんを使うことで、疲れなくなります。おにぎりを作るのがこんなに大変だと思わなかった。お母さん、毎日作ってくれてありがとう!

 

<審査員特別賞> 

「雲丹と松茸のおむすび(武田雄哉さん作)」

【具材】雲丹、松茸

【開発者からのコメント】豪華な食材をふんだんに使い、優しく握ることで、フワフワかつトロトロとした極上のお結びの完成。海の幸、山の幸、自然のすべての恵みに感謝して、せーの、「いただきます」。

 

栄養講習で培われた選手たちの「考える力」

選手たちが選択した具材の多くは、鈴木さんが過去の講習で機能性や期待される効果を何度も口にしたもの。つまり、選手たちは内容をきちんと覚えていて、おにぎりを使って知識を具現化したのだ。さらに、自分たちで考えて、より高い効果が見込めそうな食材を探索したり、組み合わせたりして、オリジナルを作り出したところに価値がある。

スポーツの世界で高みへと至るためには、技術、メンタルも大事だが、「自分で考える力」が必要とされる。FC駒沢の試みはまさしく、成長が最も見込める時期に、最も大切なことを選手たちとやり遂げたのだった。

武田さんは「おにぎり選手権は、栄養の勉強になっただけではなく、おにぎりを考えて、実際に作って、撮影し、提出し、みんなのアイディアも楽しく共有できる。そのすべてに、工夫や親との会話、協力作業など、私たちが選手に伝えたい『何かあたたかいもの』が込められていたように思います。それがすごくよかったですね。コロナ禍でいろいろとクラブも大変ですが、サッカー同様、困難に直面したときにもアイデアがあれば学びの機会に変わっていくということを私自身も改めて感じました」と、オンライン下での大会を振り返った。

話はこれで終わらない。選手たちが作ったおにぎりの写真は、社会貢献活動「おにぎりアクション」への参加で完結する。おにぎりアクションは、おにぎりの写真をSNSや特設サイトに投稿することで、1枚の写真投稿が寄付になり、食環境に恵まれないアジア・アフリカの子供たちに給食をプレゼントできる仕組みになっている。選手たちのおにぎり写真が人助けにもなっていることを、鈴木さんがサプライズ発表して大会を締めくくった。

世の中には、1回講習するだけで多額の受講料を請求し、何度も実施することでお金を手にする有識者もいる。高い地位がある人ほどその傾向にあるかもしれない。それが悪いとはいわないが、知識の安売りをしているように思える。

一方、武田さんと鈴木さんの試みはそれとは全く別物。その証拠に、社会貢献、スポーツ食育、そして考える力の構築。継続してきた栄養講習、おにぎり選手権のすべてが、これからの将来を担う選手たちのためのものであり、成長の糧として経験が蓄積されていくからだ。

昨年来のコロナ禍でオンラインでの講習となったが、かえって奏功した形になった。工夫次第でリアルなイベントよりも数倍も充実した内容にできる。今回の試みはその証拠にもなった。今後、チーム対抗のおにぎり選手権など、いろいろな形でムーブメントを起こす可能性すら感じさせる。

<完>