舌下吸収の方が吸収良し!? エルゴジェニックエイド「カフェイン」を考える【Dr.Aoyagiのスポーツニュートリションをぶった斬る! #03】

エルゴジェニックエイドとドーピングの扱い

エルゴジェニックエイドとは、「運動パフォーマンスを向上させる食品成分やサプリメントなど」をいいますが、日本ではあまり使われず、耳なじみの薄い言葉です。前回も話しましたが、日本の“スポーツ栄養”と呼ばれる世界では食事>サプリメントの考えが根強く、エルゴジェニックエイドを有効活用する土壌、文化が育ちにくい環境だからです。今後、日本の“スポーツニュートリション”がグローバルスタンダードを目指すならば、この言葉の理解を深めることが必要だと考えています。

米国、ヨーロッパ、オーストラリアなど、スポーツニュートリション研究が盛んな地域で、エルゴジェニックエイドとして挙げられるのが「HMB」「クレアチン(特に、吸収率が高いモノハイドレード)」「EAA(必須アミノ酸混合物)」「β-アラニン」などで、みなさんがよく口にする紅茶やコーヒーに含まれる「カフェイン」もその一つです。

エルゴジェニックエイドは、運動パフォーマンスを上げる目的があるため、配合原料(商品の素になる材料)についてエビデンスに基づいた物を採用することが多い一方、化学的な配合で開発された原料もあることから商品構造が複雑化し、予期せずしてドーピング違反物質が検出されてしまう例もあります。ちなみに、サプリなどからドーピング物質が検出されるケースで「コンタミネーション(異物混入)」というものがあります。これは、製造過程で意図せずに禁止物質が紛れ込んでしまうことで、これまで明らかになっている“うっかりドーピング”の多くがコンタミによるものといわれています。この点ももっとみなさんに知ってもらいたいのですが、後日改めて。

カフェインに話を戻して。カフェインは2004年まで禁止物質扱いとされ、スポーツ分野では使用できませんでした。摂取上限を尿中12mg/ml(エスプレッソ8杯程度)が出てくる量としていましたが、現在はニコチンと同様に監視プログラム(効果や違法性、エビデンスなど継続観察)に掲載され、スポーツシーンでも活用できることになっています。もともと通常の食生活において摂取する機会も多いことから、今後もドーピングの対象になる可能性は低いと考えられます。

カフェインの最も効率的な摂取方法が未承認の日本、海外選手は使えるアドバンテージ

スポーツニュートリションの権威団体である国際スポーツ栄養学会(ISSN)は、カフェインを「パフォーマンス強化に寄与する」と評価しています。スポーツシーンでうまく活用すれば、パフォーマンス向上にも役立つ可能性が高いエビデンスが数多く出ています。カフェイン摂取によって期待される効果については次回以降に持ち越すことにして、今回はカフェインの摂取方法に焦点を当てて話を進めます。

前回、食薬区分を話題に取り上げました。食品向け原料で販売するよりも医療品向け原料で販売した方が何かと都合がいいという不都合な真実を明かしたわけですが、今回はもう少し掘り下げていきます。

健康食品と医薬品を区別する判断材料として「原料」のほかに、錠剤や液体などの「形状」も当てはまります。簡単に説明すると、アンプル・舌下錠、スプレー管に充填した液体を口腔内に噴霧し、粘膜からの吸収を目的とする物などが「医薬品と判断される形状」です。一方、日本らしい表現ですが、「(パッケージに)『食品』と書かれていれば、『医薬品』と判断されない形状」に含まれる物として、カプセル(ソフト、ハード)・錠剤・丸薬・分包された物を含む粉末や顆粒・液状などがあります。

スポーツシーンにおけるカフェイン摂取で期待できる(したい)ことは、気分を高揚させて試合や競技に臨むことでしょうか。そうなると、「試合前にいかに速く体内へ吸収され、体感を得るか」がポイントであり、いち早く臨戦態勢に入って相手よりも精神的優位に立つということが求められます。少しドーピングのような話になりましたが、あくまで食品の話です(笑)。では、カフェインの即効吸収を考えた時にどの形状が望ましいのか。海外ではヒト試験によって検証された結果が論文発表され、かなり前に一つの可能性が示されています。

     カフェインの吸収率(血中濃度):ガムとカプセルの比較※)

カフェインをガム状(舌下吸収=口腔内粘膜からの吸収)で摂取した時と、一般的なカプセル状(腸からの吸収)で摂取した時にどちらが早く吸収されるか(図)などを検証した実験では、ガム状の方が早く吸収される結果が出ました。日本では、カフェインを原材料として採用した商品がいくつも開発されていますが、舌下吸収によるサプリや食品は存在していません。前述したように、口腔内で溶かして使用する舌下錠は医薬品でしか利用が認められていないからです。欧米では、「食品扱い」で「舌下錠」の商品は数えきれないほど開発され、スポーツ選手も有効に活用しています。ところが、日本ではそうなっていないのです。カフェインの一例を挙げましたが、こうしたケースはほかにもたくさんあるのです。

※) Gary H Kamimori, etal.: The rate of absorption and relative bioavailability of caffeine administered in chewing gum versus capsules to normal healthy volunteers., Int J Pharm., 234 (1-2) 159-67 (2002)

実際に2019年に行われたラグビーワールドカップで上位に勝ち進んだ海外のチームの選手は、カフェインの舌下吸収剤を試合直前に使用してパフォーマンスをより向上させる手段を取りました。これは日本の選手にはないオプションです。栄養成分を最も効率良く摂取する方法があるのに、日本ではよくわからないルールに縛られて多くの人に安価(市販サプリなど)で提供できない――これは消費者、スポーツ文化の発展を考えた時にどう捉えればいいのでしょうか? 特にカフェインはスポーツ分野でも有効活用することでパフォーマンスが上がり、選手の成績面でも底上げできる可能性があるのに。

そもそも日本でカフェインはネガティブに捉える向きがあったり、こうした最も効率の良い摂取方法自体が知られていなかったりすることから、エルゴジェニックエイドとして認識されていない背景があります。その他のエルゴジェニックエイドも同様で、真実がきちんと伝わっていないということを感じます。

カフェインの舌下錠型商品を日本で販売するためには、法律そのものを変える必要があるので、有識者の先生方に正しい評価をしていただいて是正してもらいたいと思いますが、本来ならこうした評価にもスポーツニュートリションの専門家が介入したり、研究テーマにしたりしてもいいはずです。ただ、前回も話した通り、倫理的な問題などが大きな壁となっているので、現実的にはかなり厳しいものになっています。

商品を開発する立場としては、今の法律の中でカフェインに期待できる効果を最大限生かせるようにフォーミュレーション(商品設計)するしかありません。これまでの常識にはないカフェインの使い方、消費者のみなさんが納得する体感が得られる物を発表できるように、日々知恵を絞っているところです。

次回は、カフェインがスポーツ分野でどのように活用できるか。エビデンスを踏まえて解説していきます。

<次回へ続く>


青柳清治 / Seiji Aoyagi, PhD 栄養学博士、(株)DNS 執行役員

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年に日本へ帰国後、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。

ここが変だぞ! 日本のスポーツニュートリション ~後編~【Dr.Aoyagiのスポーツニュートリションをぶった斬る! #02】

日本食は果たして、スポーツや運動に向いているのか?

日本食には、お米とかうどん、そばのような炭水化物が多く、好物にしている人はたくさんいると思いますが、僕は米国で長い間育ってきましたので、実は日本食にそれほど依存しなくても大丈夫なんです(笑)。

何の話かというと、日本食(和食)のスポーツシーンでの価値を考えたときに果たして“使える”物なのかどうか。いろいろと調べてみると、日本食にはスポーツ選手にとってのスーパーフードといわれるものがないのかなと思います。強いていえば、納豆が当てはまりますが、少し脂質が足りない。「おにぎりをたくさん食べる」みたいなこともよく聞きますが、おにぎりはエネルギー食なので、それだけでは不十分で該当しない。

一方アメリカでは、ピーナッツバターをよく食べるんですけど、これが実はスポーツ選手にとってのスーパーフードになるんです。高カロリーでたんぱく質も多く、質のいい脂質※)も含まれている。スポーツ選手の多くが摂っている食品といっても過言ではありません。「質のいい脂質を摂る」という点でいえば、オリーブオイルを多く使うイタリアやスペイン料理なんかも、スポーツ選手の食として成り立つのではないかと思います。

※)オレイン酸(オメガ9系)やリノール酸(オメガ6系)などの不飽和脂肪酸が多く含まれていて、特にリノール酸は体内で生成されないため、食事から摂取する必要のある必須脂肪酸。

さて、日本食を考えてみましょう。日本食はユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、世界中から注目されました。しかし、それは所作や季節感、日本文化との調和などであり、栄養とは全く関係のない部分です。

日本の栄養学の権威にその疑問を直接ぶつけたところ、「日本食はビタミン、たんぱく質、脂質、どれも不十分」とぶった斬っていました(笑)。「日本食はヘルシー」というのはウソではないと思いますが、「スポーツ選手の食」と考えると、それほど向いていないのかもしれません。

実際にプロの外国人指導者もそう考えているようで、海外から日本のチームに就任した時、白米よりも栄養素が高い玄米に変えたり、良質な脂質を摂取する目的でナッツ類を推奨したり、フルーツ(ビタミン)を多く摂るようにしたりして、栄養への意識改革からチームを変えていったという話もあります。やはり、外国人から見ても日本食はそう見られているんだと妙に納得した記憶があります。

僕が長くいた米国は独自の食文化がないので、プロテインとかシェイクだけとか、同じ物を毎日食べても平気、サプリだけでも大丈夫みたいな人とか意外に多いんですね。スポーツ選手にも多くて。まぁ、体の出来が全く違うからとしか言いようがないんですけど(笑)。

あと、日本的な食事のとり方「3度の食事」というのも、スポーツの観点から少し変わっていく必要があるのかと思いますね。「栄養摂取のタイミング」を考えると、朝・昼・晩の3度をきっちり食べるのではなく、1食分を少なくして5、6回食べるとか、補食をうまく使うとか。そういった摂取タイミングを軸にした栄養戦略は各競技で必要になってくるのではないでしょうか。

「食事や食材を楽しむ」、「目で楽しむ」というのはとても大切だし、日本の文化として残していくことは意義があります。でも、それとパフォーマンスを上げる栄養摂取は別物と考えた方がいいと思います。

欧米の強いスポーツ選手は、「頭で食べる」印象があります。つまり、頭で考えて栄養摂取しているということ。だから、外国人監督が日本に来ても、栄養価がそれほど高くない日本食を取り入れなかったわけです。日本人選手も日本食で栄養摂取をしようとすると難しい面が出てくるので、食生活自体変える必要も出てきますね。

BCAAは医療用医薬品!? 食薬区分の謎

この話は少し難しくてのちほど詳しく話そうと思いますので、今回は触りの部分だけ。

日本には「食薬区分」というものがあって、簡単にいえば、食品用原料と医薬品原料を分けて効果・効能を明確にうたえる物、うたえない物を区別する法律です。僕が日本に戻ってきて、海外と大きな違いを感じたのは、栄養素を取り巻くこの食薬区分のルールでした。

スポーツや運動をする人にとってよく聞くBCAA。バリン、ロイシン、イソロイシンといったアミノ酸の混合物で栄養価値の高い物として知られています。スポーツ向けのサプリメントとしても多くの商品が登場していますが、このBCAA、実は我が国では医療用医薬品でもあるということを知っていますか。ほとんどの方は知ることもなく使用していると思いますが。

海外ではBCAAはれっきとした食品扱いです。体内にも存在するアミノ酸が基になっているわけですから、当然ですよね。でも、日本の法律では薬価のついた医療用医薬品としても、食品(サプリメント)としても売られています。つまり、医薬品として処方されたBCAAは保険が適用され、スポーツサプリとして購入したBCAAは保険が適用されない自費扱いということです。同じ物であるにもかかわらず・・・。

食薬区分の規制緩和で、海外では当たり前のようにスポーツシーンで使われるサプリが日本でも使えるようになった例がいくつかあります。ファットバーニング系のサプリに多く使われている「カルニチン」、筋トレ系サプリに使われている「HMB」、そして持久系サプリに最近使われ始めた「β-アラニン」です。これらはすべて、外資系企業が2~3年の月日を費やし、相当の金額を積んで閉ざされた日本の医食制度の門戸を開いた結果です。鎖国日本に黒船到来というわけです。

「タウリン」は、いまだこの壁を壊さていない有用な栄養素の一つです。海外ではサプリ(食品)として当たり前のように売られていますが、我が国ではいまだ医薬品扱いです。単純に食品原料として販売するよりも医薬品原料にしておいた方が都合良く販売できるためで、本来は食品であるべきものが医薬品扱いになっているのです。

この問題はビジネスの要素がとても強く、一見読者のみなさんに関係のない話と思われがちです。しかし、規制緩和でタウリンも食品扱いになれば、効果が期待できる栄養素としてスポーツサプリや食品の開発が進むでしょう。

スポーツや運動もそうですが、国として国民の健康を推進するのであれば、利権や企業に都合のいい法律やルールを外圧に頼らずに、しっかりとグローバルスタンダードに変える必要があるのではないかと常に問題意識を持っています。栄養学博士というよりは一人の国民として、是正に向けて動いていきたいですね。

気になる研究の遅れとスポーツビジネス

特に「日本って変だな」と思う点は、スポーツ選手が被験者になったニュートリションの研究データが極端に少ないことです。研究者もそれほど多くないですね。日本は海外と比べると、倫理的にヒト試験がやりづらい環境にあるといえますが、それにしてもといった印象です。

研究者やデータが少ない原因として、先に述べた栄養摂取の概念が希薄ということと、ビジネスにならないというのが大きいのではないかと考えています。海外では、スポーツ選手と栄養摂取に関する研究に関してはサポート体制が構築されていて、少なくともヒト試験のデータがなくてはビジネスに参入すらできない仕組みになっています。

食事、栄養摂取を踏まえたニュートリションというのは、前にも話したようにスポーツの核になる部分で、健康にも直結する分野といえます。海外ではそれが理解されているから、スポーツ分野にどんどん研究費を投じ、エビデンスが次々と明らかになり、研究データに基づいた商品が生まれてビジネス化する。この流れができていて、結果的にスポーツニュートリションサイエンスが発展していくのです。

一方、日本は栄養への理解が足りないため、現状で同様の流れは作りにくく、研究といえば食事調査や行動変容の結果報告が主になっています。この点で、海外とだいぶ差がついてしまっているなと感じます。

アメリカではスポーツはビジネス。日本は「体育」という言葉からわかるように教育の面が強い。だから、主たる研究機関の一つである大学でもスポーツをビジネスとして捉えて、研究の成果をお金に還元するという発想が出てこないのです。そもそも倫理として人体実験のようなものも敬遠されていますから。

数年前から日本版NCAA「ユニバス」、つまり米国並みに大学スポーツのビジネス化を日本でも進めていこうという試みがあります。現状のままでは、海外との差がどんどん広がっていく未来が予想できますので、乗り越えるべき壁はいくつもあるものの、この試みが軌道に乗ればスポーツニュートリションサイエンスが少し前進するのではないかと期待しています。

<前編を読む>

<次回へ続く>


青柳清治 / Seiji Aoyagi, PhD  栄養学博士、(株)DNS 執行役員

米国オキシデンタル大学卒業後、(株)協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年に日本へ帰国後、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・(株)ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した株式会社DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。