スポーツを頑張る女子の健康上のリスク③ ~骨障害~【Z世代におくるスポーツ栄養講座 #11】

神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第11回は、成長期を迎える女子選手が抱える問題「女子選手の三主徴(Female Athlete Triad:FAT)」の一つ、「骨障害」がテーマ。

骨障害は、前回までの「利用可能エネルギー不足」、「月経障害」とは異なり、適切な栄養摂取での予防・改善が可能な一方、予防・対策を怠ると生涯にわたって影響を及ぼす可能性もある。

※Z世代とは、欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。すぽとりでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

※記事と動画(図表解説あり)で少し内容が異なります。両方をご覧いただき、理解をより深めていただければ幸いです。

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「体脂肪」「栄養」が関連する疲労骨折

骨のスポーツ障害には大きく分けて「骨折」と「疲労骨折」の2つがあります。骨折はご存じの通り、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなど主にコンタクトプレーの多い競技で起こりやすく、接触のはずみで骨に過度の圧力がかかってしまい、骨が折れることです。一方、疲労骨折は、FATに大きくかかわってくるとともに、Z世代の体の成長が著しいスポーツ選手に非常に多い障害といえます。

疲労骨折の原因はいくつかあり、一つは体の成長を促すための栄養、特に骨の成長に必要な栄養が摂れていないことが挙げられます。また、Z世代のスポーツ選手は、体づくりのためのトレーニング、技術向上のためのトレーニングをハードに行いますが、頻繁に使用する体の部位が“金属疲労”を起こして骨折してしまうケースも見受けられます。さらに、減量を余儀なくされる競技の選手は、過度な食事制限による栄養の不足から疲労骨折に至ってしまうこともあります。ここまでは男女ともに起こるケースといえるでしょう。

そして、女子選手特有の原因から疲労骨折をひき起こすケースは、減量のため必要以上に体脂肪を落としてしまうことです。階級制や審美系競技の選手は特に注意が必要です。

女子選手には月経が周期的に訪れますが、正常に周期的な月経を迎えるためには女性ホルモンがきちんと分泌されるかがカギになります。そのためには適切な量の体脂肪を維持している必要があるのですが、減量のためにホルモン分泌に使われる体脂肪までを落としてしまうと、女性ホルモンの総量は減りますし、骨の成長を促進する「エストロゲン」も不足することになります。結果的に骨量、骨密度が少ない状態になり、少しの衝撃でも骨が折れやすくなってしまいます。

あとは特殊な例ですが、アレルギー疾患を持っていて、治療のために副腎皮質ホルモンを服用している選手も疲労骨折が起きやすいリスクをもっています。副腎皮質ホルモンは、骨の成長を阻害する点もありますので、長期間、連続で服用している人は気をつけましょう。

関連記事:FAT ~月経障害編~

骨の成長は20歳まで。女子に必要なエストロゲン

ここで、骨の成長について説明しておきます。骨量は、誕生から20歳まで増え続けて最高値(ピーク・ボーン・マス)に達し、40歳代くらいまでその値を維持します。そして、50歳代あたりからホルモン分泌の低下に伴って男女とも減少に転じます。男性は、骨量の減少が緩やかなカーブを描く一方で、女性は閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下によって、骨量の急激な減少が起こりやすくなるといわれています。

ここで、Z世代の女子選手が意識しなければならないことがあります。骨量をいかに獲得するかです。骨量が増加する成長期に栄養が不足するのは論外ですが、減量のために体脂肪を減らしすぎると、女性ホルモンの分泌が正常に行われず、エストロゲンも不足することになるため、骨量が増えていかないということになります。

そうなると、20歳以降最大骨量は低いまま中高年を迎えることになり、骨粗しょう症のリスクもグンと高くなります。骨量を増やせるのは20歳までで、それ以降は成長しません。十分な栄養の確保は骨の成長にもかかわってくるのです。

さらにいえば、Z世代の骨量の値は高齢者と同程度で、成長過程とはいえ骨が“もろい”状態ともいえます。栄養の不足はもちろん、トレーニングの過多も疲労骨折を誘発する原因ともなるので頭に入れておきましょう。

骨の強化に「CaMP」を意識しよう

疲労骨折(将来的な骨粗しょう症)の予防のために、骨をどのように強化するか。それは、「カルシウム(Ca)」を摂取することです。しかし、カルシウムは体への吸収が非常に低いことも知られています。ですから、食事の中でいかに効率良く摂取するかを考える必要があります。

カルシウムが多い食品として挙げられるのは、小魚、わかめ、昆布など「海藻類」、牛乳、ヨーグルトなど「乳製品」です。吸収率でいえば、小魚・海藻類が約20%、乳製品が約40%なので、体の成長が著しいZ世代のスポーツ選手が骨の強化のために摂りたいのは乳製品となります。

骨の材料になるのは、カルシウムだけではありません。「マグネシウム(Mg)」も必要になってきます。小魚・海藻類に加え、豆類がマグネシウムの含有量が高い食品です。小魚・海藻類はカルシウムの吸収という点では乳製品に後れを取りますが、マグネシウムも摂れる点で優れています。

そして、「豆乳」はカルシウムを比較的吸収しやすい状態で摂取でき、牛乳よりもマグネシウムが多く含まれているのでお勧めします。自分の生活や好みに合わせて、骨を強化する食品を使い分けて摂取するといいと思います。

骨を作るという点で、カルシウム、マグネシウム以外に「たんぱく質(P)」も重要な役割を担っています。たんぱく質が多く含まれる食品は、肉、魚、大豆製品、卵、牛乳、ヨーグルトで、これらはカルシウムも多く含まれています。さまざまなたんぱく質食品から同時に効率よく栄養を摂取すると良いでしょう。

特にお勧めしたいのが「納豆」。納豆にはカルシウム、マグネシウム、たんぱく質のほか、骨の成長を助けるビタミンKも多く含まれており、一つの食品で多くの栄養を摂ることができるスーパーフードです。体の成長には欠かせない食品の一つなので、みなさんもぜひ意識して食べるようにしてください。

カルシウムの吸着剤「ビタミンD」

吸収率が非常に低いカルシウムですが、ビタミンDを組み合わせることで改善されます。ビタミンDを多く含む食品はズバリ「魚」です。

朝食によく出てくる鮭の切り身を例に挙げれば、1/3切れで1日に必要なビタミンDを摂取することになります。魚を毎日食べていれば、ビタミンDは不足することなく摂れていることになります。きのこ類にもビタミンDは含まれていますが、1日に必要な摂取量を補おうとすると、しいたけで20個食べなければならないので、魚からビタミンDを摂るのが現実的ですね。

そのほかに、カルシウムの吸収を上げる方法として、「酢の物」と一緒に食べるのも有効です。小魚・海藻類は酸っぱい物と組み合わせて摂る。これを覚えておくといいでしょう。

指導現場の選手たちによく勧めているのが「モズク酢」です。パックで売っているモズクに酢をかけるだけで簡単にできますし、カルシウム・マグネシウムもしっかり摂れて体にも吸収されます。さらにアレンジして、シラス干しも加えるとカルシウム強化食の完成です。

酢の物が苦手という人は、食後に果物(すっぱい物)を食べることで吸収率の向上が期待できます。オレンジ、みかん、グレープフルーツなどの柑橘類、キウイ、イチゴも相性がいいので、吸収率を高めることにつながります。

FATの予防・対策のカギを握る「体脂肪」

利用可能エネルギー不足、月経障害と比べると、骨障害、骨の成長は栄養の摂取が大きくかかわってきますので、何を摂ればいいのかを考えながら毎日を送ってほしいと思います。

これまで3回にわたって、FATについての基礎的な情報をお伝えしてきました。いずれも、女子選手特有の栄養の摂り方が問題で、減量をしなければならない競技(審美系、階級制)の選手に頻発しています。そして、障害の根本にあるのが「体脂肪を必要以上に落とす」ことです。女性ホルモンの分泌異常により、正常な月経発来や骨の成長を阻害することにつながってしまうのです。

スポーツをする上で、動きのキレが増すとか、動きやすくなるなどの理由で体脂肪を減らす選手が多いと思いますが、ホルモン分泌の関係から女子選手にはある程度の体脂肪が必要になってきます。ですから、誰かの真似ではなく、自分にとって最適な体脂肪を知る(管理する)こともFATの予防に役立ちます。

成長著しいZ世代の女子選手の多くは、FATを大きな問題として捉えていないかもしれませんし、影響がないと考えるかもしれません。中には、甘んじて受け入れている選手もいるのではないでしょうか。

しかし、スポーツを辞めた後の方が人生は長いのです。現役中にFATへの対策・対応を間違えると、その後に大きな問題として降りかかってくる可能性があるのです。女子が女性らしく人生を送っていくために、成長年代の健やかな過ごし方が将来にもかかわってくることを覚えておいてください。

<次回に続く>

スポーツを頑張る女子の健康上のリスク➁ ~月経障害~【Z世代におくるスポーツ栄養講座 #10】

神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第10回は女子選手の三主徴(Female Athlete Triad:FAT)の一つ、「月経障害」がテーマ。

専門家たちは、対応を間違えると引退後や成人になってからも苦しめられる障害として警鐘を鳴らしている。選手、指導者、保護者が一体となって、月経に対する理解を深めると同時に、環境作りも進めていく必要がある。

※Z世代とは、欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。すぽとりでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

※記事と動画(図表解説あり)で少し内容が異なります。両方をご覧いただき、理解をより深めていただければ幸いです。

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女子選手特有の「月経障害」

FATのうちの一つ「月経障害」は、「利用可能エネルギー不足」や「骨障害」とは異なり、女子特有の生理現象からくるものなので、男子には起きないものです。体重が軽ければ軽いほど有利になる競技や常に減量しないといけない競技の選手によくみられる症状です。また、スポーツをしていない成人の女性にも起こり得ることなので、注意点を押さえておきましょう。

競技のために女子選手が減量する場合、筋肉(除脂肪)量まで減らしてしまうと競技能力の低下につながってしまいますから、「まずは体脂肪を落とそう」という考え方の人も少なくないのではないでしょうか。ところが、女子には月経が訪れるので、単純に体脂肪を落とせばいいとはいえません。かえって悪影響を及ぼすことにもなります。

周期的な月経を迎えるには、正常な女性ホルモンの分泌が不可欠です。分泌を促すためにはある程度の体脂肪が必要になってきます(月経発来には体脂肪率17%以上、安定した月経の発来には22%以上)。減量を意識するあまり、必要な体脂肪までそぎ落としてしまうと、女性ホルモンの分泌に異常をきたし、月経障害の発症リスクが高まってきます。

※松田貴雄, etal : 競技種目別スポーツ障害と外傷の画像診断, 女性アスリート 無月経と拒食症のリスク画像診断, 28(8) 821-829 (2008)

また、女性ホルモンの分泌は精神状態に大きく影響される点もありますので、日常ですごく落ち込むような出来事があると、月経が遅れたり、止まったりすることもあります。特に、スポーツを頑張っている女子選手は、「試合結果や自身のパフォーマンスに納得がいかない」、「高すぎる理想を求めるコーチング」、「合宿続きで落ち着けない」「指導者が頻繁に代わる」といった悩みの種がただでさえ多いうえに、毎日激しいトレーニングをするわけですから、心身でストレスを受けている状態といえるでしょう。こうしたことから、ホルモンバランスが崩れて月経障害に陥るケースが多々見受けられます。

月経障害の種類はこんなにある

月経障害にはいくつかのケースがあります。年齢的なものでいえば、通常なら12歳ごろに来る初経が10歳未満で起きてしまう「早発月経」、15歳になっても月経がない「遅発月経」、18歳になっても初経がない「原発性無月経」があります。

月経周期の異常としては、正常な周期(28日前後)よりも早く(24日以内に)月経が来る「頻発月経」、35日以上月経がない「希発月経」、基本的に90日以上月経がない「無月経」に分類されます。

正常なら1週間程度続く月経ですが、月経の持続日数の異常も挙げられます。8日以上月経が続く「過長月経」、反対に2日以内で月経が終わってしまう「過短月経」があります。他にも出血量が多かったり、少なかったり、出血時に血の塊が混じったりすることもあります。

最近では、月経開始に伴い、体に痛みが出て日常生活に支障をきたす「月経困難症」、月経開始前から不安やイライラなどに襲われ、心身に異常が出る「月経前症候群」も健康上の問題として挙げられています。

月経への意識が低くなりがちなスポーツ現場

今、女子のスポーツ現場では「痛みもないし、気持ちも楽だから、月経は来ない方がいい」と考えている選手が多いようです。とても悲しいことですね。月経が正常に来ないということは、明らかに良くないコンディションです。

この状態でいくらトレーニングをしても効果は上がりません。人間の本能を無視してまで競技をすることは決して健全とはいえず、引退した後の生活にもかかわってきます。心身ともに健康な状態で試合に出場し、結果を出す。これが「真のアスリート」なのではないでしょうか。

「月経はなくて当たり前」というのは完全に間違った考えです。選手自身が月経に関する正しい情報に接し、知識を得ていく必要があります。そして、私たちスポーツニュートリショニストはもちろん、親御さん、指導者ら選手・チームを取り巻く周囲も、月経への理解を深めて選手が間違った方向に行かないよう、協力しながら導いていくことが重要です。

月経の自己管理と指導者の理解

月経障害の予防に一番大切なのは、「基礎体温をつける」ことです。自身のホルモンバランス、周期を知ることにつながるからです。そして、正常な月経周期を迎えるためには、自分にとって理想的な体脂肪率も同時に把握しておきましょう。

関連記事:体脂肪率の求め方

例えば、トップスポーツ選手、メディア露出の多い人が公表する体脂肪率にならって、無理な減量を行う選手もいるのですが、正解とはいえません。それよりも、自分が最も良いパフォーマンスを出せた時、好結果を残した時、月経が正常にきている時の体脂肪量、体脂肪率を覚えておき、常に頭に入れて意識的にコントロールすることの方が大切です。

選手は体が重く感じたり、月経による痛みがあったりする場合、無理にトレーニングをしない選択をするのもありだと思います。むしろ、月経周期に合わせたトレーニングメニューを自分で考える、もしくは指導者に作成メニューを提案することも必要になってきます。それくらい、自己管理を徹底すべきことだと考えます。

月経に関しては、指導者側の理解も求められます。選手が「今日は月経で体調が悪いので、練習を休みたい」と指導者に伝えると、「まだ月経なのか!」「トレーニングが足りていないんじゃないか!」と、逆に叱責されるという話をよく聞きます。FATを理解していませんし、選手とコミュニケーションが取れていない指導者ということになりますね。一昔前と比べれば少なくなってはいますが、いまだにこのような”パワハラ”指導が行われている現場があるのも事実です。

月経は、女子選手にとっては当たり前の生理現象です。指導者側は、選手がいつでも月経の悩みや相談を打ち明けられるような環境を作ってあげてほしいものです。

月経障害が起きてしまったらすぐに婦人科へ

月経障害は前回お話しした摂食障害と同様、「病気」です。症状が出たら専門医の診察を受けて治療しなければなりません。

月経障害の専門は婦人科なので、思春期の女子選手にとって行きづらい所ですし、気が引けるかと思います。しかし、「一時の恥」という言葉もあります。症状を放置し、治療が遅れて大事な試合に出られなくなっては本末転倒です。選手生命を脅かす事態にもなり得ます。もし、症状が出ても適切に対応すれば、それだけ復帰も早くなるのです。

そして何より、女子選手は引退後も月経と向き合って生きていくのです。月経障害の治療を疎かにすると、女性らしく生きていくための大きな障害に発展する恐れもありますから、軽く考えず真剣に受け止めましょう。

FATで重要なのは「常に予防を心がけること」「症状が出たら病院へ行く」。これにつきます。月経障害の場合、月経周期、ベストな体脂肪率の把握、指導者側の理解、周囲の気づきなど、選手のコンディションを安定に保つためには、問題の共通認識をもって当たることが好成績に結びつく要因につながるのではないかと思っています。

<次回へ続く>

スポーツを頑張る女子の健康上のリスク① ~利用可能エネルギー不足~【Z世代におくるスポーツ栄養講座 #09】

神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第9回は女子選手の三主徴(Female Athlete Triad:FAT)の一つ、「利用可能エネルギー不足」がテーマ。

女子選手が抱える健康上のリスクは、利用可能エネルギー不足が根源とも考えられている。生理現象が異常をきたし、心身のストレスからさまざまな症状がひき起こされる。今回は、利用可能エネルギー不足に伴う心理的疲労について解説する。

※Z世代とは、欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。すぽとりでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

※記事と動画(図表解説あり)で少し内容が異なります。両方をご覧いただき、理解をより深めていただければ幸いです。

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利用可能エネルギー不足とは?

FATが最初に提言された時は、「摂食障害」「月経障害」「骨障害」でしたが、2007年に「摂食障害」の部分が「摂食障害の有無にかかわらない利用可能エネルギー不足(low energy availability)」に変更されました。

利用可能エネルギーとは、食事から摂取するエネルギー量から、運動によって消費されるエネルギー量を差し引いた、「基礎代謝や日常生活に必要なエネルギー量」のことをいいます。特に成長著しいZ世代のスポーツ選手は基礎代謝が重要で、成長に必要なエネルギーをしっかり確保することが理想的な体を作るための要素となります。

利用可能なエネルギーが不足している状態が続くと、特に女子選手は「女性ホルモンの分泌低下・異常」によって、「月経障害」「骨代謝異常(疲労骨折)」「心理的疲労(摂食障害・オーバートレーニング症候群)」に陥る可能性が高くなってきます。ですから、利用可能エネルギー不足はFATの根源ともいっても過言ではなく、常に気を配っておかなければなりません。今回は、利用可能エネルギー不足からくる心理的疲労について説明していきます。

スポーツで受けるストレスが「摂食障害」にも

摂食障害は、ストレスを原因とする心身症の一つと考えられており、食事がとれなくなってしまう「神経性食欲不振症(拒食症)」と、食べずにいられなくなってしまう「過食症」があります。

ストレスを適切に処理する能力が未熟な思春期(Z世代)によくみられる症状で、さまざまなケースが想定されます。女子に多いものですが、男子でも成人になってからでも十分に起こる得ることを覚えておきましょう。

トレーニング理論や方法の進歩によって、小さいころから専門的なトレーニングを行ったり、体力に見合わない練習をするといったケースも見受けられます。このような状態が続いていると、自分でも気づかないうちにストレスがたまり、症状が出ることがあります。こうした摂食障害の低年齢化は新たな問題として憂慮されます。

そして、体重制限を余儀なくされる競技を頑張っている女子選手は要注意です。長期間減量をしなければならない、体重を維持しなければならないプレッシャーやストレスが「食」に向かうことで、発症のリスクが高まります。また、ケガでトレーニングができない間に仲間やライバルに差をつけられるのではないかという不安、気が置けない指導者が交代することの不安も原因として挙げられます。

拒食症と過食症の症状として、前者は「体が食べ物を受けつけない」、もしくは「食べたいのに食べ物がのどを通らない」などに対して、後者は、食べることはできても、食べてしまった罪悪感から結局、下剤を使ったり吐いたりして体外に排出してしまいます。

いずれにしても、必要なエネルギーや栄養素が足りなくなるので、身体に異常をきたします。この状態でトレーニングや練習を続けると、体重が減っていくのはもちろん、疲労の回復が遅れたり、疲れやすくなったりします。栄養不足によって、免疫力が低下して病気になりやすくなったり、骨の代謝異常による疲労骨折などケガにもつながりやすくなったりします。

生理的な症状としては、徐脈、低血圧、低体温、月経障害、貧血といった症状もみられるようになります。これらはまさにエネルギー不足の弊害で、体の防御反応で自然と基礎代謝を落としてしまいますから、根本的な改善なくしては日常生活も困難な状態になります。

摂食障害が疑われる場合は速やかに心療内科へ

拒食症が疑われる人は、こんにゃくや海藻類などエネルギーが低い物しか食べないといった特徴があります。一方、過食症が疑われる人は、食事はするものの、吐くためにトイレにこもってしまってなかなか出てこないといった行動がみられます。

実際に、自分、もしくはチームの誰かに疑わしい症状が出た場合は、速やかに心療内科医にゆだねてください。Z世代の指導をする中で、私たちスポーツ栄養の専門家は食べ方の指導はできます。しかし、摂食障害は「心の病気」が原因なので、食べ方以前に病の元を断つことが優先されます。そして、それが何よりも重要になってきます。

摂食障害は自分では気づかないこともあるので、指導者、チームメイト、家族など、周囲の理解・協力も欠かせません。行動に少しでも異常な点がみられたら、心療内科医に一緒に行ってあげることも解決の糸口になるかもしれません。日ごろから「EAT26」のようなアンケート調査で食生活・行動を常に把握しておくこともいい手段だと思います。

自分を追い込んでしまう「オーバートレーニング症候群」

利用可能エネルギー不足が長く続くことによってひき起こされるのが「オーバートレーニング症候群」です。別名「ステルネス症候群」と呼ばれ、継続的にストレスを受けている状態をいいます。

他者(主に指導者)による激しい叱咤・激励、身の丈に合わない指導を受けるケースと、自分自身を必要以上に追い込んでしまうケースがあります。キャプテンを任されるようなまじめな性格の選手、責任感の強い選手、向上心の高い選手などは注意した方がいいでしょう。

オーバートレーニング症候群は摂食障害と同様に、体重制限を余儀なくされる競技の選手によくみられる症状ですが、減量のために摂取エネルギー量を減らしてしまうことは体と心の成長に悪影響を及ぼします。成長期の選手はトレーニング量も多いので、必ず消費したエネルギー、栄養をしっかり食事で補充し、常に利用可能エネルギーが不足しないように保つことが何よりも大切です。

<次回へ続く>

現場で役立つスポーツ栄養学の知識②【スポーツ栄養の果たす役割 #11】

「野菜は必須!」 という基本

食事・栄養の基礎・基本は何かと、改めて問われれば――。またそれか、と思われるかもしれませんが、やはり『野菜を中心とした食事をバランスよく!』。これに尽きるといえるでしょう。

なぜ、野菜が中心かといえば、食物繊維やビタミン・ミネラルを豊富に含んでおり、かぜやケガの予防はもちろん、メタボリックシンドロームの予防、あるいは貧血や熱中症の予防にもなるからです。

また、ビタミンCを多く含む食品は、体内に蓄積できないので、日々の摂取を欠かすことはできないという理由もあります。つまり、ヒトの身体が健やかに機能するという意味では、「野菜を中心に!」というのはすべての人に共通した大前提になるというわけです。

ちなみに、USOC(United States Olympic Committee=アメリカオリンピック委員会)のアスリートレストラン(https://www.teamusa.org/nutrition)においても、通常のトレーニング時においては野菜をワンディッシュのうち半分とるようにと指導されています(トレーニングの多い日と試合の日においてもお皿の4分の1程度)。

つまり、外国人選手は肉ばかり食べているから強いなんていうのは、もはや時代遅れのナンセンス以外のなにものでもない。こういったことも正しい情報として認識しておきたいものです。

したがって、指導者や運動実践者の方々であればなおさらのこと、まずは『野菜は必須!』というルールを基本として、そのうえで目的や生活(仕事)環境に応じてさまざまなバリエーションを活用したり、あるいはアレンジを加えるという、まずは健康第一の本来の考え方に切り替えるべきではないかと思います。

飛び道具”を活用するタイミング

例えば、指導者の中でも一日に何本もレッスンを抱えるフィットネスインストラクターの方々の場合、その運動消費量はアスリートに勝るとも劣らないといえるでしょう。ましてや、どの時間帯であっても質の高いレッスンを提供するためには、欠食なく規則正しく食べることが絶対条件となります。ところが、言うは易く行うは難し。おそらく規則正しくとは真逆の不規則な仕事環境を強いられることによって、その条件は十分に満たされていないのが現状ではないでしょうか。

私が教えていた卒業生の中には、インストラクターとなって活躍している教え子も少なくないのですが、その教え子たちが社会人になってから一様に痩せていくのです。これは、明らかに運動による消費エネルギーに見合った摂取エネルギーがとれていない証しといえるでしょう。レッスン過多になると、疲労の影響で食欲もなくなり、次第に痩せていくという悪循環に陥ってしまっているのです。

アメリカスポーツ医学会では、こういった状況をアスリート特有の問題であるlow energy availability(利用可能エネルギー不足)と定義し、警鐘を鳴らしています。こうしたエネルギー不足は、女性の場合、月経周期異常や生涯にわたる骨粗しょう症のリスクを高める可能性を秘めており、女性アスリートの三主徴(Female Athlete Treard)として注意喚起されています。

こういうとき、「それでも基本通りに食べなさい」と正論を振りかざしても、問題はなかなか解決するものではありません。むしろ、それはさらなるストレスとなってしまうものです。したがって、こういったケースでは、いや、こういうケースだからこそ、前回述べた‟飛び道具”を緊急避難的に活用すべきではないかと考えます。

例えば、私は、そんな彼女たちに対して「1日1つ、バニラアイスを食べてから寝るように」といったアドバイスをすることがあります。なぜなら、それくらいしなければエネルギーが全く足りていないからです。心身ともに疲弊しているときには、胃腸も弱ってしまっています。いわゆる、これはたくさん食べるよりも高カロリーの食品を少量食べるという考え方です。というのも、食べたものを消化するには、それだけでもエネルギーが必要だから。つまり、疲弊しているときは、たくさん食べなさいといっても、それを消化するエネルギーさえないときもあるというわけで、その究極の状態が点滴といえるでしょう。

ただし、これはあくまでもケガをしたときの‟応急処置”と同じ。したがって、現在の自分に最も適した食べ方を模索し、食事・栄養面からもコンディションを整える術をいち早く身につけることが重要であることはいうまでもありません。

<次回へ続く>


松本 恵/Megumi Matsumoto

北海道札幌市生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科応用生命科学博士課程後期修了。日本大学体育学部体育学科教授。管理栄養士。日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士。

大学では、陸上競技、柔道、トライアスロン、スキージャンプ選手などの栄養サポートに携わる。スポーツ貧血の改善・予防、試合時のコンディショニング・リカバリーなど幅広い研究をするとともに、ソチ・オリンピックではマルチサポート・ハウス ミール担当など多岐にわたり活動。日本スポーツ栄養学会理事。