運動前は「動かして整える」

ストレッチというと、止まったまま伸ばす「静的ストレッチ」を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、近年のスポーツ科学では、運動前には身体を動かしながら温める「動的ストレッチ(アクティブストレッチ)」が推奨されています。

静的ストレッチが筋肉の柔軟性を高めるのに対し、アクティブストレッチは筋温の上昇、関節可動域の確保、神経系の活性化など、運動前のコンディショニングに適しています。

つまり、「どちらか一方が正しい」わけではなく、場面に応じて使い分けることが大切です。運動前は動的ストレッチ、運動後のクールダウンや柔軟性維持には静的ストレッチ—これが理想的な組み合わせです。

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〝動けるカラダ〟をゲット! アクティブストレッチ22選

ここからは、レクリエーションレベルの運動やジョギング、ウォーキングなどの前に行うウォーミングアップ22種について、動画を交えて紹介します。(協力:早稲田大学スポーツ科学学術院 熊井司研究室)

10〜20mほどのスペースを往復しながら、歩くようなリズムで全身を動かしていきます。下肢中心のメニューで、強度はあくまで軽め。「少し体が温まってきたかな」という程度で十分です。

<<実践ポイント>>
・各種目は10〜20mを1往復、または10〜15秒程度で十分です。
・呼吸を止めず、反動を生かしながら「リズミカルに動く」ことが大切です。
・強度はあくまで低〜中強度。無理をせず「心拍が少し上がる程度」が目安です。

また、専門競技の前には、ここで紹介した種目に加えて、その競技特有の動きを含めたウォーミングアップを行うことが望まれます。例えばサッカーならボールタッチやドリブル、バレーボールならスパイクモーション、ランナーならストライド走など、競技動作に沿った準備を加えることで、実戦につながる動きが生まれます。

アクティブストレッチ22種、動画イッキ見!»

①前屈

歩きながら上体を前に倒し、太ももの裏(ハムストリングス)を心地よく伸ばします。膝は軽く曲げてもOK。反動はつけすぎず、テンポよく前進しながら。


②つま先タッチ

片脚を前に出してつま先を上げ、反対の手でタッチ。股関節や体幹を連動させる動きで、姿勢を保ちながら柔軟に。


③ランジ

脚を胸前で抱え込み、一歩大きく前へ。股関節を大きく曲げ伸ばししながら、重心移動を意識して進みます。


④ランジ捻り2種

1は上体を左右へ、2は斜め方向へひねる。股関節から胸前まで連動し、可動性を高めます。体幹の「つながり」を意識して。


⑤脚上げ5種(前・横・後ろ・内旋・外旋)

股関節を多方向に動かすことで、可動性と安定性を同時に整えます。各方向へ軽く脚を振り上げ、反動を活かしながらテンポ良く。


⑥脚振り上げ5種(前・横・後ろ・内旋・外旋

ややダイナミックに振り上げますが、無理は禁物。股関節や大腿部の筋群を「使える状態」に整えます。


⑦肩回しステップ

ステップを踏みながら肩を大きく前後に回し、肩甲骨周囲をゆるめます。下半身との連動を意識。


肩回しサイドステップ

横移動しながら肩を回し、全身の協調性を高める動作。


⑨キャリオカ(クロスステップ)

脚を交差しながら進むステップ。股関節・体幹・下肢の協調を促します。リズムに乗って行いましょう。


⑩ステッピング

その場でリズミカルに足踏み。下肢の反応性を高め、神経系を刺激します。


⑪腿上げ

テンポ良く腿を上げ、心拍数を上げます。動作が軽快になり、全身が「動くモード」に。


⑫ツイスト

その場で上半身と下半身を逆方向にひねる動作。腕を軽く振りながら体幹を中心にツイストすることで、腰まわりの筋群のスイッチを入れ、全身の連動性を高めます。


⑬スタージャンプ

軽いジャンプで腕と脚を同時に大きく開き、着地とともに元の姿勢へ戻る動作。全身の協調性とリズム感を引き出し、瞬間的な伸展・収縮の切り替えを促します。


+α(軽いジョギング&切り返し動作など) 

10〜20mの軽いジョギングや、方向転換を伴う軽い切り返しを行って仕上げましょう。競技動作に近い刺激を入れることで、神経系の準備も整います。

動かして整える」を習慣に

ウォーミングアップは、単なる「準備運動」ではありません。筋肉や関節、神経系、そして心のスイッチを「動きながら」入れる大切なプロセスです。

身体を温め、動き出しを滑らかにし、ケガを防ぐだけでなく、「今日も動くぞ」という前向きな気持ちを引き出してくれます。アクティブストレッチを日常の一部に取り入れ、運動を「始める前から楽しむ」こと。

それこそが、スポーツ医学が示す最もシンプルで、効果的な健康習慣です。(前道 俊宏)

【引用文献】
・Wilson CJ et al.: The effect of muscle warm-up on voluntary and evoked force-time parameters: A systematic review and meta-analysis with meta-regression. J Sport Health Sci (2025)
・Sople D et al.: Dynamic Warm-ups Play Pivotal Role in Athletic Performance and Injury Prevention., Arthrosc Sports Med Rehabil (2024)
・Sadigursky D et al.: The FIFA 11+ injury prevention program for soccer players: a systematic review., BMC Sports Sci Med Rehabil (2017)
・Silvers-Granelli H et al.: Efficacy of the FIFA 11+ Injury Prevention Program in the Collegiate Male Soccer Player., The American Journal of Sports Medicine. (2015)
・安田好文 : ウォーミングアップが運動時の生体機能に及ぼす影響について, デサントスポーツ科学 (1983)

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前道俊宏(早稲田大学スポーツ科学学術院講師、東洋大学ライフイノベーション研究所客員研究員)

日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)、鍼灸あんまマッサージ指圧師。スポーツ医科学・臨床現場を架橋する研究を推進し、運動器障害の評価と予防、介入効果の可視化に関する研究に従事している。