アトピー性皮膚炎はどのような疾患か?

日本皮膚科学会等が示した治療ガイドラインによれば、アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis:AD)は増悪と軽快を繰り返す搔痒(かゆみ)のある湿疹を主病変とする疾患で、多くの患者が「アトピー素因」を持つとされます。

アトピー素因は、気管支ぜんそく・アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、もしくは複数を自分自身や家族が持つことで、IgE抗体というアレルギー反応に関係する抗体を産生しやすい体質です。

特徴的な左右対称性の分布を示し、乳児期または幼児期から発症し小児期に寛解するか、または寛解せず再発を繰り返して成人まで持続する場合もあり、遺伝的要素も発症に関係します。

原因や発症、悪化に関係する要因として、学校や日常生活環境における抗原(アレルギーの原因物質:ハウスダストやダニなどの小生物、金属など)や刺激物への曝露、ライフスタイルと温度・湿度といった環境因子、ストレスなど精神的因子等があります。

アトピー性皮膚炎は痒みなどの症状を抑制するため、ハウスダストを減らして部屋の環境をクリーンに保つなど、子供自身だけでなく周りの家族の協力も必須です。しかし、それに加えて口内環境も発症などに関与することが判明しています。

歯科金属アレルギーとADの関係

虫歯治療した歯の欠損を補うため、噛む強い力がかかる部位には丈夫な金属を用いるのが一般的です。

噛む力がさほど強くない子供には、白い樹脂(コンポジットレジン)を使うことも多いですが、欧米では審美性を重視して白いセラミックを用いる傾向があるのに対し、日本では現在も金属が頻用されています(図1)

図1 多彩な歯科金属材料
(写真:筆者提供)

金属イオンがタンパク質と結合すると、アレルギーの原因となる抗原としての性質を獲得するため、唾液中に金属成分が溶け出す可能性がある口の中は要注意です。 

2009年に徳島大学の研究グループが報告した調査によると、徳島大学病院・歯科用金属アレルギー外来を受診した患者を対象として、疾患名・症状名とその人数を調べました。

その結果、1995年7月~2000年6月の5年間に受診した患者の中でAD患者が12%を占め、金属アレルギーが疑われる患者にAD患者が少なからず含まれていることが分かりました(図2)

図2 金属アレルギー外来受診患者の疾患・症状

ところで、虫歯治療後にかぶせる冠(クラウン)や詰め物(インレー)の金属は、日本では主に金銀パラジウム合金が使われ、銀、銅、パラジウム、金、亜鉛などで構成されます。安価で強度がある利点がある半面、金属アレルギーの原因になることがあります。

なお、以前は虫歯治療でアマルガムという有害な水銀を含有する金属が用いられ、現在でも高齢者を中心にアマルガムを奥歯の溝などに詰めた患者が時々来院されますが、水銀の健康被害が不安視され、日本では2016年に保険適用から外れました。

矯正装置でも金属アレルギーが起きる

子供では、歯並び・噛み合わせを改善する歯科矯正で用いる装置にニッケル、チタン、ステンレス等の金属が使われます。

取り外し式の装置もありますが、マルチブラケット装置などの常時口に入れたままの装置も多く、金属成分が唾液中に溶け出す可能性があります。

1997年に東北大学の研究グループが報告した研究によると、同大学歯学部付属病院の小児歯科外来を受診した子供を対象として、金属アレルギーに対する調査が実施されました。

その結果、歯科治療で使われる金属にアレルギー反応を示した子供は、ADや気管支喘息等のアレルギー性疾患を高い頻度で有することが明らかになりました。

さらに、この調査で報告された6人の子供は、小児歯科の歯科治療で使用されるインレー(詰め物)、乳歯冠(かぶせ物)だけでなく、矯正装置が含む金属成分に対してもアレルギー反応を認め、比較的感作率が高いニッケル、コバルト、クロム等だけでなく、感作率が低い金にもアレルギーが確認されました(感作:異物として認識し、免疫細胞が反応すること)。

ところで、歯科矯正のワイヤにも用いられるチタンは、歯を失った後に骨に埋入するインプラント(人工歯根)でも使用されるように、生体親和性が高くてアレルギーが発生しにくい金属の一つです。しかし、体質によってはアレルギー反応が起きることがあります。

アレルギー検査の「パッチテスト」

アレルギー反応を起こす原因物質(アレルゲン)を調べる方法として一般的なのが、パッチテストです。

2013年に東京歯科大学千葉病院の歯科金属アレルギー外来が行ったテスト結果によれば、陽性率が高い金属元素はニッケル(20.2%)を筆頭に、亜鉛、パラジウム等が続きました(図3)

図3 金属の違いによるパッチテスト陽性率

この検査は、アレルゲンと推測される物質の試薬を含む絆創膏を上背部もしくは上腕外側に貼り、48時間など一定時間を経過した後に外して皮膚の変化を観察します。もしアレルギー反応があると、皮膚が赤くなる、痒みが出るといった症状があり、陽性と判定されます。 

パッチテストは健康保険が適用されるため、アトピー性皮膚炎や扁平苔癬※)などの原因不明の皮膚病に悩む場合は歯科金属アレルギーの可能性も考慮し、パッチテストを受けることをお勧めします。

※)へんぺいたいせん:手関節の屈曲面、下肢、口腔粘膜などにかゆみが生じる症状。

歯科用金属以外でアレルギーが起きることも

歯科用の金属以外でも、例えば前歯の表面や奥歯の溝の虫歯治療で歯を削った後に埋めるコンポジットレジンなどでもアレルギー様症状が認められた報告があります。

口の中の不衛生や虫歯などで口内環境が悪いと金属や樹脂の腐食が進みやすいため、アレルゲンの発生するリスクが上昇します。

つまり、歯科用材料と皮膚領域の疾患は深い関連性があるため、アレルギーの発症を予防するためには口腔内を清潔に保つことも大切であると言えるでしょう。

重篤な皮膚症状が出た場合に重要なのは、皮膚科医師・内科医師と歯科医師の連携です。ADやアレルギーが認められた場合は、速やかに各分野の医師と相談して総合的な治療を受けるようにしましょう。

【参考資料】
・公益社団法人日本皮膚科学会ほか:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021, 日皮会誌, 131(13) 2691-2777 (2021)
・Hosoki M et al: Assessment of allergic hypersensitivity to dental materials., Bio-Medical Materials and Engineering, 19, 53-61 (2009)
・高橋薫ほか:アトピー性皮膚炎患児にみられた歯科用金属アレルギーの6例, 小児歯科学雑誌, 35(4) 740-749 (1997)
・國分克寿ほか:歯科金属アレルギーの臨床統計的検討-東京歯科大学千葉病院における歯科金属アレルギー外来について-, 日本口腔検査学会雑誌, 5(1) 45-50 (2013)
・Blomgren J et al: Adverse reactions in the oral mucosa associated with anterior composite restorations., J Oral Pathol Med, 25, 311-313 (1996)

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
【ブログ】blog.goo.ne.jp/shimatanishixx
【X(旧Twitter)】https://twitter.com/@40124xxx
【note】note.com/kind_llama853