マウスガードはさまざまなスポーツ種目で歯を守る
マウスガードは、スポーツによって生じる歯や周りの組織の外傷予防やダメージの軽減をする目的で装着する弾力性のある装置で、主に上の歯に装着します。
スポーツ種目では、格闘技やラグビーなどの激しいコンタクトスポーツ(相手と接触するスポーツ)種目で、その装着が義務付けられているものもあります。
また、コンタクトスポーツ以外でも野球のボールのような硬い物が歯に当たることがあるので、マウスガードの使用が推奨されている種目もあります。
2013年に明海大学歯学部のグループが報告した研究では、1134人のコンタクトスポーツを中心としたスポーツ競技者(平均年齢19.4歳)を対象として、マウスガードの装着と口腔外傷の発生の関わりについて調査しました。
競技種目としてはラグビー競技者874人、ラクロス競技者171人、モーターバイク競技者88人、ボクシング競技者1人でした。
その結果、マウスガードを装着していない時に口腔外傷を受けた競技者の人数は、装着していた人数より2.4倍も多くなりました(図1)。

歯の障害見舞金や受傷率の高さについて
令和3年4月より独立行政法人日本スポーツ振興センターでは、これまで災害共済給付の障害見舞金の対象ではなかった歯牙の欠損(永久歯が根から抜けた喪失歯)について、新たに「歯牙欠損見舞金」の給付を始めました。
支給額は1歯につき8万円になりますが、その給付には条件がいくつかあります。
学校の管理下で令和3年4月1日以降に発生した災害・事故に適用されますが、歯が折れた「歯牙破折」や欠損した歯が乳歯の場合、脱落した歯牙を再植した場合など、適用対象でない条件がいくつかありますので、詳しくはサイトでご確認下さい。
同センターが行った障害見舞金の給付件数は、歯や口の外傷が最も多く、全体の約3割を占めています。
文部科学省の資料によると、歯牙傷害を受けたスポーツ種目として野球がダントツに多く、ボール等が歯に当たる割合が非常に高く、歯にとって極めて危険なスポーツであることが示されました(図2)。

歯が欠ける、折れる、抜けるなどのダメージを受けると痛みの苦痛だけでなく、食べたり話したりする日常行為にも支障が出ます。特にダメージを受けやすい前歯であれば、見た目(顔貌)にも悪影響が及びます。
大切な歯や口を守るために効果的なのが、スポーツ用マウスピース(マウスガード)なのです。
マウスガードの効果
マウスガードには多彩な効果がありますので、詳しく解説します。
①スポーツ外傷や強い噛みしめによるダメージの軽減・防止
スポーツ選手は競技中に歯を強く噛みしめるため、歯が著しく摩耗(咬耗)しやすいと言われています。
ひどいケースでは奥歯が割れて抜歯を余儀なくされたり、周囲の筋肉や関節が傷害されたりしますが、マウスガードは歯列の全体を覆う構造であるため、強い外力が加わった時にクッションの役目を果たして歯や周囲の組織を保護します。
②選手同士による傷害の防止
コンタクトスポーツでは相手の選手と激しく接触した時に、自分の歯が受傷するだけでなく、歯が相手を傷付けてしまうこともあります。マウスガードは、この双方を防止するのに役立ちます。
③脳振とうなどの予防
マウスガードの材質は弾力性がある樹脂であるため、加わる外力の衝撃を吸収し、歯列全体をカバーするので衝撃力を局所に集中させずに分散します。
結果として、頭や首にかかる力の負担が軽減されるため、脳振とうや脳障害、頚椎損傷、顎関節骨折などを予防できます。
④顎位の安定
マウスガードを装着することによって、グッと噛みしめた時の顎の位置が安定するため、頭や首、腰の位置が適正に保たれて身体バランスが整いやすくなります。
⑤心理的効果
スポーツ事故に対する不安や恐れがマウスガードを装着することによって大幅に軽減することができます。
その結果、リラックスした精神状態で競技に専念できるため、集中力と積極性が増して伸び伸びとプレーすることができます。
⑥経済的効果
マウスガードの装着で外傷を防ぐことができれば、治療による時間的損失や治療費がないため、経済的です。
マウスガードの種類
マウスガードは大別して、市販のマウスガードと歯科医院で製作するカスタムメイドタイプのマウスガードの2種類があります(図3)。
市販のマウスフォームドタイプは比較的安価で選手自身がお湯で軟化させて成型する手軽さはありますが、適切な調整ができないため違和感が強かったり、呼吸がしにくい、外れやすいといった問題点が出たりすることがあります。
一方、カスタムメイドタイプは基本的に健康保険適用外であるため値段は高めですが(各歯科医院で値段は異なる)、歯科医師・歯科技工士の手により各選手の歯の状態に合わせて精密に製作されます。
そのため適切な調整ができて精度が優れるので、違和感も少なくて外れにくく、外傷予防効果も高まります。
このような観点から、自分に合ったオーダーメイドのカスタムメイドタイプのマウスガードを使用することをお勧めします。
以上より、スポーツをする際は大切な歯を守って競技に集中できるようにマウスガードをうまく活用して下さいね。(島谷 浩幸)

【参考資料】
・安井利一ほか:マウスガードの外傷予防効果に関する大規模調査について-中間報告-, スポーツ歯学, 17(1) 9-13 (2013)
・独立行政法人日本スポーツ振興センター:【お知らせ】「歯牙欠損見舞金」の支給について(2021年1月12日配信)
・文部科学省:(資料6)スポーツマウスガードの効果と歯・口の外傷等の予防

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)
1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。
【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
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