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2022.09.21
特集
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「個の力」を追い求め、代表クラスの長距離選手を育て上げる ~城西大学駅伝部・櫛部静二監督~【指導者たちの心得 #01 】
編集部

指導者たちが選手育成、チーム強化のためにどのようなことを考え、取り組んでいるのかを追求する連載企画「指導者たちの心得」。第1回目は、2021年以来2年ぶりの箱根駅伝出場を狙う城西大学駅伝部・櫛部静二監督の心得。

櫛部監督は宇部鴻城高校(山口県)から早稲田大学へ進み、3年生時の箱根駅伝では区間新記録(当時)をたたき出し、総合優勝に大きく貢献した。名長距離ランナーを数多く輩出しているエスビー食品に入社後は、1万mやマラソンなど数々のレースで実績を残した。

指導者としては2005年に城西大学駅伝部コーチ、2009年に監督昇格以降、箱根駅伝出場が常連の強豪に育て上げた。今夏におこなわれた「世界陸上2022 オレゴン」では門下生の山口浩勢、鈴木涼太らが出場。「個の力」を追求する櫛部監督の指導方針が結実している。


編集部 現役時代はトラック競技、マラソンで活躍され、現在は選手育成に力を注いでいらっしゃいます。自身が指導者になってみて、大学時代に受けた指導と違いを感じますか?

櫛部静二監督(以下、櫛部監督) 私が大学生だった時、科学的トレーニングなど選手強化のための方法論が今ほど確立されていませんでした。指導を仰いだ瀬古利彦※)さんは、自身が選手時代に受けた指導法を受け継ぎ、選手強化に努めていた印象です。他大学の監督も同様だったのではないでしょうか。簡潔にいえば、「昔ながらの独特な」という表現になりますかね。

※)日本の長距離界史上屈指の名ランナー。他を圧倒する走りで、マラソン成績は15戦10勝を誇った。現役引退後、母校・早稲田大学のコーチを務め、箱根駅伝総合優勝、全日本駅伝4連覇を果たす。

編集部 監督は研究者の一面もあって論文も残されていますが、その視点は指導に生かされていますか?

櫛部監督 そうですね。私は駅伝部監督でありながら、教員でもあります。陸上に関するさまざまな研究もおこなっていますので、自然と論理的思考をもって指導するようになりました。

例えば、スピードをつけたい選手には、「スピードをつけるには筋力が必要」→「筋力をつけるにはどのようなトレーニングをすればいいのか」→「設定するトレーニングの強度、回数はどのくらいか」→「その結果、どのように記録が変わるのか」といった具合に、将来のビジョンに対して、プロセスをしっかり示して選手に理解してもらえるように接しています。

編集部 研究では、プロセスを踏んでも必ず結果が出るとは限りません。同様に、指導がうまくいかずに結果が見込めなかった時、監督としてどのように対処しているのですか?

櫛部監督 いろいろと考えてうまくいかなかった場面は数えきれないほどあります。選手を指導する難しさといえる部分ですね。

高校から大学に上がって記録が伸び悩んだり、故障をしやすかったりする選手がいて、原因がはっきりしないことがあります。その場合、練習方法やトレーニングメニューを変えてみるなど「変化」を促し、軌道修正していくようにしています。

ただ、長期的に選手を見ているので、その時うまくいかなかったことでも後々になって成果が表れることがありますし、変えた直後は良くても時間が経つと元に戻ってしまうといったこともあります。あまり過去に捉われず、前を向いて取り組んでいく。これが大事だと思います。

編集部 物事がうまくいかなかった時、選手のメンタルにも影響が出てきますよね。その点のフォローはどのようにしていますか?

櫛部監督 陸上は大人数で競うものなので、トップに立てる確率はそれほど高くありません。思い通りに走れなかったり、成績を残せなかったりする選手の方が多いと思います。反省点や悪かった部分にばかり目が行って、落ち込んでしまうでしょう。私も選手だったので気持ちはわかります。

でも、年間でレースや大会、記録会はいくつもあって、一つの結果にこだわっていると前に進みませんから、「納得できるレースにならなかったのはどういうことなのか」「自分が思い描く成績を残すためにはどうすればいいのか」、そこを考えなさいと試合後によく話します。苦い経験をする中で、絶えず自分が成長する「何か」を見つけてほしいんですよね。

箱根駅伝を走れる人数というのは決まっていて、当然メンバーから外れる選手も出てきます。悔しい思いがあると思います。でも、メンバーに選ばれなかった選手たちは十分理解していますし、私も「(メンバー漏れしないように)日々の練習を怠らずに頑張らないとね」とか、「自分の努力した結果だよね」と、日ごろから選手たちと話し、理解を求めています。

青春ドラマのように、選手の気持ちに寄り添ってみたいなことはしていませんね(笑)。彼らも大学生で大人ですし、箱根駅伝で人生が終わるわけではないですから。

編集部 選手を見守りながらも、一定の距離感を持って接しているんですね。監督自身も経験しておられる「箱根駅伝」という大目標に向けてチームを鼓舞するようなことはあるのですか?

櫛部監督 チームを率いる身として強い言葉を発することはあります。でも、強い言葉は叫び続けても効果がありませんから、ここぞという時にだけですね。何より、選手たちが「箱根で走るんだ!」と強い気持ちを持っているので、私から改めてその点を強調することはないですね。それよりも、選手の実力の目安になる記録会や普段の練習の方が大事だと思っています。

編集部 城西大学は箱根駅伝の常連ですが、チーム強化の根幹といえるスカウティングはどのようにしているのですか? 

櫛部監督 スカウト担当を設けていますので、逐次情報を共有しながら話し合いの場を作っています。だいたい高校1年生くらいから選手の観察を始めます。見るべき点としては、走破タイムはもちろんですが、走り方や意欲。理想をいえば、駅伝(大学)の先を見据えているかどうか。城西大学に来てくれる選手たちにはその意思を必ず確認しています。

ここ数年は駅伝を強化している大学が増えてきて、選手を取り巻く状況は激しくなっています。やはり、箱根駅伝は注目度が非常に高く、巨大なビジネスにもつながるので、スカウティングにも商業的な側面が出てきている点は否めません。

私たち指導者の使命は「大学卒業後に実業団などでも競技を続け、将来的に日本代表に名を連ねられるような人材を送り出すこと」にあると思っているので、現在の風潮に流されずに、箱根駅伝が始まった根本の部分を大切にしていきたいですね。

編集部 もともと箱根駅伝は世界に通用する選手を育成・発掘するための大会でしたからね。

櫛部監督 そうなんです。陸上は個人競技なので、いかに自分の記録を向上させるかが重要。でも、駅伝は個が集まったチーム競技として扱われ、みなさんからの人気も高い。選手も大舞台をめざすことに重点を置く。それは決して悪いことではないんです。

私は高校時代の監督、個人で圧倒的な成績を残した瀬古さんに師事した影響から「日本代表」「個の力を伸ばす」を念頭に競技を続けてきました。実際、私が現役だった時は駅伝よりも記録会の方に力を入れていましたし、大学卒業後もずっと個の記録を追求していましたからね。その思いは、指導者になっても変わらず、選手に求めたい部分ではあります。

駅伝がチーム競技である以上、「協調性」や「チームワーク」は必要です。でも、そもそも個人が他を圧倒する力を持っていれば、自然にチーム成績は良くなってくるという思いもあります。

これは社会に出た時も同様で、問われるのは結局個の能力ですし、力を発揮できれば結果的に会社の売り上げや社会に還元することにもつながってきます。選手たちには自分を磨き上げることに集中してほしいと願っています。

編集部 これから箱根駅伝の予選会・本戦に向けた戦いが始まっていきます。今後の目標をお聞かせください。

櫛部監督 まずは、予選会突破ですね。選手たちの意気込みも強いので、目標を達成できるように指導を続けます。 繰り返しになりますが、陸上選手としてのゴールは箱根駅伝ではないので、そこで燃え尽きることなく、選手を導いていきたいですね。陸上の最高峰である五輪や世界陸上などで、「城西大学の選手だ!」といわれるような、そんな選手を育成していきます。

<<城西大学駅伝部メンバー紹介>>

城西の伝統を残すために日々奮闘中

2年ぶりの箱根駅伝出場をもくろみ、チームをまとめる藤井正斗主将(4年生、名経大高蔵:愛知県)は、現在のチーム状態に手ごたえを感じている。

6月の第53回全日本大学駅伝関東地区予選会では8位(7位までが本戦出場)と敗退したものの、前年よりも大きくジャンプアップ。ギリギリの戦いができたこと、悔しさを感じたことはチームにとって大きな刺激になった。

城西大学が強豪からトップへとステップアップするために、藤井は主将になる時に決意したことがある。それは「自分の卒業後にチームをどう残していくのか」。チーム戦力の維持はどの大学も抱える課題だが、その点にも目を向ける責任があると。

藤井は、計算できる戦力が毎年15人程度そろうとチーム内で競争が生まれ、全体の底上げにつながると考えている。この体制が維持できれば、4年生が抜けても新入生の加入で、戦力は維持、もしくはプラスになる。6月の予選会敗退でチームは活性化し、理想の体制を構築するための契機にもなった。今年は伝統づくり元年と位置づけ、意識的にチーム内での競争を促し、そのプロセスは形になりつつある。

中学生時代にバスケットボール部だった藤井は、昨季NBA王者に返り咲いたゴールデンステイト・ウォリアーズのスーパースター、ステフィン・カリーの生きざまに自身を投影する。卓越した技術、リーダーシップ、そして、弱小チームから王者へと彼が築いた勝者の伝統は学ぶべき点が多々あるという。藤井がステフのようにチームを導き、伝統を残せるのか。まずは箱根予選会突破が試金石になる。

“3代目”山の神をめざし、着実にパワーアップ

1年生時に箱根駅伝の5区を経験し、山登りのスペシャリストとしてのプライドをのぞかせる山本唯翔(3年生、開志国際:新潟県)。

山をめざしたきっかけは、柏原竜二(東洋大学)、神野大地(青山学院大学)ら”神々”へのあこがれからだった。中学1年生から長距離を始め、起伏のあるコースや3000m障害で良績を残したことから適正があると気づき、それからは常に「山」を意識してきた。

山登りでは、ラスト1kmからの「ロングスパート」がモノをいうため、持続力のあるスピードをつけるための筋力トレーニング、平たんコース以外での走行に力を入れてきた。ここまで地道に続けてきた成果は出ており、自身が思い描く成長カーブをたどっているようだ。山本の練習での走行距離は数十km/日にも上ることがあり、練習の質を高めるために「睡眠時間の確保」を重点にコンディショニングにも努めている。

山本は、「去年出られなかった悔しさがあるので、何とか挽回したい」と意気込む。4年生が抜けた後を考え、今からチームを率いることを意識し、結果を追求する。それが、後輩たちに模範を示すことにもなるからだ。

自分の課題と向き合い、着々と実力をつけていきた山本。箱根予選会突破への臨戦過程を整え、本番では「山の神」襲名を虎視たんたんと狙っている。

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