2023年6月に36歳を迎えるFW(フォワード)リオネル・メッシ(パリ・サンジェルマンFC:フランス)。衰えるどころか、ますます円熟味を増し、2022年ワールドカップ(WC)カタール大会では、アルゼンチン代表を36年ぶり3度目の優勝に導き、悲願を達成した。

メッシは、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝、バロンドール(世界年間最優秀選手)受賞など、個人、クラブ、代表で得られる最高の称号をコンプリート。比較され続けたディエゴ・マラドーナに代わり、アルゼンチンの英雄として今後数十年語り継がれる存在になった。

プロフェッショナルとは程遠かった食生活

弱冠6歳でアルゼンチンのニューウェルズ・オールドボーイズと契約したメッシは、在籍した6シーズンで500ゴールを挙げるなど「神の子」の名に違わぬ実力を見せつけていた。

しかし、健康面には大きな不安があった。成長ホルモン欠乏症と診断され、成長期を迎えても体が大きくならない可能性があった。治療費は月に1300ドル(約17万円)と安くなく、メッシ家の生活を圧迫していた。当初治療費を負担することを約束していたクラブ側も、国内の経済危機によって援助が困難な状況に陥った。

そんな中、メッシの実力を高く評価し、治療のサポートも可能なFCバルセロナと契約。13歳でスペインに渡ることになった。3年間、脚へのホルモン投与を余儀なくされたが、治療が奏功して体も徐々に大きくなり、最高のサッカー選手になるべくスタートを切った。

当時所属していたFCバルセロナのラ・マシア・アカデミー(下部組織)には、2010年WC南アフリカ大会を制したスペイン代表で主軸となるMF(ミッドフィルダー)セスク・ファブレガスやDF(ディフェンダー)ジェラール・ピケも在籍しており、メッシ擁するイレブンは「ベビードリームチーム」と呼ばれていた。

才能を見込まれて16歳でトップチームに昇格したメッシは、ジョゼップ・グアルディオラ監督(元スペイン代表、現マンチェスターシティ監督)指揮の下、さらなる研さんに励んだ。

トップチーム昇格後のメッシは、小柄ながらもスピードと技術ですでに他を圧倒しており、世界最高峰のリーガ・エスパニョーラで輝きを放っていた。しかし、指揮官のグアルディオラは、頭角を表したメッシに欠けているものを見抜いていた。それは、食生活。到底プロフェッショナルとはいえないものだった。

メッシはファーストフードを好み、特にピザには目がなく、グアルディオラの前に監督を務めていたカルレス・レシャックも「メッシは必要以上にピザを食べていた」と証言している。また、アルゼンチンの珍味「ミネッサ(薄い牛ヒレ肉をパン粉で浅く揚げたもの)」も好んで食べていた。

炭酸飲料も愛飲しており、時にはグアルディオラの話そっちのけで「コーラを取って来てくれないか」と頼むほどだった。グアルディオラはメッシの態度に接し、選手控室からドリンクマシーンを撤去してしまったという逸話もある。メッシの成長期は、糖分、脂肪分、加工食品とともにあった。

成長期の食生活の乱れもあってか、2006年WCドイツ大会でセンセーショナルな世界デビューを果たした19歳から26歳(2013年)までの間、メッシは肉離れ、ハムストリングの負傷、骨折、じん帯損傷など数々のケガに見舞われる。この7年間でリーグ戦欠場は72試合に上り、重度のケガから中・長期の離脱も多かった。

断続的にケガをし続けることから、メッシは2014年から医師、栄養士の指導を受けて食生活の改善を試みた。その結果、2014~2022年12月までの約8年間でリーグ戦欠場は51試合に留まり、ケガや痛みはあるものの比較的軽症のため、短期でチームに復帰している。年齢を重ねるに連れて欠場試合数は減少し、さらに進化し続けている。

もちろん、トレーニングの効果(トレーニング編で紹介)もあるが、劇的な食生活の改善が長くパフォーマンスを維持・向上させているのはいうまでもない。食と運動によって、健康を取り戻した典型例ともいえる。

医師との出会いと5つの食品

メッシが食生活の改善を考えるようになったのは、2014年WCブラジル大会の決勝でドイツに敗れ、優勝を逃した時期と重なる。母国を優勝に導けなかったチームリーダーのメッシには多くの批判が挙がっていた。中には「太り過ぎ」との声もあった。

メッシはこのころ、摂取した物に対する不耐性が体内で反応し、ピッチ上で嘔吐することも少なくなかったという。「18歳、19歳の時に体に入れられる物と、27歳の時に体に入れられる物は違う」と自身が振り返るように、体の異変も感じていた。

そこでメッシは、長年スポーツ医学に従事し、栄養学、心理学を活用しながらスポーツ選手をサポートしてきた、イタリア人医師のジュリアーノ・ポーザーを訪れ、食生活(体質)の改善に乗り出す。

ポーザーは、「悪い慣習(食生活)が問題を起こしている」と指摘。「体が必要とする物だけを食べ、欲する物は食べない」とアドバイスし、5つの食品を推奨した。

以下はあくまで、メッシの食生活、体質に合わせたプログラムであり、必ずしも万人に当てはまるものではない。問題が起きてから対処するのではなく、成長期、早い時期から栄養学の専門家などのアドバイス・コーチングを受けるといい。

当初、ポーザーが摂取を推奨した物は、①水(十分なミネラルが含まれた質の高いミネラルウォーター)、②オリーブオイル、③全粒穀物、④新鮮な果物、⑤新鮮な野菜で、ナッツ類・種子類も非常に良いとしている。これらは「筋肉の回復」をコンセプトにしており、メッシが現在おこなっている食事の基礎になっている。

ポーザーは、メッシの体に耐性のない(合わない)パスタやピザ生地などに含まれる小麦粉やイースト、精製された小麦をはじめ、卵、乳製品、加工食品や農薬、除草剤、抗生物質、薬物で汚染された食品など摂取項目から除外した(後に、一部摂取を再開した物もある)。

砂糖の摂取は筋肉に影響を与えるとしており、炭酸飲料など甘い物は禁止。アルコール類も同様。日常的に摂取していたカフェインではなく、イェルバの葉を煎じたマテ茶でカフェイン欲求を抑えた。

南米やスペインで好んで食べられている(=他国と比較しても消費量が多い)牛、豚を使った肉料理も消化効率が悪いとし、必要なタンパク質の摂取はプロテインシェイクでなどで代用。栄養素を補うためにマルチビタミンなどのサプリメントを使用している。

このように、徹底したポーザーの指導によってメッシの体は研ぎ澄まされ、減量にも成功。完全にフォームを取り戻した。改善する以前の2013~2014年シーズンでメッシは46試合41ゴールを挙げたものの、チームは無冠に終わった。

食生活を見直して迎えた翌シーズンは57試合58ゴールと爆発。チームはリーグ戦、コパ・デル・レイ(国内カップ戦)、CL優勝とタイトルを総なめにした。「メッシが健康なら強い」を改めて証明したのだった。

メッシの食事と摂取タイミング

年間で40~60試合をこなすメッシはどのように食事を実践しているのか。メッシの1日は主に、朝・昼・夕と3回の食事と1回の間食(おやつ)、それ以外の時間は練習・トレーニング、休息に当てている。

以下、代表例としてメッシが食べている物を挙げていく。試合前後の摂取タイミングもかなり意識しているのがわかる。

【朝食】トースト、オレンジジュース、牛乳の代わりにアーモンドミルクやオートミルクに置き換え。シリアルを白身8割、黄身2割のスクランブルエッグに変えて、ほうれん草とトマトを加える。トーストにアボカドを加えて、ヘルシーな脂肪分を確保。

【昼食】ローストチキンと根菜類を食べることが多い。具が多いため、量は控えめにしている。

【間食】果物、タンパク質、ヘルシーな炭水化物、ヘルシーな脂肪を多めに摂ることを意識している。オーツ麦、アーモンドミルク、ベリー類、イチゴ、ブルーベリーなどのフルーツを使ったヘルシーなプロテインスムージー。

【夕食】魚か鶏の胸肉、玄米と野菜炒め、新鮮なサラダを添える。

試合間近になると、90分間の試合に耐えられるエネルギー量を確保するため、普段の食事とは変わってくる。

【試合10日前】普段から炭水化物を控えるようにしているが、この時期から徐々に炭水化物を加えていく。プロテインシェイクを3杯、水(十分なミネラルが含まれた質の高いミネラルウォーター)をグラス7~8杯飲む。

【試合5日前】炭水化物を加えた後、野菜スープを加える。普段、毎食前に野菜スープを飲んでいるが、試合前になると、ターメリック、コリアンダー、ジンジャー、チリパウダーなど香辛料を加えたスープに変える。香辛料は血流の循環を高めることで、酸素供給能力を向上させられる。

【試合1日前】魚、海老、鶏肉、ゆでたジャガイモ、緑黄色野菜、果物などを食べる。筋肉の回復と修復を助け、筋肉を強化することを目的としている。

【試合6時間前】おかゆか卵白を摂取する。必要な炭水化物とたんぱく質を補給。

【試合開始90分前】フルーツを食べる。食物繊維が多く含まれ、糖分の少ない果物を選ぶ。

【試合後】パスタサラダやタンパク質が豊富な寿司などを食べる。アルコール摂取は完全に禁止されているので、メッシはオフに酒を飲むのを控える。

徹底した食生活から「メッシはヴィーガン(完全菜食主義)」と話題になったことがあるが、メッシ本人は肯定も否定もしていない。食事様式、スタイルで区分けすることに大して意味がないことをメッシは理解しており、「今、何が必要なのか」「そのために何を摂取すべきなのか」を常に考えている。競技、プレースタイルは人それぞれ、食生活も人それぞれなのである。

【海外選手の原稿を書ける方を募集】
編集部では、海外スポーツ選手に関する記事を書ける方を募集しています。
ご興味のある方は、編集部までお問い合わせください。

スポトリ

編集部