神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第11回は、成長期を迎える女子選手が抱える問題「女子選手の三主徴(Female Athlete Triad:FAT)」の一つ、「骨障害」がテーマ。

骨障害は、前回までの「利用可能エネルギー不足」、「月経障害」とは異なり、適切な栄養摂取での予防・改善が可能な一方、予防・対策を怠ると生涯にわたって影響を及ぼす可能性もある。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

「体脂肪」「栄養」が関連する疲労骨折

骨のスポーツ障害には大きく分けて「骨折」と「疲労骨折」の2つがあります。骨折はご存じの通り、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなど主にコンタクトプレーの多い競技で起こりやすく、接触のはずみで骨に過度の圧力がかかってしまい、骨が折れることです。

一方、疲労骨折は、FATに大きくかかわってくるとともに、Z世代の体の成長が著しいスポーツ選手に非常に多い障害といえます。

疲労骨折の原因はいくつかあり、一つは体の成長を促すための栄養、特に骨の成長に必要な栄養が摂れていないことが挙げられます。また、Z世代のスポーツ選手は、体づくりのためのトレーニング、技術向上のためのトレーニングをハードに行いますが、頻繁に使用する体の部位が“金属疲労”を起こして骨折してしまうケースも見受けられます。

さらに、減量を余儀なくされる競技の選手は、過度な食事制限による栄養の不足から疲労骨折に至ってしまうこともあります。ここまでは男女ともに起こるケースといえるでしょう。

そして、女子選手特有の原因から疲労骨折をひき起こすケースは、減量のため必要以上に体脂肪を落としてしまうことです。階級制や審美系競技の選手は特に注意が必要です。

女子選手には月経が周期的に訪れますが、正常に周期的な月経を迎えるためには女性ホルモンがきちんと分泌されるかがカギになります。

そのためには適切な量の体脂肪を維持している必要があるのですが、減量のためにホルモン分泌に使われる体脂肪までを落としてしまうと、女性ホルモンの総量は減りますし、骨の成長を促進する「エストロゲン」も不足することになります。

結果的に骨量、骨密度が少ない状態になり、少しの衝撃でも骨が折れやすくなってしまいます。

あとは特殊な例ですが、アレルギー疾患を持っていて、治療のために副腎皮質ホルモンを服用している選手も疲労骨折が起きやすいリスクをもっています。副腎皮質ホルモンは、骨の成長を阻害する点もありますので、長期間、連続で服用している人は気をつけましょう。

骨の成長は20歳まで、女子に不可欠なエストロゲン

ここで、骨の成長について説明しておきます。骨量は、誕生から20歳まで増え続けて最高値(ピーク・ボーン・マス)に達し、40歳代くらいまでその値を維持します。そして、50歳代あたりからホルモン分泌の低下に伴って男女とも減少に転じます。

男性は、骨量の減少が緩やかなカーブを描く一方で、女性は閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下によって、骨量の急激な減少が起こりやすくなるといわれています。

ここで、Z世代の女子選手が意識しなければならないことがあります。それは「骨量をいかに獲得するか」です。骨量が増加する成長期に栄養が不足するのは論外ですが、減量のために体脂肪を減らしすぎると、女性ホルモンの分泌が正常に行われないため、エストロゲンも不足し、骨量が増えていかないということになります。

そうなると、20歳以降最大骨量は低いまま中高年を迎えることになり、骨粗しょう症のリスクもグンと高くなります。骨量を増やせるのは20歳までで、それ以降は成長しません。十分な栄養の確保は骨の成長にもかかわってくるのです。

さらにいえば、Z世代の骨量の値は高齢者と同程度で、成長過程とはいえ骨が“もろい”状態ともいえます。栄養の不足はもちろん、トレーニングの過多も疲労骨折を誘発する原因ともなるので頭に入れておきましょう。

月経への意識が低くなりがちなスポーツ現場

今、女子のスポーツ現場では「痛みもないし、気持ちも楽だから、月経は来ない方がいい」と考えている選手が多いようです。とても悲しいことですね。月経が正常に来ないということは、明らかに良くないコンディションです。

この状態でいくらトレーニングをしても効果は上がりません。人間の本能を無視してまで競技をすることは決して健全とはいえず、引退した後の生活にもかかわってきます。心身ともに健康な状態で試合に出場し、結果を出す。これが「真のアスリート」なのではないでしょうか。

「月経はなくて当たり前」というのは完全に間違った考えです。選手自身が月経に関する正しい情報に接し、知識を得ていく必要があります。そして、私たちスポーツニュートリショニストはもちろん、親御さん、指導者ら選手・チームを取り巻く周囲も、月経への理解を深めて選手が間違った方向に行かないよう、協力しながら導いていくことが重要です。

骨の強化は「CaMP」を意識しよう

疲労骨折(将来的な骨粗しょう症)の予防のために、骨をどのように強化するか。それは、「カルシウム(Ca)」を摂取することです。しかし、カルシウムは体への吸収が非常に低いことも知られています。ですから、食事の中でいかに効率良く摂取するかを考える必要があります。

カルシウムが多い食品として挙げられるのは、小魚、わかめ、昆布など「海藻類」、牛乳、ヨーグルトなど「乳製品」です。吸収率でいえば、小魚・海藻類が約20%、乳製品が約40%なので、体の成長が著しいZ世代のスポーツ選手が骨の強化のために摂りたいのは乳製品となります。

骨の材料になるのは、カルシウムだけではありません。「マグネシウム(Mg)」も必要になってきます。小魚・海藻類に加え、豆類がマグネシウムの含有量が高い食品です。小魚・海藻類はカルシウムの吸収という点では乳製品に後れを取りますが、マグネシウムも摂れる点で優れています。

そして、「豆乳」はカルシウムを比較的吸収しやすい状態で摂取でき、牛乳よりもマグネシウムが多く含まれているのでお勧めします。自分の生活や好みに合わせて、骨を強化する食品を使い分けて摂取するといいと思います。

骨を作るという点で、カルシウム、マグネシウム以外に「たんぱく質(P)」も重要な役割を担っています。たんぱく質が多く含まれる食品は、肉、魚、大豆製品、卵、牛乳、ヨーグルトで、これらはカルシウムも多く含まれています。さまざまなたんぱく質食品から同時に効率よく栄養を摂取すると良いでしょう。

特にお勧めしたいのが「納豆」。納豆にはカルシウム、マグネシウム、たんぱく質のほか、骨の成長を助けるビタミンKも多く含まれており、一つの食品で多くの栄養を摂ることができるスーパーフードです。体の成長には欠かせない食品の一つなので、みなさんもぜひ意識して食べるようにしてください。

カルシウムの吸着剤になる「ビタミンD」

吸収率が非常に低いカルシウムですが、ビタミンDを組み合わせることで改善されます。ビタミンDを多く含む食品はズバリ「魚」です。

朝食によく出てくる鮭の切り身を例に挙げれば、1/3切れで1日に必要なビタミンDを摂取することになります。魚を毎日食べていれば、ビタミンDは不足することなく摂れていることになります。きのこ類にもビタミンDは含まれていますが、1日に必要な摂取量を補おうとすると、しいたけで20個食べなければならないので、魚からビタミンDを摂るのが現実的ですね。

そのほかに、カルシウムの吸収を上げる方法として、「酢の物」と一緒に食べるのも有効です。小魚・海藻類は酸っぱい物と組み合わせて摂る。これを覚えておくといいでしょう。

指導現場の選手たちによく勧めているのが「モズク酢」です。パックで売っているモズクに酢をかけるだけで簡単にできますし、カルシウム・マグネシウムもしっかり摂れて体にも吸収されます。さらにアレンジして、シラス干しも加えるとカルシウム強化食の完成です。

酢の物が苦手という人は、食後に果物(すっぱい物)を食べることで吸収率の向上が期待できます。オレンジ、みかん、グレープフルーツなどの柑橘類、キウイ、イチゴも相性がいいので、吸収率を高めることにつながります。

FATの予防・対策のカギを握る「体脂肪」

利用可能エネルギー不足、月経障害と比べると、骨障害、骨の成長は栄養の摂取が大きくかかわってきますので、何を摂ればいいのかを考えながら毎日を送ってほしいと思います。

これまで3回にわたって、FATについての基礎的な情報をお伝えしてきました。いずれも、女子選手特有の栄養の摂り方が問題で、減量をしなければならない競技(審美系、階級制)の選手に頻発しています。

そして、障害の根本にあるのが「体脂肪を必要以上に落とす」ことです。女性ホルモンの分泌異常により、正常な月経発来や骨の成長を阻害することにつながってしまうのです。

スポーツをする上で、動きのキレが増すとか、動きやすくなるなどの理由で体脂肪を減らす選手が多いと思いますが、ホルモン分泌の関係から女子選手にはある程度の体脂肪が必要になってきます。

ですから、「あのスポーツ選手の体脂肪率が〇%だから」と誰かを真似するのではなく、自分にとって最適な体脂肪を知る(管理する)こともFATの予防に役立ちます。

成長著しいZ世代の女子選手の多くは、FATを大きな問題として捉えていないかもしれませんし、影響がないと考えるかもしれません。中には、甘んじて受け入れている選手もいるのではないでしょうか。

しかし、スポーツを辞めた後の方が人生は長いのです。現役中にFATへの対策・対応を間違えると、その後に大きな問題として降りかかってくる可能性があります。女性らしく人生を送っていくために、成長年代の健やかな過ごし方が将来にもかかわってくることを覚えておいてください。

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。