乳歯の虫歯予防に有効な「シーラント」

シーラントは、虫歯リスクの高い奥歯の溝などを樹脂で事前に埋めることで、虫歯の原因である虫歯菌の侵入を防ぎます。フィッシャーシーラントや小窩裂溝(しょうかれっこう)填塞法と呼ぶこともあります。

また、シーラント材に含まれるフッ素によって再石灰化を促進することが期待できるため、歯が軟らかくてフッ素が取り込まれやすい乳歯や幼若永久歯(生えて間もない永久歯)の虫歯予防に特に有効です。

保険適応であり、基本的な治療法として大半の歯科医院で対応できる虫歯予防法です。

シーラントの有効性を示す研究

1997年の新潟大学歯学部の研究グループによる報告では、新潟市の年中・年長児3647人、小学生11045人の第一大臼歯を対象にシーラントの実施状況を調査し、虫歯予防効果との関連性を調べました。

その結果、図1のように平均DMF(虫歯の指標)歯数は、シーラント処置がなければ1.33本でしたが、シーラント処置があれば0.75本でした。

つまり、約44%も虫歯の発生を抑えるという統計学的に有意の差が認められました。

図1 シーラントの虫歯予防効果

シーラント処置の術式

シーラント処置をできるのは法律上、歯科医師・歯科衛生士に限られます。ここで、シーラント処置の一般的な術式を示します(図2)

1.歯面をキレイに清掃する
歯の表面が汚れているとシーラント材と歯の接着が妨げられるので、食べかすや歯垢(プラーク)を十分に除去します。

2.歯の表面に酸処理を行う
シーラント材を埋める部分を酸処理(エッチング処理)すると歯面の消毒ができるだけでなく、歯の表面に微細な凹凸ができるためシーラント樹脂が歯により強固に接着しやすくなります。

エッチング後はしっかり水で洗い流し、酸を十分に取り除きます。

3.歯の表面をよく乾燥させる
唾液などの水分が残るとシーラント材が歯に接着しません。丁寧にエアーを当ててよく乾燥させ、歯の周りはワッテ(綿花)で囲って防湿します。

4.シーラント材を充填し、光照射する
シリンジ先端を溝に当ててシーラント材を注入し、専用機器で青い光を照射して硬化させます。

図2 シーラントの術式
(写真:筆者提供)

シーラントのデメリット

シーラント材は、ある程度の硬さはありますが、強い力が加わる奥歯の咬合面(噛む面)が主な適応部位のため、歯ぎしりや食事内容などにより部分的に欠けたり、外れたりするケースがあります。

また、通常の虫歯治療で入れる詰め物の場合、外れにくいように歯を削って形を整えますが、シーラントは樹脂を流して固めただけなので、外れる可能性は高まります。

再度の処置は可能ですが、中途半端に欠けたりすると虫歯リスクが上がることもあるため、歯科医院で定期的にチェックを受けることが大切です。

一方、「シーラントをしたので、もう虫歯にはならない」と、シーラントの虫歯予防効果を過信し、歯磨きを怠ってしまえば、逆に虫歯になりやすくなる可能性があります。

虫歯予防の基本はやはり歯磨きだということを忘れず、シーラント処置を受けた後も歯磨きはしっかり行いましょう。

シーラントの地域歯科保健活動への活用

地域歯科保健活動の一環で、フッ素とシーラントを組み合わせて虫歯予防成果を出している地域があります。

つまり、保育園や幼稚園、学校でフッ化物洗口を行うのに加え、歯科定期検診で虫歯リスクが高い歯の存在が分かった子供には、地域の歯科医療機関でシーラント処置を受けることをシステム化しているのです。

約20年にわたり、12歳児の虫歯数が全国最少になった新潟県は、1981年に全国に先駆けて「むし歯半減10か年運動」を開始し、行政や県歯科医師会、大学などが一丸となった積極的な取り組みで知られます。

文部科学省の令和2年度調査では、新潟県の12歳児の虫歯数は全国で最も少なくなり、0.3本でした。

フッ素のうがいは現在、9割以上の小学校で実施され、令和2年度の新潟県における調査では、歯科検診でCO(要観察歯)と判定された歯のうち小学生が38.4%、中学生が36.6%という高割合でシーラント処置を受けたことが分かりました。 

以上のように、虫歯予防は個人の歯磨きだけでなく、シーラントやフッ素を活用した家庭や学校、地域での積極的な取り組みが重要であり、それを推進する国の動きも期待しましょう。

【参考資料】
・葭原明弘ほか:第一大臼歯のう蝕有病およびフィッシャーシーラントの処置状況, 新潟歯学会雑誌, 27(2) (1997)
・新潟県:令和2年度 新潟県の歯・口腔の健康づくり施策の実施状況 (2022)
・文部科学省:令和2年度学校保健統計調査

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
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