アルペンスキーのトップ選手を対象にした歯科研究
冬の季節を迎え、ウィンタースポーツを楽しんでいる読者の方々も多いことでしょう。今回はスキーと歯の関わりについての研究報告を紹介したいと思います。
高速で雪の斜面を滑走するアルペンスキー選手には、頭部固定による視線の安定や、滑走姿勢の保持のために体軸の安定が滑走中に常時、求められています。
これらの安定性に対して歯や噛み合わせが重要な役割を果たすことはよく知られています。
2015年に北星学園大学と北海道医療大学の共同研究グループが報告した研究では、噛みしめの強さを表す「咬合力」と、顎位の安定性を示す「咬合接触面積」に関して、アルペンスキー競技の体力特性と関連した調査を実施しました。
被検者は男子アルペンスキー選手23名(平均年齢17.96歳、平均身長168.87cm、平均体重70.64kg)で、顎関節異常や咬合位異常、歯牙の齲蝕のない所見を得ている者が選ばれました。
さらに、被検者群の競技レベルは、ナショナルチームに所属する選手を含め、国際スキー連盟(FIS)公認大会への出場資格を有する高度な競技レベルでした。
この研究では全被検者を対象に無酸素パワーテストを行い、そこからパワー発揮特性を力成分に依存する「力型」と、スピード成分に依存する「スピード型」に分類しました。
その結果、安静時の随意性最大咬合力1発揮時の咬合力と咬合接触面積を基準にしたところ、運動時の咬合力および咬合接触面積は図11)で示すように、力型に対してスピード型で統計学的な有意差をもって高くなることが明らかになりました。

文献1より一部抜粋
噛みしめと筋力反射がつながるメカニズム
同研究グループは、このようなパワータイプによって異なる結果が出たのは、スピード型群が負荷の増加に伴って意識下での噛みしめを行うのに対して、力型群は無意識下での噛みしめを行っていたと推察しています。
また、力型群は安静時の随意性最大咬合力がスピード型群と比較して高くなり、しかも四肢の筋力も発達していると考えられるため、力型群は効率的な噛みしめを行った結果、安静時と同等程度の噛みしめ動作を行うことによって、下顎の安定がもたらされた可能性が示唆されました。
運動時に起こる強い噛みしめにより、下肢ヒラメ筋のH反射が促進されることが明らかにされていますが、H反射の促進量は噛みしめの強度と正の相関を示すため、スキーでの滑走時に咬合機能と運動機能の密接な関連性を活用し、競技パフォーマンスのアップにつなげることも大切です。
このようにスキーと歯は強く関連しますが、スキーはスピードが要求されるスポーツであるために、不意の転倒・事故などによる外傷が少なくないのも事実です。
スラロームで多発する歯科関連外傷
2018年に東京歯科大学などのグループが報告した研究によると、第66回全国高等学校スキー大会のアルペン競技の出場選手440名(男子228名、女子212名)を対象として、日本スポーツ歯科医学会大規模調査の調査用紙をもとに作製したアンケート用紙を用いて、外傷の有無や部位などの詳細な大規模な調査を行いました。
調査結果は回収できた358名(回収率81.4%)について分析しました。
その結果、頭頚部外傷を受けた選手は45.5%に及び、上肢(20.7%)や下肢(39.1%)と比較して多いことが明らかになりました(図2)。
また、全体の25.4%が歯科関連外傷の受傷経験があることが判明しただけでなく、歯科関連外傷は大回転種目(ジャイアントスラローム:GS)に比べて回転種目(スラローム:SL)が有意に高くなり、SLにおいては、男子が女子に比べて多いことが明らかになりました。

アルペンスキーの競技力と歯科関連外傷の関係性
2019年に同グループが報告した研究では、アルペンスキーの競技力と歯科関連外傷の関係について解析しました。
競技力を測る指標として、参加選手のSAJポイント2を用いました。
その結果、GSにおいては統計学的な有意の差が得られるデータは認められませんでしたが、SLにおいては競技力が高い選手ほど有意な差をもって受傷した経験人数が多いことが明らかになりました。
また、SLにおいては女子よりも男子に有意に受傷経験が多くなることも判明しました。
この結果に対して、同グループは次のように考察しています。
歯科関連外傷として、転倒時における歯の破折や口腔粘膜の受傷も考えられますが、GSと異なりポールの近くを通るSLで歯科関連外傷が多いのは、ポールを通過する時に顔面をポールに衝突させてしまう、いわゆる「顔ポ」によって受傷しやすいためと考えました。
一方、受傷経験が、SLで女子に対して男子に多くなり、さらに競技力が高い選手ほど多い傾向があることは、それぞれ滑走ラインと通過速度の違いが大きく関与すると推測しました。
SLでは、顔面へのポールの衝突を防止し、衝突時の衝撃を和らげる目的で、大半の選手がSL用のヘルメットおよび顎を保護するチンガードを装着しています。
それにも関わらず、SLで歯科関連外傷が多いという結果が得られたことは、マウスガードの使用の必要性を強く示唆しています。
以上のように、スキーと歯は密接な関係がありますが、歯を失うリスクも高いため、マウスガードの装着など、安全面にも十分な配慮をしながら競技するようにしましょう。(島谷 浩幸)

【参考文献】
1) 星野宏司ほか:アルペンスキー選手の咬合力、顎位安定性とパワー発揮特性に関する研究, スキー研究, 12(1) 15-24 (2015)
2) 片野勝司ほか:第66回全国高等学校スキー大会における頭頚部外傷に関する調査・アルペンスキー競技において, スポーツ歯学, 22(1) 10-14 (2018)
3) 片野勝司ほか:第66回全国高等学校スキー大会(アルペン種目)における頭頚部外傷に関する調査ー第2報 競技力の影響についてー, スキー研究, 16(1) 23-28 (2019)
島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)
1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。
【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
【X】https://twitter.com/@40124xxx
【note】note.com/kind_llama853





















