肩こりとは何か?―原因とメカニズム

日本臨床整形外科学会のホームページにおける解説によると、肩こりは「肩甲骨周囲にある筋肉の血行不良が原因で筋肉がこる(かたくなる)状態」のことを言います。

症状は、首筋や首の付け根から肩あるいは背中にかけて「張った」「こった」「痛い」といった不快感を自覚し、重度なケースでは頭痛や吐き気を伴うこともあります。

肩こりと関わる筋肉は複数あることが分かっていますが、首の後ろから肩・背中にかけて張っている横幅の広い筋肉(僧帽筋)が、その中心的な役割を果たしていることが明らかにされています。

肩こりの原因は主に以下が挙げられますが、肉体的・精神的な要素が関与します。

・首や背中が緊張するような姿勢での作業
・姿勢の良くない人(猫背、前屈みなど)
・運動不足
・精神的なストレス
・なで肩
・連続して長時間同じ姿勢をとること
・ショルダーバッグ
・冷房                     
・その他         
          

スポーツにも影響する肩こりですが、歯や噛み合わせなど、顎や口の状態と関連性があることが分かっています。

肩こりと顎関節症の深い関係 ― 顎と肩はつながっている

1986年に東京医科歯科大学のグループが報告した研究によれば、顎関節症(口の開閉時に顎の痛みや関節雑音等の症状が出る)で認められる症状として、肩こりは口周囲以外の部位では最も多い26.6%を占めており、顎関節に隣接している耳に出現する症状(22.3%)よりも頻度が多いことが明らかになりました(図1)

顎関節症では、噛み合わせの不調により周りの筋肉の緊張にアンバランスが生じやすくなるため、その結果として肩こりにつながるというメカニズムが推察されています。

顎は、頭や首の筋肉を介して肩とつながっています。つまり、顎の周りで生じた問題は肩まで影響が及び、また逆に肩で発生したトラブルが顎や口の周囲に影響を与える可能性があるのです。

その一方で、歯の痛みが原因となって噛み合わせが乱れることにより、肩や首にある筋肉が硬直して肩こりが出現するケースがあることも知られています。

図1 顎関節症に出る症状

噛み合わせの乱れが肩こり・腰痛を招く ― 調査結果から分かること

1998年に広島県歯科医師会のグループが報告した調査によると、1993年から1998年の期間に事業所で働く人を対象に、歯科保健状況と肩こり・腰痛などとの関連性について調べました。

その結果、左右の歯で噛むことができる人と比較して、左右でよく噛めない人は2倍以上も肩こりの症状が出現したことが明らかになりました(図2)

また、歯周組織(歯ぐきや歯を支える歯槽骨など)が健康な人と比較して、歯がグラグラするなどの歯周組織が弱って歯周病が進んだ人は、2倍近くも腰痛が生じていることも判明しました(図3)

図2 噛み方の肩こりへの影響
図3 腰痛がある人の割合

肩こりが歯の痛みになる?―「関連痛」と非歯原性疼痛

肩こりが原因になることにより首周囲の筋肉が硬直すると、その影響が顎に関係する筋肉にまで及ぶことがあります。

これによって顎関節や口の周囲にある咀嚼筋(噛むのに働く咬筋や側頭筋など)に負担がかかった結果、歯の痛みが誘発されることもあります。

また、肩こりや肩の痛みによって姿勢が乱れてしまうと、首や肩に過剰なストレスがかかることがあります。その影響により、通常よりも強い力の負担が特定の歯に加わると、歯の痛みの原因になることがあります。

特に歯周病でグラグラと動揺する歯のように力の負荷に対して弱い歯は、この影響を強く受けやすいので注意が必要です。

これらのケースのように、痛みが生じた部位とは異なる神経支配領域(歯痛は三叉神経)に感じられる痛みを関連痛(または連関痛)と呼びます。

その一方で、歯に原因がないのに歯が痛くなることを「非歯原性疼痛」といい、肩の痛みからの歯痛は、これに該当します。

非歯原性疼痛の主要な原因としてはいくつかありますが、日本口腔顔面痛学会の報告によれば、主なものに以下の8つの原因が挙げられています。

①筋・筋膜痛による歯痛
②神経障害性疼痛による歯痛
③神経血管性頭痛による歯痛
④上顎洞疾患による歯痛
⑤心臓疾患による歯痛
⑥精神疾患または心理社会的要因による歯痛
⑦特発性歯痛               
⑧その他の様々な疾患による歯痛

肩こりから来る歯痛は①に該当しますが、⑤のように心臓疾患から歯痛が発生することもありますので、知っておいて下さい。

歯科医が提案する肩こり・肩痛予防 ― 今日からできる対策

肩こりや肩痛に対して自分でできる一般的な対処法には以下があります。

・適度な運動や体操・ストレッチをして体をほぐす
・蒸しタオルなどで肩を温めて血行を促進し、疲労をとる
・入浴して身体を温め、心身ともにリラックスする。

バランスのとれた噛み合わせや大事な歯を守るために、丁寧な歯磨きに励むのは言うまでもありません。

歯科的な観点から、日常的に心掛けたいポイントがありますので挙げてみましょう。

・左右でバランスよく噛む
上下顎ともに左右で奥歯が揃っていることが安定した噛み合わせには欠かせないですが、片側で噛むことが習慣付いて癖になっている人も少なくないため注意して下さい。食事の時に、しっかりバランスを意識して咀嚼することが重要です。

もし、歯が抜けていたりして左右でバランスよく噛めない場合は、ブリッジや義歯(入れ歯)、インプラントなど人工的な歯を入れる補綴(ほてつ)治療で足りない歯を補う必要があります。

・姿勢を正して噛む
体幹の軸が斜めに傾いていたり、猫背のようにひどく前屈みになっていたりして姿勢が歪んでいる場合は、噛み合わせが不安定になりがちです。

しっかり足の裏を地に着ける足底接地をすることで安定した姿勢を保ち、正しく食事をするように心掛けましょう。

・時々休憩する時間を作る
食事をする以外の時間でも、正しい姿勢を長時間続けていれば、肩や腰の周辺にある筋肉に負担がかかってしまいます。

ですから、それを改善するために時々姿勢を崩し、熱いお茶を飲んだりしてリラックスする時間を作るようにしましょう。

・マウスピースを活用する
顎関節症の原因にもなる歯ぎしりや食いしばりが強く、噛み合わせの力の負担がかかりやすい人は歯科を受診して歯型をとってマウスピースを作り、就寝時を中心に装着して力のバランスを整えることが重要です。

健康保険の適用で作製することができますので、歯科医師と相談して必要に応じて作るようにしましょう。

以上より、肩こりや腰痛はスポーツのパフォーマンスに少なからず悪影響を与える症状でもありますので、毎日の念入りな歯磨きや正しい姿勢での食事といった基本となる生活習慣を心掛けながら、肩こりや腰痛が気になれば、歯科受診も選択肢の一つとして考えて下さいね。(島谷 浩幸)


【参考文献】
・日本臨床整形外科学会・日本整形外科学会ホームページ : 肩こり (2024)
・鶴田夫美ほか : 顎関節症患者の動向と実態. 日病誌, 608-614 (1986)
・広島県歯科医師会ほか : 口腔状況と腰痛等の関連に関する調査研究報告書 (1998)
・日本口腔顔面痛学会 : 非歯原性疼痛の診療ガイドライン改訂版 (2025)

島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
【X】https://twitter.com/@40124xxx
【note】note.com/kind_llama853