神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。気温が上がってくる5月以降、発汗量は上がり、熱中症のリスクも高まってくる。健康的に過ごすには「水分補給」が何よりも大切になってくる。

第14回は3回に分けて、水分補給を怠った際のリスクと効果的な摂取方法を解説。前編は、基礎知識となる「体温調節と脱水」がテーマ。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

体内の水分はどのように構成されているのか

人間の体の約60%は水分といわれています。水分量は幼児の時が最も多くて年齢を重ねるごとに減少していきます。

体内の水分がどのように使われているかというと、代謝を助ける「細胞内液」が約40%、「細胞外液」が約20%になります。

さらに、細胞外液は約15%を血管外の細胞間を満たす「組織間液」、約5%を血液やリンパ液に使用される「血漿(けっしょう)」が占めています。

体の中の水分といえば「血液」という印象ですが、意外と少ないのです。ただ、スポーツシーンではとても重要な役割を果たしていて、栄養素や日常生活で作られた老廃物の運搬、夏場を中心に多くなる熱中症予防のための体温調節、体液調節などを行っています。

体温調節のメカニズムを知っておこう

気温が上がる5月以降は、熱中症のリスクが高まってきます。その時に、上手に体温調節することが大事になってきます。ここでは、体温調節の仕組みについて解説します。

体内では、熱を産生する「産熱」と熱を放出する「放熱」が常に行われています。産熱は、基礎代謝、筋活動、ホルモン・細胞代謝に影響します。若い人たちが中高年よりも体温が高い傾向にあるのは、こうした新陳代謝が活発に行われているからです。

一方、放熱は、皮膚から周囲へ伝達する熱「輻射」、皮膚と隣接する空気の移動による熱移動「対流」、皮膚などが直に接している面への熱移動「伝導」、水分蒸発による気化熱「蒸発(汗をかく)」があり、産熱と放熱を繰り返して体温を一定に保っているのです。

体温を調節するために有効になるのが水分による補給ですが、水分は蒸発によって常に体外へ排出されていますので、排出された水分量を摂取しなければなりません。

ヒトは1日に約2.5ℓの水分が必要とされています。裏を返すと、その分体内から失われているということにもなります。摂取する水分は、飲料からが1200ml、食物からが1000ml、代謝水(体内で栄養素が代謝された時に出る水分)が300mlとされています。

飲料からの水分摂取がほとんどと思われがちですが、実は食物からも摂取しているのです。日本人が食べる機会の多い米飯は、約60%が水分なので毎日の食事で自然と水分を補給していることにもなりますし、野菜や果物にも含まれているので、食物からの水分摂取が多いのも理解できると思います。

反対に排出される水分の内訳をみると、尿が1400mlと半分以上を占めています。便にも100mlの水分が含まれていますが、水分量が多すぎると柔らかい便(下痢)になり、少なすぎると硬い便で排出しにくくなって便秘へとつながっていきます。

普通に生活をするだけで700mlの汗をかきますし、息を吐くだけで300mlの水分を排出していることになります。暑い環境下でスポーツや運動をすると、汗によって失われる水分量はもっと多くなるので、その分補給しなければなりません。

脱水は2%以下に抑えること

水分補給がうまくできないと、体内から水分が失われる「脱水」が起きます。この脱水によって、身体にどのような影響があるのかを解説します。

体重60kgの人を例に挙げると、体重あたり1%、発汗量に換算して600gの水分が失われた場合、「体温の上昇」「脈拍数の増加」が出てきます。これは、運動をしていればよくみられる症状なので、特に大きな問題にはならないでしょう。

体重の2~3%脱水(発汗量1.2kg~1.8kg)になると、「口渇感」が出てきて、「競技力の低下」が始まってきます。これ以上の脱水は競技力や健康にも大きくかかわってくるので、数値を意識した水分補給を心がけると良いと思います。

体重あたり4~5%脱水(発汗量2.4kg~3.0kg)では、「20~30%の持久力低下」「約50%の競技力低下」がみられるようになります。「粘り気のある口渇感」「疲労感」を覚え、「腹痛」「吐き気」「速い脈拍数」「手足のけいれん」と、身体にダメージが出てきます。

この状態で試合に臨んでも好成績を残すことは難しく、トレーニングをしても効果は見込めないので、直ちに運動を中止して水分補給をする必要があります。

体重あたり6~10%脱水(発汗量3.6kg~6.0kg)になると、「激しい口渇感」「極度の疲労感」を覚え、「胃腸障害」「脱力感」「めまい」「頭痛」と、明確に身体への異常が現れてきます。

体重あたり10%以上脱水(発汗量6.0kg以上)まで至ると、「汗や尿が出ない」「体温が高い」「舌が痺れる」といった身体障害に加え、「幻覚症状」「ふらふらと足元」など意識障害も現れ、熱中症を伴うと死亡するリスクも出てきます。

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。