神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。スポーツ選手にとって、自分の体重を管理することは仕事といってもいい。一般の人でも増量・減量は気になるところだ。
そこで、今回から4回にわたってウェイトコントロールの基礎についてお送りする。第1回目は増量編①。そもそも増量するには何が必要なのかを解説する。
Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。
筋肉の超回復=増量、運動・栄養・休養が絶対条件
「増量」とは、競技力の向上を目的に筋肉量(除脂肪組織:Fat Free Mass=FFM、または除脂肪体重:Lean Body Mass=LBM)を増やすことをいい、筋肉量を増やすためには「超回復」を考える必要があります。
筋肉の超回復は、筋肉トレーニング後1~2日の休息中に筋肉量が増える現象のことで、「運動(トレーニング)」「栄養」「休養」の3つがそろうことで起こります。
トレーニングは筋肉や骨を成長させるホルモンの分泌を促進、栄養は筋肉の素になるたんぱく質の摂取と摂取タイミング、休養は疲労した筋肉のダメージを回復、質の良い睡眠がカギで、それぞれの意味を理解して効率良く筋肉を作っていきましょう。
そして、これらに加えて「持続」して「向上」させていくことで、理想的な筋肉の増量がかなうのです。
それでは、超回復を起こすためにはどうすればいいのか。まず、筋肉にダメージを与える必要があります。このダメージがトレーニングを指します。そして、栄養を体内に入れることで体が回復し、ダメージが加わった分だけ超回復します。この一連の流れを繰り返すことで筋肉量が増えていくことになります。
超回復をする前にトレーニングをすると、筋肉へのダメージだけが蓄積していつまでも回復ができなくなりますので注意しましょう。また、栄養が足りていないと、筋肉の回復も超回復もできませんので、頑張ってトレーニングをしたとしてもただ筋肉を傷めつけているだけになってしまいます。
筋肉に負荷をかけるウェイトトレーニングによって筋肉や腱にダメージが加わり、成長ホルモンの分泌が高まることで筋肉の合成が促進され、超回復も起こってきます。特に、成長ホルモンは活発に分泌されると骨の合成も促されます。骨の合成は身長を伸ばす可能性を高めることにもなりますので意識したいですね。
増量のための効果的な栄養摂取タイミング
次に、栄養の摂取タイミングについて解説します。「トレーニング後30分以内がゴールデンタイム」という言葉を聞いたことがありませんか。
これは、トレーニング直後35分までに筋肉を合成する成長ホルモンの分泌がピークに達することを指しています。分泌自体は60分後まで続くので、実際にはトレーニング後60分以内であれば超回復が起こることになります。
この間に、筋肉の材料となるアミノ酸・たんぱく質などが筋肉をつけたい所に行き渡っていれば問題ないのですが、トレーニング直後に慌ててこれらを摂取しても消化・吸収に時間がかかってしまうので効果が薄くなってしまいます。
では、どうすればいいのか。人間の体は効率良くできていて、アミノ酸やたんぱく質をあらかじめ筋肉に蓄えておくことができます。これを「アミノ酸プール」といいますが、筋肉に蓄えられる量に限度がある上、身体活動によってもアミノ酸やたんぱく質は消費されているので、食事や補食で必要な量をしっかり摂取しておくことが大切です。
最後に休養です。休養は「超回復が起こるまで、次のトレーニングをしない」ということです。では、超回復が起こってそれが終わるタイミングとは「いつ」なのか。
トレーニングの量や負荷・鍛える筋肉の大きさ・個人差もあって一概にはいえませんが、目安としては「筋肉痛が治まったら」で、筋肉痛を感じているときは超回復が起きているとイメージするとわかりやすいですね。そして、筋肉痛がなくなったら次のトレーニングに移行するようにしましょう。
もう一つ重要な休養「睡眠」については、【#07-2】を参照してください。動画でも詳しく解説しています。
1回だけのトレーニングで超回復は起こるかもしれません。しかし、右肩上がりに筋肉量を増やしていくことは難しいです。トレーニング→超回復(栄養・休養)を繰り返し、継続することが重要です。
また、トレーニングをしている間に筋肉がついていって、いつの間にか負荷が軽くなっていると思います。この感覚でトレーニングを続けても筋肉へのダメージにはなりません。だからといって急に重い負荷を加えてもケガの元になりますので、少しずつ回数を増やしたり、負荷を加えたりしていきましょう。
坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部
神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。