神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。第2回は「成長期に何が起きているのか」をテーマにお送りする。

誕生から20歳の間に体が成長する中で、4つの成長型が存在する。この時期に合わせて、適切に栄養をとることで理想的な体作りを可能にし、競技人生やその後の健康的な生活にも深くかかわってくる。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

4つの成長型を意識して適切な栄養摂取をしよう!

スキャモンの成長曲線(参考資料より改変)

人間は誕生から20歳の間に体が成長していき、図のように一般型、リンパ型、神経型、生殖型の4つの成長型に分類されています。

1つ目の「一般型」は、身長・体重の発育・発達を示す成長曲線で、誕生~3歳、小学生の高学年~高校生と2度成長する機会があります。女子は小学生の高学年~中学生、男子は中学生~高校生と、一般的に女子の方が機会が早く訪れる傾向にあります。

この時期、スポーツを頑張るみなさんはトレーニングを積んでいくと思いますが、トレーニング量に見合った栄養摂取ができないと、成長が鈍化する可能性があるとともに、さまざまなスポーツ障害をひき起こす原因となります。ですから、体の成長のための栄養、スポーツ選手としての栄養をしっかりとることが大切になってきます。

2度の成長機会には内臓の発育・発達も促されると同時に、食べた物の消化・吸収能力を獲得する、とても重要な時期になります。

1度目の成長機会「誕生~3歳」でカギを握るのは、離乳食です。この時期にさまざまな食材をとることで、食物アレルギーや好き嫌いが少なくなる確率が高くなります。

2度目の成長機会「小学生の高学年~高校生」は、本格的にスポーツをしているころになりますが、練習時や試合時により効果的に栄養を摂取するために、サプリメントを使用することも選択肢の一つになってくると思います。

サプリは、栄養を効率良く簡単に摂取でき、消化・吸収にも優れる加工食品です。パフォーマンスやコンディショニング面でも助けになるでしょう。

ですが、サプリに頼りすぎてしまうと、せっかくの消化・吸収能力を獲得する機会をみすみす見逃してしまうことになり、内臓面での発育・発達という点で逆効果になりかねません。この時期はサプリを使うのを我慢して、食事からの栄養摂取を心がけていきましょう。

2つ目の「神経型」は、体を上手に使う器用さ(運動神経)を示す成長曲線で、8歳(ゴールデンエイジ)でほぼ完成するといわれています。

この時期までにさまざまな運動をすることで、体全体を上手に使えるようになれば、後々ハードなトレーニングをしてもケガをしにくい体になっていきます。

3つ目の「リンパ型」免疫力の獲得を示す成長曲線です。8~16歳がピークになりますが、実に成人の約2倍まで免疫力をあげることができます。

免疫力を上げるための食事(後日解説)はもちろん、屋外で活動することによってビタミンD(免疫調整機能)の合成も促されます。集団行動・生活をすることでも免疫力が獲得できます。

スポーツを頑張っているみなさんは、屋外や集団での活動は自然と行っていると思うので、栄養のとり方を意識すると良いかもしれませんね。

最後は「生殖型」です。女性、男性ホルモンの分泌にかかわるもので、「一般型」とほぼ同様の成長曲線を描きます。

男子は、男性ホルモンの分泌が高まることで筋肉の量が自然と増えていきますので、無理のないトレーニングをすることが効果的です。

女子は、特に審美系(新体操、体操など)競技では減量せざるを得ない場合があり、手段として体脂肪を落とすということがあります。

しかし、女性ホルモンを正常に分泌させるためにはある程度の体脂肪が必要で、過度の減量はホルモン分泌に支障をきたして「月経障害」「骨の成長障害(骨粗しょう症、疲労骨折)」の原因になるので要注意です。

【参考資料】多田直人(四国大学) ほか : 指導アプリで子どもの運動不足を解消する ―新たな運動環境のきっかけと習慣化のために-, 笹川スポーツ財団

人生のうち最もエネルギーが必要なZ世代

Z世代のスポーツ選手は、競技に適した体作りのための栄養、トレーニングのための栄養、そして、人として成長するための栄養がより多く必要になってきます。

日本人の食事摂取基準によるエネルギー摂取量の目安は図の通りです。女子は12~14歳、男子は15~17歳で、一般型の成長曲線と同じ時期に一生のうち最も多くエネルギーが必要になってきます。

この時に、必要なエネルギー量だけを意識していればスポーツ選手としての体作りができるかというとそうではありません。また、筋肉をつける、体を作るために必要な栄養はタンパク質ですが、それだけをとっていれば体がどんどん大きくなるわけでもありません。

必要エネルギー量を確保するためにどのような栄養をとって、そのバランスをどのようにとるかがとても重要になってきます。

食のコントロールは自己管理能力を高めることに

Z世代では最も多くのエネルギー、栄養をとる必要があります。体の成長のためには、自分自身で「何を」「どれだけ」「どのタイミング」でとればいいのかを理解し、実践できるようにしたいですね。そのためには正しい生活・食習慣を身につけることが大切で、成長機会が訪れる小学生のうちに意識できるように心がけましょう。

それができるようになれば、中学生、高校生でスポーツを最も頑張る時期に成長が見込める上、パフォーマンスやコンディショニングと食の関連性や大切さを自然と考えられるようになっているはずです。これは、自己管理能力にも結びついてきます。

五輪やプロで活躍するアスリートは、自己管理能力に長けているとよくいわれます。海外など食べ慣れた物が手に入らない環境下でも、自身で食のコントロールをしてパフォーマンス、コンディションを維持して結果を残しています。

ですから、早い時期から食を意識することは、体の成長、自身の成長を高めることになるのです。

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。