笹川スポーツ財団(東京都港区)は2023年8月3~7日、全国の18歳以上男女2520名を対象にした「健康関心度とスポーツライフに関する調査」を実施。今回の調査は、健康無関心層の特徴を明確にすることを主眼とし、「意識」「意欲」「価値観」の観点から健康に対する関心をより詳細に把握できる「健康関心度尺度」を用いて実態の把握と分析がおこなわれた。
日本人の健康への関心は高い
健康関心度尺度は、意識・意欲・価値観の上から順に関心度の高い回答を高得点とし、全12項目の合計点数から「低関心(12~24点)」「中関心(25~36点)」「高関心(37~48点)」に区分。
<健康への意識>
①私は健康への意識が高いほうだ
②自分の健康に関する情報に興味がある
③健康状態の変化に気を付けている
④周りの人より私は健康を意識している
<健康への意欲>
⑤健康のためにはある程度時間を割くべきだ
⑥健康のためにはある程度お金をかけてもよい
⑦健康を第一に考えて暮らしたい
⑧健康でいるためなら何でもする
<健康への価値観>
⑨健康よりも遊びや趣味が大切だ
⑩健康よりも仕事や収入が大切だ
⑪病気を予防するより、病気になったら治療すればよい
⑫病気になったときだけ自分の健康が心配だ
調査結果(図1)から、中・高関心度は全体の約9割に達し、低関心は5.4%に留まった。背景として、健康リスクへの意識喚起や健康関連商品の増加、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、近年では意識レベルでの健康への関心度は高まっているとしている。
仕事と時間と健康意識のバランス…職業別で関心度に違いも
職業との関連を分析(図2)したところ、健康関心度の平均値が最も高かったのは「専業主婦(夫)」で、学生を除く勤労者の中では「正社員」が31.67と最も低かった。
運動する人・しない人、健康価値観に差なし
意識・意欲・価値観で構成される健康関心度尺度に、健康と密接な関係にある「運動実施状況」を加え、実際にどのような行動変容が見られるかを分析。運動実施状況は、「無関心期」「関心期」の「非実施群」、「準備期」「実行期」「継続期」の「実施群」に分類した。
その結果、健康への意識得点および意欲得点は、ともに運動実施群よりも運動非実施群のほうが低かった。価値観得点は、運動実施群と非実施群の間で有意な差はみられなかった。したがって、運動を行っている人たちは行っていない人たちに比べて健康への意識・意欲は高かったが、価値観に違いがみられなかったことがわかった(図3)。
関心度と行動、4つのパターンに分類
健康関心と健康行動(運動の実施)を軸とした4象限マトリクス(図4)で表すと、健康行動が少ない健康無関心層の中には、健康関心が高いものの、「健康のために運動をしたくてもできない」ジレンマを抱えた層が一定数存在。
その背景として、特に低所得層や子育て世帯では日々の生活に追われ、経済的・時間的ゆとりの少なさから思いどおりの健康行動をとれない可能性があることを示した。
健康関心と健康行動をさらに高めるために、継続的に運動できる時間と場所の確保、実施開始のきっかけとなる機会の提供がとくに必要とし、潜在的関心層の場合、健康行動に結びつく条件が揃えば自発的に行動変容が起こる可能性もあるため、促進を高めるプログラムの優先的な検討・策定の必要性を訴えた。
調査を担当した笹川スポーツ財団・シニア政策オフィサー・水野陽介氏は以下のようにコメントした。
「本調査では、全体的な傾向として健康関心度の高さが示され、職業によって差があることもわかりました。背景には労働や家庭に関わる環境要因が推察されますが、それらは個人の意思では容易に変えられないものも多いでしょう。その意味で、『運動やスポーツをしたくても環境要因によってできない』のような“無関心層のジレンマ”が生じているとすれば、それは社会全体で取り組むべき課題と言えます。
一方、社会環境の整備だけでは力の及ばない課題もあります。健康への価値観を高めるには、健やかな生活が送れる社会であることと同時に、一人ひとりが「健康でいたい」と思えることが不可欠です。遊びやレジャー、趣味やスポーツを通じた家族や友人との楽しいひとときは、健康でなければ共有できません。健康であることの先にある大切な瞬間のために、健康の尊さに気づくことが価値観変容の鍵なのではないでしょうか」