「手段」か「目的」か、大人と子どもで異なる運動の意味

今回は、子どもの心理的発達と運動欲求について考えていきます。

最初に、人は運動をする時どのようなことを期待しているでしょうか。大人であれば、健康増進や体力の維持・向上、友人との交流などが動機となっているのではないでしょうか。

もちろん、運動自体を楽しんでいる方もいると思います。しかし、多くは運動をすることで得られる何かしらの恩恵を思い描いていると思います。これは、運動が何かの恩恵を受けるための手段になっている「運動手段論」という考え方です。

子どもはどうでしょうか? 高校生ぐらいになれば大人と近い考えも出てくると思いますが、小学生の頃は、運動すること自体を楽しんでいることがほとんどだと思います。

これは、運動が手段ではなく、運動自体が目的となっている「運動目的論」という考え方です。

つまり、子どもにとっては、純粋に運動を「楽しむ」ことが動機になっているといえます。このように運動への動機や運動中の心の動きは、大人と子どもではだいぶ違っているのです。

発達段階から見る子どもの心 ― 幻想が育む有能感

さて、運動手段論と運動目的論では、時間的な捉え方に少し違いがあります。

運動手段論は「将来」を見据えた運動実施になりますが、運動目的論は、「今」「現時点」が大切になります。

これは、子どもの心理的発達の特徴である「今を生きる」「今が大切」といった考え方に合致します。「今を生きる」という表現は、子どもの心理を最も端的に表していると私は思っています。

図1は、子どもの心の発達を段階で示したものです。

図1 子どもの心の発達段階

幼児期前半は、自分が何かをできるようになるたびに自分への信頼を高めていく段階です。この段階では、運動でも何でもできるようになったことを一緒に喜び、認めてあげることが大切です。

幼児期後半になると、他者の理解や関係性を考えるようになります。これは「心の理論」などと呼ばれ、社会生活を送っていく上でとても重要な発達段階です。

3つ目の段階は、運動場面でとても重要だと私は考えています。この段階を象徴する言葉は「有能感の幻想」です。

理想と現実の区別がつきづらく、多くを自らへの肯定的な評価として捉えますが、発達過程においては、この幻想こそが自分への有能感を高めるために重要になります。

4つ目の段階では、成長とともに他者との関係を理解するようになるため、この幻想は崩れていきます。しかし、幼少期に意欲的な生活を送る上で、幻想はとても大切になります。

子どもたちの心の発達段階でポイントになる「有能感の幻想」を大人たちがどのように考えればいいのでしょうか?

運動場面では特に、大人が知っている、言っていることが正解のような指導をしてしまいがちです。しかし、大人が理想を押しつけることは、安易に幻想を崩しかねません。ですから、特に気をつけてほしいと思います。

動く喜び→上達への意欲、運動欲求の発達プロセス

図2 子どもの運動欲求の段階

ここからは、運動欲求の段階について見ていきます。図2は、私が子どもの運動欲求の段階をまとめたものです。

初期段階(主に幼児期~児童期前半)では、内面から来る純粋な運動欲求に従います。本当に純粋に動くこと自体が楽しくてたまらない様子が見て取れます。

次の段階では「仲間」という運動において、とても大切なワードが出てきます。一人遊びの段階から、徐々に仲間との運動を楽しむようになります。

友達と一緒に動くことが楽しくなり、一緒に遊ぶ友人の存在がとても大きくなります。実際に運動時間が長かったり、体力が高かったりする子ほど一緒に遊ぶ友達の数が多いという研究も見られます。

3つ目と4つ目の段階は、運動に対してかなり前向きになってきて、誰でも上手になりたいという気持ちが芽生えます。努力や工夫というものも見られ、それが成果となって現れることで有能感を獲得します。

3段階目から4段階目への移行は、案外ハードルが高いのですが、自らの成果を上手に有能感へと変換できれば、4段階目へスムーズに移行していけると思います。

子どもは言語的理解よりも体得が大切ですので、工夫したことやできたことを認めてあげて、有能感を高めてあげたいと思います。

4段階目は、かなり高次の段階です。喜びや悔しさ、激励・賞賛などは、運動においてとても大切な要素ですので、中学生や高校生ぐらいになれば、このようなことの大切さにも気づいてほしいと思います。

このように、子どもの成長に応じて運動に対する欲求にも段階があります。大人たちは、子どもが今、どの段階にあるのかを見極めて接し方や声掛けをすることが大切です。

実際にどの段階が良いということはなく、中学生ぐらいでも仲間との関係を重視することが多くあります。運動やスポーツに対して何を求めているかの違いだと思います。

スポーツに多く親しんできた人ほど高い段階を目指しがちですが、運動が及ぼす影響には個人差があるので、段階に応じた成長に運動が貢献してくれればよいのではないでしょうか。

文化的活動や学習などとも補完しあいながら、子どもの良い成長につなげていくことが大切だと思います。

強いて言うなら、運動が子どもの成長においてアドバンテージを持っている要素もあります。これらに関しては、ぜひ運動を通した育みを期待したいところです。

運動はどうすれば楽しくなるのか ― 調査結果が示す子どもの本音

図3 今後どのようなことがあれば、今より体育・保健体育の授業が楽しくなると思うか
(文献3より転載)

最後に、今年度のスポーツ庁の調査結果を一つ紹介します。図3は小学校5年生に「どうしたら今より体育・保健体育の授業が楽しくなると思うか」を質問した結果です。

普通に考えれば「できなかったことができるようになったら」が圧倒的に多そうです。

しかし、実際には「自分に合ったペースで行うことができたら」「できる・できないだけで比べられなかったら」が同程度あります。

これらは、運動中の子どもの心の動きを如実に表しているように感じます。詳細な内訳までは示されていませんが、実は運動があまり得意ではない子どもで、このような回答が多くなっていました。

また、このようなタイプの子どもは、先生よりも友達に認めてもらうことを肯定的に捉える傾向があるます。

図2でいえば、第2と第3段階の狭間ぐらいと考えられます。小学校5年生でも相当数この段階の子は存在しており、そのような子どもへの運動機会確保に対する考え方の指針を与えてくれているように思います。

ここまで、子どもの心の発達と運動欲求の段階について見てきました。運動の場面は、良くも悪くも成果が目に見えやすいことがあります。

子どもの発達段階を考慮しながら、成果をどのように捉えていくのか。そして、子どもの欲求にどのように寄り添っていくかを考えていくことが、二極化している今の子どもの運動実施を改善する重要なカギになっているように思います。(中野 貴博)


1) 一般社団法人幼少年体育指導士会 編 : 幼少年のための運動遊び・体育指導., 杏林書院,p39-48 (2020)
2) 杉原隆,河邉貴子 編著 : 幼児期における運動発達と運動遊びの指導., ネルヴァ書房, p31-40 (2014)
3) スポーツ庁 : 全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書 (2025)

中野貴博(中京大学 スポーツ科学部 教授)

体力向上、活動的生活習慣から子どものスポーツ学を研究する第一人者。スポーツ庁や地方行政などと協力しながら、子どもの運動環境の改善、社会の仕組みを変えようと尽力。子どもとスポーツを多角的に捉えた論文も多数発表している。