取材の裏側を伝える「サクッと取材・編集メモ」です。編集長が取材・編集を通じて感じたことや思ったことを、3分で読めるボリュームにまとめました。

米国の学生スポーツ事情に精通する在米スポーツライター・谷口輝世子さんのコラムも合わせてご覧ください。
#05谷口輝世子さん連載記事一覧取材・編集メモ

「指導者を監督する人」はいるのか

日本のスポーツ現場で不適切指導や暴力の問題が起きるたびに、議論は「指導者の資質」に向かいがちだ。

もちろん、指導者の責任は重い。しかし、それだけで問題を説明できるのだろうか。

アメリカの学校スポーツには、指導者・選手・保護者・学校をつなぐ「アスレチックディレクター(AD)」がいる。運動部を統括し、コーチの採用や評価、安全管理など業務は多岐にわたる。

重要なのは、指導者を監督する役割を制度として担っている点である。問題が起きた場合、ADが事実関係を調査し、必要に応じて指導停止などの措置を取る。

いわば、「指導者を監督する人」が存在している。日本でもこうした仕組みは機能するのだろうか。

「指導者の情熱」という性善説の下で…

日本の学校部活動は、長く指導者の献身によって支えられてきた。顧問やコーチが放課後や休日に時間を割き、選手の成長を支えてきたことは疑いようがない。

その情熱が、日本の学校スポーツを発展させてきた側面もある。

しかし同時に、この仕組みは「性善説」に強く依存しているとも言える。

・指導者は善意で生徒を指導する
・教育的配慮を持って活動を運営する
・問題があれば自ら是正する

日本の部活動は、こうした前提の上に成り立ってきた。

だが現実には、不適切指導や体罰の問題は繰り返し起きている。そのたびに、個人の問題として処理され、構造的な議論は十分に進まない。

さらに近年は、顧問(教諭)の負担も以前とは比べものにならないほど大きくなっている。

もし、仕組みとして指導をモニタリングする役割があれば、状況は少し違ったものになるかもしれない。

ADは日本でも運用可能か

では、日本の学校にADのような役職を置くことは現実的なのだろうか。

すぐに同じ制度を導入するのは簡単ではない。学校の組織構造も、人員配置も、アメリカとは大きく異なる。

ただ、発想としては決して特別なものではない。

部活動を「個人の活動」ではなく、学校の教育活動としてマネジメントする役割を置く。

・部活動のルールを整備する
・指導者の活動を把握する
・安全管理を確認する
・保護者対応を調整する

こうした役割は、日本でも必要とされるはず。

「部活動の地域展開」という掛け声の下で改革が進められているが、マネジメント機能の議論は十分だろうか。

スポーツ振興や補助金政策が進む一方で、部活動の構造的課題から目を逸らしてはいないだろうか。

甚だ疑問だ。

ADに最適な人材をどう見つけるのか

制度を作る以上に難しいのは、人材の問題だろう。

運動部のマネジメントには、いくつかの視点が必要になる。

競技理解、教育的視点、組織運営、安全管理、そして保護者対応といった視点だ。

つまり、五輪メダリストや元プロ選手であっても、それだけで務まる仕事ではない。

一方で、競技現場を知らない管理職では、指導の実態を理解することが難しい場合もある。

理想を言えば、スポーツ現場と教育の両方を理解する人材だろう。

ただ、そうした人材は決して多くない。

だからこそ、制度と同時に「人材育成」も考える必要がある。

指導者を育てるだけでなく、スポーツをマネジメントする人材を育てる。

日本の学校スポーツにとって、これまであまり議論されてこなかったテーマかもしれない。

アメリカでは、ADという役職が制度として確立されている。そのため職業としての需要があり、人材も育成されている。

日本の教育機関で長年、「スポーツマネジメント」という言葉をよく見かける。しかし、人材育成やマネジメント文化の醸成という点で、十分に機能しているとは言い難いのではないだろうか。

部活動の議論に欠けている「マネジメント」

部活動改革の議論では、地域展開や外部指導者の活用がよく話題になる。どれも重要なテーマだ。

しかし、その議論の中で、運動部を管理する仕組みが欠けている。

指導者だけに責任を背負わせるのではなく、組織として活動を支える仕組みをどう作るのか。

ADという存在は、そのヒントの一つかもしれない。

海外の制度をそのまま導入する必要はないだろう。

だが、部活動を持続可能な形にしていくためには、「指導者の情熱」に頼るだけでは限界がある。

スポーツの現場をより良くするために、制度と人材の両方を考える議論が、これから必要になってくるのではないだろうか。

現状を見る限り、その議論が本格的に進んでいるようには見えない。

スポトリ

Kiyohiro Shimano(編集部、ISSNスポーツニュートリションスペシャリスト)