はじめに

脳神経トレーナーの竹内康弘と申します。

私は、小学2年生からサッカーを始め、コーチとして10年以上活動を続けています。これまで、子どもから大人まで男女を問わず、指導した人数は延べ500人以上になります。

部活動、特定の地域で活動する街クラブの小・中学生、プロクラブとさまざまな競技レベルのチームで指導し、ドイツではユースチーム(U-19)の監督も経験しました。

私が専門とする脳神経トレーニングは日本でまだあまり知られていませんが、その影響は多岐にわたります。

スポーツを頑張る部活動生はもちろん、健康を望む人や高齢者、社会人の仕事の効率アップなど生活に役立つものです。

これからの連載では、脳神経トレーニングの基礎やメカニズム、実践方法を踏まえて解説していきます。

連載の1回目は、私がなぜ脳神経トレーニングの道へ進んだのか。その理由をお伝えしたいと思います。

初めての現場で従来の指導方法を疑う

指導者として、私が初めて担当したチームは大学の女子サッカー部でした。大学ではスポーツ科学を専攻し、サッカー部でも活動していたので、身体・トレーニング等に対する知識・経験があり、当初は専ら、自らが経験してきた練習を指導していました。

間違いを指摘し、うまくいかない時はひたすら反復練習、ポジション特性など考慮しない、きついトレーニングで選手を鍛える。現在も頻繁に目にする一般的な指導方法だったと思います。

元プロリーグの指導者たちも同様の指導をしていたので、継続していけば選手たちのスキルは向上するだろうと思っていました。

しかし、いざ蓋を開けてみると、成長する選手は少数。主観的ではありますが、多くの選手のスキルはほとんど向上せず、むしろ下手になっている選手や、トレーニングの負荷が強すぎるのか、ケガを繰り返す選手が大半でした。

こうした状況が続き、従来の指導方法では、体力的な部分での向上や練習自体はうまくなるものの、試合でパフォーマンスが発揮できないと感じ、人体に関して一から学ぶことにしました。

当時、大学に勤めていた関係で、スポーツ分野の研究者、先生に直接話をうかがったり、さまざまな文献・書籍を読み込んだり、講習会に参加したりして、知識を蓄える時間に充てていました。

そして、大学院に入って、修士課程(人間科学専攻)まで修了することになりました。チーム自体は関東1部リーグに昇格したものの、大きな要因として競技力の高い高校生を集めたことにあると思うので、「選手たちの成長」が促されたかは疑問の余地が残りました。

脳神経トレーニングで選手たちに見られた変化

初めての指導現場で一定の成績を収めましたが、個々の育成という点では依然納得できない状態でした。

そこで、新しい指導方法を探求するため、文化、育成環境などが日本と大きく違う、サッカー大国のドイツに留学することに。ドイツは、サッカーの指導も体系化され、育成システムも合理的でした。

現地で気づいたことも多々あり、帰国後もドイツサッカー協会やドイツの出版物、動画などを参考に日本で指導をしていました。そんな中、興味深い指導方法に出会いました。

紐を通した玉をジッと見る、眼球運動の繰り返し、首の運動、足先で素早くタップ…「これは一体、何をやっているんだ?」と思いました。今思い返すと、それが神経科学を応用したトレーニング(脳神経トレーニング)との出会いでした。

当時は、その意味もほとんど理解していませんでしたが、見様見真似で選手の指導に取り入れてみたところ不思議なことが起こり始めます。まず気づいたのは、選手の反応速度の変化です。

チームの中で一番走るのが遅いと思っていた選手が、なぜかいつもより素早くボールに追いついています。最初は「夜だし、速く見えるのかな?」「たまたま調子がいいのかな?」くらいにしか思っていませんでした。

しかし、トレーニングを続けていくに従って、選手の変化は明確に現れるようになりました。そしてある時、その変化に気づいた他のコーチ2~3人から「〇〇、アジリティ上がったよね?」「走るの、速くなったよね?」と言われました。

それを聞いて、自分の感覚は間違っていないと確信しました。「自分が指導したトレーニングが選手に大きな変化を起こしている」と。

実際、この選手は身体的な成長はほぼ止まっており、指導者、環境にも大きな変化はなく、脳神経トレーニングをおこなったこと以外に大きな要因は考えにくかったからです。

〝練習横綱〟試合で実力を発揮できない選手たちへ

選手たちの変化を目の当たりにしたことで、脳神経トレーニングの価値を見出し、その神髄を学び続けています。長く指導を続けていく中でチームが変わり、脳神経トレーニングに関する知識やノウハウもどんどん蓄積されています。

現在の選手は、過去に基づく技術の進化や知識・情報の取りやすさによって、レベルは高くなりました。ただ、パスミスが多かったり、ドリブルでボールを簡単に取られたり、なかなかパフォーマンスを向上させられない選手も多くいます。

さまざまなチームを指導して共通して感じたのは、「練習はうまいが、試合で力を発揮できない選手が多い」ということです。そして、指導者は「〇〇は体幹が弱いからダメだ!」「もっと体幹トレーニングをしないといけない!」の一言で片づけてしまう傾向があるように思います。

私が携わったチームでは、全体練習前の時間を使って脳神経レーニングを導入してもらいました。選手たちの変化はさまざまですが、短期で効果が表れた実例を示します。 腰痛で首も反れず、走ったりプレーをしたりする以前の状態の選手がいました。3カ月間トレーニングを続けた結果、腰痛の大幅な改善が見られました(写真)

この選手はもともとパスミスが多く、ボールロストが多かったのですが、脳神経トレーニングを始めて数カ月経った時には、ほとんどミスがない選手になっていたのです。さらに、アジリティやスプリント能力も向上していました。

腰痛の改善からパフォーマンスの大幅向上。実際のスポーツ現場で、これほど効果を感じたことはありません。できる選手は早くからスキルを獲得し、できない選手は変化しないという、これまでの経験が覆される光景でした。

脳神経トレーニングを学んでいる多くの人は不調を改善する治療家で、パフォーマンス向上に目を向けたスポーツコーチは少ないと知りました。これをきっかけにスポーツ現場へ脳神経トレーニングを広める活動をしております。

現在、多くのスポーツジムができて、パーソナルトレーナーをつけてまでパフォーマンスを上げたい人がいる中、あまり効果がないトレーニングに多くの時間、労力をかけている人が多いように感じます。

実際、プロで活躍している選手にも多く見受けられます。流行りの体幹トレーニング、ボディビルダーが行うようなウエイトトレーニング、可動域を上げるために筋膜リリースなど。すべてを否定することはできませんが、長年選手たちを指導してきた経験から、脳神経トレーニングの効果の大きさは実感しています。(竹内康弘)

竹内康弘(元浦和レッズコーチ・脳神経トレーナー)

年齢問わず、日本・ドイツで10年以上、プロアスリート、世界大会出場選手ら延べ500人以上を指導。

ドイツの機能神経学とサッカーを掛け合わせたトレーニングに出会ったことをきっかけに、機能神経学、応用神経科学を学ぶ。

現在は、サッカーコーチとして活動する傍ら、体の不調を改善したい人や競技力を向上したいアスリートに向けてトレーニングセッションを提供する。

スポーツコーチ、トレーナーや治療家など、その他、健康課題に取り組む企業を対象に脳神経トレーニングの普及活動も積極的におこなっている。

<指導歴>

2013~2016:帝京平成大学女子サッカー部

2016~2017 :ドイツユースチーム(U-19)

2017~2019:南葛SC

2019:岡山湯郷Belle

2019~2022:INAC東京(INAC神戸の下部組織)

2022~2024:浦和レッズ