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2020.02.14
ニュートリションな人々
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トレーニング・栄養の統合を目指した最高のコーチングを【ニュートリションな人々 #01 ~清野隼さん 前編~】
すぽとり編集部

ニュートリション関係者の人物背景や取り組みについて紹介するオープニング企画「特集:ニュートリションな人々」。記念すべき第1回目は、ストレングス&コンディショニングの資格を保有しており、管理栄養士でもある筑波大学・清野隼さんの半生を振り返る(全2回)。

清野さんは、森永製菓株式会社が運営する「トレーニングラボ」で、長くトップアスリートを指導してきた。競技力やコンディショニングのためにトレーニングと栄養の両面を踏まえてコーチングし、現在は筑波大学の特任助教として、現場で行われている実践知の体系化に向けて、多くの仕事に就いている。

ケガをした経験から栄養の大切さを知る

すぽとり編集部(以下、編集部) スポーツ・運動シーンでニュートリションが注目されている半面、まだまだ未知数な点や進化するところがあります。トレーニング資格の保有者であり、管理栄養士でもある清野さんは、トレーニングや運動とニュートリションの密接なかかわりについて、どうお考えでしょうか。

清野隼さん(以下、清野) そうですね。パフォーマンスを上げるためにはトレーニングだけをしていてもだめで、栄養面も一緒に考えることが重要です。それが統合されることで競技力やコンディショニングのイノベーションにつながると思っています。

編集部  多くの競技現場でコンディショニングに携わる清野さんですが、スポーツニュートリションに興味を持ったきっかけは何だったんですか?

清野 僕は小さいころからずっと野球をやっていて、高校時代に肘の痛みに悩まされていました。その時、母が栄養学の本を買ってきて、ケガを治すための食の情報を家のあちこちに張り出したんです。

最初はちょっと敬遠していたんですけど、食事をしている時でも自然とそれが目に入ってくるので、「きちんと食事を摂っていればすぐに治るかもしれない」と思って実践していました。

編集部 お母様が大変熱心に取り組まれていたんですね。

清野 当時、スポーツニュートリションに関する情報が少なかった中、食をきちんと考えることで体調管理やケガ(からの復帰、予防)にも影響があると身をもって感じました。スポーツニュートリションに興味をもったのは、いろいろとやってくれた母の影響が大きいですね。

編集部  その後、仙台大学の運動栄養学科に進んで勉強をするわけですね。どのようなことをしていたんですか?

清野 野球の道をスパッとあきらめて、選手をサポートする側に回ろうと。選手として経験したことを生かそうと考えました。大学1、2年のころは、部活動の現場へ行って栄養のサポートを試みるんですが、正直いって何をすればいいかわかりませんでした。あまり知識もなかったですし、選手や監督からも「あいつ、何しにきたんだ」みたいな顔をされて(笑)。

編集部  そんな感じだったんですか。

清野 選手たちは「なぜ食べないといけないの?」と。確かに、いきなり来て「あれを食べろ」「これを食べろ」といってもわかってくれるはずがありません。「どうしたら選手に理解してもらえるか」。そればかり考えていましたね。それで視点を変えて、栄養面から選手をサポートするだけでなく、トレーニング面も意識するようになりました。

仙台大学には学生トレーナー部というのがあって、栄養サポートを行う傍ら、トレーナー部の中でトレーニングやコンディショニングについて学ぶ機会をつくっていました。そんなこともあり、野球部の監督から「トレーニングを見てくれ」と言われて、2年生の秋から学生トレーナーをするようになりました。

編集部  確かに栄養摂取の目的を理解してもらうのはなかなか難しいことです。選手たちが意識を向けやすいトレーニングにもアンテナを張ったわけですね。

清野 トレーニングのことを一から勉強し直しました。アスレティックトレーナーのカリキュラムを大学で選択したり、ハワイ大学のインターンに参加したり。知識を得て、選手たちにトレーニングプログラムを作成し、指導しているうちに、選手にとって本当に必要なことや、何を望んでいるかが少しずつわかってきました。同時に、トレーニングのことを知れば知るほど、やっぱり栄養が必要なんだと再認識するようになりました。

編集部  清野さんからよくうかがう言葉「食と運動は車の両輪」につながってくるわけですか。

清野 学生トレーナーを務めたことが、本当にいい転機になったと思います。トレーニング、栄養の両方を知ることは、選手にとってパフォーマンスに繋げるための近道になると思っています。「なぜ食が重要か」。これをトレーニングや日々の練習と組み合わせて論理的に説明できるようになりました。そうすると、選手たちも考えを受け入れてくれました。僕は、選手としての経験もありますから、その点も強みになりましたね。

今思えば、大学1、2年の頃は、自分たちが考えた食事メニューを、学科の予算でただ調理して提供して、それで満足して。選手が何を欲しているのか、そして「今この選手に最も必要なことは何か?」ということを考えていなかったと思います。「この食事をしておけば大丈夫」と、自分たちの知識を押しつけているだけに過ぎなかった。選手の身になって考えることの大切さもその時に学んだような気がします。

編集部  トレーニングがわかって、栄養のこともわかる。双方を紐づけてサポートやコーチングをしてもらえれば、選手にとっても非常に心強い存在になりますね。

清野 選手と栄養サポートチームの橋渡しの役割を担うことでチームがうまく回っていったと思います。こうした動きは僕の今に通じるものがあります。

トレーニングと栄養のパイプ役に

編集部 大学を卒業後、ウイダートレーニングラボ(現:森永製菓トレーニングラボ、以下ラボ)に所属し、スポーツ選手たちのコンディショニングやパフォーマンスの向上にかかわる仕事に就いたわけですが。

清野 当時のラボはストレングス&コンディショニングを重視していて、年間の強化計画やトレーニングプログラムに沿って、生理学的な観点から効果的な栄養摂取をさせることを求めていたので、トレーニング、栄養関連の資格を取るための勉強でより知識を蓄えました。

所属後1年くらいで、NSCAが認定するCSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)※1、NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)※2の資格を取り、その後現場を一定期間経験した上で受験資格を満たした管理栄養士の国家試験を受け、資格を取得しました。CSCS、CPTの資格を取る時に、他のトレーナーからは「栄養士志望のヤツが何やってんだ?」みたいな感じでしたけど(笑)

※1 傷害予防とスポーツパフォーマンス向上を目的とした、安全で効果的なトレーニングプログラムを計画・実行する知識と技能を有する。
※2 健康と体力のニーズに関して、評価・動機づけ・教育・トレーニングやコンディショニング全般の指導を行う、優れた専門的能力を持つ。

編集部  大学時代のデジャブがここでも(笑)

清野 ええ。でも、スポーツの現場でプロとして生きていくためには、トレーニングや栄養に関する資格認定は確実に必要だと思ったので、周りの目は気にしませんでした。

僕は選手のコンディショニングにかかわる仕事をする以上、資格はきちんと取っておいた方がいいと思っています。選手たちへの礼儀、礼節という意味で。資格がなくても当然仕事はできますが、身を預ける人間がきちんと資格を持っていれば、安心して任せられるのではないでしょうか。

そうやって僕ら専門職が努力し続けることは、選手が競技力向上のために日々努力していることと全く同じことだと思っています。それも一緒に対峙して、強化を歩む上での礼節だと。

編集部 ラボに所属した当初は、トレーニングや栄養サポートの仕事だけでなく、“営業”もしていたそうですね。

清野 そうなんですよ。もともとラボは一般の方に解放していたんですが、スポーツ選手やチーム、団体へトレーニングや栄養の知識、ノウハウを提供するということで、サポートの対価として、しっかりと金銭をいただくということをしていました。

「どのようなサポートを提供すれば満足していただけるか」を考えながらも、お金に結びつけなくてはいけないので、専門資格を持つ営業マンみたいでしたね。だから当時は、経営学やマネジメントの本も読んでいました。

スポーツ選手やチームの方々からは「何が足りないか」「体を大きくしたい」「動きを速くしたい」などを聞かれることが多かったですね。当然、栄養の専門家として訪問するわけなので食からのアプローチをするんですが、こうした課題は何も栄養だけの話に限りません。トレーニングも大きく影響します。ですから、トレーニングと栄養の両面を絡めて話をすると納得してもらえて、契約に結び付いたこともありました。

また、森永製菓が販売していたプロテインの営業マンとも現場に行って、商品や飲み方の説明もしていましたね。営業なんてしたこともありませんから、相手に話を聞いてもらうためのトーク技術も学べました。話をよく聞くことで相手のニーズを導き出す直感力や、その人その人の「観点を区別する力」は身についたかなと思います。

ちなみに、今のトレーニングラボは営利目的に沿った方針ではありません。あくまで僕が所属した当初の話です(笑)

食事はベースになるものの、栄養補助食品も賢く使いたい

編集部 少しスポーツニュートリションに寄った話をしましょう。日本ではスポーツニュートリションへの意識が徐々に高まっているのを受けて、専門家が増えてきました。いろいろな方とお会いしてきましたが、人によって専門性が異なるのかなと感じます。

清野 そうですね。レシピを考えるのが得意な方、集団給食でナレッジを生かす方、指導現場でサポート力を発揮する方、研究者としてエビデンスを作っていく方など・・・。

世代、男女でも分かれてくるでしょうね。スポーツニュートリションの専門家として一定の知識を持ちながら、自らの背景や得意分野にそれぞれ特化していくといった形になると思います。

編集部  清野さんはどのタイプになりますか?

清野 僕は競技スポーツ現場でのコーチングが専門になります。営業で多くのチームを回っていた時は、現場からの依頼でレシピを考案していましたが、今はやらないようにしています。

長くスポーツニュートリション領域で仕事をしていますが、メニューを考案する専門性と、トレーニングにおける栄養や栄養補助食品の使い方や必要性を考える専門性は、同じスポーツニュートリションの括りではあるものの、全く別物だと考えています。

それで、最近キーワードになると考えているのがインターフェイス、つまり「専門性と専門性を結びつけ機能させる」こと。運動から派生した食事の考え方に対してどうフィットさせるか。「イノベーション」や「統合-integration-」といったキーワードも今の僕のテーマでもあります。

研究でいえば、学際的かつ応用分野になります。これからのスポーツニュートリションが発展するためのカギになると思っています。

編集部 東京五輪が近づき、スポーツニュートリション分野の情報も多く発信されるようになり、「食」に対する考え方も多様化してきました。多くの食品や商品が手に届くようになっている中で、栄養補助食品の使い方についてはどのように考えていますか?

清野 パフォーマンスやコンディションにかかわる部分で食事がベースになることはいうまでもありません。ただ、それだけでは難しい部分があることをよく理解しなければならないと思っています。

一般の人でいえば、運動をする人が増えて生活スタイルも変化してきましたので、それぞれの生活を鑑みて栄養補助食品を上手に賢く活用しながら、健やかに毎日を過ごせるようにしていきたい。

より高い目標を掲げているスポーツ選手なら、安全面に考慮しながらも正しく栄養補助食品を使えるかが重要になってきます。ですから、われわれスポーツニュートリションの専門家はアスリートが安全・安心に栄養補助食品を摂取できるように確実で、洗練された、正しい情報を選別して、賢く、その上で効果的に摂取できるように指導していかなければなりません。

また、スポーツや健康を通じて食事や栄養補助食品、健康食品の在り方や市場の拡大に向けて動いている自治体もあり、僕自身もそういった場に呼ばれてお話をする機会があります。

行政レベルで栄養の大切さを市民のみなさんに還元する中、栄養の専門家のニーズも高まってきます。そういった意味でも、ますます幅広い知識や経験が必要になってくる時代になると思います。 <<後編へ続く>>

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すぽとり編集部

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