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2022.08.03
ニュートリションな人々
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コラーゲンと向き合い30年、多くの人の健康に寄与する研究成果を導き出す【ニュートリションな人々 #10 真野 博さん】
すぽとり編集部

永続企画「ニュートリションな人々」第10回の主人公は、城西大学 薬学部 医療栄養学科教授の真野博さん。真野教授は、コラーゲンが栄養学的に認知されていなかった約30年前から研究に勤しみ、積み上げた成果によって評価を覆した日本におけるコラーゲン研究の第一人者。管理栄養士養成課程の教育者でもある。

別企画「JOSAIニュートリション通信」の連載の中で、コラーゲンに関して細かく解説してもらう予定だが、ここでは真野教授の研究に対する思いや考えの一端をお送りする。

研究者人生を決めた顧問のひとこと

私は新潟県で生まれ育ち、家が山や海に近かったこともあって自然と触れ合う機会が多かったものですから、小さい時から生物に興味を持っていました。

中学生の時はサッカー部と生徒会に入っていたんですけど、生徒会顧問の先生が山岳部も担当していた関係で、山によく連れて行ってもらいました。魚釣りや登山とか、すごく楽しかった思い出がありますね。

高校からは完全にアウトドアへ興味が移って登山部に入るんですが、登山部顧問の先生自身が農学部農芸化学出身で化学の教員であったことから、「これからは化学の時代。農学部でバイオテクノロジーを勉強した方がいい」と勧められました。本当は興味のあった生物学を専攻したいと思って相談したんですけど(笑)。

そのころ、遺伝子操作が注目され始めていて、顧問の勧めもあって農芸化学の道へ進むことにしました。今思えば、中学生の時、生徒会に入っていなければ、別の人生になっていたかもしれませんね。

農芸化学は、生物を化学物質の観点から追求するものなので、以前から勉強したいと思っていた生物学とはそれほど離れてはいないんです。私が専攻していたのは生物化学で、「植物栄養」といって、イネや豆などがどういった栄養を取り込んで育つのかとか、質のいい農作物を生産するための土壌はどうしたら作れるのかなども勉強しました。

大学生時代に研究していたのはビタミンA、D、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン。博士課程では、ビタミンA、D、甲状腺ホルモンの作用発現機構クロストークを解明し、博士号を取得しました。ビタミンD(A)やエストロゲン(女性ホルモン)は骨の形成にも深く関連しているので、大学で得た基礎研究の知識を持って、明海大学歯学部で骨の研究を進めることになりました。

世界的科学者との出会いと薫陶

私が所属した明海大学歯学部の研究室には、久米川正好先生がいらっしゃいました。久米川先生は、研究がそれほど盛んでなかった当初から骨に着目し、骨芽細胞(骨を作る働き)や破骨細胞(骨を壊す働き)のメカニズムの解明などをおこなっていました。MBP(ミルクベーシックプロテイン)の研究・開発に深くかかわっていることでも知られていて、骨に関する研究を黎明期から支える方です。

骨の研究には、骨芽細胞や破骨細胞を培養した物が使われるのですが、この培養細胞を世界で初めて開発したのが久米川先生なんです。当時は存在すらしておらず、培養細胞を作り出すことは困難とされていました。培養細胞はいまや世界中の研究室で使用され、そこから多くの成果が生まれてきていますので、久米川先生の開発によって、骨の研究が進んだといってもいい過ぎではないと思います。

骨研究の最先端を行っていた久米川先生の下には、教えを請おうと世界中から多くの科学者や研究者がひっきりなしに訪れていました。5人くらいの規模の本当に小さな研究室でしたが、堂々と世界に発信していましたね。

「動画に残す」という今でこそ当たり前のことですが、久米川先生は当時から16mmフィルム(何千万円の代物)を使って培養細胞を撮影し、多くの人に公開していました(アーカイブは科学映像館に残る)。自身の研究を次世代へ残すことも忘れない、懐の大きな面もありました。

類まれな発想や考え方を持つ久米川先生との出会いは、私の中でものすごく大きく、教わったことはたくさんあって、感じ取ったことは数えきれません。 ビタミン、コラーゲンと骨の関連性、破骨細胞・骨芽細胞の真相究明など、今日の私の研究につながっています。私もいつか、久米川先生のように小さな研究室(少数精鋭)で世界と“戦う”方法を見つけていきたいですし、そうありたいと日々研究を続けています。

農芸化学の神髄「不要な物を宝物に」

農芸化学の考えとして「不要な物から有効な物を見出す」があります。これは、農芸化学の祖・鈴木梅太郎1)先生が、不要とされていた米ぬかから栄養成分を抽出して作用機序から機能性までを解き明かしたことで範を示されました。多くの農芸化学者は梅太郎先生の教えを頭に入れながら、研究に勤しんでいると思います。私もその一人です。

1) 戦前の農芸化学者。当時、重大な疾患とされていた「脚気」の予防や治療に玄米が有効であることを見出し、世界で初めて米ぬかから有効成分「オリザニン」を分離した。オリザニンは現在のビタミンB1

農芸化学の観点からいえば、本来食べられることのないゆずの皮や種に含まれている苦み成分「リモノイド」を新たな研究テーマとして扱っています。実は、城西大学の本拠地・比企入間川越地域は日本最古のゆずの生産地で、現在ゆずの一大産地になっている高知県の人に栽培方法を伝えたのが比企入間川越地域の人たちだったそうです。ゆず由来のリモノイドに関する研究は、こうした地元の方との縁や協力もあって進めている背景もあります。

リモノイドについては細胞レベルの実験ではありますが、破骨細胞の働きを抑制すること、肉体にどのような作用があるのかまでは突き止めています。今後さらに研究を進めていて、真相の究明にあたっていくつもりです。

私の主要研究テーマであるコラーゲンも、魚や豚、牛などの皮や骨などあまり用途のない物から抽出される有効成分で、研究を始めてからかれこれ30年くらいになりますね。今でこそコラーゲンはいろいろな用途で商品化されて世間に知れ渡っていますが、私が学生だったころは食べても無駄な物とされてきました。2000年代後半あたりまではそんな認識だったと思います。

2000年前後にコラーゲンをペプチド化(低分子化=体に吸収されやすい)した「コラーゲンペプチド」が開発され、縁があってその研究に携わるようになりました。研究当初は半信半疑だったのですが、研究を進めるうちに「あれ? 何か違う」という認識に変わり、ヒトが摂取することによる有効性が明らかになってきたので、成果を論文にまとめていったわけです。

2010年代に入ると、「ペプチド」商品が増えたことでコラーゲンペプチドも注目されるようになり、「肌にいい」とか「骨に作用する」とか、コラーゲン研究のさまざまな知見が出てきて少しずつ見直されていったという経緯があります。ある意味、農芸化学の神髄ともいえるかもしれませんね。無駄と思われていた物が実は役に立つことを研究で証明するという。

コラーゲンについてはこれから連載の中で細かく解説していくことにしていますが、折れにくく硬くしなやかな骨にするための核になる部分がコラーゲンと覚えておいてください。

骨は作り変えられないと硬くてもモロく折れやすくなってしまいますので、いったん骨を溶かして壊し、新たな骨を作り出す。ヒトはこのサイクルを繰り返しています。骨を作り出す時にコラーゲンが分泌されるのですが、正常に分泌されれば骨の強度を高めることにもつながり、疾病対策やケガの予防などに役立てることができます。

コラーゲンは体の中で作り出される一方、摂取することでも体に吸収されるという不思議な生理活性を持っている物質です。われわれの仮説では、加齢につれて体の中で、①コラーゲンが作られにくくなり、②作られたコラーゲンが分解されにくくなり、活性型コラーゲンペプチド2)が作られにくくなる。その時に食品やサプリメントからコラーゲンを摂取することで、どのような補完作用があるのかをこれから解明していくことにしています。

2)活性型コラーゲンペプチド:コラーゲンの分解によって生じた細胞を活性化する作用のある低分子のペプチド。プロリンやヒドロキシプロリンを含むのが特徴

また、皮膚や骨・関節の痛みにも効果があり、即効性のあるコラーゲンペプチドは痛みが治まるまでの期間が短くなることがわかっています。ただ単に「骨の状態が良くなった」「腱の状態が改善された」とは別の作用があると推察しているので、その点も深く研究していきます。

連載の中で、私がかかわってきたさまざまなコラーゲン研究について分野ごとに紹介していく予定もありますので、ぜひ理解を深めていってもらいたいと思います。

栄養学者として思うこと

自分の体は食べた物でできているので、まずは栄養素の大切さを知ってほしいと思いますし、栄養素を知った上でサプリメントなどをうまく活用してもらいたいですね。

サプリを活用するにも「自分に必要な物なのか」「目的は何なのか」「スポーツ選手ならメンテナンスに使うのか、パフォーマンスアップに使いたいのか」。栄養素を知っておけば、その点も考えやすいと思います。

栄養はものすごく深いもので、指導する場合、どこまで伝え、どうやって伝えるのか。とても難しい部分ですね。私が体験したエピソードとしてこんな話があります。

私たちは地元・ときがわ町のみなさんの食事調査・生活調査をしているんですが、飽和脂肪酸(牛乳、バター、油脂などに含まれる)を多く摂取している傾向がみられました。

この結果を踏まえ、住民のみなさんに「飽和脂肪酸の摂り過ぎには注意しましょうね」と喚起します。すると、住民から「飽和脂肪酸は何に含まれているんですか?」と質問される。「動物性の肉などに含まれているんですが、アップルパイや菓子パンにも多いんですよ」と話すと、「アップルパイや菓子パンは植物性なのに、どうして動物性の脂肪酸を摂ることになるんですか?」とさらに質問をされて、「植物性油脂に水素を添加して、工業的に動物の油のようにしている(ショートニング)からなんですよ」と答えます。

何気ない問答ですが、飽和脂肪酸を説明するのにショートニング(食品添加物)の話まで広げないと理解してもらえないケースもあります。深く知っていなければ説明できないともいえますが、住民のみなさんと接する機会があったり、対面で話したりする機会がないと、こうした知識はなかなか知りえません。食品添加物の話は特に難しく、情報もあまりない。自分で調べるなんてこともないと思いますから。

でも、このような話は伝えるべきことでもあって、私も含めて栄養に携わる人は伝わりにくい話もきちんと説明できるように、常に「知識のバージョンアップ・アップデート」が必要だと思います。学校で習ったこと以外の知識や情報にも目を向けて、真相をきちんと伝える。時代に即した栄養指導をするためにもその必要性を強く感じます。

管理栄養士の養成をしている身からいえば、「生涯教育」という点で大学が社会貢献する部分でもありますし、私も勉強を続けていきながら、管理栄養士になる人にも、キャリアを積んでいる人にも長い目で指導できるよう、研究はもちろん、知識のアップデートをしていきたいですね。

繰り返しになりますが、私自身も学生時代にコラーゲンは食べても無駄なタンパク質であると大学の講義で習っています。ただ、学生時代に「教科書や論文の内容も疑うこと」を大学院時代に恩師からいつも言われていたのが良かったと思います。現場で活躍する管理栄養士のみなさんには、毎日忙しいと思いますが、「知識のアップデート」を心からお願いしたいです。

次回の「JOSAIニュートリション通信 #03(ニュートリションな人々 #11)」は、真野教授とともに研究を進める君羅好史さんを紹介。学生時代までバリバリのスポーツ選手だった君羅さんがなぜ化学の道へ進んだのか。今後の研究テーマなどにも触れていきます。

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すぽとり編集部

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