永続企画「ニュートリションな人々」第11回は、城西大学で真野博教授とともにコラーゲンをはじめとする栄養成分について、化学的に研究を進める君羅好史さんを紹介。君羅さんはもともと体操選手で、バリバリの体育会系出身。「教えたい」という強い思いから教員資格を取得、化学との出会いで研究者へ転身することになった。

別企画「JOSAIニュートリション通信」の連載の中で、コラーゲンに関して真野教授と共同で細かく解説してもらう。

体操一筋、指導者をめざす

幼いころから器械体操に打ち込むスポーツ少年だった君羅さん。中学では体操部がなかったため、顧問の先生を立てて自ら部を発足して個人で活動していた。高校に入ってからは部活動に所属する必要性を感じ、体操の強豪として知られる東京都立駒場高校保健体育科に入学。本格的に体操の技を磨いていった。

「高校の体操界は、クラブ所属の選手が高校の主要大会に出場するために部活動に所属している感じでしたが、僕の時はたまたまクラブに所属していない好選手が駒場高校に集まりました。全国大会には行けませんでしたが、関東大会まで進むことができたので、ある程度結果を残すことができました。

体操は筋肉を使う競技なので、体を作っていくためのトレーニングや栄養学などへの理解は当時からありましたね。保健体育科で周囲もその話題に興味のある人ばかりだったので、『リカバリには●●を摂るといい』とか、『プロテインなら◆◆がおいしい』とか、自然と競技にかかわる会話をよくしていました。

栄養に関しては僕の時代もそうでしたけど、意識している選手は理解しながら競技をしていますが、なかなか難しいところはありますよね」

体操選手として活躍する一方、「物事を教える・伝える」ことにも強い関心を持っていた君羅さんは、人に教える「教員」になることを考え始める。現在、テレビなどのマスメディアやSNSを通じ、自身の研究で得たことや考えをわかりやすく多くの人に教えたり、伝えたりする活動を積極的におこなっているが、その意識はこのころから持っていた。

教員になるべく、体操を続けながら東海大学体育学部へ進学。体育学部では選手として、指導する立場をめざす者として勉強になる部分が多々あり、中身の濃い生活だった。しかし、ある教授のひとことがきっかけで、自分の可能性をもっと広くみるようになっていた。

「教授がおっしゃっていたのは『指導する(教える)ためには情熱・技術・知識の3つが必要』ということ。この言葉には、かなり心を動かされました。情熱や技術は自分でも不足しているとは思いませんでしたが、果たして知識を持っているのか。このままではいけないと、自身を振り返ることができましたね」

このひとことは、君羅さんが今でも心に刻んでいることであり、幼いころから取り組んでいたスポーツの世界から科学者へと転身するきっかけにもなった。

スポーツから未知なる食品化学の世界へ

東海大学を卒業して教員資格を取得した君羅さんは、東京農業大学大学院へ進む。足りていないと感じた「知識」を得るために新たな勉強をすることにした。大学院では食品栄養学を専攻し、当時大豆イソフラボンに関する研究を先進的におこなっていた鈴木和春氏、上原万里子氏(現・東京農業大学副学長)に師事。これまで接していたスポーツとは全く異なる分野だ。

「食品栄養学とスポーツは全く関係ないとはいえないんですが、大学院で栄養成分を化学的に研究しているうちに、今まで知らなかった世界がどんどん広がっていくような気がしました。ずっとスポーツをやってきて今でも好きですが、研究に触れることで意義ややりがいを強く感じるようになっていったのは確かです」

君羅さんは研究室で、大豆イソフラボンと骨代謝、ホルモン様作用のある大豆由来“乳酸菌”「エクオール」の産生などを研究。今でこそ、大豆イソフラボンの健康機能性は解明されてきているが、その研究の初期段階に君羅さんはかかわっていた。

「骨の代謝に寄与する栄養成分でいえば、大豆イソフラボンもコラーゲンも共通していて、大学院で今にも続く研究ができましたね。大豆イソフラボンの代謝産物であるエクオールの研究も当時としては画期的だったと思います。

大豆イソフラボンは腸内に入ると細菌の力でエクオールに変換されます。エクオールが女性ホルモンのような働きをするため、体の中で産生できるように腸内環境を整えていけば、閉経後の骨粗しょう症や肌の張り・シワなど加齢によってひき起こされる問題にアプローチできる。今ではさらに研究が進み、女性の健康に役立つことはよく知られていますね」

研究者としての経験を積み、大学院で食品栄養学の博士号を取得後、2012年から城西大学に所属。日本におけるコラーゲン研究の第一人者・真野教授とともに研究を進めている。

「コラーゲンに関しては研究によっていろいろとわかってきていますが、私たちが提唱しているように、5大栄養素・食物繊維に次ぐ『第7の栄養素』としての可能性をすごく感じています。

しなやかな骨を作る素、美肌・美白効果が見込める機能性だけでなく、筋膜にもコラーゲンが存在することから、筋組織で作られたコラーゲンペプチドが筋肉の細胞に働きかけて、筋肉量を増やすことにも寄与する可能性があります。

例えば、ボディビルダーのように大きな筋肉を作るためにはプロテインが有用ですが、ボディメイク(美しい体型を目指す筋肉づくり)や高齢者の筋肉の衰えなど、適度に筋肉をつける目的であればコラーゲンペプチドが最適ではないでしょうか。みなさんが摂取する機会の多いプロテインとは差別化され、別の用途があると考えています。

コラーゲンと筋肉合成との関連について、仮説をこれから研究で明らかにしていく予定ですし、骨・筋肉に作用する『運動機能性食品(運動機能向上に役立つ食品)』としても、みなさんの健康に役立つことを証明していきたいですね」

これからの研究課題はコラーゲンの可能性をさらに広げるための探求(主に免疫系)に加え、未病としての有用性をひも解いていく。また、高栄養価で注目され、食糧問題にマッチする昆虫食(コオロギプロテイン)に関する研究を模索するなど、テーマは幅広く、これからも経験を蓄積していく考えだ。

教えるからには「伝え方」を常に意識、情報のインプットも必要

君羅さんは城西大学で、コラーゲンの話や学内活動など多くの人にわかりやすく発信する役割を担っており、SNSなどを駆使して積極的に活動している。研究者の活動はなかなか目に見える機会が少ないことから、この意義はとても大きいといえる。

実際に研究をおこない、論文として成果を残している研究者による発信は、情報や知識の正確性、現実感からいえば非常に信頼できるものであり、君羅さんがテレビなど多くのメディアに登場する機会が多いのも納得がいく。

発信を続けながら多くの人に理解を得るために、君羅さんが大事にしているのは「伝え方」。研究を共にする真野教授からは、教員として得る物も大きい。

「物事を教えたい、伝えたい思いで教員になったんですが、教える立場になってみると難しさを痛感します。自分の頭で考えていることが他の人へダイレクトに伝わるとは限りません。伝わらないのであれば、わかるようにかみ砕いて説明し、理解を深めてもらう。それはものすごく意識していますし、多くの情報をインプットする必要があります。

その点からいえば、真野先生は学生への『伝え方』が抜群にうまいんですよね。例えば、『これをやりましょう』といった時、なぜやる必要があるのかまで丁寧に伝え、根拠や意味を交えて説明する。知識も豊富なので、いろいろな形で伝えることができる。そうすると、学生も理解し、納得して行動に移してくれる。

長年、先生とご一緒していると、自然にそういうところにも目が行ってしまいます。ものすごく頭の回転が早い先生だからこそだといえますが(笑)。すごく勉強になりますし、そうなれるように心がけています」

大学までスポーツ一筋だった君羅さんは、物事の本質を追求するおもしろさに気づき、研究者へと転身し、自身の研究テーマと向き合い、解明できたことを社会に還元する。同時に、教員として自らの経験を伝え、社会に貢献できる人材の育成に日々励んでいる。

骨研究の祖ともいえる久米川正好氏から始まり、その薫陶を受けてコラーゲン研究を究める真野教授、そして、バトンを受け取る君羅さん。師から授かった研究者・教育者の魂は連綿と受け継がれていく。

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