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2020.12.23
特集:スポーツ貧血
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<特集:スポーツ貧血 ~応用編①~>スポーツ選手が障害を発症する原因【スポーツ栄養の果たす役割 #13】
松本 恵(日本大学文理学部教授、公認スポーツ栄養士)

今回は<特集:スポーツ貧血>と銘打って、選手のパフォーマンスを妨げるスポーツ障害について、基礎編は神戸女子大学・坂元美子先生、応用編は松本先生と、2人のスポーツ栄養学の専門家が解説する。

「スポーツ貧血」について、「聞いたことがない」「復習したい」という人は基礎編

指導現場から見るスポーツ貧血の実情

貧血は、スポーツ選手にとってパフォーマンスを著しく低下させる障害です。貧血症には、先天的な異常が原因の場合と後天的に栄養状態や身体活動状況の変化が原因の場合があり、後者に原因のある貧血のうち、スポーツの現場で多くみられる貧血はすべて‟スポーツ貧血”と呼ばれています。

特に持久系の競技においては、貧血の症状が‟個”である自身のパフォーマンスに顕著に表れ、かつレースタイムや順位にも直結するため、昨今では貧血に対する認識と対策は、多くの指導現場において浸透しつつあります。それどころか、過剰な対策として、陸上の長距離では若い年代を中心に、貧血治療用の鉄剤注射の安易な使用の問題もあります。

日本陸連が公表した「不適切な鉄剤注射の防止に関するガイドライン」では、「治療目的ではない鉄剤注射の繰り返しは、健康を害する恐れがある」と強く指摘しているほどです。鉄剤治療は貧血症状の治療では有効ですが、鉄栄養状態が不良ではない人が予防やパフォーマンス向上の目的で使用しても効果はなく、むしろ、鉄の過剰摂取によって肝機能障害などをひき起こす恐れがあります。貧血に対する正しい知識が必要と感じます。

一方、同じスポーツ活動でありながら、スポーツ貧血の恐れがあるにもかかわらず、危機感の薄い競技もあります。例えば、剣道はあらゆるスポーツ・武道のなかで貧血頻発の最上位に登場してくる競技であることをご存じでしょうか。

とはいえ、競技特性の面から持久系の競技のように直接的な敗因ととらえることはなく、稽古不足は反省材料にはするけれども、「貧血が敗因だった」という話を耳にしたことがある人はほとんどいないのではないでしょうか。しかし、スポーツニュートリショニストの立場からいえば、「貧血による自滅」が敗因となるケースもないとはいえないのです。

先日、管理栄養士の資格を持つ本学の大学院生が都立高の剣道部(部員、保護者を対象)へ栄養指導に出かける機会がありました。そこで、持参した簡易型測定器(採血不要)でヘモグロビン値を測定してみると、案の定、ほとんどの部員たちが潜在性鉄欠乏の基準値(成人男性:13g/dL未満、成人女子:12 g/dL未満)よりも低い結果となり、衝撃を受けていたようです。

スポーツ貧血というと、鉄の栄養状態不良によってひき起こされる「鉄欠乏性貧血」、溶血が原因によってひき起こされる貧血(溶血性貧血)の2つが、最終的に鉄欠乏性貧血にかかわってくるという捉え方が現在の認識となっています。したがって、溶血性貧血というのは厳密には病態としては存在しません。

溶血は、血管内で赤血球が物理的に破壊されることによって起こります。スポーツの現場で起こる溶血は、足底への強い物理的衝撃が原因と考えられており、硬いアスファルトの上を長時間にわたって走行する長距離選手や跳躍を繰り返すバレーボール選手、さらに素足で強い踏み込み動作を多く行う剣道や空手道、フェンシングの選手に起こりやすいことが知られています。

長距離選手やバレーボール選手の場合には、例えば、シューズのインソールを改善したり、あるいはこれは長距離選手に限られますが、土の上を走るクロスカントリーを取り入れることなどによって、溶血対策を講じることはできるでしょう。ところが、剣道や空手道の場合は、素足に冷えた板の間です。道場の床にはクッション性があり、衝撃を和らげてくれるとはいいつつも、素人目に見ていると、いつも「痛そうだな」と感じてしまいます。「ドン!」と踏み込むたびに、赤血球が破壊されているという見方をしてしまうのは、やはりスポーツニュートリショニストだからでしょうか(笑)。

<次回へ続く>

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