神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。気温が上がってくる5月以降、発汗量は上がり、熱中症のリスクも高まってくる。健康的に過ごすには「水分補給」が何よりも大切になってくる。

第14回は3回に分けて、水分補給を怠った際のリスクと効果的な摂取方法を解説。中編は「熱中症対策」がテーマ。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

生命の危険を伴う恐ろしい「熱中症」

脱水が進むと「熱中症」のリスクが高まってきます。熱中症は暑熱環境によって生じる健康障害の総称で、4つの症状、3段階の重症度で分類されています。

「重症度Ⅰ」では「熱失神」「熱けいれん」の2つがみられます。熱失神は「めまい」「失神(立ちくらみ)」と比較的軽症でしばらくすれば回復するのですが、脱水が起こっていて熱中症の初期段階に入っていますので要注意です。熱けいれんは「筋肉痛・筋肉の硬直」「発汗に伴う塩分(ナトリウムなど)の欠乏によって生じる筋肉のこむら返り」が特徴です。

「重症度Ⅱ」でみられるのが「熱疲労」で、「頭痛」「気分の不快」「吐き気・嘔吐」「倦怠感・虚脱感」が出てきます。ここまでくると、しっかりと水分を補給すると同時に、トレーニングや運動を一時控えることも考えなければなりません。現場で指導する方、選手自身もきちんと理解しておきましょう。

そして、「重症度Ⅲ」になると「熱射病」をひき起こします。この段階になると、急激に生命の危険を及ぼすリスクが高くなるため、警戒しなければなりません。

症状としては、「意識障害」「けいれん(全身がガクガクとなる引きつけ)」「手足の運動障害」「呼びかけや刺激への反応がおかしい」「真っすぐに走れない・歩けない」「高体温・体を触ると熱いという感触がある」が挙げられます。もう応急処置では回復しない状態なので、直ちに救急車を呼んで救命措置を行うのが正解です。

熱中症になりやすい環境は?

熱中症が多い時期は7~8月に集中しています。特に注意が必要なのは最高気温が1年中でピークになる7月下旬~8月上旬です。また、梅雨時期のそれほど気温が高くなくて湿度が高い風の弱い日も熱中症のリスクは高まります。これは、身体が暑さに慣れておらず、放熱・発汗がうまくできないためです。

熱がこもりやすく空気が循環しない室内での運動は要注意で、汗が出ても蒸発しにくく体温調節が難しくなるからです。熱中症は暑い時期だけでなく、湿度などの条件次第で1年中いつでも起こり得ることを覚えておきましょう。

次に、熱中症になりやすい環境をどのように見極めれば良いのかを考えていきます。熱中症の予防を目的として作成された指標「暑さ指数(湿球黒球温度=WBGT:Wet Bulb Globe Temperature」があります。

これは、人体の熱収支(放熱と産熱)に大きく影響する気温、湿度、輻射熱から算出し、数値化することで自分が熱中症リスクの環境下にいるかどうかがわかるものです。

関連サイト:環境省HP「熱中症予防情報サイト ウェザーニュース「熱中症情報」

では、スポーツや運動をする人にとって、どのような状況になると熱中症のリスクが高まってしまうのか。日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」によれば、WBGTなら31℃以上、気温なら35℃以上で「運動は原則中止」、WBGT28℃以上(気温31℃以上)で「厳重注意(激しい運動は中止)」、WBGT25℃以上(気温28℃以上)で「警戒(積極的に休息:可能なら30分おき)」が推奨されています。

反対に、WBGTで21℃以下(気温24℃以下)なら「ほぼ安全」に運動をすることができますが、「適宜水分補給」を忘れずに行ってください。

熱中症になりやすい人の特徴というのもある程度わかってきていますので、いくつか傾向を挙げておきます。体温調節がうまくできない、方法がわからない「幼児・小学生」、体温調節能力が低下する「肥満の人」「高齢者」は特に気をつけないといけません。

部活動でいえば「新入生」。進学してから新たな練習メニュー、人間関係などに慣れていかないといけない中で、精神面の変化から身体にも影響を及ぼす可能性がありますし、上級生に気を使って水分補給のタイミングを逸してしまうなんてこともあるかもしれません。

また、キャプテンに任命されるような「責任感の強い人」、練習熱心で「我慢強い人」は、体調に変化があってもなかなか口に出さないので、気づいた時には熱中症の症状が進んでしまうこともあり得ます。

熱中症は重症化すると恐ろしいですし、かかってしまったら余計チームに迷惑をかけることになるので、自分の体調変化には敏感になっておきたいですね。

そのほか、「風邪や発熱など体調不良の人」「ケガや故障をしている人」は何かしら身体に異常があるので、熱中症環境下に順応するのはなかなか骨が折れることでしょう。

栄養不足、寝不足は熱中症を助長しますので、毎日の生活でしっかりと食事をとる、睡眠時間の確保することを心がけてください。

最後に「熱中症予防8か条」を挙げておきます。熱中症が疑われた時の対処方法については、動画の解説をご覧ください。8つの標語を頭に入れ、暑熱環境下でスポーツ・運動を安全に行いましょう。

【熱中症予防8か条】
①知って防ごう熱中症
②あわてるな、されど急ごう救急処置
③暑い時、無理な運動は事故のもと
④急な暑さは要注意
⑤失った水と塩分を取りもどそう
⑥体重で知ろう健康と汗の量
⑦薄着ルックでさわやかに
⑧体調不良は事故のもと

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。