神戸女子大学・坂元美子先生による「Z世代におくるスポーツ栄養講座」。スポーツ選手にとって、自分の体重を管理することは仕事といってもいい。一般の人でも増量・減量は気になるところだ。

ウェイトコントロールの基礎解説第2回目は増量編②。増量を果たすために摂りたい栄養素、食材、食べ方などを紹介する。

Z世代:欧米で10~20歳を指す言葉として使われている。スポトリでは「成長世代」と同義と捉えて使用する。

動画は、図表を交えながらの解説になります。

まずは炭水化物の確保! たんぱく質摂取は次に考える

スポーツ選手が体重(筋肉量)を増やすために考えなければならないのが「エネルギー」です。体を大きくするためにもたくさんのエネルギーが必要になるからです。エネルギーを考える上でカギになるのが「除脂肪量(FFM、またはLBM。体脂肪を除く筋肉・水分・骨・内臓の重量)」です。

体脂肪が増えて、体重が増えたとしても競技力の向上にはつながりません。身体測定の時には、身長・体重だけでなく「体脂肪率」を把握しておくと良いでしょう。体脂肪率を把握しておくことで、1日に必要なエネルギー量を算出することができます。

1日の推定エネルギー必要量の計算式については、【#07-1】」をご参照ください。また、動画でも詳しく解説しています。

自分の摂取すべきエネルギー量がわかったら、たんぱく質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrates)を=15:25:60の割合で摂取するようにします(PFCバランス)。

例えば、3000kcal必要な人は、たんぱく質で450kcal(112.5g)、脂質で750kcal(83.3g)、炭水化物で1800kcal(450g)摂取するという考え方です。炭水化物の摂取量が6割と大半を占めていますが、これはエネルギー源として必要な栄養素だからです。

増量のために高強度のウェイトトレーニングをした場合、ほぼ100%糖質がエネルギーとして使用されます。糖質が不足している状態でトレーニングをすると、体内のたんぱく質を分解してエネルギーとして使ってしまいます。

筋肉の素となるたんぱく質を摂取しているのに、エネルギーとして使われては増量どころか、かえって体重が減ってしまうことにもなりますから、ウェイトトレーニングをする際は「糖質をしっかり摂ること」を心がけてください。

糖質でエネルギー源を確保した上で、増量のためにたんぱく質がどのくらい必要かを考えます。一般的に、瞬発系競技(短距離、野球など)で「体重1kgあたり1.7~1.8g/日」、持久系競技(マラソン、サッカーなど)で「体重1kgあたり1.2~1.4g/日」のたんぱく質の摂取が必要とされています。これは、炭水化物を体内に十分取り込んでいることが前提になります。

たんぱく質の摂り方もきちんと考えておく必要があります。前回、アミノ酸プールのお話をしましたが、体内にため込んでおける栄養量は限られていて、たとえ限界量以上に摂取をしたとしても、その分は体脂肪として体内に蓄積されてしまいます。

食事でしっかりとたんぱく質を摂取するには?

では、何をどれくらい食べたら、たんぱく質を摂取できるのか。主なたんぱく源としてはこれらが挙げられます。目安として示しますので、参考にしてみてください。

◆マグロの刺身(100g):25.4g
◆鶏肉のささみ(100g):23.9g
◆鮭1切れ(100g):22.4g
◆豚ヒレ肉(100g):22.2g
◆牛ヒレ肉(100g):19.1g
◆木綿豆腐1/2丁(200g):14.0g
◆納豆1パック(50g):8.3g
◆普通の牛乳(コップ1杯=200g):6.6g
◆卵1個(50g):6.1g
◆ご飯(茶碗1杯=140g):3.5g

鶏肉のささみは、増量・減量でよく使用される食材ですが、実はマグロの刺身の方がたんぱく質の量は上回っていますし、高校生のスポーツ選手に栄養指導する時は、マグロの刺身のような「赤身の肉や魚」を食べるように勧めています。

赤身の肉や魚には、たんぱく質やアミノ酸を体内で代謝するために必要なビタミンが他のたんぱく源よりも多く含まれているので、効率良く栄養摂取ができます。また、エネルギー源となる炭水化物の多いご飯にもたんぱく質は含まれているので、食事の時にしっかり食べると良いと思います。

たんぱく質、炭水化物の話を中心にしてきましたが、脂質についても触れておきます。脂質をたくさん摂取しても筋肉の素にはなりません。体脂肪として体内に蓄積されてしまいます。

ただし、上手に利用すれば効率良く増量できるケースもあります。たんぱく質、炭水化物のエネルギー量は1gあたり4kcalですが、脂質は9kcalあります。つまり、同じ量食べても脂質なら倍以上のカロリーを摂取することができるのです。

例えば、体重100kg以上ある人が筋肉をつけて増量したい場合、1日5000~6000kcalのエネルギーを必要とする場合は、たくさんトレーニングをしなければならず、多くのエネルギーを消費します。炭水化物だけでエネルギーを確保・補給しようとすると、かなりの量を食べなければなりません。

そんな時はカロリーを調整する意味で、脂質の摂取量を少しだけ増やせば、食べる量を抑えながらエネルギーを得ることにつながります。必要以上に摂取することは禁物ですが、脂質をうまく使いながら増量を図るのも有効です。

最後に、少し役に立つ「食べ方」についてアドバイスします。夏休みの長期合宿、大会前の集中練習、体づくりのためのトレーニングなど、みなさんは長時間・高強度の練習やトレーニングによってエネルギーをたくさん消費するシーンがあると思います。

消費した分、食事でしっかり補充したいところですが、疲労が蓄積して食欲も落ちてしまい、食べられないといった経験をしている人もいるかもしれません。

こんな時にお勧めしたいのが「香辛料をうまく使う」ことです。消化促進のレッドペッパー(唐辛子)、食欲を増進させるシナモン・こしょう、胃液の分泌を促す(たんぱく質の消化を補助する)にんにくなどがあります。

これらを使うことで味が良くなりますし、自分好みの味に調えて食欲をそそらせるのも良いと思います。

また、合宿時などには長時間・高強度の運動が続くため、炎症が起こるリスクが高まります。香辛料の中には、炎症を予防してくれる物もあり、カレーのスパイスになるターメリック(ウコン)は抗酸化・抗炎症、ジンジャー(しょうが)にも抗酸化作用が期待できます。

食欲やケガ予防が期待できる香辛料はみなさんの強い味方になってくれる食材です。日常からうまく利用して、強い体を作っていきましょう。

坂元 美子(神戸女子大学) 文・構成:編集部

神戸女子大学卒業後、仰木彬監督、イチローが在籍するオリックス・ブルーウェーブ(当時)の栄養サポートを担当。在任中に球団の栄養サポート体制を構築、日本シリーズ制覇も経験した。その後、スポーツ系専門学校を経て母校に戻り、健康スポーツ栄養学科で教べんを執る。
特に、サッカー・野球の栄養指導・サポートに定評があり、強豪校での指導経験が豊富。企業との共同研究、スポーツサプリメント開発を手掛けるなど、活動の幅は広い。プロのスポーツ現場で雇用された管理栄養士の先駆け。