露出の頻度とエビデンスの有無は別

サプリメントを利用している人に、私が絶えず訴えていることがあります。それは「ヒトにおけるエビデンス(=科学的根拠)」のあるサプリメントを選択して、利用することです。 

残念ながら、相変わらずサプリメント市場には、確固たるエビデンスのないサプリメントが多く売られており、巧みなマーケティングで消費者を惑わせています。 

子供の成長期向けやアンチエイジングのサプリメントは、その効果を証明するヒトのエビデンスを科学的には出せません。そのため、動物のデータなどを引用し、あたかも効果があるかのような見せ方をしているケースが見受けられます。いわば「信じる者は救われる」のレベルです。 

また、「筋肉成分」とうたった高齢者をターゲットとしたサプリメントもありますが、背面の栄養表示をよく見ると、科学的に効果が証明された1日の推奨摂取量(β-アラニン換算)の3%程度しか含まれていません。確かに筋肉に微量含まれている成分ですが、吸収率の問題もあって実際は「おまじない」と変わりません。このような例は多々あります。

「効果のある成分が、効果のある量」入っていて、初めてサプリメントとして役立つ物であることを、改めて消費者にも理解してもらい、リテラシーを高め、悪魔に魂を売ったサプリメント会社の表示や広告に惑わされないように商品を選択してもらいたいと思います。

みなさんは「機能性表示食品」という言葉を聞いたことがあるかと思います。制度が始まった2015年以降、すでに4800製品(2021年12月現在)を超える届出があるようです。そして、うたっている「機能」も多岐にわたり、その中には薬品でも解決が難しいような「効果」を思わせる表示があります。それでも、あくまで「〇〇をサポート」「〇〇ケア」をうたうのが、この制度のミソです。そして、消費者にとっての落とし穴です。 つまり、機能性表示食品において、サイエンスは二の次なのです。 

一方、「トクホ」といわれる「特定保健用食品」があります。 トクホの認可は1991年に始まった制度ですが、最近はより“お手軽”な機能性表示食品に押され、伸び悩んでいます。現在認可されている数は、1070製品(2021年11月現在)にとどまっているようです。 

では、トクホと機能性表示食品の違いは何でしょうか。 そもそも、トクホも機能性表示食品もサプリメント市場の活性化を狙った制度。表示してある機能も関与成分も、例えば整腸作用、血糖値やコレステロールを下げるなど、ほぼオーバーラップしています。 

では何が違うかというと、「うたっている機能のエビデンスに関する、責任の所在はどこなのか」です。具体的に説明しましょう。 トクホは”サイエンス・ファースト”の認可制度。そのため、エビデンスに関する責任は国(2009年に厚労省から消費者庁へと移管)に所在し、効果を証明する臨床試験結果などは、十分な議論を経て「承認」に至ります。 それに対し、機能性表示食品は登録(届け出)による制度です(図)

食品・医薬品の分類とトクホ・機能性食品の類似性

単純にいえば、消費者庁が判断するのは「書類がそろっているか」だけ。届け出内容が栄養の専門家によって吟味されることはありません。そのため、エビデンスに関する責任は企業側にあります。ここに、機能性表示食品の届け出におけるもう一つのからくりがあります。詳しく説明しましょう。 

機能のエビデンスに関して消費者庁に提出を求められる資料は「最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)」もしくは「最終製品または機能性関与成分に関する研究レビュー」です。臨床試験や研究レビュー(専門家による、複数の試験結果の調査)を行う上で、ある程度のスタンダードはあります。しかし、専門家が公平な立場で内容を評価するわけではなく「研究報告が1報でもあればよし」とされています。 

しかも、問題はそれだけではありません。そもそも臨床試験とは、試験デザイン(どんな形で、誰を対象にするか)によって、結果が左右されるものです。そのため、企業が都合のいいデザインで試験を行ったとしても、それを正しく評価・批判するシステムが存在しません。研究レビューも、設定条件次第では不都合な研究を排除できてしまうのです。 われわれ消費者の購買判断は、基本的にマーケティングに左右されやすいものです(もちろん、それがマーケティングの主目的なのですが…)。

そのため非常に難しいことですが、見るもの聞くものをすべて信用するのではなく、知識をもとに自ら判断し、本物をつかむ能力を身につける必要がある。そういわざるを得ません。 また、企業側もエビデンスを公平かつ客観的に評価し、本当に効果のある製品を販売する使命があると思います。 

 また、ぜひ気をつけてほしいのが、インフォームドチョイスのような国際的アンチ・ドーピング認証を受けたサプリメントだからといって、必ずしも効果があるとは限らない、ということ。アンチ・ドーピング認証は、あくまでも品質を担保するもの。製品がヒトのエビデンスをベースに販売されているか否かは、別の問題です。 最近インフォームドチョイス認証を受けている製品でも、エビデンスの乏しいものが見受けられますのでご注意ください。 

青柳 清治(栄養学博士、一般社団法人 国際スポーツ栄養学会 代表理事)

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得後、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年にウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店と務める㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」の責任者を務める。2020年より㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務め、2023年3月より一般社団法人 国際スポーツ栄養学会代表理事。