今、食品やサプリメント、オイルの含有成分で流行の兆しが見えている「CBD(カンナビジオール)」。由来は麻、大麻、大麻草、ヘンプ、マリフアナなどと表現されるが、同じくくりとしてみられる。

一部地域で医療用大麻が合法化されている米国では根強いニーズがあり、有用性はある程度示されている。2010年代から続く植物由来ブームの到来に伴ってヘンプ(麻)プロテイン、CBDオイルなど関連商品が登場し、CBDが食品やサプリメントに転用される例が増えていった。食品・サプリの流行が欧米から遅れること5~10年で日本へ上陸する構図からみると、国内におけるCBDの脚光は時期的に合致し、目新しさやインフルエンサーなどによる発信から消費者が購入の検討をしてしまうのも無理はない。

しかし・・・日本と米国では取り巻く状況は大きく異なる。CBDの原料の一つにもなっている「マリフアナ(大麻)」の扱いは日本国内では極めてセンシティブで、これから法整備するかどうかの検討がなされる段階だ。

近年の注目度から、スポーツニュートリション分野でもCBD関連商品が上市に至っているが、パフォーマンスに直結する体感や効果はより求められる上、ドーピングの問題も考えなければならない。CBDは、2018年に世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止物質リストから除外され、スポーツ分野での研究も加速したかに見える。

「未知なる部分が多いCBD関連商品(食品・サプリ・オイル)はスポーツ分野で活用できるのか」。「エビデンスが大事」と常日頃から講釈している編集部でも、その動向は気になるところでもある。今回は、当コラム執筆者の青柳氏と編集部で、CBDに関する「研究面」「機能性・有効性」「安全性」から、スポーツをする人が摂取する「妥当性」を議論してみた。

CBD関連商品の気になる有効性や安全性は???

編集部 最近、急にCBD関連商品が目立つようになってきました。スポーツ分野でも「アスリート向け」と銘打って、ピンポイントにマーケティングしているケースも見受けられます。CBDっていったい何なのでしょうか? 摂取するといいことがあるのでしょうか?

青柳 清治(以下、青柳) CBDはマリフアナやヘンプから抽出される成分で、米国では食品やサプリ、オイルに添加してさまざまな形態で商品化されています。機能性や有効性についてはのちほど触れることにして、まずは原料について話しましょう。

マリフアナにはテトラヒドロカンナビノール(THC:強い精神活性作用がある。ドーピング物質)が多く含まれていて、量は少ないもののCBDを抽出することができます。反対に、ヘンプにはCBDが多く含まれていますが、THCも含有しています。

それで、米国農務省(USDA)の規定では、食品・サプリ・オイルなどCBD関連商品を製造する場合、THCが使用原料に含まれていても0.3%まではOKとされています。ですから、米国製のCBD関連商品には、マリフアナ由来の原料でも、ヘンプ由来の原料でもTHCが含まれている可能性が非常に高くなります。

英国の世界的な分析機関・LGC社もCBDには強い関心を持っていて、実際に米国製のCBDオイルを分析したところ、ほとんどにTHCが含まれているとのことでした。

編集部 日本に流通する商品のほとんどがおそらく海外製で、販売代理店が請け負ったり、販売元として日本のメーカーが参画して拡販したりするわけですから、商品を手にした人は微量とはいえTHCを摂取する可能性があるというわけですね。

青柳 おっしゃる通りで、その点は厚生労働省も警戒を強めているようです。当局(厚労省 麻薬取締部)はCBD関連商品について、「原料から抽出/製造されたかを問わず、微量でもTHCが含まれている物は『大麻に該当しない』と確認できない(大麻取締法違反に抵触する可能性がないともいえない)」としており、原則輸入を認めていません。流行しているからといって何も知らずに販売すると法的にマズイことになります。最近でも摘発された例はあるようですが、氷山の一角かもしれません。

編集部 ずいぶん解釈に間を取らせる言い回しですね。素朴な疑問なのですが、米国からマリフアナ・ヘンプなどの由来原料を条件つきで輸入できるとして、THCのみを除いた純粋な原料は作れないのでしょうか? そうすれば、品質を疑われるような物は少なくなると思うのですが。

青柳 それには、大きな問題が2つあります。一つはコスト面。原料からTHCを完全に除去させる技術を開発するには、とてつもない費用と時間がかかります。米国内では「 THCが使用原料に含まれていても0.3%まではOK 」とされているわけですから、わざわざ莫大なコストをかけてまで純度を高めることは合理的ではないですし、今後も純CBD原料が出現する可能性は低いとみています。

もう一つは法・倫理面。(日本国内で大麻に該当する可能性のある)THCを分離・抽出する高度な技術があったとして、行為そのものが法に触れることになります。THCを分離・抽出し、手元に所持していることにもなってしまいますからね。現状日本では完全にアウトですし、ドーピング以前の問題ですね。

編集部 よく考えてみれば、そうですね(笑)。日本では事実上、手がつけにくい代物というのがよくわかりました。それでは次に、機能性・有効性(摂取効果、研究動向、エビデンスなど)について話を進めていきたいのですが、CBD摂取がスポーツ・運動、健康面で役立つ根拠はあるのでしょうか。

青柳 残念ながら見当たりません・・・。

編集部 調べてみたのですが、CBD関連の論文が初めてパブリッシュされた2000年代初頭から2017年までで、ヒットする件数は数えるほどしかありませんでした。WADAの禁止物質リストから除外された2018年以降で「スポーツ」または「運動」×「CBD」に関連する論文件数は増えたものの、それでも20に満たず、これから基礎研究が始まっていくといった印象です。

一方、医療用に関しては確かに、抗てんかんなどで効果が見込めることがわかっていて、スポーツをする人にとってはメンタル面で何かしら引っかかる部分があるかもしれません。ただ、医療用の限定的なデータをもって食品・サプリ・オイルの有効性として置き換え、摂取を促すこと自体かなり厳しいと思うのですが。

青柳 国際スポーツ栄養学会(ISSN)も正式にアナウンスしたわけではありませんが、検討に値するデータ自体がほとんどないので、見解を述べる段階には至っていないということでしょう。

編集部 ところで、米国内でCBD関連商品はどのようにマーケティングされているのでしょうか?

青柳 露出は多いですね。「運動後のスムージーに」とか「朝コーヒーに添加して活力を」みたいな宣伝文句で。中には、CBD入りのスポーツブラ(肌に接着する生地部分に成分を浸漬/塗布させた物?)もあるようですよ(笑)。

編集部 かなり具体的な提案で広がりを見せているのですね。商魂たくましい米国らしいです。

青柳 こうした加熱気味の発信・宣伝を危惧してか、ハーバード大学がCBDに関する公式見解を発表しています。

それによれば、医療用CBDは、オイル・ローション・クリーム、エキス、カプセル、パッチ、皮膚に使用する局所製剤など、多くの形態で設計された物が上市されています。米国内では特定の種類のてんかん、結節性硬化症、米国以外の地域では多発性硬化症に伴う筋痙縮やがん性疼痛に対して、CBDを有効成分とする製剤の承認が下りています。

エビデンスに関してはすべて「医療用」の話で、それでも「要検討」「ただし書き」が多いですね。抗てんかんには効果が見込めるかもしれません。他には、抗不安(報告待ち)、不眠症/入眠・睡眠維持(可能性の示唆)、慢性疼痛→関節炎による痛み軽減・抗炎症(ヒト試験なし)などがあります。副作用として吐き気、疲労、過敏症などがあり、大量に摂取すると肝臓関連の血液検査で異常が見られることがあると指摘しています。

編集部 海外でも限定的な承認にとどまっている状況・・・。

青柳 そうですね。そして、CBDの有効性が乏しい中で、医薬品ではなく、購入のハードルがさらに低い食品・サプリ・オイルで販売されていることについて、ハーバード大学は懸念を抱いています。さらにいえば、米国食品医薬品局(FDA)は現状、CBD関連商品の安全性や純度を規制していません。原料表示からは有効成分量が担保されているのかが確認できずそもそも有効成分量自体が明らかになっていないのです。

編集部 有効成分量がわかっていないというのはどういうことなのでしょうか? 例えば、サプリなどの商品パッケージに「CBD○○mg配合」と書かれていても、それが本当に体感や効果が得られるかどうかの物差しがないということになりますよね。どんな効果が得られるのかも今のところよくわかっていませんし。「配合量が多ければ効果が高いだろう」と受け取って購入してしまう、消費者心理を刺激するマーケティングがまかり通ってしまいます。

青柳 流行・露出度の高さと機能性・有効性・安全性は全く別物という典型ですね。

編集部 安全性について、少し掘り下げましょうか。スポーツをする人にとっては「ドーピング」の心配があります。それ以前に法や倫理的な問題が立ちはだかりますが、CBD関連商品に対するドーピング物質の分析・検査の面から安全性を担保できるのでしょうか。

青柳 「社会的信用を失う(法律違反→逮捕・起訴)」という何よりも重いリスクが生じる可能性がありますが、念のために。CBD自体はWADAの禁止物質リストから除外されています。しかし、原料となるマリフアナ、ヘンプに含まれているTHCは禁止物質になります。米国では「 THCが使用原料に含まれていても0.3%まではOK 」とされている以上、日本に入ってくる海外製の商品からドーピング物質が検出される可能性は否定できないのです。‟国産商品”もまたしかりです。先ほども話した通り、純CBD原料を精製するための技術開発は前進するとは思えません。

また、商品や原料に含まれるTHCを正確に検出できる分析機関は、日本でも大手に限られます。もしかしたら、その技術を持っていない可能性すらあり、今のところ検出・分析できる機関は世界でも数えるほどしかないといえます。何の検査も通さずに市場へ流通し、スポーツをする人など消費者がTHCを摂取する可能性がある状況に大きな違和感を覚えます。

編集部 最後に。当コラムでこれまで、青柳さんにはあくまで栄養学博士として発信していただいていますが、スポーツサプリを開発・販売する立場(サプリブランド「DNS」執行役員)から、CBDに対する見解をお聞かせいただけますか?

青柳 う~ん、そうですね。一言でいえば、「商品化はありえない」です。他のメーカーはわかりませんが、ヒト試験によって有効性が示された原料を使用するのが商品設計の基本ですし、スポーツ分野は特にですね。消費者ニーズに応えるには、体感や効果が期待できる原料、もしくはそれら原料を組み合わせて初めて品質の高い商品ができ上がるわけです。

そのポリシーからいえば、「エビデンスがない」「有効成分量が不明」の原料からどうやって安全で効果的な商品を提供できるのか。甚だ疑問です。

CBDなどをめぐる米国のマリフアナ・ヘンプ産業は現在でもグレーゾーンで展開されています。医療用大麻が合法化されている州はたくさんありますが、連邦政府(国)レベルではいまだ違法です。規制や管理方法、検査方法、ラベル表記の要件、品質、消費者保護法など州によってバラバラで、見解が統一されるにはまだまだ時間がかかりそうです。食品・サプリ・オイルなどなら、さらに時を要するといったところでしょう。

CBD関連商品、その原料となるマリフアナやヘンプについて、米国以上に理解が進んでいない日本ではようやく法整備をするかどうかの検討に入ったところです。国内に流通しているCBD関連商品の摘発について話しましたが、関係当局でも規制する方法が定まっておらず、どんな商品が流通していて何が安全なのかなど把握しきれていないのではないでしょうか。現時点ではある意味、無法状態になっている恐れもあります。

その点で考えても、弊社がCBD関連商品を取り扱う必要性を感じていません。

編集部 流行している商品をどうしても試してみたい心理は理解できます。でも、自分の健康にかかわる物ですから、流行の裏にある商品や原料の機能性・有効性や安全性にも目を向けてほしいと思いますね。

現時点では、「スポーツをする人がCBDを摂取する妥当性が見出せない」という結論になってしまいますね、どうしても・・・。

青柳 まぁ、ちょっとわからない部分が多すぎますからね。私もいろいろなところで原料・商品の開発をしてきましたが、CBDについては許容できないものがあります。

編集部  今後、関係当局や事情に詳しい専門家の見解もうかがい、注視していければと思います。青柳さん、どうもありがとうございました。

青柳 失礼しました。

【あとがき】

情報収集のため、商品・原料関連の展示会に足を運ぶ機会が多いのですが、ヘンプ、CBDを取り扱う企業のブースが急増しました。

流行の兆しが見える理由を探るとともに、どんな面で健康や運動に役立つのかを聞いてみると「エビデンスはある」とのお言葉。結局、データは示されませんでした。裏づけを取ろうと調べてみたところ、文中にもある通り、返答とは反する形に。

編集部では基本、原料や商品に関しては否定せず、できる限り科学的根拠を示しながらいい点を強調し、魅力を伝えていくようにしています。CBDに関しては、機能性・有効性、安全性を検証しながら摂取するメリットを見出そうとしましたが、未知な部分が多すぎる印象が否めませんでした。

今回の記事を作成するにあたって、国内外のスポーツニュートリション事情に精通し、サプリの製造・販売側でもある青柳さんの手をお借りしながら、お互いに調査をして議論を進めました。

もしかしたら、人によってはCBDを摂取することで体感が見込め、劇的に効果が得られることがあるかもしれません。医療用大麻の議論や理解を進め、CBDの扱いを明確にしたうえで、症状が改善されて健康になる人がたくさん増えるなら、それは歓迎されるべきことです。

しかし、効果が不明瞭であったり、安全性が示されていなかったりする物を誰でも手にできてしまうことは是正されるべきで、そもそもリスクを冒さずとも効果が見込まれる物は他にもたくさんあるのです。


商品選択や摂取のアドバイスを間違えないように見極める目を養うことが何よりも重要なので、この議論が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
1) アイリーン・コニェツニー, ローレン・ウィルソン, 三木 直子(訳) : CBDのすべて ~健康とウェルビーイングのための医療大麻ガイド~, 晶文社 (2019)

2) 佐藤 均, 日本臨床カンナビノイド学会 : カンナビノイドの科学 ~大麻の医療・福祉・産業への利用~, 築地書館 (2015)

青柳 清治(栄養学博士、一般社団法人 国際スポーツ栄養学会 代表理事)

米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得後、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。2015年にウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店と務める㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」の責任者を務める。2020年より㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務め、2023年3月より一般社団法人 国際スポーツ栄養学会代表理事。