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2021.10.25
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指導者が語るスポーツ現場での栄養教育 ~米とおにぎりを通じて~
Kiyohiro Shimano

特集ではスポーツ栄養学の専門家・吉谷佳代先生にスポーツ・運動シーンでの米の使い方を説いていただいたが、実際に現場で選手を指導する立場の人たちが食事・栄養、特に米をどのように活用しているのか。中学生年代の技術指導もさることながら、サッカーを通じた栄養教育を重視するタケサンアカデミー(FC駒沢)の武田雄哉さんに食事・栄養の考え方、指導現場での米(おにぎり)の活用法についてうかがった。

Q.育成年代での食事・栄養を重視するようになったきっかけは?
ジェフユナイテッドのユースに所属していた時、一緒に選手を指導していた同僚の方がサッカー強豪国・アルゼンチンの事情に精通していました。話を聞くと、アルゼンチンでは育成の段階でかなり食事・栄養に気を配る体制ができていて、特に練習後はきっちり行っているということでした。もともと栄養は大事と考えていただけに、強豪国と同様に練習後の食事も含めた指導をしたいと思いました。日本人に合った形にどのように落とし込むか。これが課題でした。

Q. 指導現場でどのようなことから始めたのでしょうか
選手たちの体づくりのためには、練習で消費したエネルギーをすぐに補給してもらうことが先決です。練習はだいたい8時くらいに終わり、それから帰宅して食事をとるまでだいぶ時間が空いてしまうので、練習直後に食事がとれる場所を確保する必要がありました。今とは違い、ジェフにはクラブハウスもありませんでしたから。それで、練習場の近くにあるトラックステーションと交渉して食事をさせてもらうようにしました。

ジェフからFC駒沢に移籍してきて着手したことは同じで、練習後の食事場所の確保。FC駒沢はプロチームのユースと比べて練習施設などには当然恵まれていませんから、せめて食事・栄養にも目を向けていかないとどんどん差がついてしまう。最低限のことをしていかなければ、強いチームには一生勝つことができません。

Q. 選手の成長のためには何が必要だと思いますか?
基本的なところですが、サッカー(技術)、食事、睡眠はセットで重要ですね。どれか一つでも欠けたらバランスが崩れてしまいます。食べないで練習したらエネルギーが足りなくなりますし、筋肉から栄養が奪われてしまうので、いつまで経っても体は大きくなりません。サッカーの技術練習ばかりに目を向けていても、体がしっかりしていなければ伸びしろは大きくなく、むしろ逆効果になります。

食事・栄養に関しては選手たちと保護者の理解も必要です。教えるべきことが多いので、知識や意識づけの部分は、スポーツ栄養学の専門家に定期で講習をしていただいています。

Q. 他チームも練習後に食事をとらせたり、定期的な講習を開いたりしているのでしょうか?
あまり聞いたことがありませんね。選手たちの成長を考えれば、練習後の食事はとても大切だということはわかると思います。専門家と一緒に取り組んでいるチームも、自分の周辺ではないと思います。

Q. 指導者が食事や栄養面に目を向けていないということでしょうか?
サッカーの場合、技術以外に戦略や戦術を選手たちに理解してもらう必要があるので、その点を重視して指導する考えがあるのも理解できます。ただ、体づくりのための食事・栄養、睡眠の土台があって技術も磨かれるわけで、選手の成長を思えば、バランス、やはり3つの要素は同等であるべきというのが私の考えです。

他のチームの指導者に「毎月栄養講習やってるんだってね」と言われますが、具体的なことを聞かれるまでもなく会話が終わります。何となくですが、食事・栄養に目が向いていないのではないかと感じています。

才能があるのに、成長期の体づくりを疎かにしてしまって大成できなかった例を数えきれないほど見てきています。だから、体が最も変わる中学生の時には3つの重要な点を踏まえて指導していかなければなりません。

Q. 持久系スポーツのサッカーとエネルギー源になる米は相性がいいと思います。指導現場で米が利用できる点を教えてください。おにぎりを使った栄養教育もしていますね。
米は、日本人にとって食経験が長く、誰でも安心して食べられるというのがあります。おにぎりにすることで持ち運びしやすく、どこでも食べられます。

実は、食事場所の確保が難しかったジェフ時代から選手にはおにぎりを持参してもらっていました。おにぎりなら、米さえ炊いてあれば、保護者が忙しくて手が離せなくても自分で作ることができますし、たんぱく質豊富な具材を工夫すれば、練習後の食事に最適な食品にもなります。何より、食べるスペースをそれほど必要としませんからね。

選手たちにおにぎりを持参してもらう大きな理由が一つあって、弁当だとどうしても保護者に作ってもらわないといけないので、用意されるまで待つことになります。これでは「指示待ち」のような姿勢が当たり前になってしまいます。そうではなくて、自分で食べる物は自分で用意する。つまり、楽をしない姿勢を持つことで、彼らの自主性を伸ばしたり、自立したりするきっかけになると思ったからです。そう考えると、おにぎりはとてもいい効果をもたらしていますね。

例えば、私が「疲労回復には豚キムチがいいらしいよ」というと、おにぎりの具材に豚キムチを入れてくるんです(笑)。でも、それは決していわれたからではなく、豚肉に含まれるビタミンB1とキムチの発酵食品が体にいいことを講習で学び、持参するおにぎりで実践するわけです。先生にしっかり栄養教育していただいている賜物といえますし、選手が高い関心をもって食事・栄養と向き合っている証拠といえますね。

ここ数年、「駒沢の選手はどうしてそんなに体が大きいの?」と言われ続けていますが、技術面だけに捉われない取り組みをしていることが奏功しているのではないかと推測しています。

【関連記事】おにぎりを通じたスポーツ食育

Q. 中学生年代を指導する上で必要なことは?
極端にいえば、クラブチームでは3年間しか選手を見られないわけで、高校になると別のチームに移ってサッカーを続けていきます。指導者としてはその間、試合に勝つことが求められますし、私もそれを常に考えています。ただ、チーム強化の先には、選手個々の成長も当然考えなければならないので、体の成長に重要なことを中学の3年間に可能な限り教えていきたいと思っています。彼らには将来がありますから。

タケサンアカデミーでは選手個人のより大きな成長を促すために、今年から「毎日栄養コース」というのを設けました。これは、選手が毎日の食事内容を写真で送って専門家にフィードバックをしてもらい、サッカー技術以外の知識も深く理解してもらおうという取り組みです。

現在、4人がカリキュラムを受講しているのですが、課題、驚きなど多くのことが見えてきています。おそらく他チームではやっていない試みではないでしょうか。選手はもちろん、保護者の方にも協力していただきながら、こうした取り組みを今後も続けてノウハウやデータを蓄積できれば、選手ごとに効果的な指導や栄養教育を施せるのではないかと期待しています。強いチームを負かすためには、新しいことをしていかなければならないということです。(了)

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Kiyohiro Shimano

スポーツ新聞社勤務を経て、テレビ、ネット、雑誌とすべての媒体でライター・記者、編集職を経験。前職の食品関連メディアでは編集記者として取材活動する中でスポーツニュートリション分野を開拓し、日本初の一般向けスポーツニュートリション専門誌を創刊(運営母体の事業悪化により休刊)。企画立案から営業、制作まですべてを担当した。スポーツ関係者・従事者ら、食品・栄養業界の研究者や開発者らへの豊富な取材経験を持ち、双方の分野に通じる。

2018年に独立。日本のスポーツニュートリション分野の発展を願い、スポーツ、健康、食品・栄養業界への取材活動を続ける。2020年2月、給食メーカー「株式会社ミールケア」と共同でWEBマガジン「すぽとり」を立ち上げ、編集責任者に就く。

回転翼航空機(ヘリコプター)操縦士のプロライセンスを所持するものの、営業トークにしか使えず、完全に宝の持ち腐れ。数十年も前に出場した「春高バレー」というパワーワードをこすり倒し、取材活動を行う。

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