プロバイオティクスは菌を役立てる

ヨーグルトの中に含まれる善玉菌である「乳酸菌」や「ビフィズス菌」が、悪玉菌である「ウェルシュ菌」や「大腸菌」が増殖するのを抑制して腸内環境を整えたり、免疫力を高めたりするなど、体の健康にプラスの効果をもたらすことはご存じの人も多いでしょう。

実は口内も善玉菌の乳酸菌を摂り入れて悪玉菌の虫歯菌や歯周病菌を抑え、虫歯や歯周病を予防する方法がすでに実施されています。

近年、消毒や抗菌薬に依存しない感染予防法として、有用な微生物を使用した「プロバイオティクス」が注目を浴びています。

2002年、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は、プロバイオティクスについて「適切な量を投与すれば、宿主生物の健康に有益な効果をもたらす可能性がある生きた微生物」と定義しました。近年は、その微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料等)自体をプロバイオティクスと呼ぶこともあります。

プロバイオティクスは、抗生物質(抗菌薬・アンチバイオティクス)に対比される言葉で、生物間の共生関係を意味するプロバイオシスに由来しています。

プロバイオティクスの有効性を具体的に示すと、便秘や下痢症の改善効果、免疫機能の向上による感染防御、アレルギーの抑制効果等が確認されており、世界の多くの国々で活用されています。

プロバイオティクス商品とは?

消化器の腸管には1000種類を超える細菌などの微生物が存在することが判明していますが、乳酸菌やビフィズス菌などの有用な細菌による腸管内フローラ(菌などの集合体)の改善については古くから研究され、プロバイオティクスはすでに健康食品などに広く応用されています。

プロバイオティクスは、サプリメント(栄養補助食品)やヨーグルトのように口から摂取する製品として、またクリームや坐薬のように皮膚などに応用する製品が市販され、菌のバランスを整えて病気の治療や予防を行う医療技術は「バクテリアセラピー」と呼ばれています。

日本では、科学的な証明に基づいた機能表示が特定保健用食品制度で許可され、多彩な商品が市場に出回っています。

プロバイオティクスとして広く認知されているのがビフィズス菌などの動物性乳酸菌ですが、ぬか漬けや納豆、味噌といった日本の伝統的な発酵食品も植物性乳酸菌を含むプロバイオティクス食品だといえます。

消化管の入口である口には腸管に匹敵する多種類の細菌などが住み着いており、正常な細菌フローラへ導けば口の中の健康に結び付くことが明らかにされ、いくつかの健康食品が販売されています。

口の中のプロバイオティクスとは?

虫歯や歯周病の予防で歯磨きしますが、主な目的は「虫歯菌や歯周病菌などの病原細菌の排除」です。また、歯科の専用機械(器具)で虫歯を削ったり、歯石除去したりするケースや、腫れた歯ぐきの炎症を鎮めるために抗菌薬を使用するのも菌の排除です。

口腔二大疾患の虫歯・歯周病がいずれも口腔内細菌の感染症であるため、菌を排除する処置が歯科治療の中心であり、当然ながら筆者もそのコンセプトに基づいて日々の治療を実践しています。

ところが、プラーク(歯垢)に含まれる細菌は、菌体外マトリックスを産生して粘着性のバイオフィルムを形成しており、バリアとして保護されることで抗菌薬に抵抗します。また、抗菌薬を繰り返し使用すると、耐性菌(抗菌薬が効かない、もしくは効きにくい菌)の増殖に結び付く可能性があり、悪玉菌の虫歯菌・歯周病菌をすべて除去してゼロにすることは、残念ながらできません。

そこで新たな予防歯科の手段として考案されたのが、菌を取り除くのではなく、菌の力をうまく活用して口の健康を保とうという〝口内のプロバイオティクス〟です。 

すでに日本で市販されている口内の細菌バランスを整える菌として①ロイテリ菌、②L8020、③LS1、④WB21などがあります。

口のプロバイオティクスに関する研究報告

2004年に広島大学のグループが報告した研究では、40名の歯学部学生を対象にロイテリ菌含有ヨーグルトの摂取による虫歯菌のミュータンス菌の量の変化を調べました。

その結果、摂取して2週間後に菌数が約80%減少し、その後2週にわたって普通のヨーグルトを摂取すると、ミュータンス菌は再び増加しました(図1)

図1 ロイテリ菌使用によるミュータンス菌の変化

また、同グループはL8020乳酸菌の摂取から2週間後に歯周病菌のPg菌が約44%減少したことや、鵞口瘡の原因菌であるカンジダ菌も抑制したことを報告しました。

一方、乳酸菌LS1は東海大学の研究グループが健康なヒトの口腔内から分離しましたが、2006年に同グループなどが報告した研究では87名を対象にLS1含有タブレットを12週間服用し、歯肉縁下プラーク(歯周ポケット内の歯垢)のPg菌の菌数変化を調べました。

その結果、LS1服用群の菌数は服用しない群に比べ、約73%減少しました(図2)

図2 LS1服用によるPg菌の変化

アトピー性皮膚炎に対するロイテリ菌の効果

2009年にスウェーデンのルンド大学病院(アレルギー科)が報告した研究では、アトピー性皮膚炎を発症中の乳幼児50名(生後3か月~4歳)を対象として、ロイテリ菌含有リキッド(オイル)を12か月間、毎日使用して皮膚の湿疹の変化を調べました。

その結果、ロイテリ菌を摂取したグループでは効果が認められ、皮膚表面の湿疹面積が約57%減少しました(図3)。さらに、かゆみやそれに伴う不眠などの主観的症状も約46%減少し、有意な低下が確認されました。このことから、ロイテリ菌はアレルギー症状を軽減する可能性も示唆されました。

図3 ロイテリ菌使用による湿疹面積の変化

プロバイオティクスは安全なのか?

プロバイオティクス製品は悪玉菌をすべて排除せず、比率を下げて悪影響を最小限にする〝菌の共存〟の目的があり、抗菌薬にあるような副作用も少なく効果的です。しかし、長期摂取の安全性に関するデータは限られており、基礎疾患のある人では重篤な副作用のリスクが高くなる可能性があります。

また、2023年に米国食品医薬品局(FDA)は、未熟児にプロバイオティクスを投与すると、製品に含まれる微生物で引き起こされる重篤で致死的な感染症のリスクがあると医療従事者に警告しました。

このように安全性に関しては、菌を摂取する人によって影響の出やすさに差があるため、商品に示された注意事項は必ず目を通して遵守するように心掛けて下さい。

商品内容にもよりますが、日常の健康維持や向上を目的として摂取する場合、特に健康面に不安があるのならば、一度医師や歯科医師に相談した上で、体調の変化などを確認しながら適量を摂るようにしましょう。(島谷浩幸)

【参考文献】
・FAO/WHO: Guidelines for the Evaluation of Probiotics in Food (2002)
・Nikawa H et al : Lactobacillus reuteri in bovine milk fermented decrease the oral carriage of mutans strepyococci., Int J Food Microbiol, 95, 219-223 (2004)
・松岡隆史,古賀泰裕ほか:Lactobacillus salivarius T12711(LS1)の服用によるヒト歯肉縁下プラーク中の歯周病原菌抑制効果, 日歯周誌48(4) 315-324 (2006)
・Gromert N et al: L.reuteri effect on atopic eczema in childhood. Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition 48(3) 148-149 (2009)
厚生労働省eJIM(「統合医療」情報発信サイト)


島谷浩幸(歯科医師・歯学博士/野菜ソムリエ)

1972年兵庫県生まれ。堺平成病院(大阪府)で診療する傍ら、執筆等で歯と健康の関わりについて分かりやすく解説する。
大阪歯科大学在籍時には弓道部レギュラーとして、第28回全日本歯科学生総合体育大会(オールデンタル)の総合優勝(団体)に貢献するなど、弓道初段の腕前を持つ。

【TV出演】『所さんの目がテン!』(日本テレビ)、『すこナビ』(朝日放送)等
【著書】『歯磨き健康法』(アスキー・メディアワークス)、『頼れる歯医者さんの長生き歯磨き』(わかさ出版)等
【好きな言葉】晴耕雨読
【趣味】自然と触れ合うこと、小説執筆
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